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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
続・百鬼夜行
120/175

瘴り神【Part夙】

 異世界邸の正門前。

 ようやく有象無象の妖怪たちを蹴散らし終えた貴文の前に、突如として『それら』は現れた。

「あっれー? なーんかいつの間にか移動させられちゃった感じー?」

 場違いなテンションでそう言ったのは、幾重にもペチコートを重ねたゴシックロリータの少女だった。夜闇のような黒髪と黒い瞳。少々ふくよかな顔立ちだが、巧みな化粧のおかげで全く気にならない。

 肌がひりつくほどの強い力を彼女から感じる。間違いなく只者ではないのだが、問題にすべきはそちらではない。

「なんだ、アレは? どっから現れたんだ……?」

 彼女の隣。そこにどす黒い瘴気が渦巻いていた。中心には影が実体化したかのような真っ黒い人型が翼を広げて浮かんでいる。体系からして少女のようだが、そこに自我があるようには感じられない。

 人でもなければ、妖怪とも違うナニカ。

 ただそこに在るだけで異様な気配と恐怖を巻き散らしている。

「天逆毎ふっかーつ! って思ってたんだけど……あは、マジやばたにえん。なんかバグってイミぷーなもんができてるんですけどー。超ウケる♪」

 仲間や使い魔的な関係ではないのか、ゴスロリ少女は黒い少女を見てカラコロと可笑しそうに笑っていた。

 黒い少女は自分が笑われていることなど意にも介さず周囲をゆっくりと見回し、貴文たちによって倒され転がっていた妖怪たちを瘴気で包んで取り込み始めた。

「こいつ、他の妖怪を喰ってやがる!?」

 しかも、瘴気が触れた場所は草も土も石も関係なく一瞬で朽ちてしまっている。倒れていた妖怪たちはまだ一応生きていたが、アレでは恐らく助かるまい。

「いきなり現れてなんなんだてめぇ!?」

「ぶっ飛ばしてやろうぞ! 行くぞ兄弟!」

「おうよ! よくわからんがアレを倒せば箔がつきそうだ!」

「ハッハーッ! 俺たちなら余裕だぜ!」

 トカゲとポンコツ、それと一角と火車。殴り合って仲良くなったらしい馬鹿どもが黒い少女を取り囲み、一斉に躍りかかった。

 だが――


「「「「ぎゃあああああああああああああああああッ!?」」」」


 瘴気の風が吹き荒れ、四人は身体を蝕まれながら呆気なく遠くへ吹き飛ばされてしまった。

「いやなにがしたかったんだお前ら!?」

 致命傷は負っていないだろうが、なんとも見事な噛ませ犬である。

「あっは、やっば☆ 触るだけで万物の『生』が〝反転〟してるっぽ。バグりすぎっしょ」

 ゴスロリ少女が瘴気に触れないように距離を取った。馬鹿たちの馬鹿な行動に呆然としていた貴文はそこでハッとする。

「おい、お前!? こんなやべーもん連れて来て一体なんの用だ!?」

 まだ会話できそうな方の少女は、その声でようやく貴文に気づいた様子でこちらに視線を向けた。

「ん~? 妙な気配があると思ったらこのしょーねん……しょーねん? まあいいや。しょーねんがこの山の管理者的なのだったり?」

「伊藤貴文、異世界邸の管理人だ!」

「あー、そういやなんか聞いた気がする〜。ウチは馬帆。『馬帆ちゃん』って呼んでちょ。『鞍馬の大天狗』って言えばわかるかなー?」

 さっぱりわからない。『鞍馬の大天狗』自体ではなく、そんな存在があのようなバケモノを引き連れて異世界邸を襲撃していることが。

「別にこっちには用事なんてなかったんだけどもー。飛ばされて来た的な?」

「用がないならそれ連れて帰ってくれないか!?」

「そういうわけにはいかないっしょ。てかさ、それ完全にウチの制御離れちゃってるしー。もうなるようになーれって? まあ、それも面白いじゃん♪」

 馬帆と名乗ったゴスロリ少女はキャハッと苛つく笑みを浮かべた。

 なるようになれ? 面白いからいい?

「なにを言ってるんだ、あいつ?」

「管理人、気をつけてくださいまし。あの天狗は魔王クラス。それも相当上位の存在ですわ」

 と、この異常事態に駆けつけてきたフォルミーカが馬帆を睨んでそう告げた。

「あいつがやべーのはわかってるよ。だが、それよりもっとやばいのはあっちだ」

 貴文は馬帆を警戒しつつ、今も妖怪たちを貪っている瘴気纏う黒い少女を見やる。


「『(さわ)り神』――神格を有する存在がなんらかの影響で狂って歪んで捻じ曲がって暴走した姿だねぇ」


 ヒュオッと一陣の風が吹いた。

 かと思えば、貴文の隣に薄緑色の髪と青い瞳をした巨躯が出現する。灰色のスラックスとベージュのセーターを纏い、風を従えるその青年は――

「誘薙さん!?」

 異世界邸御用達の雑貨屋『活力の風』店主である法界院誘薙だった。

「気をつけることだねぇ。瘴り神は体から出る瘴気に触れただけで、あらゆるモノが死滅してしまうよ」

「それは見ればなんとなくわかりますけど……」

 風の精霊なのに空気を読めないのか、ニコニコとした笑みを貼りつけた誘薙はすっと視線を貴文から馬帆へとシフトさせた。

「やぁ、馬帆ちゃん、これはちょっと話が違うと思うんだよねぇ」

「えー、これはしょーがないっしょ? ウチだって瘴り神なんて作るつもりなかったわけでー。文句はこの子をバグらせた人におねしゃーす」

 ぶーと唇を尖らせる馬帆に誘薙はやれやれと肩を竦めた。明らかに『はじめまして』ではない雰囲気の遣り取りに貴文は混乱する。

「誘薙さん、なにを言ってるんだ?」

「その話は後かなぁ。魔王が世界の自浄作用なら、瘴り神はいわば世界の癌。僕たち守護者側にとっても明確な敵なんだよねぇ。僕に課せられたいろいろな条約も、こればっかりは無視しないといけない」

 誘薙が風を繰る。風は鎌鼬となって宙を駆け、黒い少女――瘴り神へと真っ直ぐに襲いかかる。

「それはまだ早いよ、誘薙っち」

 しかし、そこに別の風がぶつけられ誘薙の鎌鼬は相殺されてしまった。

「邪魔をしないでもらいたいんだけどねぇ、馬帆ちゃん」

「あっは、こんな面白い状況をさっさと終わらせるなんて勿体ないっしょ。てか、思ってたより街の防衛が優秀だったせいでウチらの目標値には全然達してないよ? 寧ろマイナス。マジありえんてぃだし。だーかーらー、瘴り神でもなんでも使って帳尻合わせないと♪」

 なにを言っているのか貴文にはさっぱり理解できないが、とにかく馬帆が敵であることは間違いなさそうだ。瘴り神だけでも壊滅級だというのに、魔王クラスの天狗の相手もとなると骨が何本折れても足りないだろう。

「できればそこで大人しく見ててほしいなーなんて――」

 刹那、白い魔力光線が馬帆の脇を掠めた。

 フォルミーカの魔力砲だ。

「天狗はわたくしが抑えますわ。管理人はあちらを」

 そう言ってフォルミーカが瞬時に馬帆へと切迫し、日傘を剣に変化させて斬りかかる。馬帆はどこからか取り出した葉団扇でそれを易々と受け止めた。

「あーそー。そんなことしちゃう? 白蟻ごときがウチの邪魔するかー。マジムカつくんですけど! カム着火インフェルノ通り越して激おこスティックファイナリティぷんぷんドリームなんですけどー!」

「意味不明ですわ!」

 台地を揺らすほどの魔力と妖力が激突する。魔王クラス同士の戦いだ。絶対に余波だけで邸に被害が出るだろう。そう思うと胃がキリキリしてくる貴文である。

 だが、何度も言うけれど、それよりやばいのが瘴り神。

「フォルミーカの奴、厄介な方を押しつけやがったな……」

「瘴気は僕の風である程度くらいなら防げるよ。頑張って斃してくださいねぇ、貴文さん」

「あんたもいるなら戦え!?」

「もちろん、援護はするつもりさ」

 誘薙の風が貴文に纏う。体が軽くなり、心なしか周りの空気が清浄化された気がした。確かにこれなら近づけそうだ。

 貴文は両手に竹串を握ると、妖怪たちを土地ごと食い散らかしている瘴り神へと突進する。

 


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