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異世界アパート『異世界邸』の日常  作者: カオスを愛する有志一同
続・百鬼夜行
113/175

「世界の不具合」【part 紫】

 パキン!

 甲高い音を立てて、魔石が真っ二つに割れる。


「っ」

 その音で我に返った少年が、振り返った。濡れたような黒い瞳が、更にもう1つ魔石が割れたのを見て、剣呑に眇められる。

 少年──梗平は、素早く魔法陣を描き、魔力を注ぎ込む。作業の傍ら、手持ちの端末を操作した。

 電話相手は珍しく少し応答が遅れたが、それでも5コールで応じた。

『もしもし、梗の字? どうかした?』

 今あんまり余裕がないんだけど、と続ける声の主に、梗平は端的に伝えた。


「南東部……駅前の保護魔術が一部強引に破壊された。おそらく建築物の被害が出ている。天逆毎の転生体との戦闘を確認してくれ」



***



「了解、ありがとう。……「あべこべ」が本領を発揮し始めたかな」

 通話を切り、梗平から──街の保護魔術を一手に引き受けてくれていた魔術師からの連絡を受けた魔女は、通話を切りながら独りごちる。

 戦闘状況を一瞬だけ目で確認する。魔導書の頁を繰り、時間稼ぎ目的の魔術を発動させながら、魔女は奥で控える家人に手で合図した。直ぐに駆け寄ってきて示されたパソコンの画面を覗いて、小さく息を詰める。

「……これは、流石としか言いようがないね」

 天真子による破壊の様子に、背中に冷たい汗が伝うのを感じながら、魔女は白羽達が時間稼ぎに動いている事に気付く。まだ手立てがあるのならとも思ったが、おそらくそれを待っていては、少なからぬ建築物の被害が出るだろう。

 魔女が信頼している魔術師といえど、天逆毎の「あべこべ」を防ぐ魔術を街単位で展開しろ等という無茶は頼めない。そして、再び建築の補助を「瀧宮」関係に依頼するのは二の足を踏む。

 少し迷って、魔女は端末を操作する。相手はワンコールで出た。

『大口叩いた割には音を上げるのが早ぇな、おい』

「……別件だよ」

 開口一番腹立たしい相手に、務めて冷静さを保って返す。続けて状況を説明しようとして、舌打ちが先んじた。

『ちっ……。南東か?』

「……話が早くて助かる。戦闘自体はそこまで心配していないんだけど、決着が着くまでの被害が馬鹿にならない。君は本当に嫌がるけれど、うちが切れる手札は一枚しかない」

『門崎のガキか』

「そう。あくまで足止めに専念させる」

『それがあのガキに出来るかっつう問題なんだがな。ま、好きにしろ』

 魔女の説得に対し、どうでも良さそうな返しが来た。少しほっとした魔女は再び手で合図を送り、門崎の少女を白羽達に加勢させるよう、伝言も含めて伝える。

「そうさせてもらうよ。多分、それでも建物の被害は防げないけどね。身内の魔術師じゃあ、天逆毎は荷が重すぎる」

『ならどうする。魔力バカに頼むか? 丸ごと乗っ取られる覚悟が決まっているなら、の話だがな』

「しないよ。協会には、絶対に頼らない」

 強がりすら混じらない、きっぱりとした魔女の声音に、相手は僅かに間を置いて、笑う。

『……くくっ。覚悟は決まってるようだな、魔女よ』

「当然。私がここに立つ意味は、それだ」

『なるほど、な』

 呟くように相槌を打ち、相手は暫く沈黙した。その隙にと魔導書を操り九朗左衛門の攻撃をいなした魔女は、そこで漸く口を開いた相手の声に耳を傾ける。

『……1つ、切れるカードがある。が、リスクが高い上に、別の問題が生じる可能性が無視できない』

「…………」

 この男がここまで慎重な発言をしたのは、初めて聞いた。不遜を絵に描いたような彼の聞いた事もない声に、魔女の思考が一瞬止まる。

「隙アリ!」

「次期殿!」

「ッ、起動」

 術者からの警告の声に、無造作に引き抜いた魔導書を起動させる。防護の魔導書が、間一髪で九朗左衛門の剣戟を退ける。すぐさま術者達が攻撃を仕掛け、追撃を阻んだ。

 深々と息を吐きだして、魔女は言葉を探す。

「……君が、そこまで言うのは珍しいね」

『不確定要素が多すぎんだよ』

 吐き捨てるような口調に、魔女の緊張が僅かに緩む。微苦笑を口元に浮かべた。

「それは否定しないよ。君が推薦してくれた人材然りね」

『俺があれを戦力として推薦したと思っているなら、今直ぐ脳天かち割って中身洗い直せ』

「……なんだかなあ」

 他に言葉の選びようもなく零して、魔女は今度こそはっきりと苦笑する。

「……うん。そうだね。そのカードを切るかどうかは、君に任せよう」

 そう言って通話を切ろうとした魔女を、相手の声が止めた。

『1つ、確認させろ』

「うん?」

『あんたが把握している、敵の主戦力の動向だ』

 随分と基本的な情報に、身構えていた魔女は拍子抜けする。今更何故そんな事を聞くのかと疑問に思いつつ、簡潔に答えた。

「山ン本は今ここで殆どの戦力が戦闘中。神ン野は君のところの困った人が足止め……ということにしておいて。天逆毎は今言ったとおり外部戦力が苦戦、こちらから戦力を送り込んだところだ。もう1人の魔王級は例のアパートに戦力連れて乗り込んでいったきりだね」

『他には?』

「他? ……ええと、街境のガシャドクロは破壊しつくされて、山ン本の分断された戦力と追撃も、ほぼ終わったみたいだね。あと、ダイダラボッチは──」


 ──どおおおおおん!!


 空が震えるほどの轟音に、咄嗟に顔を上げる。赤い飛沫が降り注いでくるのを目撃して、魔女は顔を顰めた。

「……たった今、後始末を増やしてくれたね……。後の妖は相変わらず、各個撃破中ってところかな」

『……そうか』

 続けて電話相手はある指示を出してきた。幾つかの確認の後で魔女が了承を返すと、何も言わずに通話が切れる。

 込み上げてきた苦い笑みを溜息に乗せて、魔女は更に魔導書を引き抜き魔力を篭めた。



***



 通話を切った疾は、端末を睨み付け、しばし考え込む。

「……はあ」

 その口から嘆息を漏らし、軽く髪をかき混ぜた。

『主。その……、良かったのですか?』

「全くもって良くない」

『ええっ!?』

 恐る恐る尋ねた朱雀は、まさかの断言に目を見張った。委細構わず、どころか堰を切ったように疾はまくし立てる。

「全然良くない、というか良い訳がない。何が悲しくてこの俺が、こんな見え見えの誘い手に乗らなきゃなんねえのかと心底情けない。ついうっかりここから馬鹿を八つ当たりで射殺したくなるくらいには不本意だ」

『あ、あのあのっ、主、それは流石にあの者も死んでしまうのではっ?』

「主じゃねえし、あの馬鹿がそれで死ぬような奴ならどれだけ良かったか」

 朱雀の目一杯のフォローもバッサリ切りおとし、疾はうんざりと溜息をついた。先程よりもやや雑に髪を掻きむしり、眼下の街並みを睨み下ろす。


「……、」


 何かを呟きかけ、思い直すように首を振った疾は、代わりに四神を呼ぶ。


「……ハク」

『はっ』

どうだ(・・・)?」

『……何が、でしょうか?』

 抽象的な問いかけに、受けた側の白虎が戸惑いの言を返す。それに眉を寄せた疾が、小さく息を吐きだした。

「南の動向は、どうなってる?」

『え……、あ、はい。相変わらず、小競り合いが続いております。とはいえ、術者達が粘り強く戦い続けた成果はでており、徐々に鬼共の数は減っている様子。奴は……まだ、暴れています』

「何か動く気配は?」

『……風に変化の兆しはありません』

「……」

 また少し黙り込んだ疾が、ふ、と笑う。


「なーるほど? 面白え。乗るしかない、ってか?」


『主?』

 白虎の問いかけには答えず、疾は端末を操作し始めた。コール音が数度、通話相手の怒鳴り声が応じる。

『悪ぃ! 今、あんまり手がッ、離せねえ!』

 戦闘音と断末魔と喧しい悲鳴を縫うようにして届いた返答に、疾は端的に告げた。

「竜胆。俺の合図で、そこの馬鹿を神ン野目掛けてぶん投げろ」

『はあっ!?』

 ぎょっとした叫び声が聞こえてきたが、疾はふっと笑って返す。

「何驚いてる? どうせ戦闘開始から今に至るまで、投げちゃ逃げの繰り返しだったろ」

『……それも、そうだけどよ……じゃあ、何で今更?』

「どこぞの馬鹿が垂れ流してる呪術が、街全体の地脈にどれだけ悪影響を及ぼしてるか、聞きてえか?」

『……まじか』

 竜胆が引き攣った声を漏らす。まあ気持ちは分かる、普通なら瑠依レベルの術者が街全体に呪詛を広める事など出来ない。実際に、やれと言われて出来る事でもない。大迷惑なことに、全くの偶発事象として、呪詛が広まっているだけである。

「つーわけで、その呪詛どうにかしねえと、南東が辺り一帯焼け野原になりそうでな。街の術者共巻き込んでの作戦遂行、ってところだ」

『なるほど……んで、瑠依に必要なのはぶん投げられるだけなのか?』

「馬鹿に関してはそれだけっつうか、それ以上何もさせるな」

『あぁうん、そうだな……。それで?』

 おそらく遠い目をしているであろう竜胆の、契約者相手の気苦労は容易に予想が付くが、それと並行してこちらの作戦へと頭を回せるあたり、流石は世紀単位で鬼狩りとして戦い続けてきただけのことはある。

「馬鹿の術具は?」

『あー……瑠依がリュックに背負ってるな。あとは、さっき落としたペンケースは回収してある』

「そりゃあ良い」

 にい、と笑みを浮かべて相槌を打った疾に、『うわ、なんかやな予感がすんだけど』とぼやく竜胆を無視して、立て続けに指示をする。

『そのくらいなら、何とかなるな。了解。で、タイミングは?』

「通話切って300数えたら実行」

『分かった』

「んじゃ、後は術者共とテキトーに妖狩ってろ」

『へーへー』

 苦笑混じりの返答を聞いて、疾は通話を切った。頭の中でカウントダウンをしながら、端末を操作しつつ右手で朱雀の背に触れる。

『あつっ!? 主、熱いです!? 何してるんですか!?』

「保険」

『何のですかぁ!?』

 幼女の泣き声を華麗にスルーし、疾は端末の設定を終えると、右手で刻んだ魔術文字を確認して、ひっそりと苦笑う。

「ま、気休めともいう」

『えええっ!?』

 朱雀の悲鳴を夜空に響かせながら。

 疾はそのまま、地脈へと新たに魔力を注ぎ始めた。




『……ところで、主』

「あ?」

 これまで沈黙を保っていた青龍の呼びかけに、8割方意識を魔術に割く疾が生返事を返す。

『先程、門崎の少女が南東に向かう、と聞きましたが』

「それが?」

『……主、以前彼女を指して「魔物嫌い」と仰っていたような』

「あーそうだな、それに関しちゃノワールと同レベ……あ、やっべ」

 割と軽い感じで、珍しく失態に気付いた疾は声を漏らした。



***



「こんっ、の……!」

「鬱陶しいですね〜!」

「……っ、白羽様!」


 南東部。

 自身の特性を理解した白羽達相手に、自重を捨て街の破壊に注力した天真子に、白羽達は辛うじて食い下がっていた。振り下ろされるチェーンソーを、硬い皮膚で、抜き身の白刃で、逸らしていなして、振り下ろさせまいと奮闘する。

 「あべこべ」や「威風」など、異能や心の有り様は尋常ならざる天真子だが、チェーンソーを操る腕は女子高生のそれだ。経験は浅いが才能が幼さを補って余りある白羽や、幾つもの世界を滅ぼした魔王の配下であるムラヴェイの技能を持ってすれば、むやみやたらと振り回されるチェーンソーをいなすことは然程難しくはない。


 だが。

「ああもうっ、しつこいんですよ! 『邪魔なんです』!」

「っ! この……!」

 言葉に込められた「あべこべ」に、白羽の刃が意図せず大きく逸れる。すかさず振り下ろされたチェーンソーが、距離を「あべこべ」にして、新たに建物が1つ、分断される。


 技能などなくとも、その力だけで破壊を振り撒く。人間であり女子高生でありながら、正しく「魔王」級である天真子の有様に、白羽は背中に冷たい汗が流れるのを感じた。

 ちらり、と白羽が見遣った先には、無言でじっとこちらを「観察」し続けるヴァイス。あの様子では、まだ暫くかかりそうだ、と白羽は視線を前に戻す。

 天真子による蹂躙は止まらない。まあ、実際のところ、この街がどれ程破壊されようと白羽には関係無い。どころか、破壊されればされるほど、修繕費用として寺湖田組が儲かることを考えれば、寧ろ美味しいくらいだ。

 が、余りにも役立たずだと今後の信用にも関わるし、場合によっては白羽を侮る者達に、年齢以外にも理由を与えてしまう。この街の術者達も、今後は瀧宮の評価を下げるだろう。それはそれで困る。

 旗色の悪さに歯噛みしながらも、再度振り下ろされたチェーンソーを防ごうと白羽が刀を握る手に力を込めた、その時──



「あんぎゃああああああ!?」


 どこかで聞いたような、けたたましいことこの上ない悲鳴が鼓膜を震わせ。



 ──ゾワリ、と。



 おぞましいほどの冷気が、白羽の背筋を冷やす。


「っ!?」

 本能的に後ずさってしまった白羽と違い、天真子は何も感じなかったかのようにチェーンソーを振り下ろし──



「……えっ?」

「っ!?」



 ──崩れ落ちたはずのビルの1つが元通りに戻るのを見て、天真子は戸惑いの声を上げ、白羽は息を呑んだ。



 距離と対象を「あべこべ」にして寸断される筈だったビルが無事で、既にかち割られたビルが再生する。「あべこべ」に割って入るように発生した異質な現象に、場が一瞬固まった。

「……え、ええっ!? 一体何をしたんですかっ!?」

 驚愕も顕わに、天真子が白羽を振り返る。だが、白羽にもこんな訳の分からない現象を引き起こす覚えはない。白羽の兄、瀧宮羽黒であれば、最大限の準備と悪意と悪戯心を持って、こういう改変を行えるかもしれないが、彼は未だこの街に入れないままである。

「こ、このっ。もう1度……えいっ!」

 天真子が少しの焦燥を織り交ぜながら、チェーンソーを再び振るう。が、今度は駅舎が元の姿を取り戻した。

「何でですかー!?」

 愕然とした悲鳴を上げる天真子を余所に、唖然とする白羽の後ろに控えるムラヴェイが、白羽にそっと話しかけた。

「白羽様。どうやら、何らかの術が展開されたようでありますれば」

「は? こんな、「あべこべ」を更にあべこべにするような奇怪な術を、この街の術者が、ですの?」

 白羽の知る限り、そんなトンデモ技が出来そうな術者に心当たりはない。あるいは白羽に依頼をした「魔女」ならば、とも一瞬考えたが、白羽は直ぐに打ち消す。魔女の呪いは確かに恐ろしいが、魔女が仕掛けたものならその特有の空気で分かる。

 むしろこの、意味が分からないけれど何だか不気味なほど「悪意」の滲まないこれは──大変いやーな感じに、覚えがある「不具合」で。

「……まさか、「あべこべ」にあのお馬鹿さんの呪術をぶつけて……? 正気ですの!?」

 これは本気で刀に魂封じて逃げるべきか……と覚悟を決めかけたその時、唐突に割って入った少女の声に、慌てて後退した。


『雷神招来!』


 青白い閃光が場にいる者の目を灼く。

 ワンスペルとも思えない、凄まじいまでの落雷に、白羽は息を詰めて力の流れを観察する。


「……この街の術者、ですの?」

 語尾が疑問系になってしまったのは道理である。白羽の記憶の中で、これほどの苛烈な術を、これほど短時間で構築し発動できる術者を、紅晴に来てから見かけたことがなかったのだ。

 「どう考えても相性が悪い」と、魔女も災厄すらも合流を良しとしなかったところに、この緊急事態と余裕のなさからうっかりその理由を忘れてゴーサインを出してしまったという事実など当然知らない白羽は、続く言葉にビキリと青筋を立てた。

「外部の術者か。邪魔だ、下がっていろ」

「あ゛?」

 幼女がしてはならないヤクザ顔を晒した白羽に、援軍としてやってきた門崎の少女が眉根を寄せる。

「私が扱うのは魔を滅する術だ。禍々しいまでの妖気を持つ妖を従えている子供とは相性が悪い。下がっていろ」

 とりつく島もない、という単語を体現したような言葉の羅列に、白羽がひくり、と頬を引き攣らせて低い低い声を出す。

「てめえ……ここはうちが任された戦場(シマ)なんだよ。てめえみたいなガキに偉そうな口叩かれる筋合いねえぞ、ぶっ飛ばされてえのかああん!?」

「……極道の類か」

 白羽の剣幕に、少女は少女で更に視線を剣呑なものにする。まさかの味方側での一触即発な空気に、ムラヴェイが据わりきった声を出した。

「白羽様。今はいがみ合っている場合ではないでありますれば」

「妖は黙って失せろ。不快だ」

 が、少女の心底から嫌悪を剥き出しにした態度に、ムラヴェイもぴりっとした空気を纏い出す。

「姫様の姉様と配下である私に対してこの態度……まずはこちらの慮外者を排除するでありますれば」

「やってみろ、その前に私がお前を滅ぼしてやる」

 坂を転げ落ちるように、同士討ちへと雪崩れ込みそうになった白羽達を引き留めたのは、敵であるはずの天真子だった。

「も〜、喧嘩はいけませんよ! というか、私をほっといて何を喧嘩してるんですか! こら!」

「……いえ、そのほうが貴方には都合が良いのではありません?」

「はっ、しまった!?」

 いっぺんに気勢を削がれた白羽の突っ込みに、天真子が愕然とする。それを見た少女が、何とも言えない顔で白羽と天真子を交互に見遣った。

 ぶち壊した上にしっちゃかめっちゃかに引っ掻き回された空気を何とか修復しようと、白羽はわざとらしく咳払いした。

「えー、おほん! とにかく、この人は白羽の獲物ですわ! 白羽のお手伝いならまあ許してやらないことはありませんけれど、白羽の邪魔は許しませんわ!」

「だが、」

 まだ何か言いかけた少女を遮るように、白羽は一気に天真子へと踏み込む。応じるようにチェーンソーを振り上げた天真子をみて、仕方なさそうに刀印を切った少女は、次の瞬間息を呑む。


「!?」

「あれあれっ!?」

「なんなんですの!?」


 三者三様の驚き声を漏らし、全員が身を硬くする。それを見たムラヴェイは、すかさず白羽を回収して引き下がった。


「なんなんですの!? 術も攻撃も全部ぐちゃぐちゃになるようなこの、感、じ…………まさか」


 咄嗟に目を凝らした白羽は、視た。

「っ、──風刃!」

 がむしゃらに魔力を篭めまくって辛うじて発現した少女の術が、不自然に「歪んで」天真子の側の地面を抉ったり。

「ああもう、っチケットの邪魔ですう!」

 苛立ち紛れに振り下ろされたチェーンソーの先、ビルが一瞬割れたと思ったら、「歪んで」元に戻ったり。



 その、力の源が──地脈から漏れ出る、気味の悪い呪術の気配であるのを視て。



「……まさかこの辺り一帯、滅茶苦茶にする気ですのー!?」



 術も刀もチェーンソーも、全てが「不具合」を引き起こすカオス空間で、白羽の悲痛な叫び声が響いた。




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