平和なメリークリスマス【Part夙】
ジングルベール♪ ジングルベール♪
シャンシャンシャン♪ シャンシャンシャン♪
世の中を彩る一大イベントであるクリスマス。その聖なる夜の空を、今年も七匹のトナカイに引かれたソリに乗って翔ける者たちがいた。
「お爺サマお爺サマ! これで今年のプレゼントはデリバリー終了デース!」
ソリの後部座席から元気のいい声。そこにはミニスカサンタ衣装を纏った金髪ツインテールの少女が太陽のような笑顔を浮かべていた。
声をかけられたお爺サマこと、筋骨隆々とした白鬚の老人――サンタクロースは、どこか安堵した息をついて孫娘に振り向いた。
「イエース、ミリア。今年は平和にミッションコンプリートできてよかったデース」
ここ数年ほどクリスマスの仕事中にはなにかしら問題が発生していたのだ。特にあのジャパニーズニンジャハウスに行かなくていいとなったら心も体もウッキウキのサンタクロースである。
「去年はワタシもヴェリィだったデース。あのアパートで……あれ? 去年? つい最近だったような……」
「ストップデース、ミリア。それ以上はドントシンキング」
サンタクロースも去年のクリスマスから一年どころか一ヶ月すら経っていない気がしている。だが、『そういうもの』だと去年知り合いのジジイから教わったのだ。
それに実際に見てハッキリと理解した。
「ミリア、あそこをルックデース」
「?」
サンタクロースが示した先には一つのそれなりに大きな街があった。紅晴市とかいう日本の街だ。
「あそこは丁度あのアボミナブルなジャパニーズニンジャハウスがあるシティデース。今、そこがどうなっているかわかりマースか?」
問うと、ミリアはさーっと顔を青くした。
「ヴェリィヴェリィ! お爺サマ! 街がモンスターにアタックされているデース! あれ? でもみんな動いてないデース?」
ミリアの言う通り、今まさに人魔戦争でもしているらしい街の光景は、時が止まったかのように全てが凍結していた。
だが――
「アレはただのタイムストップではありまセーン」
「どういうことデース?」
「ピエちゃんが言うには、『コウシンマチ』という世界の連続性がストップしている状態らしいデース。あの状態だとどれほど強大な力を持った魔王でも魔法士でも、自然に解けるまでなすすべがないそうデース」
そしてこれはミリアには恐ろしすぎて言えないが、このまま解けなかった場合、最悪世界が滅ぶ危険性もあるのだとか。
「お爺サマでも無理デース?」
「ノンノン、聖夜のサンタクロースに不可能はありまセーン! 現にこうして聖夜パワーでミーたちの周囲は動いてマース!」
「オゥ! そうデーシた! 流石お爺サマデース!」
「HAHAHA」
感激したミリアが後部座席から抱きついてきた。孫娘にハグされてデロデロに顔が緩むサンタクロースである。
と、空から白く小さいものがふわりと落ちてきた。
「見てくださいお爺サマ! 雪デース! ホワイトクリスマスデース!」
「これは今年のミーたちを祝福してるようデースね!」
はらはらと降り続ける雪が地上を白く染め上げていく。それを見届けながら、サンタクロースはトナカイの手綱を握り直した。
「ワークはもうありませんし、ミーたちもホームに帰ってクリスマスケーキを食べまショウ」
「イエース! ケーキ楽しみデース!」
聖なる夜の空を翔けるトナカイのソリは雪雲の中に消え、やがてシャンシャンシャンという音も聞こえなくなる。
最後に二人のサンタの重ねた声だけを残して――
「「メリークリスマス!!」」
本文:夙多史
イラスト:やまやま