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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第五章 自己否定もまた進化の引金

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第二十二話 契約 ①炎の魔竜

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。フォーティア自身の手で龍星(ドラカステリ)王国からの要請を断り、キニスの鼻を圧し折る!

 二つ。フォーティアを逆恨みするキニスの前に、ドクター・ワイルドが現れる!

 三つ。ドクター・ワイルドによって、キニスが身の丈に合わない力を与えられてしまう!

「ふぅ。久々に食べると、何か凄くうまく感じたな。量は少なかったけど」


 食事を終え、フォーティアに連れてこられた店を出たところで、雄也は軽く腹をさすりながら言った。味がよかっただけに少々物足りない。

 メニューはから揚げ定食。

 何を揚げたものかは分からないが、味は完全に鶏のから揚げだった。

 一応Sクラス盛りということで、白飯もから揚げもバケツのような容器に入って出てきたが、雄也達の腹を満たすには至らなかった。

 勿論メニューを見た時点で予測できていたので倍頼もうとはしたのだが、店側から勘弁してくれと懇願されてしまった。


「量については勘弁してやりなよ。アタシ達やオヤッさんの店が特別なんだからさ」

 そんな雄也の文句に対し、フォーティアが宥めるようにフォローを入れてくる。

「さすがに予約もせずに来て、他の客もいるのに食材全部食い尽くされたんじゃ、たまったもんじゃないだろうし」


 さすがにSクラス五人前の倍となれば用意も大変だろうし、そこは仕方がないか。

 しかし彼女もまた、そうは言いながらも満足してはいないようだ。

 自分に言い聞かせているような感が声と表情にある。


「まあ、本当にうまかったからな。素直にもっと沢山食べたかったよ。衣もサクサクで絶妙な感じで揚がってたし」

「揚げものに限らず、火を扱わせたら龍人(ドラクトロープ)は右に出る種族はないからね」


 雄也の言葉に自慢するように軽く胸を張ったフォーティアだったが、最後に若干ジト目気味にこちらを見ながら「普通はね」とつけ加えた。

 実際には、可能性としては龍人(ドラクトロープ)以上に火属性の魔法に長けた基人(アントロープ)もあり得る。

 と言うか、現に実在している。

 雄也だけでなく、敵にも一人。


「けど、やっぱり元の世界の料理は特別かい?」

「そりゃあ、な」


 二十年そこそこの人生とは言え、慣れ親しんだ食事にはそれなりに思い入れもある。


【元の世界の料理で、他にこれが食べたいってものはある?】


 と、横で会話を聞いていたアイリスが、その話題を前にしては黙っていられないとばかりに大きめの文字を浮かべて尋ねてきた。


「そうだなあ……」


 これまで色々とリクエストしてはきていたので、咄嗟には出てこない。


【この世界で作れそうなものじゃなくてもいい】


 雄也が言い淀んでいると、そうアイリスはつけ加えた。


(そう言えば――)


 彼女の作った文の内容を前に思い返してみれば、衛生環境が怪しげな異世界でも安心そうなものしか頼んでこなかった気がする。

 焼いたり、煮たり。必ず火を使うような。

 だから、今までのパターンとは違うものを試しに口にしてみることにする。


「刺身とか食べたいな」

「刺身っていうと魚の身を生で食べる奴かい?」


 雄也の答えにフォーティアが少々困ったように問いかけてくる。

 彼女は彼女で、次の機会に案内する店を選ぶ参考にしようとしていたようだ。

 しかし、その反応を見る限りでは、刺身自体は存在していても彼女の知る店では取り扱っていない、というのが実情のようだ。


龍星(ドラカステリ)王国じゃ一般的じゃないのか?」

「うーん。生食はさすがにねえ。特に魚の取り扱いは水属性の魔法に長けた水棲人(イクトロープ)に劣るよ。あれこそ鮮度が命だからね」


 龍人(ドラクトロープ)としてのプライドはあっても、こればかりは認めざるを得ない。

 そんな感じで渋い顔をしながらフォーティアは言う。


水棲人(イクトロープ)が魔法を使えば、さばく直前まで魚を生かしておくことも簡単なんだよ!」


 その隣から何故かメルが誇らしげに言いつつ、その平たい胸を張った。

 我がことのように自慢する彼女はともかくとして、確かにやりようによっては、さばいている正にその瞬間も水中にいるかのような状態を維持することもできそうだ。


「ってことは、最終的には複数属性持ちの基人(アントロープ)が一番料理人に向いてるってことか?」


 例えば、火属性と水属性を組み合わせて蒸し料理。

 更に風属性をかけ合わせれば、乾物を作ったりするのにも有用そうだ。


「いや、残念だけど料理に使う魔法も割と難しいんだよ。主に精密操作の方向でね。だから、平均的な基人(アントロープ)には無理な話さ。そもそも、それができるレベルなら賞金稼ぎ(バウンティハンター)か魔動技師になるだろうしねえ」


 いずれにせよ、基人(アントロープ)の料理人は余り存在しないようだ。


【ちなみに、結構お金がかかるけど魔動器である程度は代用可能。私も使ってる】


 アイリスが作った補足の文に魔動器の存在を思い出す。

 しかし、曲がりなりにも王族の彼女が結構と言うからには、それこそ一流の賞金稼ぎ(バウンティハンター)でもなければ買えないような値段なのだろう。


【けれど家庭料理に一番大事なのは、相手の好みと健康を考えた味つけと愛情だと思う】

「つまり、アイリスの料理はユウヤ専用ということですわね」

【その通り】


 意地の悪い顔つきでからかうように言ったプルトナに、真っ向から肯定するアイリス。


「アイリスはからかい甲斐がありませんわ」


 そうした彼女の反応に苦笑しながら、プルトナは軽く肩を竦めた。


「でも、アイリスさんのそういうところ、正直尊敬します」


 と、割と真面目な顔でイクティナが言う。


【イーナももっともっと積極的になるべき】


 対してアイリスは、慎ましやかな胸を張りながらアドバイスの文字を作った。


「お兄ちゃん! わたし達の魔動器だってお兄ちゃんへの愛情でできてるんだからね!」


 正にそのアドバイスに従うように、メルが手を挙げながら軽く飛び跳ねてアピールする。


「サラッと一緒くたにされてるけど、そこんところ異論はないの? クリア」

『ある訳がないわ。兄さんのためと思えば、前より捗るもの』


 意地悪げなフォーティアの問いかけに対してクリアはそう即答し、そんな妹に同意するように体を操るメルが腕を組みながら二度首を頷かせた。

 そうやって率直に自身の気持ちを示す双子の様子は愛らしく、穏やかな気持ちになる。


「素直でいいことだね」


 言葉とは裏腹に、これもまたからかい甲斐がないとばかりに微苦笑するフォーティア。


「……さて、と。そろそろ帰ろうか」


 それから色々と一段落した空気になったところで、彼女はそう言って全員を見回した。


【まだ調味料の店に行ってない】


 しかし、そこへ文句を言うように少し唇を尖らせてアイリスが文字を作る。


「っと、そうだったね。悪い悪い」


 それに対し、フォーティアは小さく手刀を切って謝った。


「そんじゃあ……って、ん?」


 そうして彼女がアイリスの要望に従い、改めて新しい目的地へと歩き出そうとした正にその瞬間――。


「何だ? 騒がしいな」


 遠くから悲鳴のような声を含んだ喧騒が耳に届き、全員がその方向に顔を向ける。


「なっ!?」


 直後、視線の先で巨大な爆発が発生し、遅れてその轟音が耳に届いた。

 続いて、明らかにその原因と思しき巨大な異形が姿を見せる。


「ドラゴン……」


 思わず呟いた通り、シルエットはファンタジーでよく見るそれそのもの。

 以前、戦った地竜の如き超越人(イヴォルヴァー)とも飛竜の如き超越人(イヴォルヴァー)とも違う。

 四足歩行に巨大な翼。ワイバーンなどではない完全なドラゴンだ。形状は。


「けど、あれは――」


 そこまでならば魔獣が街に現れたのかとも思うが、全身が紅蓮に輝く人工的な装甲によって覆っている。人の手が介在した存在と見て間違いない。

 恐らくは過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)、あるいは真超越人(ハイイヴォルヴァー)

 ドクター・ワイルドの仕業だろう。


「ユウヤ!」


 鎧竜とでも仮称すべき巨大な怪物を目にして、逃げ惑い始める龍星(ドラカステリ)王国の民。

 それを目にして、フォーティアが焦ったように名を呼ぶ。

 今は敵の出自を考察している場合ではない。


「ああ、分かってる!!」


 そして雄也は彼女に頷き、もはや体が覚え込んだ構えを取った。


「アサルトオン!!」

《Change Drakthrope》


 鋭く叫んだ声に続いて電子音が鳴り、全身に龍の特徴が現れると共に真紅の装甲が体を包み込んでいく。


「相手は多分火属性だ。メルとクリア、それとティアは後方で避難誘導を」

「うん」『分かったわ』


 敵の強さが分からない以上、互いにダメージが増加してしまう水属性たる双子は前に出るべきではない。流れ弾でも当たっては堪ったものではない。

 それを重々分かっているようで二人は聞き分けよく後ろに下がる。


「……仕方ないね」


 対照的に、フォーティアは少々不服そうな声を上げた。

 彼女の場合、同じ火属性であるためダメージは減衰するが、何分まだ腕輪に蓄えた力が不十分で変身することができない。

 敵との単純な力の差で傷つけられてしまう可能性は否定し切れない。

 フォーティアも内心はどうあれ、そこを理解していない訳ではなく、彼女は一瞬遅れて双子の後に続いた。

 それを見届けてから、残った面々に顔を向ける。


「アイリス、プルトナ、イーナは一先ず援護をしてくれ。俺がこいつを使って、あいつを超越人(イヴォルヴァー)から元に戻すから」


 雄也は、右手首にはめた赤銅色の腕輪を示しながら告げた。

 メルとクリアが作ってくれたこれを用いて対象の魔力を抜き取れば、たとえ過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)であっても人間に戻すことができる。……超越人(イヴォルヴァー)でさえあれば。


「ですがユウヤ。確か真超越人(ハイイヴォルヴァー)は元に戻せないはずでは?」


 プルトナの言う通り、この魔動機には限界がある。

 対象が真超越人(ハイイヴォルヴァー)の場合、精々短時間弱体化させるぐらいのことしかできない。


「その時は……相手の出方次第だな」


〈ブレインクラッシュ〉を受けていなければ、まず説得をする。だが、もし既に人格が失われていたら、あるいは話が通じなければ、もはや倒すしかない。


「とにかく、先行する」

【分かった】「了解ですわ」「気をつけて下さいね」


 三人の言葉に頷き、雄也はすぐさま鎧竜へと駆け出した。

 強化された脚力を以ってすれば、ほぼ一瞬の内に被害の程が分かる距離に近づくことができる。


「っ!」


 そうしてその場で目にした惨状に、雄也は思わず息を呑んだ。

 ドラゴンの如きその存在の周囲では複数の家屋から火の手が上がり、道には焼け焦げた龍人(ドラクトロープ)が幾人も転がっている。

 肉の焦げる異臭が鼻を突き、無意識に眉をひそめてしまう。

 前触れも何もない唐突な理不尽。

 その光景を前に雄也は奥歯を噛み締め――。


「貴様っ!!」


 以前戦ったゼフュレクス程もある巨大な鎧竜へと叫びをぶつけた。

 しかし、咄嗟に殴りかからんとするのだけは耐える。まだ、ドクター・ワイルドの実験台にされただけの被害者である可能性は捨て切れないのだから。


「オ、オオオアアアアアッ!!」


 と、雄也の呼びかけを全く無視し、その存在は叫びを上げる。


「フォーティアッ! フォーティアアアアアアッ!!」

「何っ!?」


 更に突然よく知った名がそれの口から出てきて、雄也は戸惑いを抱いた。

 同時に、歪んだ声色ながらも少し前に聞いたばかりの声質だと気づく。


「その声、確かキニスとかいう奴か」


 いずれにせよ、フォーティアの名を呼んでいるところを見る限り〈ブレインクラッシュ〉を受けている訳ではなさそうだが……。


「コレガ俺ノ強サダ! コレデモ俺ヲ弱イト言ウノカアアアッ!?」


 その言動は狂乱しているかのようだ。

 何らかの要因で、いや、間違いなくドクター・ワイルドに誑かされ、力を得て力に溺れてしまっているのだろう。

 だが、そうだとしても人格が失われたり、意思を操られたりしている訳ではないのなら、その行動の責任は彼自身が負うべきものだ。


「……お前。自分の強さを誇示するために、市井の人々を殺したのか?」


 だから、雄也は感情を押し殺すように、そう低く問うた。

 それでようやくこちらに気づいたようで、キニスは爬虫類の如く変じた目を向けてきた。


「貴様、ソノ姿……ソウカ。貴様ガアノ、オルタネイト、カ。丁度イイ。コノ貴様ヲ倒シテ俺ノ強サノ試金石トシテヤル」

「質問に答えろ。何故、この人達を殺した!?」


 自分本位に話を進めようとする相手に、怒気を強めて繰り返し問い質す。


「弱キモノハ存在シナイモ同然。虫ケラ以下ノ扱イシカ受ケナイノダ! コレハアノ女ガ俺ニシタコトト同ジコトダ!」


 それに対し、キニスは余りにもふざけた答えを返してきた。


「同じ、だと? ふざけるなよ。ティアはお前を殺したか?」


 心に沸々と湧き上がる怒りを抑え込むように握った右の拳と、その手首にはめられた赤銅の腕輪を見ながら疑問の形を取った糾弾を吐き捨てる。

 それから雄也は右手を勢いよく振り下ろして視界から赤銅の腕輪を外し、代わりに黄金の腕輪がはめられた左手を前に突き出した。


「己の自由を害された訳でもないにもかかわらず、他者の自由を、命を奪った貴様を俺は許さない。今この場で贖って貰う」


 と同時にそう通告し、返事を待たずにその魔動器を起動させる。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Change Therionthrope》《Convergence》

《Change Drakthrope》《Convergence》

《Change Phtheranthrope》《Convergence》

《Change Ichthrope》《Convergence》

《Change Satananthrope》《Convergence》

《Change Anthrope》《Maximize Potential》


 刹那の内に電子音が鳴り響き、それは耳にはほぼ重なって届いた。

 直後、一気に五つの属性の魔力が噴き上がる。


「〈五重(クインテット)強襲(アサルト)強化(ブースト)〉!!」


 そして、それを以って身体に強化を施し――。


《Heavysolleret Assault》

《Final Heavysolleret Assault》


 更には生成した鉄靴(ソルレット)へと魔力を一点集中させる。


「レゾナントアサルトブレイク!!」


 雄也は一気にその過剰なまでの力をキニスへと叩きつけた。

 一撃を以って速やかに勝負を決するために。しかし……。


「生温イ」

「なっ!?」


 並の真超越人(ハイイヴォルヴァー)ならば致命となる威力を秘めたそれは、紅蓮の装甲に覆われた片手一本で容易く防がれてしまった。

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