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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第五章 自己否定もまた進化の引金

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第二十一話 焦燥 ③余計な枷は殴って壊す

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。フォーティアを除いた面々での訓練の後、喫茶モセモセに夕食を食べに行く!

 二つ。オヤングレンから、無茶な魔力吸石集めをしているフォーティアの話を聞く!

 三つ。夜、彼女から焦る理由を聞き出したところに、龍星(ドラカステリ)王国からの召喚の手紙が届く!

 龍星(ドラカステリ)王国王都ダーロス。

 本来それは霊峰と崇められた山、オロステュモスの麓に存在していた街の名前だ。

 過去形なのは、十日と少し前にドクター・ワイルドによって引き起こされた霊峰オロステュモスの噴火に巻き込まれ、壊滅してしまったからだ。

 現在では一応災害に学んだとでも言うべきか、かの山から程遠いところにある街に首都機能が移転され、その名が受け継がれている。

 そして今。雄也達は正にその新しい方の王都ダーロスを訪れていた。

 以前龍星(ドラカステリ)王国に魔獣討伐に来た際に感じた通り、気候は元の世界の日本に近い。

 それだけでなく、街の作りもどこか和風寄りで、雄也には何とも懐かしく感じられた。

 聞くところによると、様々なところに勇者ユスティアの手が入っているとのことだ。

 どうも彼は現代日本人臭いので、日本のファンタジーに多く見られる「何故か和風な文化を持つドラゴニュート」を踏襲して、龍人(ドラクトロープ)に日本の文化を伝えたのだろう。


「……はっ」


 そんな光景を前に、苛立ちを吐き出すようにフォーティアが鋭く溜息をつく。

 里帰りという雰囲気は欠片もない。


「ティア、機嫌が悪そうですわね」

「そりゃそうだろう」


 彼女を横目で見ながら微妙に声をひそめて耳元で言うプルトナに、雄也は若干呆れ気味に返した。多少声を小さくしたところで、身体能力的にフォーティアに丸聞こえだ。

 聞かせたくないのであれば〈クローズテレパス〉を使えばいいものを。

 いや、あるいはこちらで不平不満を言い合って、彼女の苛立ちを少しでも緩和させようという腹かもしれない。そう好意的に解釈して口を開く。


「あんな手紙の内容じゃな」

【元王都の崩壊に伴って王族の数も減ってしまったから、龍星(ドラカステリ)王国に戻り、王族の務めとして結婚しろ。そんなことを言われたら私も怒る】

「しかも、あの被害で消沈してる国民を元気づけるために、武闘大会を開催して結婚相手を決める、だなんてね」

『人生の一大事を興行にするなんてふざけてるよ!』


 怒りを押し殺すように言うクリアと〈テレパス〉で声を大きくするメル。

 クリアが表に出ているため、表情は若干唇を尖らせるだけに留まっているが、メルの方ならプンプンと頬を膨らませているに違いないと容易に想像できる。


「参加条件が龍人(ドラクトロープ)だけなのも何と言うか……何と言うかです」


 イクティナが釈然としない感じで続いた通り、手紙にはそのような旨が書かれていた。

 正直あるあるな展開過ぎて呆れるが、腹立たしい気持ちは皆と同じだ。


「もし誰でも参加可能なら、真正面から乗り込んだんだけどな」


 彼女の言葉を受け、そうした感情を滲ませながら言う。

 すると、フォーティアはピクリと耳を動かして振り返った。


「それは本当かい?」

「当たり前だ。ティアがどうしても国の意向に沿いたいってんなら、まあ、個人的な感情は抑えてティアの意思を尊重するけど、そんな訳ないんだろ?」

「勿論だよ。ハッキリ言って反吐が出るね。何が民のためだっての。自己陶酔を人に押しつけないで欲しいよ。やりたい奴だけでやってろってんだ。ったく」


 矢継ぎ早に、鬱憤を吐き出すように彼女は答える。

 誰でも参加可能であれば、まだ王族のしきたりに則った催しと言うことができるかもしれないが、参加条件が龍人(ドラクトロープ)だけでは大義名分も何もない。

 完全に興行の道化役として、王族の順位としては下位のフォーティアを利用しようという考えしか見て取れない。彼女が怒るのも無理もない話だ。


「そうだな。その通りだ」


 眉間のしわを深くするフォーティアに理解を示しながら一つ頷く。


「だったら、ティアの意思を蔑ろにするような押しつけを俺は許さない。絶対にな。……まあ、そういう理屈以前に、何と言うか気に食わない話だけど」

「……そっか」


 雄也の言葉を受け、彼女は大分苛立ちの和らいだ声と共に微かな笑みを浮かべた。

 今までの会話で幾らか慰められたようだ。


「まあ、でも、事前に言った通り、今回はユウヤ達は手を出さないでよ? 言っちゃなんだけど、この戦力なら今の龍星(ドラカステリ)王国ぐらい滅ぼせるだろうからね」


 それから冗談めかして言ったフォーティアは、表情を引き締めて続ける。


「何より、今日ここに来たのはアタシの口で縁切りを宣言するためなんだからさ」


 この話が気に食わなければ、無視を決め込むだけでこと足りる。

 にもかかわらず龍星(ドラカステリ)王国を訪れた理由は、彼女が今正に言った通りだ。

 どうやら故郷、と言うか王家にほとほと愛想が尽きてしまったらしい。

 ついでに国庫にあるはずの魔力吸石を何かしらの方法で手に入れられれば尚いいと思っているようだが、まあ、そこはそう都合よくいかないだろう。

 ともかく、そんなこんなで王都ダーロスを進んでいくと、馴染み深い形の城が目に入る。

 天守閣があり、瓦が印象的なあれは完全に日本の城だ。


(これまた随分と立派だな)


 ドクター・ワイルドによって引き起こされた災害の後、二週間も経たずに建てられたもののはずだが、安普請には全く見えない。

 さすがは魔法のある世界観と言うべきだろう。


「さて、と。じゃあ、そろそろ」


 やがて時代劇などで見慣れた城門が視界に入ったところで、フォーティアがそう言いながら一旦立ち止まって振り返る。

 国から呼び出されたのは彼女だけなので、城に入れるのも当然彼女だけだ。だから――。


「そうだな」


 雄也は頷いてプルトナに視線を移した。


「任せて下さいまし」


 対して彼女は大きな胸に手を当てながら応え、それから魔法を発動させた。

 効果は周囲から認識されなくなる精神干渉。

 用途は勿論、フォーティアについていくためだ。


「そこまでしなくてもいいんだけどね」


 彼女はそんな雄也達に苦笑しながらも、少しばかり足取り軽く歩き出した。のだが……。


「止まれ。城に何用か」

「あん?」


 城門の間際まで来たところで門番に行く手を遮られ、フォーティアは不機嫌そうに彼を睨みつけた。一応は王族の彼女にその応対は傍から見ていても疑問だ。

 この門番が末端も末端だから顔を知らないのか。

 それとも、単純にフォーティアの顔が知られていないのか。

 あるいは、市井に出て雰囲気が変わり過ぎたのか。

 いずれにせよ、失礼なことに変わりはない。


「用も何も……国王から呼ばれたんだけど? 伝わってないのかい?」


 そんな態度を前にしながらもフォーティアはそこには特に言及せず、ラディアから渡された手紙を掲げてヒラヒラと動かした。

 自身への態度よりも、来客の連絡が行き届いていない手際の悪さに苛立っているようだ。


「……確認しました。失礼致しました。お通り下さい」


 それから少し間を置いて門番は一つ頭を下げて脇に避けた。

 恐らく、手紙に押された印璽だけでなく、通信機で連絡を取って確認したのだろう。

 とは言え、やはり事務的で慇懃無礼という言葉が似合う態度なのが気になる。


「はいはい、ご苦労さん」


 それでもフォーティアは軽く応じ、そのまま城の中に入っていく。


『馬鹿みたいな内容で呼び出しておいて、何だあれ』


 その背中に続きながら〈テレパス〉で疑問を口にする。


『ま、アタシが龍星(ドラカステリ)王国を出たのは大分前のことだからね。顔パスじゃないのはしょうがない。けど、こうも王族連中から軽んじられると、ね』


 と、彼女は一瞬犬歯をむき出しにするような笑みを浮かべ、しかし、すぐに小さく首を横に振って己の感情を抑えつけるように深く息を吐いた。

 折角事前の会話で和んだ心がまた乱れてしまったようだ。

 しかし、そんな彼女に再び慰撫の言葉をかける間もなく、謁見の間に相当する大広間に到着してしまった。

 間違いなく、この会談は荒れるだろう。想定以上に。


「来たか。フォーティア」


 と、上座から男の声でそう言葉がかけられる。

 位置取り的に彼がこの国の王のようだ。

 その両脇にはやや年配の女性と、雄也達と同年代ぐらいの高慢な顔をした男がいる。


「来たけど、何? あの手紙。本気なの?」

「フォーティア、国王に対して何と言う口の利き方をするのですか!?」


 雑な感じに問いかけたフォーティアに対し、国王の左側にいた女性が眉をひそめて声を荒げる。第一王妃的な立場の人物に違いない。


「アタシにそんなことを求められてもね。とっくの昔に国を出た身だし」

「どこにいようとも王族は王族だ。それに応じた振る舞いが求められるし、そのしきたりには従わなければならない」


 国王の言葉を受け、フォーティアはどこか小馬鹿にしたように口元を歪めた。


「振る舞い、しきたり、ねえ」

「いい加減になさい! 無礼にも程がありますよ!!」

「まあ、待て。国に戻り、王家の一員として過ごせば自ずと再び身に着くであろうよ」


 ヒステリックな声を出す王妃を、国王は少々硬い声ながらも宥める。

 それに対し、フォーティアは「ふん」と小さく鼻を鳴らしてから口を開いた。


「で、アタシの婿探しの武闘大会を開くとか何とか書いてあったけど、その話をするこの場に何でアンタがいるのさ。キニス」


 それから彼女は国王の右側でニヤニヤしている男を睨む。


「そりゃ勿論、俺も参加するからさ。勝者としてな」


 キニスと呼ばれた彼は、尚のこと嫌らしい笑みを深めながら言った。


「……イカサマ試合か。茶番にも程があるね」

「いいや。王族を除いて俺に敵う龍人(ドラクトロープ)など一人もいはしない。イカサマにはならないさ」


 彼がいくら詭弁を吐こうとも、出来レースであることに変わりはないだろう。

 しかし、それはそれとして――。


『何だ、こいつ。ってか、誰だ?』

『この第一王妃の三番目の息子さ。子供の頃から妙にちょっかいをかけてきてね。多分アタシのことが好きなんだろうけど……悪いけど好みじゃないんだよね』

『ああ、うん』


 本人に伝わっていないとは言え、キッパリと断じられると憐れにも思う。

 言動も相まって、それこそ道化のようだ。

 しかし、フォーティアの苛立った声色的に、そうと笑って済ませることはなさそうだ。


「ようやくこれでお前と一緒になれるな」


 男から見ても生理的嫌悪を感じる笑みと共に言葉を続けるキニスは、今正に虎の尾を踏み躙っているようで見ていてハラハラする。


「さて、そういう訳だ。武闘大会までは城内で――」

「悪いけど、アタシはそんなものの景品になる気はないよ」


 と、決定事項として進めようとした国王の話を遮り、フォーティアは冷たい声で告げた。


「ああ、いや。優勝賞品に龍星(ドラカステリ)王国の国宝たる火属性の特大魔力吸石を据えて、アタシも参加させてくれるなら考えてもいいけど?」

「何を馬鹿なことを。国宝は民のため、災害復興のために既に砕いて売却している。この国にはない。それ以前に、優勝者の褒賞たるお前に戦わせる訳がなかろう」

「そうかい。じゃあ、お断りだね」


 国王の返答に、無駄な希望を抱いたとばかりに自嘲するように表情を歪める。


「これは王族としての務めだ。そのような我儘は通用しない」

「はっ。王族の務めだって? アタシの知ってるそれはこんなもんじゃなかったと思うけどね。より強い子孫を残すことであって、王族の中で慣れ合うことじゃない」

「そのための武闘大会だ」


(……端から外により優れた人材がいるって考えがないのか、全く話が噛み合ってないな)


 頑なな様子の国王に、そろそろこちらもイライラしてくる。


(あるいは、実力主義が捻じ曲がって血統主義みたいになったのかもな。この世界の実力者は基本王族の血縁が多いみたいだし。……ただ、それにしても、な)


 根本から大きくずれた対話は歪で気持ちが悪い。


【ユウヤ、この人達本気で殴っていい?】


 と、雄也の気持ちを代弁するように、アイリスが血気盛んな字体でそう文字を浮かべて見せてきた。それを見て逆に少し冷静になる。


『よしなさいって』


 彼女が本気で殴ったら、割と真面目に相手が死んでしまいかねないのだから。

 そうやってアイリスを抑制していると、国王が己の言葉を捕捉するように口を開く。


「キニスは龍人(ドラクトロープ)の中でも有数の強者だ。普通にやったところで優勝するだろう。民の娯楽にもなるし、王族としての務めに合致している」

「どこが! 参加者は龍人(ドラクトロープ)に限って……水溜まりの中のバパズにも程があるっての! こんな状況を見たら先祖代々の王が草葉の陰で泣くよ!!」


 話が通じない国王に対し、ついにフォーティアは声を荒げた。しかし――。


「父上の言った通り、俺は強い。たとえ他種族の人間がいたところで勝利は揺るがないさ」


 横から口を出すキニスは、傲慢に自分本位の論を展開する。

 まともにフォーティアの言葉を聞いていれば侮辱されたと捉えそうなものだが。

 このような反応をするのは都合のいい耳をして、己の世界に陶酔している証か。


「ちっ」


 そんなキニスの様子に苛立ちもピークに至ったのか、フォーティアは舌打ちをしながら右手を固く握り締めた。

 どうやら我慢の限界が迫りつつあるようだ。

 心の中で、いや、折角精神干渉で認識されていないので、しっかりと実際に合掌する。

 ここまであからさまにずれた愚か者は久し振りに見た。

 そうした存在には惨めな仕打ちがお似合いだ。


「とにかく。大人しく俺達の決定に従うことだな、フォーティア。もし従わないのなら、力づくで抑えつけることになるぞ」

「力づく……できると思ってるのかい?」

「当たり前だ。俺を誰だと思っている?」

「だから、水溜まりの中のバパズだっての!」


 最初からキニスを含め、国王達も油断が過ぎていた。

 魔力吸石が足りないとは言え、腕輪の力を得てダブルSを超えた彼女なら、国王達との間の距離は僅か一歩で十二分に縮めることができるのだから。

 それを証明するように、フォーティアは一足飛びにキニスとの距離を詰め――。


「餞別をくれてやるよ。アンタらの弱さ、自覚しな!」


 そして、そう声を荒げながら彼の顔面を思い切り殴り飛ばしたのだった。

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