表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第四章 自由という重荷

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

79/203

第二十話 束縛 ①守り人の真実

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。復活した六大英雄の内パラエナを除く三人が姿を現し、戦いの火蓋が切られる!

 二つ。仲間のサポートを受けて、ラケルトゥスと完全な一対一の状況を作る!

 三つ。限界以上に強化した身体能力で相手を追い詰め、止めの一撃を放つ!

「何っ!?」


 五色の魔力の光が溢れ出す鉄靴(ソルレット)が今正に真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥスに突き刺さらんとした瞬間、雄也は異様な制動を足の裏から体全体に感じた。


(い、一体何が――?)


 そう戸惑いを抱いた直後、反作用にしては過大過ぎる力で急激に押し返され、そのまま大きく弾き飛ばされてしまう。

 雄也は咄嗟に空中で体勢を立て直し、着地すると同時に顔を上げて状況を確認した。

 すると、膝を地面に着くラケルトゥスを庇うように、黄金の鎧が立ちはだかっていた。

 間違いなく邪魔をしたのはそれだろう。

 外見はオルタネイトの装甲によく似ている。ほとんど色違いだ。

 しかし、ほぼ金色は正直趣味が悪い。


「フゥウーハハハハハッ!!」


 そして、聞こえてくる高笑い。それだけで正体は明らかだ。


「ドクター・ワイルド!!」


 六大英雄もまた変身するのだから、彼が例外ということはあり得ない。

 そも、雄也やアイリス達の力は彼が作った魔動器から得たものなのだ。

 ドクター・ワイルドが同様の姿を持つことは想像できていたことだ。しかし――。


(この時この場所で来るか。厄介な)


 未だ五重(クインテット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)の効果は残っているが、残り時間は少ない。

 何より、限界を超えた全力の一撃をあれだけ軽々と受け止められてしまっては、当初の目的を果たすのは困難になったとしか言いようがない。


「中々よい一撃であったぞ。危うくラケルトゥスがやられてしまうところだったのである」

「くっ」


 サラリと告げたドクター・ワイルドの言葉に、ダメージを負って膝を突いたままのラケルトゥスが口惜しげに顔を背ける。

 六大英雄と謳われた彼としては屈辱以外の何ものでもないはずだ。


「ドクター・ワイルド。真翼人(ハイプテラントロープ)の封印を解きに行ったんじゃなかったのか」

「ほう。ゼフュレクスがそれではないと気づいていたのであるか。成程成程、復活を防ぐことよりも、一人だけでも倒し、数を揃えさせないことを優先した訳であるな」


 納得と称賛の意が滲んだ笑い混じりの声で雄也の問いに答えるドクター・ワイルド。

 失敗に終わった今となっては煽りにしか聞こえない。


真翼人(ハイプテラントロープ)コルウスの封印の楔はあれである」


 そしてドクター・ワイルドは、黄金の装甲に包まれた人差し指を雄也の後方へと向けながら言う。その先を視線で辿ると――。


「山?」


 そこには、守護聖獣ゼフュレクスの座たるここと並ぶ双子のような高さの山があった。


「楔はあの山そのもの。否、正確には風の流れとでも言うべきであるか。あの山を破壊することによって風の流れが変わり、コルウスは復活するのである」

「……なら、それに専念していればよかったものを」

「いやいや。あれ程の力を感じてしまってはな。貴様らの想像通り、六大英雄には欠けて貰っては困るのである。故に慌てて変身までして参じた訳だ」


 忌々しく吐き捨てた雄也の言葉に対し、全く以て困ったようには聞こえない軽薄な声で応じるドクター・ワイルド。

 本当の力を発揮すれば、雄也達の策など問題にならないとでも言いたげだ。


「さあて、救出も済んだことであるし、吾輩は再び封印を解きに行くとしようか。……ああ――」


 彼は演技染みたわざとらしい口調で告げると、思い出したようにラケルトゥスを振り返る。いつの間にか、スケレトスとリュカもまたその傍に集まっていた。

 リュカについては外見では戦いの影響を感じられないが、スケレトスの装甲にはひびが入っており、プルトナが善戦したことを示している。

 しかし、この状況では結果として焼け石に水にしかなっていない。


「お前達はもう帰ってよいのである。転移妨害の魔動器は切っておいた故にな」


 そして、ひらひらとラケルトゥス達を追い払うように手を振るドクター・ワイルド。


「……分かった」


 その馬鹿にした態度に、屈辱に耐えるように感情を抑えた声を出すラケルトゥス。


「仕方がないか」

「指示には従う」


 続いてスケレトスは不本意そうに、リュカは対照的に淡々と頷いた。


「っ! 待て!!」


 今この場を逃しては、これ以上の機会が得られるか分かったものではない。

 たとえドクター・ワイルドに妨げられ、届かない結果がほぼ確定していたとしても、今より条件のいい状態が再び巡ってくるとは限らない。

 だから、雄也は彼らが転移してしまう前に最後の一撃を食らわそうと踏み出したが――。


《Change Anthrope》《Armor Release》

「あ、く」


 そのタイミングで〈五重(クインテット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)〉の限界を超え、変身が解除されてしまう。

 それと共に、全身に鉛を深く埋め込まれたかのように体が重くなり、雄也は耐え切れずに膝と両手を地面に突いてしまった。


「兄さん!」『お兄ちゃん!』「ユウヤさん!」


 そこへメルクリアとイクティナが駆け寄ってきて、抱え起こしてくれる。

 その後ろからは、アイリスがプルトナに支えられながら辛そうに歩み寄ってきていた。

 彼女も限界以上の力を行使し、雄也と同じく生命力が乱された状態に陥っているようだ。


「限界のようであるな。まあ、今の貴様らにしては善戦したと言えよう。現時点の出来としては十分である。その調子で我らが道具として研鑽を積むがよい」


 完全に上から目線の発言に腹が立ち、それを原動力にせめて一発でも殴ろうと体に指示を出す。しかし、やはり思うようには動いてくれず、メルクリアやイクティナから離れることすらできなかった。

 そんな雄也とは対照的に、ラケルトゥスは既に回復したのか、あるいは英雄と呼ばれるに相応しい精神力によってか自力で立ち上がっていた。


「久々だ。このような屈辱は」


 そうしながらも彼は忌々しげに言い、言葉を続ける。


「しかし、感謝しよう。これがなくば戦いは詰まらない。そして、これこそは更なる高みへと至るための糧だ。次はこのようには行かんぞ」

「ああ。本当にいい踏み台になってくれそうだ。俺も鍛え直さなければならないな」


 スケレトスもまたラケルトゥスに同意して、負け惜しみのようなことを言う。

 しかし実際のところ、その言葉が偽りとなることはないだろう。

 彼らもまた自由な意思を持つ者であれば、進化しないなどあり得ない。

 次に対峙する時には、もっと手強くなっていると見て間違いない。

 この場で数を減らせなかったことが改めて悔やまれる。


「無駄話はそこまでにしろ、貴様ら。指揮官の命令には速やかに従え」


 と、二人とは異なり、一人リュカはドライな態度を取る。


「……お前は相変わらず融通が利かない奴だな」


 どうやらそれは彼女の常らしい。自分の意思より命令を優先させるタイプのようだ。

 他の六大英雄とは異なり、一兵士として活躍した英雄なのかもしれない。

 そんなリュカの指示にスケレトスは呆れ気味に一つ溜息をついたが、「分かった」と続けて頷くと魔力を励起させた。

 彼女の融通の利かなさに慣れていて、言う通りにした方が面倒がないと身に染みて分かっている感じか。


「「「〈テレポート〉」」」


 そうして三人は同時に転移魔法を使用して去っていった。

 転移妨害の魔動器が停止している今、逆にこちらも同じ機能を持つ魔動器を呼び寄せて使用すれば引き止めることも可能だっただろう。

 だが、今の雄也達の状態では彼らとの戦闘の継続は困難だ。黙って見送るしかない。

 後にはドクター・ワイルド唯一人が残る。


「さて、吾輩は今度こそ封印を解きに行くが……このような片田舎にまで来てこれだけでは詰まらなかろう。特にそこな翼人(プテラントロープ)の娘は大して活躍しておらんようであるしな」


 彼はイクティナを指差してどことなく馬鹿にしたように言うと、その指先をゆっくりと動かしてゼフュレクスへと向け直した。


「何より、守護聖獣殿に用があるというのも全くの嘘ではないのでな」


 わざとらしい嘲弄の色の滲んだ声を出すドクター・ワイルド。

 正にその次の瞬間、彼の姿は掻き消えてしまった。

 そうかと思えば、ゼフュレクスの真後ろに現れる。


(大きな魔力の揺らぎはないのに)


 気配の断絶もなかった。軌道だけは認識できる。

 転移魔法ではなく、空気抵抗のみを無効化して超スピードで移動したのだろう。

 そこまで認識した時には、ドクター・ワイルドはゼフュレクスの背にその黄金の装甲で覆われた手を突き立てていた。


「ぐが、は……」

「ゼフュレクス様!!」


 苦悶の声を上げるゼフュレクスに、焦ったように身を乗り出して手を伸ばすペリステラ。


「お母さん、駄目!」


 そんな母親を、アエタは腰にしがみついて必死に引き止めた。


「あ、ぐう、ああ……あ?」


 そんな中、苦しげに呻いていたゼフュレクスは唐突に苦痛が全て消え去ったかのような魔の抜けた声を出す。未だドクター・ワイルドの手は背中に突き刺さっているというのに。


「そう、か。お前は――」

「ふ。さあ、最後の役目を果たせ。ゼフュレクス。ウェーラが待っている」


 納得したように振り返ったゼフュレクスに対し、ドクター・ワイルドは普段とは様子の異なるどこか労わるような声色を一瞬滲ませると一気に手を引き抜いた。

 その手の中には不可思議な色に輝く箱のようなものがあった。


「アテウスの塔。その力を解放するための鍵を守る使命もこれで終わりである。後は本能のままに暴れ、そして精々派手に逝くがいい!」


 ドクター・ワイルドはそう呟き、ゼフュレクスから離れる。


「それもまたウェーラのためになるのだからな」


 最後にさらにつけ加えると、それを合図とするように――。


「あ、が、ああ、ぐああああああああっ!!」


 ゼフュレクスは特異な声色で絶叫し、その雰囲気を一変させた。

 視覚的には変わらないが、それの纏う空気が全く以て違う。

 気配の強さは変わらない。それは即ち生命力や魔力に大きな変化はないということだが、そうした基礎スペック的な部分とは別のところで本能的に脅威を感じる。


「〈オーバーアトラクト〉」


 と、絶叫を終えたゼフュレクスは、響きは異質なままながら抑揚は完全になくなった声で魔法の行使を宣言した。

 直後、その転移魔法によって何かが呼び寄せられ、姿を現す。


「え、お父さん?」


 理解できないと言わんばかりのアエタの呆けた言葉通り、ゼフュレクスの目の前に彼女とイクティナの父親、コラクスが守護するように立っていた。


「きゃっ!?」


 更にはアエタが抑えていた母親までもが彼女を振り解き、コラクスの隣に並ぶ。

 半ば突き飛ばされた格好のアエタは、地面に尻餅を突いてしまっていた。


「お母さん!? 一体何をっ!?」


 それを目の当たりにしてイクティナが声を荒げる。


「守護聖獣ゼフュレクスの守り人」


 と、彼女の問いに答えるように、ドクター・ワイルドが口を開いた。


「その正体はゼフュレクスの魔力によって常時発生する特殊な音波によって意識を捻じ曲げられ、奴隷として奉仕する愚者でしかない。そして有事には人間の盾として使われる」


 声色には愉悦が滲み、嗤うように彼は続ける。


「力ある子共達とは違い、この者達の如き弱者はそれに抗うことなどできん」


(やっぱり、そうなのか)


 どうやらアエタが薄々感じていた通りだったらしい。

 彼女とイクティナについては強大な魔力を有するが故に、その呪いのような干渉を回避でき、正常な思考を保つことができていたのだろう。

 そうでなければゼフュレクスを崇め、守り人という因習の維持に固執するように考えを捻じ曲げられてしまう訳だ。しかも、完全な操り人形の如くあからさまに奇妙な態度を取るでもないから、尚のことたちが悪い。


(いずれにせよ、自由意思を歪めるのなら――)


「貴様らは果たして守護聖獣の暴走から麓の人々を、何よりこの憐れな守り人達を救うことができるかな? ククク、クハハ、フゥウーハハハハハッ!!」

「ぐおおおああああああああっ!!」


 ドクター・ワイルドの高笑いに呼応するように絶叫するゼフュレクス。

 たとえ守護聖獣と崇められている存在であれ、やるべきことは変わらない。

 今正に人々の脅威と成り果てたこと以前に、人類の自由の敵ならば。


「では、さらばである。いずれ六大英雄が一人、真翼人(ハイプテラントロープ)コルウスの紹介もさせて貰おう。楽しみにしているがいい」


 彼はそう告げると緩やかに浮かび上がり――。


「っ! 待てっ!! ドクター・ワイルドッ!!」

「ふっ。待てと言われて待つ者があるか」


 雄也の制止を一笑にふすと共に、一気に封印の楔たる山へと飛び去ってしまった。

 即座に追いかけようとするが、やはり五重(クインテット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)の反動が大きく身動きが取れない。無駄に体のバランスを崩し、プルトナに支え直される。


「ユウヤ、今はそれよりも!」


 その彼女に耳元で言われ、雄也は唸るように叫び続けるゼフュレクスへと視線を戻した。


「ガアアアアアアアアアアアアッ!」


 既に人語を話していた姿は見る影もなく、狂乱する獣の如く成り果てている。

 そしてその存在は、ドクター・ワイルドが去ったことを戦闘開始の合図としたように、狂気に彩られた瞳をこちらに向けた。


「ワタクシ達が時間を稼ぎます。ですからアエタ。今の内にユウヤとアイリスを連れてここを離れるのですわ!」

「は、はい!」


 先の戦闘の影響でまともに戦えない雄也とアイリス。

 比較的生命力と魔力が高いとは言え、この場の戦力としては数えられないアエタ。

 足手纏いを戦場に残していては、それこそ足を引っ張る結果となりかねない。

 それ故の判断に対しては、悔しいが否やは言えない。


「〈テレポート〉!」


 だから、すぐさま雄也とアイリスの手を取って転移魔法を発動せんとしたアエタに、雄也は奥歯を噛み締めつつも抵抗はしなかった。


「え?」


 しかし、アエタは愕然とした声を出し、景色が移り変わることはなかった。

 どうやらドクター・ワイルドは、ここを離れる前に転移妨害の魔動器を再起動していたらしい。そのため魔法は発動せず、雄也達が退避することは敵わなかった。


「っ! イーナはユウヤ達を守りつつ後退! メルとクリアは後方支援を!」


 その様子を見てプルトナが自ら率先して矢面に立ち、指示を出す。

 動ける中では最も戦闘経験が多いのは彼女だ。現状では指揮も任せるべきだろう。


「は、はい!」

「分かったわ」『任せて』


 それに素直に従い、イクティナはアエタに手伝わせながら雄也達に肩を貸してゼフュレクスから遠ざかり、メルクリアは敵と対峙するプルトナと雄也達の間に入った。


「プルトナさん! お母さんを、お父さんをお願いします!」

「分かっていますわ!」


 イクティナの叫びにプルトナは応じ、そうして雄也とアイリスが戦力にならない中、暴走した守護聖獣ゼフュレクスとの戦いが始まりを告げたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール 小説家になろうアンテナ&ランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ