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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第四章 自由という重荷

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第十九話 帰郷 ④捨て身の一撃

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。頑ななイクティナの父親と別れ、妹のアエタと共にゼフュレクスの元へ向かう!

 二つ。母親にも父親と同じ対応をされつつも、ゼフュレクスに目的を伝える!

 三つ。ゼフュレクスが敵の接近を感知するが、転移を妨害されてアエタ達が逃げ損なう!

 守護聖獣ゼフュレクスの座、その真上から強大な気配が急激に接近してくる。

 恐らくは、この場のさらに上空に〈テレポート〉で転移し、ゼフュレクスの探知限界から転移妨害の魔動器を撃ち込んできたのだろう。

 不利になったからと逃げ出すようなことがないように、アエタ達をある種の人質として確保するための小細工と見て間違いない。

 気配の数は三つ。それらは、もはや空気抵抗と釣り合った速度で落下してきて――。


「っ!!」


 真獣人(ハイテリオントロープ)リュカは魔法で作り出した足場を駆使してスマートに、真魔人(ハイサタナントロープ)スケレトスは質量を持たない影の如く音もなく不気味に着地した。

 一瞬遅れて、真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥスが膝を曲げて衝撃を逃がすようなこともせず、直立状態のまま半ば激突するように地面と接触する。

 が、その結果は重量と速度に反した小さい破砕音が響くのみだった。そして、その音が暗示するように、ラケルトゥスは微塵も体勢を崩すことなく泰然と立っていた。

 足元には僅かにひびが入っているのみ。明らかに地面が人工物であることが分かる。

 これならば一先ず足場の心配はしなくてよさそうだ。


「随分と派手な登場だな」


 改めて彼らの強大さが感じられる様子を前にして、しかし、それに気圧されないように揶揄するような口調で雄也は言った。


「戦において示威は重要だからな」


 対して、ラケルトゥスが真紅の装甲に覆われた顔をこちらへと向けながら応じる。

 その発言内容に雄也は眉をひそめた。

 それは、相手にその程度のことで心を乱す弱卒が含まれる場合だけだ。

 あるいは、六大英雄としての彼が本来大部隊を指揮するような立場にあったのか、それとも単に雄也達を弱者と見なしているのか。

 後者を思い浮かべてしまう辺り、ラケルトゥスにそう思われずとも雄也自身は未だ根本的な部分では弱いままなのだろうが、恐らく彼はそこまで侮ってはくれない。

 そんなレベルの存在が、曲がりなりにも英雄などと呼ばれるはずがないのだから。

 侮りを期待することこそ、彼らに対する侮りに他ならない。


「……ドクター・ワイルドとパラエナはいないのか?」


 だから、雄也は状況を正確に把握するために問いかけた。


「ワイルドは……あれで忙しい男だからな」


 律義に答えつつも、ドクター・ワイルドに対する言及はそれだけだった。


(間違いないな。ここは本当の封印の楔じゃない)


 僅かに言い淀んだところを見ても確実だ。

 だが、それはそれで構わない。目の前の存在を倒すことに集中すればいい。


「パラエナの方はそこの魔動器の一撃でダメージを負わされたことが堪えたようでな。修行をするとどこかへ行ってしまった」


 後方に控えるアサルトレイダーを指差しながら、やや呆れたように言うラケルトゥス。

 恐らく、こちらは真実なのだろう。

 図らずして、いや、メルとクリアの力のおかげで多少なり有利な状況となったようだ。


「さて、そろそろ始めるか。守護聖獣ゼフュレクス。今日を以って貴様の使命も終わりだ」


 やや演技染みた言葉。これはブラフだろう。


「ふん。かつては六大英雄と謳われた貴様らが、今となってはドクター・ワイルドとやらの使い魔か。堕ちたものだな」


 ラケルトゥスに対し、嘲るように応じるゼフュレクス。

 どうやら既知の仲のようだが、それを前提としてもその反応には違和感がある。

 ゼフュレクスは彼の使命という言葉を当たり前のものと受け止めているようだ。

 単なるブラフではない別の意図もあるのかもしれない。


「抜かせ。人工魔獣如きが守護聖獣などと祀り上げられていることこそ片腹痛い」


 ラケルトゥスはそんなゼフュレクスの返しに対し、若干苛立ったように言いながら手を掲げて魔力を収束させ始めた。


「っ!? まずい!」


 強大な威力を予想させる気配に焦燥感を抱く。

 ゼフュレクスなら耐えられるかもしれないが、その後ろにいるアエタとペリステラは余波だけで致命傷となりかねない。


『メルとクリアは全員のサポートを! 後は手筈通りに行くぞ!!』


 故に、明確な攻撃の意思を前にして、雄也は咄嗟に〈クローズテレパス〉でアイリス達に呼びかけて地面を蹴った。


『『任せて!』』『分かりましたわ!』【了解】『は、はい!』


 それに応じた返答を頭の中に響かせながら、ラケルトゥスとゼフュレクスの間に入り込む。彼女達もまた、それぞれ事前に立てていた作戦通りに配置についた。

 ただし、パラエナの相手を想定していたメルとクリアだけは予定とは違い、雄也が指示した通りに遊撃的なポジションとしてやや後方に下がっている。

 元々三人のサポート役だったイクティナに加わる形だ。

 この布陣なら前回と同様に真魔人(ハイサタナントロープ)スケレトスの相手をするプルトナも、真獣人(ハイテリオントロープ)リュカの相手をするアイリスも、均衡状態に持っていき易くなるはずだ。

 その上で、雄也は出せる全てを以って一人で真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥスを超えなければならない。ここはパラエナがいようがいまいが変更はない。


「また貴様が相手か。全く、代わり映えのないことだ」


 そうして目の前に立ちはだかった雄也に、ラケルトゥスは魔力を収束させた手を下ろしながら呆れたように言った。


「……この前と同じと思うなよ」


 対して一段声を低くして返す。

 かなり無茶な作戦だが、気持ちで負けては成功するものもしなくなる。


「ほう。自信がありそうだな。ならば、前回よりも楽しませてくれよ」


 少しばかり愉快そうな色を声に滲ませながら、高慢さを感じるような言葉を口にするラケルトゥス。しかし、侮りによる隙は全く見て取れない。

 搦め手など使うつもりは毛頭なかったが、こうも油断がなければそもそも効果は薄かっただろう。いずれにせよ、真正面から力で上回るより他に彼を打倒する術はない訳だ。

 だから――。


「悪いが、俺にお前を楽しませるつもりはない。今日、この場で叩き潰してやる!」


 作戦を決めて尚、必死に小細工を弄しようとしている己の中の小市民的な部分をねじ伏せるように、人差し指をラケルトゥスに向けて宣言する。


「いいぞ。もっと気を張れ。そして、血沸き肉躍る戦いを味わわせてくれ」


 礼儀も何もない雄也の言動を歓迎するように、彼は両手を広げて応じた。


(どいつもこいつも戦闘狂か)


 しかし、悪いが、正面から叩くとは言っても長々と戦っているつもりはない。

 勝負は一瞬。即ち短期決戦を狙い、一気に決める心積もりだ。

 テレビ番組ならぬ現実で、尺や見栄えを考える意味は余りない。

 それ以前に、引き伸ばしをしようにも長時間戦いを均衡させる実力もないのだ。

 こちらの限界を、そして意図を悟られない内にケリをつけてしまわなければならない。


(とは言え、相手も一人じゃない。もし邪魔が入ったら台なしになる)


 強化に時間制限がある以上、タイミングを見極めることもまた必須だ。

 最善の一瞬を見出さなければならない。

 だから、雄也は事前に装備しておいたミトンガントレットを構えながら、ラケルトゥスの僅かな挙動を見逃さないように目を凝らした。


    ***


「中々やる。千年前の戦いで部下に欲しかった」


 真獣人(ハイテリオントロープ)リュカの称賛に、アイリスは軽く眉をひそめた。

 攻防は僅か数合。それでも互いの実力差はよく理解できる。

 通常状態では決して敵わない相手だ。

 にもかかわらず、そんなことを言われても嫌味にしか感じない。


(戦闘スタイルがほぼ同じなだけに際立つ)


 奥歯を噛み締めながら、両手それぞれに握り締めた二振りの短剣に力を込める。

 リュカもまた次なる激突に備え、くの字に湾曲した独特な刀身を持つ二本の短刀を構えていた。体勢はアイリスに比べ、やや前傾している。


(既に〈エクセスアクセラレート〉状態になのに)


 数回の刃を合わせただけで若干押され気味になり、後ろに大きく飛んで仕切り直さなければならなかった。これでは役割を果たせない。

 ユウヤが敵へと渾身の一撃を食らわせるためには、今この場だけでもリュカを完全に封じなければならないと言うのに。

 現状のままでは、あちらへ横槍を入れる程度の余裕が残っている。

 後一歩届かない。

 そして、その一歩は今のアイリスには覆せない大きな隔たりだ。しかし――。

『アイリスお姉ちゃん! 伏せて!』


 アイリスは一人で戦っている訳ではない。

 脳裏に響いたメルの言葉に、咄嗟に身を伏せる。

 正にその次の瞬間、アイリスのギリギリ上を水の塊が内部に刃状に研ぎ澄まされた風の魔力を伴って通過していった。


「何!?」


 最短距離にある回避地帯は地面スレスレの空間のみ。だが、既に次の局面に向けて足を踏み出しかけていたリュカにはそこに入り込むことはできなかった。


「くっ!!」


 それでも上方へと大きく跳び上がった辺りは、流石六大英雄と言うべきだろう。

 しかし、広範囲に放たれた攻撃を回避し切ることは不可能だった。

 彼女の下半身が水と風、二つの属性の魔法が入り混じった範囲攻撃に飲み込まれる。

 弱点属性の風属性を含む攻撃。しかもイクティナの大魔力による魔法だ。

 全くの無意味ではない。

 装甲に僅かながら歪みが生じている。

 とは言え、それだけで完全に動きを止めるには至らなかった。

 だが、今なら少し手を伸ばせば届く。


(ここ!!)


 だから、アイリスは地面を蹴って彼我の距離を詰め、リュカらが現れた段階で既に蓄えておいた魔力を一気に解き放った。


《Final Twindagger Assault》


 そして電子音と共にリュカに肉薄し、二本の短剣を逆手に持って全力で突き立てる。


「くっ、詰まらない横槍を」


 忌々しげに吐き捨てる彼女だが、如何に〈Convergence〉状態からの一撃でも、所詮は同属性の攻撃。致命傷を与えるには至らない。


(けれど……役目は果たせた)


 この瞬間、彼女の意識は完全にこちらのみに向いている。

 これならば、ユウヤの障害になるようなことはないはずだ。故に――。


『お兄ちゃん! 今だよ!』


 ドクター・ワイルドの呪いによって〈テレパス〉も使えないアイリスに代わってメルが、彼に対して攻撃の合図を送ったのだった。


    ***


「言ったはずだ。お前の攻撃は軽いと。改善が見られないな」


 数秒の打ち合いの後、半ば呆れたように言うスケレトス。

 あれから三日しか経っていないにもかかわらず改善などと言われても正直気が早過ぎると思うが、六大英雄の尺度は常識からずれているらしい。


「確かにワタクシ自身は大きく変わってはおりません。ですが、改善が全くないと言うのは、些か早計というものですわ」


 しかし、プルトナはそんな彼に対し、わざとらしく不敵さを湛えた声色で返した。


「口だけなら、何とでも言える!」


 そんな態度が癪に障ったのだろう。

 スケレトスは、詰まらないハッタリは興醒めだと言わんばかりに怒気を声に含ませた。

 そうしながら彼は地面を蹴って、一気に間合いを詰めてくる。


「いいえ。口だけではありませんわ。今日の戦い、ワタクシは一人ではありませんから」


 接近してくる相手に対し、プルトナはそう口調を変えずに言いながら逆に後退りした。


「何っ!?」


 正にその直後、スケレトスを中心に捕らえるように水球が発生する。


『プルトナ姉さん! 攻撃を!』


 脳裏に響いたのはクリアの声。そこから分かるように、この水球の檻は彼女の魔法だ。

 こうした連携は訓練場で確認済みなので戸惑いはない。

 だから、プルトナは彼女の言葉に応じ、この隙を逃さないように攻撃の態勢を作った。


『小賢しい!!』


 当然と言うべきか、水の牢獄が彼の動きを止めることができたのは僅か数瞬。


『力がなければ足止めすら敵わないと、もう一度思い知れ!』


 六大英雄と謳われた彼がそれだけで抑え込めるはずもなく、〈テレパス〉の叫びと共に勢いよく振るわれた腕によって水球は呆気なく弾け飛んでしまう。

 しかし、その僅かな時間を以って準備は全て整った。


「力は補えばよいのですわ。そのための武器がここにあります」


 そしてプルトナはそうスケレトスに冷静に返すと――。


「アサルトレイダー!」


 既にすぐ傍に呼び寄せていた魔動器に手を伸ばした。

 瞬間、双子によって更なる改良を加えられたそれは、プルトナの求めに従って瞬時に巨大な拳状の物体へと変形し、六色の光に彩られた夥しいまでの魔力を纏っていく。


「イリデセントアサルトナックル!」


 そのままプルトナは間髪容れず、六色の光に彩られた夥しいまでの魔力を纏った巨人の拳に己の拳を重ね、容赦なくスケレトスに叩き込んだ。


「が、ぐあああっ!?」


 同じ六大英雄たるパラエナでさえ、受けに回らざるを得なかった一撃と同等以上の威力。

 スケレトスもまた咄嗟に防御態勢を取っていたが、それでも確かな手応えはあった。

 装甲にひびが入って、破片が僅かに飛び散っている。

 これ程の威力を受けては、少なくともユウヤには手出しできないはずだ。

 役割を果たすことができたと少し安堵する。

 今が好機だ。


『兄さん! 今よ!』


 クリアもまたそう確信したようで、サポートのために全体を見ていた彼女は、プルトナより先に彼に攻撃の指示を出したのだった。


    ***


「どうした? 勇ましいことを言っておきながら動かないのか?」


 両腕のミトンガントレットを構えること十数秒。ひたすらタイミングを窺っていた雄也に業を煮やしたようにラケルトゥスが問うてくる。


「心配しなくても、すぐに叩きのめしてやるさ」

「何か狙いがあるようだが……いつまでも待っていると思うなよ」


 小さく嘆息しながら、彼は拳を僅かに構え直して体に力を込める。

 この停滞は相手の油断や慢心ではなく、所詮は雄也達の存在が彼らの目的に何かしらの意味を持つことを利用したものでしかない。

 言わば、番組的なお約束を逆手に取ったような禁じ手に近い。

 現実であれば律義に守る必要などなかろうが、それもここらが限界のようだ。


「では、こちらから行くぞ」


 そうしてラケルトゥスの方から動き出した正にその瞬間――。


『お兄ちゃん! 今だよ!』『兄さん! 今よ!』

『っ! ああ!!』


 双子の言葉が脳裏にほぼ同時に響き、雄也は腰を深く沈めて己の左手に輝く黄金色の腕輪、RCリングを起動させた。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Change Therionthrope》《Convergence》

《Change Drakthrope》《Convergence》

《Change Phtheranthrope》《Convergence》

《Change Ichthrope》《Convergence》

《Change Satananthrope》《Convergence》

《Change Anthrope》《Maximize Potential》

五重(クインテット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)!!」


 プロセスを振り返る訳ではないが、一秒にも満たない間隙に五属性の魔力を急速に収束し、その全てを利用して限界以上の身体強化を完了した。


「これは――」


 今までとは毛色の異なる気配を感じ取ってか、ラケルトゥスは警戒を顕にする。

 だが、この力を完全に推し量ることはできていないようだ。


(今、この場で終わらせる!)


 そして雄也は人工的な硬度を持つ地面を踏み砕き、刹那の内に間合いを詰めた。


「何っ!?」


 その速さはラケルトゥスの想定を上回っていたようで、その懐に入り込むことに成功する。そのまま雄也は敵の腹部にガントレットに覆われた拳を叩き込んだ。


「がはっ!!」


 くの字に折れ曲がり、空気を吐き出すラケルトゥス。その一撃の威力は確かに鎧を貫いて、明確なダメージを与えることができたようだ。

 それだけでなく、彼の真紅の装甲には大きく割れ目が入っている。


(いける。これなら)


 だから、そう確信して間髪容れずに殴打を繰り返す。

 そして反撃を許さず攻撃を連続で叩き込んでいくと、遂には装甲が完全に破壊されて竜の体表の如き彼の生身が露出した。

 今この時こそ勝負の時だ。


(これで、決める!)

《Heavysolleret Assault》


 そして雄也は手甲(ガントレット)から鉄靴(ソルレット)へと武装を変更し――。


「うおりゃあああああああっ!!」


 渾身の力を込めた蹴りをラケルトゥスへと放った。

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