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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第四章 自由という重荷

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第十七話 対策 ①吐いた唾は跳ね返ってくる

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。現れた真魔人(ハイサタナントロープ)に苦戦する中、双子に渡された魔動器で形勢逆転する!

 二つ。真魔人(ハイサタナントロープ)の正体がプルトナだと分かり、彼女からそうなった経緯を聞く!

 三つ。超越人(イヴォルヴァー)対策班に問題が起きたとしてアレスから呼び出される!

「じゃあ、ちょっと行ってくるから」


 アレスからの呼び出しを受け、雄也はその場の全員にそう断ると小さく構えを取った。


「アサルトオン」

《Change Phtheranthrope》

「〈エアリアルライド〉」


 そして、翼人(プテラントロープ)形態になると共に大きく跳躍し、それと同時に風属性魔法による空力制御を用いて一気に空高くへと飛翔する。

 目的地は王都ガラクシアスの中心部から少し外れたところ。

 元は賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会の訓練場の一つだったが、現在は超越人(イヴォルヴァー)対策班の本部が隣接された彼ら専用の訓練場となっている場所だ。


(けど、やっぱり気まずいな。アレスと会うのは)


 その方角へと空を翔けながら、雄也は小さく息を吐いた。

 最後に面と向かって会ったのは、行方不明事件の只中。クリアが母親たるカエナによって過剰進化(オーバーイヴォルヴ)させられ、街中に転移させられた時だ。

 そこで考え方や立場の違いから思い切り対立してしまった上、あれ以来連絡を取っていなかったのだ。心の内にできたシコリが微妙に大きくなってしまっている。

 勿論、彼らも仕事だったと頭では理解している。

 しかし、やはり容易く流せることではない。


(とは言え、先延ばしにしてもメリットはないし……)


 むしろデメリットしかないだろう。

 そうやって複雑な気持ちを抱きつつ、アレスの元へと向かっていると――。


(って、この気配は!?)


 雄也は向かい先から強大な魔力の気配を感じ取った。

 まるで過剰進化(オーバーイヴォルヴ)してしまった超越人(イヴォルヴァー)のようだ。

 焦燥を抱きつつ、速度を上げて急ぐ。


「……やっぱりそうか」


 その発生源を視覚で確認し、雄也は眉をひそめながら呟いた。

 思った通り、眼下には過剰進化(オーバーイヴォルヴ)したと思われる巨大な鯨の如き存在があった。

 大きさは正にシロナガスクジラ程もあるが、陸にあるせいか弱っているように見える。

 こうなっては気まずいなど悠長なことは言っていられない。

 即座に周りを囲む対策班の中からアレスの姿を探し、その近くに降り立つ。


「アレス、これはどういうことだ?」


 そして、その場で周囲を見回しながら尋ねかける。

 過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)を前にしながら真超越人(ハイイヴォルヴァー)となっていないアレスも含め、誰一人として敵意も戦意も持っていないことへの疑問を滲ませながら。


「カエナ・ストレイト・ブルークによる行方不明事件の全容解明のため、俺達はカエナ宅を調査していたんだが……」


 アレスは雄也の問いに対し、そこで少し言い淀んでから再び口を開いた。


超越人(イヴォルヴァー)になるための魔動器を発見した班員が使用してしまったらしい。結果がこれだ」

「……何故そんな真似を」

『強さへの憧れが転じて俺やお前の強さに対する妬み、嫉みとなり、そうした感情に支配されてしまったのだろう。進化の因子を持たざる者は、限界が訪れればそれ以上の成長は見込めないからな』


 最後に呆れと憐れみを湛えた言葉を〈テレパス〉で加えながら深く嘆息するアレス。

 そうしたくなる気持ちは理解できなくはない。

 だが、雄也の心に彼に対する憐れみは欠片も生じなかった。

 事故や誰かに強制されたのならばともかくとして、結局最後に選んだのは自分自身。詰まるところ己の意思で取った行動に過ぎない。

 目の前の状況はその結果でしかないのだから、正直同情の余地はないと思う。

 そう雄也が呆れのみを内心で強く抱いていると――。


『助けてくれ! 頼む、オルタネイト!』


 その超越人(イヴォルヴァー)から懇願するような男の声が脳裏に届いた。


過剰進化(オーバーイヴォルヴ)の副作用。俺に頼めばどうにかなると思ってるのか?」

『どうにかできるから、あの超越人(イヴォルヴァー)を守り、連れ去ったんじゃないのか!?』

「……勘違いも甚だしいな」


 あの時のことを蒸し返され、雄也は苛立ちを募らせながら言葉を続けた。


「俺は、お前のように人格を残していながら、しかし、お前とは違って無理矢理超越人(イヴォルヴァー)にさせられた被害者が、お前達になぶり殺しにされるのが忍びなかっただけだ」

『そ、そんな……』


 雄也の言葉を受けて、己の死が免れられない定めだと頭の中で結論したのか、彼は絶望したように言葉を失ってしまった。

 その姿は他の対策班の面々の憐憫を誘ったようで、彼らはシロナガスクジラの如き巨体を憐れむように見詰め、それから雄也を睨みつけた。

 そのどれもが正直に言って癇に障る。


「……身勝手な奴らだ」


 同じく人格を残した超越人(イヴォルヴァー)にもかかわらず、対応が余りに違う。

 勿論、あの時と今とでは情報の量が全く異なるのだから一概に言うことはできない。

 だが、あからさまに感じられる身内への甘さは鼻につく。


「彼や彼女の痛みを思い知らせてやろうか? この()()が!!」


 だから、雄也は目の前の存在に対し、以前彼らが言い放った単語を苛立ちと共に叩きつけてやった。自ら人間でなくなろうとした者には相応しい言葉だろう。


《Convergence》


 続けて、さらに魔力を収束させて正面から敵意をぶつけてやる。


『う、ああ、うぅ』


 すると彼は、雄也の威圧に怯んだように呻き声を上げた。

 その姿に尚のこと怒りを募らせながら、恐怖を与えるようににじり寄る。と――。


『ユウヤ』「そのくらいにしてやってくれ」


 アレスから肩に手を置かれて制止されてしまった。一応正体を隠す配慮からか、名前の部分だけは〈クローズテレパス〉を使用しながら。

 肩にかかる力の弱さから言っても、彼の態度は他の対策班とは一線を画している。

 友人としてこちらの気持ちを多少なり斟酌してくれているようだ。

 それは、まあ、ともかくとして、確かに少々やり過ぎてしまったかもしれない。


「…………はあ、仕方ないな」


 そんな彼の様子に免じて苛立ちを吐き出すように一つ大きく息を吐くと、雄也はそう呟いてアレスを振り返った。

 その視線を受けて、彼は仕切り直すように口を開く。


「だが、お前が連れ去った超越人(イヴォルヴァー)はどうなったんだ? やはり死んでしまったのか?」


 その疑問が出るのは、彼の立場からするともっともだろう。

 あの場にいたのだから尚のことだ。


「……死んではいない。けど、助かったとも言えないな」

「どういうことだ?」


 雄也の微妙な言い回しに、アレスは首を傾げながら質問を重ねた。


「双子の姉と一つの体を共有することで何とか命を繋いだだけだ。それはMPリングがあったからこそできたことで、普通の魔法や魔動器でどうにかなることとは思えない。少なくとも俺には無理だ」

「MPリングがあったのか?」

「ああ。その時はな。今はもう、使えるものはない」


 見た目的にこの超越人(イヴォルヴァー)は水属性だろう。そんな彼に対応するものは既に使用済みだ。

 もっとも、たとえMPリングが残っていたとしても自由意思のままに選択した者に使わせようとはとても思えないが。


「なら、やはりどうしようもないのか……」

「……いや――」


 とは言え、救う術が一つもないとは一言も行っていない。

 こればかりは彼の悪運を湛えるべきかもしれない。


「今は助けられるかもしれない方法がある」

『本当か!?』


 雄也の言葉に、超越人(イヴォルヴァー)と化した彼は絶望の中で光明を見出したかのように声を弾ませる。


「ああ。……だけど、俺にお前を助ける義理はない」

『なっ!?』


 ハッキリ言い捨てた雄也に対し、彼は信じられないと言わんばかりに少しの間絶句した。


『それでも正義の味方か!?』

「…………はあ?」


 そうして返ってきた言葉は正直想定外のもので、だから逆に雄也もまた一瞬思考を止められてしまった。

 前回対立した手前、彼らが本気でそう思っているということは恐らくないだろう。

 一種の煽りに違いない。

 だが、どうやら一般的にそういう認識になりつつあるようだ。


「確かに正義に味方してはいる。けど、俺自身が正しいとは一言も言ってない。俺は身内を傷つけられれば怒る普通の小市民に過ぎないからな」


 周囲からも向けられる非難の視線に対し、雄也はそう吐き捨てた。

 何より、自由意思による選択が思い通りに行かなかったからと言って、他人の尻拭いを強要されるのは正直不愉快極まりない。


『ユウヤ』


 と、そこへ窘めるようにアレスが〈クローズテレパス〉で呼びかけてくるが、しかし――。


「とは言え、取引なら応じてやる」


 雄也は半ばそれを遮るように言葉を続けた。


『取引?』

「そうだ。対策班全体との取引だ」


 超越人(イヴォルヴァー)と化した彼の問いに頷いて答え、それから少し間隔を開けて再び口を開く。


超越人(イヴォルヴァー)との戦いの只中にあっても、俺が制止したら一度は攻撃をやめて俺の話を聞くこと。それを約束するなら、その方法を試してやる」

「そんなことでいいのか?」

「ああ。それ以上を要求するつもりはない」


 拍子抜けしたように言うアレスに首肯する。

 自由を信条としている身で、有無を言わせず行動を縛るのは好ましいとは思えない。

 だから、一度は話をした上で選択して貰うのだ。

 その上で対立することを選ばれてもそれはそれ。全く構わない。

 雄也もまたその場その場で自分のなすべきことをするだけだ。


「で? どうする?」


 返答を促す言葉に一瞬場に沈黙が降りる。

 恐らくは〈クローズテレパス〉で話し合っているのだろう。

 とは言え、そこまで重い要求でもなし、静けさはすぐに破られることとなった。


『分かった。頼む。助けてくれ』

「よし」


 その結論を受けて、雄也はシロナガスクジラの如き巨体へと歩み寄った。

 そして右手を掲げ、双子に貰った二つの腕輪の内、赤銅色の方を起動させる。


《MPキャンセラー、実行シマス》


 双子の声色を片言にした電子音が鳴り響き、腕輪の窪みから群青の光が放たれ始める。


《過剰魔力吸収中…………完了》


 そして、一際眩く群青色が輝いた次の瞬間、その色を湛えた美しい石が二つ地面に転がり落ちた。魔力吸石と魔力結石だ。


「お、おお……戻った」


 その声に視線を二つの意思から上げると、過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)の巨体は既になく、普通の水棲人(イクトロープ)の男性が自分の体を確かめるように触っていた。


「すまない。恩に着る」


 それから彼は深く安堵した様子で頭を下げ、感謝を口にする。


「礼を言う必要はない。取引の結果だ。それでも誰かに感謝したいなら、あの日お前達が殺そうとしたあの子にするんだな」

「どういう、ことだ?」

「この魔動器を作ったのは彼女とその姉だ。……あの時殺せなくてよかったな」


 少しばかり皮肉をつけ加えてから、雄也は彼らに背中を向けた。


『ユウヤ、その魔動器は量産できないのか?』


 と、そこへアレスから〈クローズテレパス〉で問いかけられる。


『多分ラディアさんを通して仕組みを公開することになるはずだ。そうすれば、すぐに対策班にも配備されると思う』


 対して雄也もまた〈クローズテレパス〉を用いて答えた。

 もっとも、当然それは赤銅色の腕輪に限られ、黄金の腕輪については秘匿するだろうが。


『そうか。……今日は助かった』

『構わないさ』


 最後にアレスとそう言葉を交わしたことで彼に対する引け目が少し薄れたのを感じながら、雄也は〈エアリアルライド〉を使用しつつ空へと翔け上がった。

 そして、そのまま超越人(イヴォルヴァー)対策班の本部を離れる。


(……分かってたことだけど、自由ってのは難しいもんだよな。こういう問題が起きる)


 自由意思による選択。その結果の自業自得。

 今回は雄也が手を出さずとも当事者一人で収まったかもしれないが、自由な選択の結果として別の誰かの自由が奪われることはままある話だ。

 真の秩序を望むなら、あるいは、自由は極限まで制限されるべきものなのかもしれない。

 己の自由な選択に責任を取れない者が多過ぎる世界では。

 それでも――。


(俺は人の自由を尊びたい)


 何故なら、それは即ち人の善性を信じることに他ならないのだから。

 いつの日か人は、誰かの自由を奪ったりすることなく、己の自由を保ち続けることができるようになるはずだ。

 そう改めて強く思いながら、雄也はアイリス達の元へと戻ったのだった。

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