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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第三章 わたしは人間ですか?

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第十三話 異形 ①頑張り屋さん同盟

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。アレス達超越人(イヴォルヴァー)対策班の前におかしな超越人(イヴォルヴァー)が現れるが、呆気なく討伐される!

 二つ。双子の店でイクティナの魔力制御用魔動器を考案する!

 三つ。アレスからの通信で超越人(イヴォルヴァー)が出現していたことを知る!

「確かに今日、郊外に超越人(イヴォルヴァー)が現れ、対策班によって討伐されたそうだ。オルタネイトの名を聞かなかったから、私も疑問に思っていたのだ」


 翌朝。朝食後の食堂。ラディアにアレスから教えられた事実の確認を取ると、彼女もまた懸念を示すように厳しい表情を見せる。


「……アサルトレイダーが、反応しませんでした」

「元々ドクター・ワイルドからもたらされたものだ。過度に信用するな」


 窘めるように言う彼女に、雄也は反論できずに視線を下げた。

 しかし、アサルトレイダーがなければアイリスやイクティナを救えなかった事実がある。

 その力、機能を頼りにする気持ちを消すことは難しい。

 そうした部分もまた彼のシナリオの内だと言われれば、それまでのことだが。


「……まあ、過度に疑い、恐れてしまうのも敵に利するだけだ。可能性を頭の片隅に入れておくだけでいいだろう」

「そう、ですね」


 そもそも、オルタネイトの力自体もドクター・ワイルドに与えられたものなのだ。

 疑い出してしまえば切りがない。そのことに囚われ過ぎるのもかえって危険だ。

 そう自分に言い聞かせ、気持ちを切り替えるように少しの間目を瞑る。すると――。


「兄さん、私達が調べてみる?」


 クリアが心配そうに首を傾けて問うてきた。


「いいのか?」

「腕輪の分析も手詰まりだしね」


 彼女は声色に複雑な感情を滲ませながらも苦笑と共に答えた。

 昨日遊びに出かけたおかげかは分からないが、少し心に余裕ができているようだ。


「わたし達が調べたからって新しい事実が分かるとは限らないけどねー、お兄ちゃん」


 その表れのように、メルが悪戯っぽい笑顔で続ける。義務感は見て取れない。


「何だ。一日で随分と仲よくなったな。しかも兄さん、お兄ちゃんとは」


 その様子を見て、ラディアは安心したように少し表情を柔らかくした。


「こ、これは、その、兄さんがそう呼べって言うから」


 と、クリアは慌てたように弁解し、それから顔を真っ赤にして俯く。どうやら、わざわざ指摘されたせいで無駄に意識させられて羞恥心が出てきてしまったようだ。


「それにしては自然な感じだったぞ?」


 軽く意地悪な感じで言うラディアに、尚のこと身を縮こめるクリア。

 反論しようとするから、尚更いじられてしまうのだ。

 メルのようにニコニコとしていれば簡単に流せたものを。

 何にせよ、年相応の可愛らしさが見える彼女達の姿に心が和み、自然と微笑みが浮かぶ。


「と言うか、ユウヤ。妹が欲しかったのかい?」


 そんな雄也に、フォーティアがニヤニヤと悪い笑みを作りながら問いかけてきた。


「何なら私達も呼んであげよっか? ねえ、にーさん?」


 表情をそのままにそう呼びかけてくる彼女だが、イントネーションが何よりおかしい。

 まるで大阪の若手芸人が大御所芸人に呼びかけているかのようだ。

 外見的にも言動的にも妹という雰囲気は元々ないし、正直違和感しかない。


「ティア。ユウヤが物凄く微妙な顔をしていますわ」


 その様子を見ていたプルトナが呆れたように溜息をつく。しかし、どことなく焦りと安堵が表情を見るに、フォーティアに続こうとしていたのかもしれない。


「……分からないでもない反応だけど、ちょっと失礼じゃないかい? ユウヤ」

「あー、いや、やっぱりティアは妹って感じじゃないからさ」


 不満顔の彼女を宥めるように言う。すると、隣でアイリスが同意するように深く何度も頷きながら文字を作り始めた。


【分かる。どちらかと言うと悪友】

「ま、そうだね。アタシも妹よりはその立ち位置の方がいいや」


 軽く言って気安い笑みを作るフォーティア。

 やはり彼女は、八重歯が印象的なそうした表情が一番似合っている。


「さて、と」


 そんな雄也達の様子を柔らかな笑みと共に眺めていたラディアは、意識を切り替えるように独り言ちながら表情を引き締めた。


「私はもう行かねばならん。お前達、一人で人気のないところに行かんようにな。特にメルとクリア。出かける時は必ず……兄や姉と一緒にいるように」

「「はい、先生」」


 素直に返事をする双子にラディアは一つ頷く。


「行方不明事件、ですか?」

「ああ。と言うよりも、もはや誘拐事件と言った方がいいかもしれんがな。さすがにこうまで続いては偶然では片づけられん。……まあ、元々人為的なものとは思っていたが」

「けど、一体誰が」

「分からん。騎士達も全く手がかりを掴めていないようだ。私も調べてはいるが……」


 経過は芳しくないようでラディアは首を横に振った。


「こうも進展がないとなると、やはりドクター・ワイルドの仕業なんでしょうか」

「だが、奴にしては中途半端過ぎる。まあ、逆にそう思わせて自分を容疑者から外す策とも考えられるが、そもそもそんなことをする必要のある男ではないからな」


 当初彼が超越人(イヴォルヴァー)の素体とした人々は、全く誰にも気づかれずに連れ去られていた。

 今更、行方不明者が存在すると気づかれる形で誘拐しようとするはずがない。


「何にせよ、メルとクリアはお前達と違って戦闘は得意ではない。気にかけてやってくれ」

「それは勿論です」

「うむ。では、留守は頼んだぞ」


 ラディアは雄也の即答に満足したように首を縦に振りながら言うと、その場で〈テレポート〉を使用して食堂から姿を消した。


「それで、今日はどうするんですの?」


 彼女が転移して一拍置いてからプルトナが問うた。

 雄也達は日課をこなすことが決まっているので、質問の相手はメルとクリアだ。


「二人はアサルトレイダーの分析?」


 プルトナに続き、先程までの会話を受けてフォーティアが双子に尋ねる。


「いえ、今日は一先ず兄さんについていきたいと思います」

「え、でも、魔物の討伐には連れていけないよ?」

「それは分かってますし、そんなつもりもありませんよ」


 困ったように言うフォーティアに、少し心外そうにクリアが返す。


「お兄ちゃんの友達の翼人(プテラントロープ)さんに会いに行こうと思って」


 そんな妹をフォローするようにメルが続ける。


「イーナに?」


 しかし、事情を知らないフォーティアは疑問を深めただけだったようだ。

 彼女の中では双子とイクティナに接点はないのだから仕方がない。


【イーナのために魔動器を作って欲しいって、ユウヤがお願いしたから】


 首を捻るフォーティアに、アイリスが説明の文字を作る。


「会ってみて、話してみないと専用の魔動器は作れませんから!」


 魔法技師としての一種の拘りを覗かせるようなメルの言葉で、フォーティアはようやく理解したようだ。そして「そういうことなら」と納得したように頷く。


「それだとアイリスが一人になりませんか?」

【ん。だから、今日は私も行く。お弁当も用意した】


 プルトナに問われたアイリスは、そう答えると台所から巨大な箱の入った包みを持ってきた。彼女の細腕と比較すると、元の世界なら違和感しかない光景だ。


「これだけじゃ足りなくない?」


 しかし、ここは異世界(アリュシーダ)。Sクラスの人間にとっては精々一人前程度でしかない。


【勿論、まだまだたくさんある】


 アイリスは平らな胸を張りながら、そう文字を作って視線で台所を示した。


【ユウヤ、マーキングお願い】

「ああ、分かった」


 彼女は雄也の了承を待って立ち上がり、包みを持って台所へと向かった。その後に続く。

 そして台所のテーブル一杯に置かれた弁当に、〈アトラクト〉を使用するための魔力的な繋がりを作っていく。Sクラス四人+α分のそれは壮観だ。

 済んだものから業務用冷蔵庫のような保存用の魔動器に入れ、二人で食堂に戻る。


「準備できたようですわね? 行きますわよ?」


 そしてプルトナとフォーティアが分担で〈テレポート〉を使用し、全員で賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会の訓練場へと向かう。

 メルとクリアも〈テレポート〉を使えるが、何分初めての場所なので今日は相乗りだ。


「では、イーナを連れてきますわね」


 訓練場に着くと、すぐにプルトナが魔法学院の寮までイクティナを迎えに行く。

 かと思えば、彼女はほぼ間を置かずにポータルルームから出てきた。勿論、一人ではなくイクティナを伴って。


「お待たせ致しましたわ」


 傍まで戻ってきたプルトナが軽く頭を下げるが、全然待っていない。

 客観的に見ると〈テレポート〉の有用性、特異性が改めてよく分かるというものだ。


「おはようございます、皆さん。……って、あれ?」


 プルトナの後を小走りでついてきたイクティナは、早速いつもとの違いに気づいたようで小さく首を傾げた。

 その視線の先には、興味深そうに彼女を見詰め返す双子がいる。


「あ、もしかしてこの子達が?」


 何度か話題に出していたので、すぐに二人が誰か理解したようだ。

 イクティナは人懐こい笑みをメルとクリアに向けた。


「ああ。イーナ、紹介する。魔法技師のメルとクリアだ」


 雄也が彼女達にも視線をやりながら言うと、二人はイクティナの方へと一歩進み出た。


「メル・ストレイト・ブルーク。水棲人(イクトロープ)の十二歳です!」

「クリア・ストレイト・ブルーク。双子の妹の方です」


 そして、そう言って可愛らしくお辞儀をした二人を前に、イクティナは「あ、はい」と慌てたように姿勢を正して自己紹介の言葉を続ける。


「私はイクティナ・ハプハザード・ハーレキンと言います。翼人(プテラントロープ)の十五歳です。魔法学院三年コースの一年生で、ユウヤさんやアイリスさん、プルトナさんの同級生です」


 彼女はさらに「よろしくお願いします」と丁寧に続けて礼をする。


「「こちらこそよろしくお願いします、イクティナさん」」


 それに応じて双子も頭を下げ、結果として三人でペコペコとし合う形になっていた。

 若干似ている性格がその行動に表れている気がする。何だか、日本人っぽい。


「こらこら、三人共。日が暮れちゃうよ」


 彼女達はフォーティアにそう苦笑され、ようやくイクティナ達は決まりが悪そうにしながら背筋を伸ばした。


「それで……今日はどうしたんです?」


 とりあえず彼女達が何者かは分かったが、何故今紹介されたか分からない。そんな感じで不思議そうに小首を傾げながら、イクティナはこの場の面々を見回した。


「お兄ちゃんから、イクティナさん用の魔動器を作って欲しいと頼まれたので」


 チラリとこちらに視線を寄越してからメルが答える。


「お兄ちゃん?」

「呼び方は気にするな」


 イクティナは雄也の言葉に「は、はあ」と戸惑い気味に応じつつも、訝しそうに首を傾げながら双子に視線を戻した。


「えっと、私用の魔動器、ですか?」

「はい。聞いた話ではイクティナさんは魔力が高過ぎて制御できないとか。そこで周囲の風属性の魔力を遠ざけて魔法に必要な魔力だけに抑制する魔動器を作れば、安定して魔法を使えるようになるのでは、と」

「自分の魔力を抑制? ……そんな考え方は初めて聞きました」


 クリアの言葉にイクティナが驚いたように目を開く。


「さすがは王立魔法研究所所長の娘さんですね」


 それから自分の中で納得したように頷きながら言葉を続けた。


「所長の娘?」

「ストレイト・ブルークと言えば、確か所長の名字だったはずですけど」


 イクティナは雄也の問いに答え、双子以外の面々一人一人に目を向けていった。


「カエナ・ストレイト・ブルーク。王立魔法研究所所長の名前。知らなかったんですか?」


 女性の名前。つまりは二人の母親のようだ。


【興味なかった】

「魔導器工場の長なんか、ねえ」


 呆れたようなイクティナの問いに、簡潔にどうでもよさそうに答えるアイリスとフォーティア。その隣で驚きの表情を浮かべるプルトナを見るに、彼女も知らなかったようだ。


(国立魔法研究所の所長。元の世界で言えば今はなき科学技術庁の事務次官ってとこか?)


 国王が総理大臣で相談役は各大臣と考えると、その辺りだろう。

 名前を知らないのも比較的不思議ではないかもしれない。


「っと、ごめん。メル、クリア」

「「いえ、別に大丈夫です」」


 声を合わせて首を横に振るが、二人の表情はどことなく硬かった。

 しかし、フォーティアの揶揄のせいではないだろう。

 育児放棄。ラディアの言葉が脳裏を過ぎる。


「イーナはどうして知っていたんですの?」

「騎士と賞金稼ぎ(バウンティハンター)に並ぶ三大人気職の一つの魔法技師。その中でも王立魔法研究所に就職できるのは極一部のエリートだけで、普通の人にとっては憧れの職場です。私だって少しぐらいは調べますよ。……まあ、魔力の制御が今のままじゃ無理ですけど」


 最後の部分だけ自嘲するように言い、小さく嘆息するイクティナ。

 暗にアイリスやフォーティア、プルトナは普通の範疇にないと言っているが、ダブルS以前に彼女らは王族なのだから確かに普通とは言いがたいか。


「二人も将来は魔法研究所に?」

「あ、えっと……」


 イクティナが気を取り直すように笑顔を取り繕って尋ねると、メルが戸惑ったように視線を揺らした。そんな姉をフォローするようにクリアが口を開く。


「私達を見限ったあの人のいるところに勤める気はありません」

「見限った?」


 彼女の冷たい口調に、雄也は思わずメルとクリアを見比べながら問いかけた。


「あの人は、私達に自分と同じだけの才覚を求めたの。けど、あの人は魔動器工場の長と揶揄されていても、確かに所長の座を射止めるに足る破格の天才だった。並の人間じゃ、とても並ぶことなんてできやしない」

「だから、三年ぐらい前からかな。それまでは魔法や魔動器の知識を熱心に教えてくれてたんだけど、家に帰ってくることもなくなって……」


 妹の言葉を引き継いだメルだったが、顔を曇らせて俯いてしまった。


「一応生活費だけはくれたけどね。あれ以来、顔も見てないわ」


 そんな姉の反応に、母親への嫌悪を強めるようにクリアが眉をひそめる。


「父親はどうしたんだ?」

「さあ。物心ついた時にはいなかったし。あの人についていけなかったんじゃない?」


 存在を知らないからかクリアは軽く答え、「ともかく」と話を戻した。


「私達はそんなあの人の鼻を明かそうと必死で努力したけど、子供二人でできることは限られてたわ。毎日図書館に通って勉強してたけど……」


 一際顔を歪めた彼女はそこで一旦言葉を止めた。

 それから、少しだけ表情を和らげて再び口を開く。


「そんなある日、調べものをしに来た先生に出会って……しばらくの間、先生の家に住まわせて貰って勉強を教えて貰って、その上魔動器のお店まで用意して貰って」


 クリアはその日々の一つ一つを思い出すように、目を閉じながら微笑みを浮かべた。


「先生のおかげで今の私達があると言っても過言じゃないわ」

「……そっか」


 メルとクリアの言葉に、彼女達から感じていた頑なさの正体を察する。

 相手の期待に応えられないことへの恐れ。根源はそこにあったのだろう。


「両親のこと、嫌いか?」

「父さんは顔も知らないから今更どうでもいいわ。けど、あの人は嫌いよ。大嫌い」

「……わたしは――」


 断言したクリアとは対照的に、メルは少し言い淀んだ。


「わたしは分かんない。……分かんないよ」


 そして彼女の口から零れ落ちた言葉に、クリアは僅かに視線を逸らして俯いた。

 どれだけしっかりしているように見えても、二人共まだ十二歳の女の子なのだ。

 親と完全に決別するにはさすがに幼過ぎる。

 クリアにしても、嫌悪以上にどこかでまだ信じたい部分もあるのだろう。


「す、すみません。余計なことを言ってしまって」


 二人の様子を見て、申し訳なさそうに頭を下げるイクティナ。


「いえ、大丈夫です。今は割と楽しく過ごしてるので。そんなに気を遣わないで下さい」


 そんな彼女にメルとクリアは逆に気遣うような笑みを見せた。


「すみません……」


 しかし、イクティナは尚のこと気まずそうにし、メルとクリアは困ったように顔を見合わせてしまった。


【イーナが一番気にしてる】

「ちょっと、共感しちゃって。私の場合は、私が望む私と親が望む私が食い違ってるってこともあって単純に比較できないかもですけど」


 アイリスの指摘に対するイクティナの答えに彼女の事情を思い出し、少し納得する。

 そう言えば、境遇面でも少し双子と似ているかもしれない。


「勝手に期待されて、その通りじゃないからって見離されて。それでも、やっぱり認めて欲しい気持ちが残ってる。親ってやっぱり特別なんですよね」

「……認めて欲しいって言うか、単に見返したいだけですけどね」


 クリアが余り肯定したくなさそうに眉をひそめる。

 それから彼女は少しの間、ジッとイクティナを見詰め、理解したように頷いた。


「ハプハザード・ハーレキン。思い出しました。守護聖獣ゼフュレクスの守り人の一族でしたよね? 確かに、魔力制御に難があるようでは……」

「はい。お前には守り人になる資格はない。両親にそう言われました」


 クリアが濁した言葉をハッキリと口にしつつ、自嘲気味に目線を下げるイクティナ。


「「イクティナさん……」」


 そんな彼女に、メルとクリアは心配の色濃い声を合わせて呼びかける。

 イクティナはそれに応じてパッと顔を上げた。

 それから陰鬱な気持ちを振り払うように頭を振って一度こちらを見る。

 その瞳にはしっかりした意思の光が灯っていた。

 彼女は自分の心を確かめるように胸に手を当てて一つ小さく頷くと双子に視線を戻し、真っ直ぐに彼女達を見据えて再び口を開いた。


「負け惜しみに聞こえるかもですけど、私は守り人になるつもりはありません。けど、それはそれとして、もっとちゃんと強くなって両親に目にもの見せてやりたい。そして、もしも掌を返してきたら、こっちから決別してやるんです。私は自由に生きるって」


 そうハッキリと告げたイクティナに、雄也はいつだったかの会話を思い出した。

 色々と思い悩んでいた彼女だが、一つ気持ちが固まったようだ。


「えっと、すみません。余計なことを」


 しかし、やはりそういう性格と言うべきか深々と頭を下げるイクティナに、メルとクリアは曖昧な苦笑を浮かべながら首を横に振った。


「お二人に手伝って貰えるととても心強いです。よろしくお願いします」

「こちらこそ、えっと、任せて下さい!」

「一緒に頑張りましょう!」

「はい!」


 そして、ようやく満面の笑みを浮かべるイクティナ。相変わらずの癒やされるような笑顔だが、今日はいつもより輝いて見える気がする。

 隣でやる気を見せているメルとクリアもいい表情だ。


(頑張り屋さん同士、気が合ったって感じかな)


 そう思い、微笑ましく三人の様子を見ていると――。


「では、まずは体の隅々まで調べましょう!」


 張り切ったようにメルが言い、クリアがスッとイクティナに近づく。


「へ!?」

「魔力の特性とか、詳細に調べないとオンリーワンの魔動器は作れませんから!」


 メルもまた手をワキワキさせながら、挟み撃ちするようにクリアの反対側から接近した。


「ユ、ユウヤさあん」


 と、何をされるか分からないことへの怯えからか、イクティナが縋るような目を向けてくる。


「あー、えっと……頑張れ、イーナ。これも魔力制御のためだ」


 そんな視線を前に少し目を逸らしながら、雄也は心を鬼にして何やら魔動器を体に取りつけられていく彼女にエールを送った。

 見捨てられた、とでも言いたげな恨めしそうな目で見られるが、ここはグッと耐える。


「じゃ、じゃあ、とりあえず魔物の討伐に行ってくるから」

「あ、兄さん、後で普段の訓練の様子も見せて貰うから――」

「早く戻ってきてね、お兄ちゃん」


 どこか楽しげに振り返って言う双子に「分かった」と頷き、むくれるイクティナの視線から逃げるように背中を向ける。

 そうして雄也は日課の魔力吸石収集に向かったのだった。

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