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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
最終章 混沌の秩序

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201/203

最終話 自由 ②最後の一撃

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。融合によって得た力で女神アリュシーダを二度破壊するが、二度共再生される!

 二つ。起死回生の策を探る中、対等に近い高さで女神アリュシーダと対話する!

 三つ。その主張を受けて秩序による束縛を改めて否定し、戦いは最終局面に入る!

 余計な対話はもう必要ない。

 言葉よりも雄弁に告げるように、女神アリュシーダは空中から猛攻を仕かけてくる。

 顕現に伴って形作られた肉体の操作とそこに満ちている力の扱いは一層熟練し、無限色の光を複数束ねた輝きを鞭のように振るいながら。

 触手の如く蠢きながら迫ってくるそれは雄也の回避を妨げるように連携し、取り囲むように襲いかかってくる。


「ちっ」


 その動きは思わず舌打ちしてしまう程、格段に回避しにくいものになっていた。

 六本の巨大な腕を作っていた時は力が分散して一撃の威力が等分されていたが、配分の仕方を大幅に変更し、本命にのみ全ての力を込めるようにしているようだ。

 しかも牽制と本命の区別がつかないようにギリギリまで力を収束させず、どの攻撃がその絶大なる威力を有しているのか分からない。

 インパクトの瞬間以外は威力が極めて小さいとも言えるが、その分スピードに魔力を注ぎ込んでいるらしく、全ての触手が本命と遜色ない速さを出してくるから性質(たち)が悪い。

 軽く速い無数と重く速い全力の一。その混在は厄介極まりない。


『皆!』


 しかし、こちらも融合状態に慣れてきている。

 この体の扱い方を理解しつつある。

 人間の形を逸脱し、腕を増やしたり、伸ばしたり、羽を生やしたり。

 まだ余裕がある内にと色々試しては無限色の光に破壊されたが、最適だろう戦い方の見当はおおよそついた。

 基本は慣れた自分の形。その上で――。


《Multiple-Wired-Weapon Assault》

《Multiple-Satellite Mirror Shield Assault》


 雄也の呼びかけに答える代わりに電子音が鳴り、周囲に複数の武装が生成される。

 有線操作式で宙に浮かぶ短剣、薙刀、銃、砲台、手甲、そして防御用の装甲板。

 その数は雄也一人で操作できるものではないが、今の雄也は一人ではない。

 各々得意の武装を以ってアイリス達が援護してくれる。

 だから雄也はミトンガントレットを構え、防御や回避よりも攻撃の意識を強めて女神アリュシーダへと正面から突っ込んだ。


「はああっ!!」


 無限色の光を有する無数の鞭が迫る中、そのほとんどがアイリス達に防がれるのを視界で確認しつつ、装甲に覆われた拳を繰り出す。


「ふっ!」


 仲間達の援護のおかげで、回避を試みる女神アリュシーダの動きをより見極めることが可能となり、何度か直撃を食らわせることができた。だが……。


(分かっちゃいるけど)


 やはり効果はほとんどない。

 障壁の使い方も改善され、命中する攻撃に対してのみ発動しているようだ。

 魔力収束すれば貫けるだろうが、結局また再生されるだけだろう。

 状況としては千日手に近い。

 星と融合した今。雄也側も死という結末に至る可能性は少し低くなった。

 さしもの女神アリュシーダも、慈悲ある神を名乗る限り、星そのものを破壊するという短絡的な選択を取ることはできないだろうから。


(けど、こちらには弱点がある)


 ドクター・ワイルドと同じ弱点が。

 融合はMPドライバーを起点としているため、核が存在する。

 それを捕捉されて傷つけられたら、融合は解除され、そのまま殺されてしまうだろう。

 女神アリュシーダがそれを見抜き、破壊するという考えに至るかは分からないが。


(ただ、たとえ都合よくばれなかったとしても……)


 千日手のままでは、それはそれで雄也達の敗北となる。

 この場で言う膠着状態とは、雄也達が存続していられるというだけの意味でしかない。

 力の天秤は女神アリュシーダに傾いている以上、技量でまで上回られたら、雄也達は抑え込まれて何もできなくなってしまう。

 そうなれば余剰の力で人々から進化の因子を根こそぎ奪い去り、それ(・・)は秩序による完全な支配を成し遂げてしまうだろう。

 それだけは避けなければならない。しかし――。


『……一体、どうやったら倒せるの?』


 ポツリと悔しげに呟くクリア。

 考えても女神アリュシーダを倒す術が見つからない。


(倒す。倒す。倒す方法………………倒す?)


 相手に拳をぶち込む不毛な真似を繰り返しながら、ふと疑問を抱く。

 何故女神アリュシーダを倒す必要があるのか。

 何故自分は戦っているのか。


(ああ…………そうか。……そうだ。手段が目的になってた)


 目的を顧みて、大きな思い違いをしていたことに気づく。


(俺達の勝利条件は、女神アリュシーダを打ち倒すことじゃない)


 勿論、倒せるのならそれに越したことはないが。

 それは勝利に至る最も単純な道であって、そこが最終目標ではない。


(目指すべきは…………人が自由を維持できる世界)


 それが達成できるのであれば、別に女神アリュシーダを消し去れずとも構わないのだ。


(そう。だから――)


 その前提でなすべきことを改めて考え、定める。

 できることは、ある。


「この力の流れ……成程、見つけました」


 と、それを実行に移す前に女神アリュシーダが冷たく呟き、ある方向へと目を向けた。

 その視線を辿り、雄也は背筋が凍った。

 そうしている間にも、それ(・・)は人差し指でその方向を指し示し――。


「ラディアさん!」


 直後、無限色の光を収束させ、指先から直径数ミリ以下の直進性のあるレーザーの如き攻撃を放った。それは空間に線を描き、大地を貫かんと進んでいく。

 その直線上にあるもの。

 雄也達の核に向かって。

 束ねられたその無限色の光は、間違いなく核を破壊する威力を秘めている。

 そうなれば、今度こそ死に至ること間違いない。だが――。


「…………逸らされましたか」


 その一撃が核に命中することはなかった。

 ラディアが操る装甲板が、その行く手を何重にも遮って僅かな時間を稼ぎ、その間に核を移動させて雄也の背後へと退避させたからだ。

 全く以て間一髪だった。

 もし配置した装甲板が一枚でも少なければ、破壊はされずとも核に掠って融合が解かれてしまっていたかもしれない。


「ならば、防いで尚その猶予を作ることのできない威力で撃つのみです」


 その結果を前にして女神アリュシーダは雄也に安堵する暇を与えることなく、再び指先を雄也達に、その背後の核へと向けて無限色の光を集め始めた。

 既に核の位置は完全に把握しているのだろう。

 その性質上、意図的に隠すということができないため、先程と同じようにして防ぐしかない。防ぐしかないのだが……。


『これはっ!?』


 女神アリュシーダの指先に束ねられていく力の強さに、ラディアが焦りの声を上げる。

 明らかに先程までよりも密度が高く、威力が増大していることが感覚で理解できる。

 女神アリュシーダの言葉通り、装甲板を幾重にも重ねて防ごうとしても、雄也がこのまま肉壁となっても、その全てを容易く貫いて回避の間もなく核へと至る可能性が高い。


『し、しかし、何故』


 先の一撃でそれを撃たなかったのか。

 そうしていれば、その時点で終わっていたにもかかわらず。

 その答えは目の前の光景にあるようだった。


(女神アリュシーダの体が崩れていく?)


 その様子は、これまで雄也が何度となく己の体に対する負荷を考慮せずに力を無理矢理引き出した時と少し似ている。

 恐らく顕現した女神アリュシーダの体を構成している力をも全て破壊力へと変え、その一撃を放とうとしているのだろう。

 それで身を滅ぼしても結局は再生するのだから問題ないはずだが、神としての自尊心がその一線を超えることに、真に形振り構わぬ戦い方に歯止めをかけていたのかもしれない。

 未だ雄也達を下に見る傲慢さが残っていた、いや、そうあることがそれ(・・)のアイデンティティなのだろう。


『ユウヤ!』

「分かってます!」


 いずれにしても、これを何とかして防がなければ次の一手は紡げない。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Convergence》

《Final Multiple-Wired-Weapon Assault》

「せいやあああああああああっ!!」


 だから雄也は、その攻撃が放たれる前に女神アリュシーダの肉体を破壊せんと周囲に浮かぶ武装の一つ、薙刀状の武装を掴むと、刃に魔力を収束させて投擲した。


「砕けなさい」


 しかし、直前に無限色の輝きは解放され、六色の魔力を帯びた薙刀を食らい尽くすように崩壊させながら突き進んでくる。

 装甲板よりも遥かに強固な障害物があって尚、先程までよりも速い。

 そう認識はできるが、実体たる肉体や核は世界に縛られて移動が間に合わない。

 射線上には雄也達の体があるが、このままではこの身を貫いて核をも破壊するだろう。


(こ、のっ!)


 だから雄也は、咄嗟に手甲に覆われた両腕を体の前でクロスさせ――。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Over Convergence》


 女神アリュシーダを真似てこの身が崩れることを厭わずに捻り出した生命力と魔力を全て、ミトンガントレットに注ぎ込んで防御に使う。


「く、ぐうう」


 肉体の崩壊という精神を侵すような感覚に耐える。


「ううううううあああああっ!!」


 しかし、そのおかげで無限色の光の直進を僅かながら抑え込むことができた。

 その隙に、何とか核を動かそうとする。

 が、それに伴い、女神アリュシーダは指先をその方向へと動かし始めた。

 これでは光が収まるまで射線上で耐え続けなければならない。


「く、くうう、お、おおおおおおっ!!」


 核の退避は諦め、照射される一筋の光に立ち向かい続ける。更に力を込めて。

 やがて地力の差で雄也の肉体が先に崩れ落ちてしまうが……。


『任せろ!』


 その時には女神アリュシーダも大幅に消耗し、無限色の光はラディアの操る装甲板を重ね合わせて何とか耐えることができる程度になっていた。

 それでも装甲板を徐々に貫いていき、地面に到達するが、そのタイミングで女神アリュシーダの肉体は完全に消え去って無限色の光も霧散した。


「あ、危な、かった……」


 その状況を融合の中心において感覚だけで確認してから、再び皆で一つの肉体を作り出して口を開く。精神が大幅に摩耗し、息を荒くしながら。

 既に女神アリュシーダ復活の兆候は空に現れている。

 無理矢理息を整え、雄也は空を見据えた。


(こんなのを何度も繰り返してたら、いつかは)


 差し詰め存在還元砲とでも言うべきそれは、いずれ雄也達の核を貫いて千日手などとは言っていられない決定的な敗北に至ってしまうだろう。

 時間をかければかける程不利になる理由が、また更に増えてしまった。


「皆……」


 だから雄也はアイリス達に問うた。

 正しい勝利条件を満たせるだろう一手の是非を。

 まず間違いなく、戦いの前に語っていた将来の展望は叶うことがないだろう方法。

 それ故に、逡巡を声に滲ませながら。

 対して――。


『うん。できると思うよ、お兄ちゃん』『ええ……正直、盲点だったわ』

『複雑な気持ちもない訳ではないが、まあ、他に方法はあるまい。全人類が私の両親のようになるのだけは避けねばならんからな』


 まずメルとクリア、そしてラディアの頭脳担当が有効性を保証してくれる。


『民を無用な束縛から逃れさせることができるのなら、ワタクシは本望ですわ』

アエタ()に自由を残せるなら私も構いません。……ユウヤさんと一緒にいられますし』

『アタシとしても問題ないよ。守ろうと思えば家訓も守れそうだしね』


 続いてプルトナ、イクティナ、フォーティアが了承の意を示してくれた。

 重い判断をさせたと雄也に思わせないようにしてか、どことなく冗談めかすように。


『……ユウヤと共にいつまでも歩んでいけるなら、それは私にとって幸福なこと。それを選ぶことこそ私の自由な選択』

『私もアイリスお母様と同じです!』

「…………ありがとう」


 心の底からそう思っているように言うアイリスとツナギ。

 そして大きな選択を共にしてくれた仲間達に、その出会いに、これまでの道程に、何度目かの感謝を口にし、それから今正に再生を繰り返した女神アリュシーダを見据える。

 思惑通りになろうとなるまいと、次の攻防が正真正銘最後となる。

 そして雄也は女神アリュシーダに近づくために駆け出したが……。


『ユウヤ!』


 相手は即座に無限色の光を収束し始め、ラディアに注意を喚起される。

 新たに顕現させた肉体を単なる消耗品のように崩壊させながらの攻撃。

 それが最も効果があると判断したのだろう。自尊心を捨てるだけの意味があると。

 実際、そればかりされるとこちらは防御以外何もできなくなる。しかし――。


『ここで決める!』


 勝機もなく、一手のミスも許されない防戦につき合ってはいられない。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Over Convergence》

「〈六重(セクステット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)〉」


 だから、こちらも再度肉体を犠牲に対抗する力を作り出した。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Over Convergence》

《Final Arts Assault》


 更に、体の崩壊速度が速まるのを厭わずに(RapidCon)(vergence)リングを連続使用すると同時に地面を蹴り、女神アリュシーダへと突っ込む。

 空中に浮かぶ敵と己、そして雄也達の核が一直線になるようにしながら。


「トランセンド・レゾナントアサルトブレイク!」


 そのまま魔法による推進と姿勢制御で空中で前転するようにして蹴りの体勢を取る。

 そして残る全ての力を右足に集めた瞬間。


「その体ごと散りなさい」


 女神アリュシーダの指先から無限色の光が放たれ――。


「うおりゃああああああああっ!!」


 眩く輝くその一撃と雄也の蹴りとが衝突した。

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