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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
最終章 混沌の秩序

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第四十九話 秩序 ②万事休す

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。アテウスの塔を利用して限界以上の力で戦うが、尽く女神アリュシーダに防がれる!

 二つ。魔力の流れから、世界中の人々の力を使って己を強化していることを見抜かれる!

 三つ。アテウスの塔が完全に破壊され、過去への時間跳躍を封じられてしまう!

 考えても思考が纏まらない。

 アテウスの塔は破壊され、過去への時間跳躍ができなくなってしまった。

 更にはアテウスの塔からの魔力供給もなくなり、何とか女神アリュシーダに食い下がることができていた身体能力ももはや発揮できない。

 それどころか、限界以上の強化が体を蝕み、弱体化してしまっている。

 恐らく眼前の存在の挙動はもう認識できないだろう。

 いつその姿を見失い、そのまま命を取られてしまうか分からない。


(どう、すれば)


 冷や汗をかきながら自問する。

 だが、そうしている間に攻撃されては本末転倒。

 念のため、残った生命力と魔力を全身の防御に回し――。


「がっ!?」


 正にその瞬間、突然腹部に衝撃が走り、雄也は大きく弾き飛ばされてしまった。

 一瞬意識に空白が生まれる。

 何が起きたか分からなかったが、想像はできる。攻撃されたのだ。


「ぐ、がはっ……はあ、はあ」


 遅れて強烈な不快感に襲われ、胃の中のものを吐き出しそうになる。

 防御に力のほとんどを集中させていなかったら、この一撃で終わっていたかもしれない。


「う、くっ」


 遅れて鈍く広範囲にわたる痛みに苛まれ、更に思考を乱されながら何とかその場で体を起こすと、腹部の装甲が砕けてパラパラと零れ落ちた。

 それはそのまま粒子となって解けて消えてしまい、肉体が露出する。

 視線を少し下にずらすと、MPドライバーにも酷い亀裂が入っている。

 機能が停止して変身が解除される程のダメージではないようだが……。


(Linkage)(System)デバイスが……)


 そちらの魔動器に反応がない。

 アイリス達との繋がりが完全に途絶えている。


「お父様!?」


 そのことに愕然としていると、ツナギが半狂乱になったように叫びながら駆け寄ってきた。何が起きたのか把握していないようで、混乱の表情を浮かべている。


『ユウヤ! 無事かい!?』


 更に少し遅れてフォーティア達からも電波を使用した魔動器による通信が入り、安否を確認されるが、彼女達もまた女神アリュシーダに全く反応できていなかったようだ。

 声色から恐怖に近い感情が聞き取れる。


『何とか、生きてる』


 雄也はそう答えながら、ツナギの手を借りてよろよろと立ち上がった。


(女神アリュシーダは……)


 そのまま敵の姿を探して目を凝らす。

 ツナギ共々隙だらけもいいところだったが、それ以上機敏には動けない。

 そんな状態の己に強い不安を抱くが、視界に女神アリュシーダの姿が映り、ほんの僅かながら安堵する。

 もっとも動きを捉えられない以上、気休め以外の何ものでもないが。

 先程まで雄也が立っていた場所。

 そこに()()は掌打を放った体勢のまま静かに立っていた。


(遠い。……奴の作る結界の外まで、吹き飛ばされたのか)


 ただの一撃で。

 命を失わずに済んだのは、無理にその場に留まろうとする余裕すらなかったおかげかもしれない。衝撃が運動エネルギーに変わったのだ。

 あるいは、攻撃の力を破壊エネルギーとして相手の体内に留めるような技術が、相手には全くなかったからとも言えるだろうか。

 その女神アリュシーダは、また何か意図があるのか緩やかにこちらに近づいてきていた。

 当然、それが作り出している魔力が隔絶された領域も共に迫ってくるのが分かる。


「ツナギ、離れてるんだ」


 雄也を支えながらも震えている彼女にそう告げ、背中を押す。


「で、ですけど――」

「離れてるんだ」


 ツナギは抵抗したが、もう一度強く言うと尚も躊躇いながらも言う通りにした。

 共に戦うにせよ、雄也を引きずって逃げるにせよ、行動を起こす覚悟がない今のツナギには何もできない。そう彼女自身もまた理解しているのだろう。

 その弱々しい背中から視線を戻し、ゆっくり近づいてくる女神アリュシーダを見据える。


(俺は既に満身創痍。アテウスの塔が破壊され、(Linkage)(System)デバイスも不調)


 そうしながら雄也は、既に装甲は再生成しているものの鈍い痛みを生み続ける腹部に手を当てて気休め程度の回復魔法を使用しつつ、脳内で現状の確認を行った。

 敵の本気のスピードを鑑みれば、距離があろうとそんなことをしている余裕など本来ないはずだが……。


(今度は何を考えてる? いや、相手の意図より次どうするかだ)


 こちらからすると合理性の乏しいとしか思えない行動を前に、思考が逸れそうになる。

 しかし、今はそれよりもこの窮地を脱する方法を考えなければならない。


(未来へ時間跳躍する? いや、駄目だ)


 間違いなく、雄也が未来に出現した時点で女神アリュシーダは殺しに来る。

 対策もなしに未来に跳んでも詰むだけだ。

 恐らく前回、ドクター・ワイルドがウェーラによって時間跳躍させられた時は、彼がまだ取るに足らない存在だったから見逃されたに過ぎないのだろうから。

 明確な脅威として認識された今、確実に最優先で狙われることになる。


(跳ぶなら過去。だけど――)


 アテウスの塔なき今、一人では発動も難しい。

 過去への時間跳躍は発動時の魔力消費が余りにも激しいが故に。

 全員分の魔力を束ねることができれば、数日戻れるかどうかというところか。


(そこを中継地点に、ツナギを連れて更に過去に戻る。これしかない)


 そのためにも皆と合流し、直接的に魔力を貰わなければならない。

 過去の己と会う羽目になる可能性が高いが、その辺りのややこしいところは後回しだ。

 この場を切り抜けることができなければ、ややこしいも何もない。


『皆』


 だから、雄也はその旨を〈テレパス〉で伝えた。


『……分かった』

『ならば、とにかく合流を――』


 アイリスの了承の言葉に続き、ラディアがそう次の方針を口にした瞬間、雄也の視界の中にあった女神アリュシーダの姿が掻き消えた。

 かと思えば、気づいた時には雄也は大地を背に、女神アリュシーダに胸の装甲が砕けんばかりに踏みつけられていた。

 顎と胸と背中の激痛と砕けた仮面。揺さ振られて朦朧とする意識の中、それによって顎を拳で突き上げられた上で叩きつけられたことを知る。更には――。


「あ、ぐ」

「何か画策しているようですが、させません」

「な……」


 接触している部分から生命力と魔力が流れ出ていく。

 体に力が入らない。

 ダメージの影響もあるだろうが、間違いなく女神アリュシーダの干渉によるものだろう。

 痛みよりも違和感が酷く、まるで心と体が分断されているかのようだ。


(何も、できない)


 踏みつけられた状態から脱することは物理的に無理だし、魔法を発動させようと魔力に働きかけると即座に妨害される。

 少なくとも雄也自身には、次なる一手は残されていない。


「何故……一思いに殺さない」


 もはや生殺与奪の権を握られているようなもの。

 にもかかわらず、いたぶるように止めを刺さずにいる。

 曲がりなりにも慈悲ある女神を自称する相手だ。

 別に雄也を苦しめて殺そうという意図もないだろうに。


「……ユウヤを、離して!」


 と、真っ先に駆け寄ってきたアイリスが、注意を引くように叫びながら攻撃を仕かけた。

 回避によって雄也を解放することを期待したのかもしれないが――。


「無力さを知りなさい」


 アイリスの二振りの短剣による斬撃。

 魔力収束と過剰な身体強化によってアイリス個人が出せる最大の威力となっていることだろうそれを、女神アリュシーダは避けようともせずに受けた。

 同時に何かが砕け散る音が響く。

 彼女の武装は相手を僅かたりとも傷つけることもできずに、消滅してしまった。

 それが粒子と化して消えるまでの間に女神アリュシーダは腕を軽く振るい、アイリスはそれに弾き飛ばされて地面に叩きつけられた。

 その後でようやく短剣の残滓が完全に消え去る。

 それだけ短い間の出来事。

 しかし、今の雄也に視認できる動き。明らかに手加減がなされている。


「ア――」


 地面に転がる彼女に呼びかけようとして、踏みつけられる圧力を強められて言葉は呻き声に変わってしまう。


「が、ああっ!!」


 苦痛に視界が歪む中、迫る影が目に映り、雄也は女神アリュシーダの意識を自分に向けるために足掻いた。そして、それの視線が再び雄也を捉えた瞬間。

 虹色の光を湛えた刃が女神アリュシーダに突き立てられる。


「はああああああああっ!!」


 敵に気づかれないように気配を消して急接近したフォーティアが、命中と共に力を振り絞るように絶叫を上げる。

 わざと攻撃を仕かける際に声を出したアイリスは囮。この一撃が本命だったのだろう。

 雄也以外の彼女達が(Linkage)(System)デバイスを介してフォーティアに魔力を集めることによって生み出したと思われる力。

 それはこの世界の常識からすれば破格の威力を有していたが……。


「うあっ!?」


 女神アリュシーダの体から無限色の光が放出され、それがフォーティアもアイリスと同じように吹き飛ばしてしまう。

 更に、その輝きは四本の帯となって空間を走り、遠くから魔力を供給していたイクティナ、プルトナ、ラディア及びメルクリアを打ち倒し、地面に押しつけた。


「争いの種火など人間の正しき力にはなり得ないと、そろそろ理解できたでしょうか。これが本当に最後の機会です。自ら私に降りなさい」

「まだ、そんな説得が、通ると――」


 身動きを完全に封じられ、もはやどうしようもない状況。

 それでも心は屈しないことを示すために、何度目かの拒絶を口にしようとする。


「貴方には言っていません」

「ぐっ……」


 しかし、またも言葉を遮られ、尚もきつく踏みつけられてしまった。

 体の中身が口から出てしまいそうだ。


(成程、俺とは違って、まだ、アイリス達を殺したくない気持ちが、残っているらしい)


 苦痛に鈍る思考の中、雄也をいたぶるような真似をする()()の意図を把握する。

 雄也を痛めつけ、彼女達の心を折り、自ら自由を放棄させようと言うのだろう。

 さすがは慈悲ある女神を自称する存在。お優しいことだ。

 とは言え、それは彼女達が雄也とは違って元々この世界の住人だからというだけではないだろう。ウェーラの時のことを考えれば。

 ただ単に、言葉で明確に拒絶を突きつけていないからと考えるのが妥当だ。


『皆……もう……』


 だが、そうであれば少なくともアイリス達は生き残る目がある。

 もし彼女達が己の意思でそれを選択するのならば、妨げはしない。

 絶体絶命の状況。最後まで無理に雄也の信念、意地につき合わせるつもりはない。

 もっとも――。


「……拒否する。私の意思はユウヤと共にある」


 アイリス達がどうするかなど、分かり切っていたが。


「右に同じ。アタシは停滞した世界なんて真っ平だよ」

「貴方の治世など死んでも御免ですわ」

「己の意思を蔑ろにされた者の末路。私は知ってます。そんなもの受け入れられません」

「お母さんが道を誤ったのは」『この停滞した世界にも原因がある』

「両親に望まれた自分、自らが望む己であるために、このちっぽけな自由意思、たとえ命を奪われようとも失う訳にはいかない!」


 ここで道が潰えようとも、彼女達のような仲間達を得られただけでもこの異世界で生きた意味はあったかもしれない。

 皆の言葉にそう思う。


「そうですか。ならば是非もありません」


 そんな彼女達の姿も女神アリュシーダには何ら響かず、()()は冷淡に告げる。


異物(人でないもの)達。人ならぬ貴方達に慈悲はありません。手始めに貴方から死になさい」


 そして、わざとらしく見せびらかすように、女神アリュシーダは無限色の光を束ねて鋭い剣を作り出し、その切っ先を雄也の喉元に突きつけた。

 それから大仰にその輝く刃を振り上げ……。


「……させない!!」「やらせるか!!」


 そこへ唯二人、吹き飛ばされたまま拘束されていなかったアイリスとフォーティアが女神アリュシーダへと突っ込む。

 無謀以外の何ものでもない行動。しかし、それもまた自由意思の証。

 最後まで尊く思える人間の姿を目にできることは感謝に堪えない。

 尽く選択肢を潰された今、雄也にはそんな風に死を受け入れんとする以外なかった。


「〈オーバーサブサイデンス〉!」


 そんな中、アイリスは女神アリュシーダには今更通用し得ない魔法を放ち、しかし、それは雄也の背中、真下の地面に作用して地盤沈下を引き起こす。

 相応に踏みつける力をかけていた女神アリュシーダは体勢を崩し、その隙を突いてフォーティアが雄也を抱えてその場を脱しようとした。

 それは確かにこの場では最善の選択だっただろう。

 ただし、延命のため、であればの話だが。


「無駄です」


 女神アリュシーダは全く動じず、不安定な足場で無理な体勢のまま無限色に輝く刃を投擲するように放出し――。


「あ、ぐ……ごふっ」


 それは呆気なくアイリスを貫き、腹部に大穴を開けた。

 彼女は受け身も取れずに倒れ込み、地面をおびただしい血で赤く染めていく。


「アイ――」


 次の瞬間、全く前触れなく、今正にアイリスの名を叫ぼうとしたフォーティアと彼女に抱えられた雄也もまた地面に転がる。

 遅れて下半身に感覚がないことに気づき、視界の中の女神アリュシーダが刃を振り下ろした体勢にあるのを見てフォーティア諸共下半身を切り落とされたことを知る。

 もはや痛覚の限界を超えたかのように痛みは感じられず、流れ出る血液と共に急激に熱を奪われていく感覚だけがある。

 そんな雄也達を前にして、女神アリュシーダは再び無限色に輝く剣を大きく上段に振り上げ――。

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