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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
最終章 混沌の秩序

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第四十六話 混沌 ④進む変化

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。突然現れた過剰進化(オーバーイヴォルヴ)状態の真超越人(ハイイヴォルヴァー)を救うため、ツナギを抱えたまま身構える!

 二つ。魔動器(MPキャンセラー)を使用する直前、超越人(イヴォルヴァー)対策班が現れ、雄也達を制止して素早く処置を行う!

 三つ。同行していたアレスから各国の現状を聞き、意味深な言葉も投げかけられる!

「あの彼女に至るまで、何名もの人々の命を弄び、奪った者」


 アイリスやツナギと街を巡り、過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した真超越人(ハイイヴォルヴァー)と遭遇してから数日後。

 龍人(ドラクトロープ)の女性を拉致し、望まぬ人体実験を強制した人間を前に雄也は冷たく告げた。

 その過程で大量の超越人(イヴォルヴァー)を生み出し、過剰進化(オーバーイヴォルヴ)させた挙句に全て見殺しにしていた以上、弁解の余地はない。


「他者の人格を手段としてのみ扱う者に断罪を」


 首謀者は龍星(ドラカステリ)王国の魔法技師。

 単独犯ではなく国の要人の援助を仰ぎ、事情を知らぬ数名のサポートも受けていた。

 間接的にせよ、他者の自由を奪った前者については既に死を以って贖って貰っている。

 後者については超越人(イヴォルヴァー)対策班に伝えるに留めているが。

 何かしら法に抵触していれば裁かれることもあるかもしれないが、そうでなければ特に罪に問われることはないだろう。だが――。


「人の自由を奪う者は許さない」


 眼前の彼にその目はない。

 与えるつもりもない。

 雄也はその意を込めて告げ、壁際に追い詰められて怯える彼に手を伸ばし、属性を象徴する六色を伴う白基調の装甲に覆われた指で軽く触れた。

 怒りと共に、無意識に魔力を込めながら。


「え……」


 正にその瞬間、首謀者たる魔法技師は声もなく、一瞬にして溶けて消え去ってしまった。

 転移したとかそういうことではない。

 肉体の残滓が足下にある。

 間違いなく首謀者たる魔法技師は死んだ。

 恐らく苦痛も何もなかったことだろう。

 その光景に、自らの手でなしたことながら少し驚く。

 今の行動はまだそういう意図を持ったものではなかったから。

 如何に討つべき相手とは言え、必要以上に苦しみを与えることは自己満足以外の何ものでもないので、そうなったらなったで別に構わないが……。


(さすがに触っただけで崩れ去るとは思わなかった)


 主犯で尚且つ実行犯でもあるということで、もう一言ぐらい糾弾してから手を下そうと胸倉を掴んで立たせようとしたらこれだ。

 Aクラスそこそこの人間は、もはや相手にならないどころではないらしい。

 それだけ隔絶した強さを得てしまったことを改めて実感させられる。

 正直なところ今更にも程がある気がするが、まるで変身ヒーローに改造され立ての主人公が人の規格から外れた力に愕然とするシーンのようだ。

 幸いにしてと言うべきか、孤高なる本物のヒーローとは異なり、もどきである雄也には同等の力を持つ仲間達がいるので孤独な気分にはならないが。


(何にせよ、力の扱いには一層気をつけないといけないな)


 彼女達以外と顔を合わせる時は、慎重に行動しなければならない。

 もっとも普段は魔力もしっかり制御できているので、今回のように人の自由を奪った唾棄すべき敵を前にして無駄に感情が高ぶりでもしない限りは問題ないはずだ。

 いずれにしても、想定外の終わり方になってしまったことは少々申し訳なくも思う。

 が、彼がなしたことを思えば結末はこんなものだろう。


(ちょっと決まりが悪いけど)


 最後が少しグダグダになったからと言って、流れとしては大きく変わらない。

 遅いか早いか、見栄えがいいか悪いかだけの差でしかない。

 目的は果たせたのだから問題ない。

 相手についても、分かり易く敵と断じられたから単純でよかった。

 面倒なのは、対象をこういう風に一目で敵と見なせない時だ。

 勿論、その時は敵と認識しなければいいだけの話だが、アウトに限りなく近いところにいるギリギリセーフという場合も十分あり得る。

 今は大丈夫でも一歩踏み外せばアウトになる相手を前に、基準を超えていないからと無視してしまうのは中々に難しいのが人情というものだ。


「…………戻るか」


 とにもかくにも、龍星(ドラカステリ)王国の問題についてはその面倒な方にならなかったことに安堵しながら、一先ず思考を打ち切って家に帰ることにする。

 まだ懸念事項はあるのだから。

 そうして雄也は、それから真っ先に双子の部屋に向かい――。


「メル、クリア。妖星(テアステリ)王国の方はどうだった?」


 そう彼女達に問いかけた。

 アレスから聞いた情報の内、未解決のもの。

 国家ぐるみで過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を研究していることが確定的である妖星(テアステリ)王国について。

 世界中の地下に張り巡らされていた真なるアテウスの塔を利用して、メルとクリアに調べて貰っていたのだ。


「魔動器開発の邪魔をして申し訳ないけど」

「大丈夫。今のところ地味な改善案しかないから」

『目先を変えるのも大事だしね。女神アリュシーダの出現位置を察知するために、いずれは立ち上げないといけなかった部分でもあるし』


 優先順位の問題で後回しにしていたが、最初からこれを稼働していたら過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した真超越人(ハイイヴォルヴァー)の出現も察知できたかもしれない。今更言っても詮ないことだが。

 女神アリュシーダに対抗する力を得ることが、直近の最優先事項なのだから。


「ありがとう、二人共」


 それでも忙しい中で、無理を聞いてくれた彼女達に感謝の意を伝えると、メルは「えへへ」と嬉しそうに笑い、クリアは『兄さんのためなら』と真っ直ぐに答えてくれた。

 そんな可愛い妹分に自然と表情も緩むが、意識的に引き締め直して話を戻す。


「……それで、結果はどんな感じだった?」

「うーん、ちょっと微妙、かな」


 と、雄也の質問にメルが一転して困ったような顔をした。


「どういうことだ? 個人の犯行だったってことか?」

『違うわ。確かに妖星(テアステリ)王国の上層部が主導してることで間違いない。けど――』

「皆、自発的に実験に参加してるみたいなの」

「自発的に? それはまた……」


 クリアの言葉の内容に、思わず微妙な反応をしてしまう。

 力と引き換えに人間らしいシルエットを完全に捨て去り、まるで悪役にしか見えないような異形の存在と成り果てる手法。

 別に外見で人間かどうかを定義するつもりはないが、やむにやまれぬ状況ならいざ知らず、正直好んで選びたくはない。

 顔や体形の美醜はともかく、誰しもヒトの形状には愛着があるだろうし。

 特撮的にも巨大化や異形化は敗北フラグでもある。

 しかし、それでも力を得られるという一点において、望む者は望んでしまうのだろう。


「まあ、何にせよ、つまりは志願制ってことか。そうなると…………単にその実験をしてるってだけの理由で手を出すことはできないな」


 その力を以って誰かの自由を奪いでもしない限り。

 自由意思による選択を否定することはできない。

 見た目が変わり過ぎているので全肯定しにくいが、健全な進歩の範疇ではあるはずだし。

 それなりにこの国で暮らしてきたこともあり、他国に対しては無意識に疑ってかかってしまうが、それでも線引きはしっかりとしなければならない。

 そこを誤ってしまうと、逆に誰かの自由を奪う結果にもなりかねないのだから。

 ただ、この件については、額面通りに受け止めれば、の話だが。


「ただ、先生には悪いけど、妖星(テアステリ)王国だからね」

『自発的と言っても、強烈な同調圧力みたいのが蔓延してる国だし、怪しいわ』


 メルとクリアもハッキリ白と断定できないようだ。

 あの国は保守的と言うか、宗教的と言うか。

 訪れたことのある他国と比べると色々雰囲気が違う。

 それこそクリアが言った通り、同調圧力と呼ばれるようなものがあってもおかしくはない。とは言え――。


「風習とか文化とか、それに縛られることを人の自由が奪われた状態と言い始めると切りがないからな」


 ものは言いよう。

 屁理屈を捏ねれば、特撮ヒーロー番組が人格形成に大きく作用している雄也とて、それに縛られていると言うこともできる。

 そこまで行くと、根本的な人間としての思考形態そのものすら、生物的な制約として一種の束縛の如く扱わなければならなくなりかねない。

 もっとシンプルなところで判断しておくべきだ。


「被験者達の思考も読んだんだよな?」

「うん。ちゃんと自分の意思で選択したことだって考えてはいたよ」

『とは言っても、普通の人に比べると余りにも意思決定の純度が高過ぎるけどね。しかも皆が皆、同じようにって感じだったし』

「ああ……」


 二人の返答に納得と共に頷く。

 その選択が本当に正しいのか。そうした迷いが極めて少ない訳だ。

 勿論、強い意思を持って物事を実行していく人間であれば、クリアの言う意思決定の純度が高い状態にあるはずだ。

 それだけなら何もおかしくはない。

 だが、それが種族全体で一様に、となると違和感がある。

 洗脳されているのではないか、と疑ってしまう。


「けど、まあ、こればかりはな。その人の思考を読んでまで自発的だってことなら、そのまま受け取る以外にない」


 そこを嘘だと否定しようにも、明確な証拠など何もないのだから。

 そういう空気があるからでは話にならない。いや、なってはならない。


「とにかく、その力で誰かの自由を奪わないことを願うばかりだ」

「うん。……お母さんみたいにならないといいけど」

『全くね』


 雄也の言葉に同意しつつ、かつて自分の身に降りかかった出来事を振り返る二人。

 ギリギリのところから最後のラインを易々と踏み越えていってしまった母親のことを思えば、他人事として無視できないのだろう。己の意思で糾弾し、決別したとは言え。

 しかし、直接干渉することはできない。

 精々、超越人(イヴォルヴァー)対策班に注意喚起するぐらいのものだ。

 双子ももどかしげな表情を浮かべているが、こればかりは仕方がない。

 雄也としても今の彼女達に対し、慰撫するように頭を優しく撫でる以外できなかった。


「とりあえず、この話はここまでだな」

「うん」『そうね』


 それから互いに頷き合い、一つの問題に囚われてばかりではいけないと話を終える。

 進化の因子によって着々と変化していく世界。

 その度合いが大きければ大きい程に、女神アリュシーダ出現は近づく。

 社会情勢に意識を向けながらも、そちらも十分注意して過ごさなければならない。

 そうして、その数日後。

 雄也達は単独犯の魔法技師によって過剰進化(オーバーイヴォルヴ)させられた真超越人(ハイイヴォルヴァー)が他国で出現したのを、超越人(イヴォルヴァー)対策班よりも早く察知して力技で解決したりしてきたのだが……。

 そんなある日。


『ユウヤ、すまないが、内密に会って話がしたい。一人で指定の場所に来て欲しい』


 アレスからそんなテレパスが来て、雄也は少し疑問に思いながらも言われた通りに一人で王都ガラクシアスから大分離れた七星(ヘプタステリ)王国の寒村に向かった。

 そして、そこの更に外れにある広場にて。

 アレスは真面目を通り越して怖いぐらいに真剣な表情を浮かべ、待っていた。


「一体、どうしたんだ? こんなところに呼び出して」

「ああ。……すまないが、場所を変えるぞ」


 と、彼は質問に答えずに周囲を気にし、それから突然雄也の腕を掴むと転移を行った。

 不意を突かれた形で抗う間もなく、視界が移り変わる。

 転移先は広場であることに変わりはなかったが、木々や草花の配置が大幅に違っていた。

 明らかに別の場所だ。


「何でわざわざ」

「念のためだ」


 簡潔ながらはぐらかすような返答。

 そこに穏やかではない空気を感じ、少しずつ警戒心が湧いてくる。

 相手が友人だからと気を緩め過ぎていたかもしれない。

 故にこちらも念のため、仲間達に〈テレパス〉で状況を伝えようと試みるが……。


「魔力は断絶してある。ここからなら電波とやらも届かないはずだ」


 アレスの言う通り、言葉は届かない。

 電波を用いた魔動器はそもそも携帯していない。

 魔力の断絶の外に出ない限り、これでは誰にも連絡できない。


「何のつもりだ」


 雄也は少し混乱しながら、このような状況を作った意図を尋ねた。

 が、アレスはやはり答えず――。


「アサルトオン」

《Change High-Organthrope》《Greatsword Assault》


 静かな呟きと共に彼は構えを取り、やや低い電子音を鳴らしながら元の世界の鬼を模したような禍々しい装甲を身に纏った。

 その手には禍々しい程巨大な剣が握られている。

 戦意以外感じられない。

 それが勘違いではないことを示すように、彼は剣の切っ先をこちらに向ける。


「ユウヤ・ロクマ。七星(ヘプタステリ)王国上層部の決定により、その命を貰う」


 俄かには信じられないが、その声から滲む気迫は本物だ。


「アレス……」

「構えろ。ユウヤ」


 アレスはそう告げると、今にも挑みかからんとするように大剣を大きく振りかざす。


「くっ……アサルトオン」

《Transcend Over-Anthrope》


 対して、雄也は内心戸惑いながらも戦闘態勢に移行し……。


「行くぞ」


 心が定まらないままに、アレスの言葉を合図に地面を蹴ったのだった。

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