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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第九章 円環への挑戦

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第四十四話 継承 ④決着の日

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。各々六大英雄を討った後、アイリス達は戦闘に用いていた力をも雄也に受け渡す!

 二つ。何度でも再生するドクター・ワイルドを倒すため、その本体を討つ方法を探る!

 三つ。アイリス達の協力を得て、起死回生の一撃を放つ!

「う、があああああああああああああっ!?」


 己の体を駆け巡っているだろう雄也の力を受け、ドクター・ワイルドはそれだけで周囲のものを破壊できそうな絶叫を上げた。

 実際、音が圧となって全身に襲いかかってくる程だ。

 しかし、だからと言って、この手を離す訳にはいかない。

 たとえ敵が遮二無二振り払おうと足掻いていても。

 雄也はそれを掻い潜りながら、首を支点にしてドクター・ワイルドを持ち上げ――。


「うおおおおおおおっ!」


 硬質化した床を蹴り、一気に広間の端へと駆けて彼を背中から壁に叩きつけた。


「がっ、は」


 恐らく壁の耐久性能は強化された彼自身と同等。

 故に、自分自身と激しく衝突したかの如き衝撃がドクター・ワイルドを貫いたことが予測され、その証拠のように彼は肺の中の空気を吐き出した。

 そして、それによってほんの一瞬だけ抗う動きが鈍る。


(今こそ!)


 その隙を逃さず、雄也は首を鷲掴みにしている右手を通してドクター・ワイルドへと己の力を限界以上に注ぎ込んだ。

 たとえこの後で意識を失い、倒れてしまっても構わない。


「終わりだっ!」


 眼前の肉体を殺し切って新たな分身体が作られないように握力は調整しながらも、注ぎ込んだ力を制御することに意識を集中させる。

 それを起死回生の一撃とするために。

 本体と遜色ない力を持つだろう分身体。

 であれば本体との強固な繋がり、力が供給される経路が確実に存在する。

 そこを探し出し、逆流するように全霊の力をぶち込めば……。


(本体がどんな形をしていようとも!)


 必ず届き、勝利への道筋となるはずだ。


「はああああああああああっ!!」

「き、貴様、まさか……」


 そこでようやくドクター・ワイルドは雄也の意図に気づいたようだった。

 だが、その時にはもう遅い。

 既にアイリス達の力をも束ねた牙は、彼を構成する全てに達している。

 後は噛み砕くのみだ。


「だ、駄目だ! 駄目だ駄目だっ! ここで途切れてしまったら……」


 恐らくは己がバラバラに引き裂かれるような感覚に苛まれているはず。

 にもかかわらず、そんなことは些末なことと言わんばかりに敗北への拒絶のみを必死に口にするドクター・ワイルド。

 使命に殉じようという強い意思が滲む。

 しかし、もはや気持ちだけで覆る段階ではない。


「あ、ああああああああああああっ!!」


 彼は耐え切れずに断末魔の叫びを上げ、それと共にアテウスの塔が鳴動を始める。

 今にも崩れ落ちんばかりに激しく。


「おおおおおおおおおおおおっ!!」


 塔の崩壊に対する懸念は棚上げし、今だけはドクター・ワイルドという人類の自由の敵を消し去るために雄也は更に力を捻り出さんと吼えた。

 幾度となく人々の意思を弄んだ邪悪。

 この男の所業だけは何があろうと許さない。

 相手の絶叫もアテウスの塔の鳴動をもかき消さんばかりに叫び続ける。


「あ、ああ、ああああ………………」


 対照的に、やがてドクター・ワイルドの声は力なく掠れ、弱まり、そして……。

 眼前の肉体が六色の光の粒子と化して崩れ去っていく。

 そのまま彼の分身体は消滅し、同時にアテウスの塔の振動もまたピタリと収まった。


(勝った……のか?)


 敵の本体が目に見えなかったことから、思わず半信半疑に自問する。

 そうしながら、ふと雄也は気づいた。

 首を掴んでいた右手の中に、何やら硬い感触があることに。

 既にドクター・ワイルドの分身体は消え去ったにもかかわらず。


「これは……」


 手を開いて確認すると、そこにあったのは六色の輝きを有する宝石のような石。

 六属性の強大な魔力を帯びたドクター・ワイルドの魔力吸石だった。

 それを見て、これまでの経験から今度こそ勝利を確信する。


(……人の自由を繰り返し繰り返し奪ってきた人類の自由の敵。せめてその力、これから先の自由を守る盾になってくれ)


 力はただ力。

 その使い方は使用者次第。

 悪逆非道を以って生まれた力であれ、何かを守るために使うこともまた自由。

 だから、雄也はその魔力吸石を己のベルト状の魔動器、MPドライバーへと近づけた。

 すると、一定の距離になったところで自動的にその中へと吸い込まれていく。

 これを以って長きにわたったドクター・ワイルドとの戦い、その因縁はようやく終わりを告げ、彼の力は雄也のものに――。


「……がっ!?」


 なると安易に思ったのは、緊張の弛緩による油断に他ならなかった。

 相手は敵の首魁。最後の足掻きは警戒すべきだった。


『その体、内側からならば!!』


 正に己の体の内。

 魔力吸石を取り込んだMPドライバーからドクター・ワイルドの声が響く。

 直後、雄也の肉体を蝕むように歪な感覚が四肢の先まで這いずっていき……。


「ぐ、が、ああああああああああっ!?」


 先程までとは逆に、今度は雄也が絶叫を上げた。

 そうしなければ、その感覚に飲み込まれてしまいそうだったから。


『き、貴……様っ!』


 叫び続けながらも、何とか己の内側へと言葉を放つ。


『言ったはずだ。俺は諦めないと!』


 対してドクター・ワイルドは、今尚そこに間違いなく存在していることを誇示するように改めてそう宣言した。

 既に、互いに精神干渉が通用するレベルにはない。

 故に、本来ならば肉体を奪い取るなど簡単に行うことはできない。

 だが、それはあくまでも外側からの干渉の話だ。

 雄也の体はMPドライバーの力が全身の隅々まで行き渡っている。

 万が一MPドライバーそのものを乗っ取られ、そこに蓄えられた力までもを利用して干渉されてしまったら話は変わってきてしまう。


「ぐ、ぐうううぅ!!」


 そして正に今、事実として雄也はその危険の真っ只中に追い込まれていた。

 少しでも気を抜くと急激に意識が遠退きそうになる。


『さあ、明け渡せ! その体を!』

『ふ、ふざ、けるな』


 意思を強く持つために抵抗の意を示しながら、体の中心部にあるMPドライバーから徐々に侵食してくる歪みを必死に抑え込まんとする。


『無駄な足掻きだ。俺の信念、長きに渡る執念。貴様如きに覆せるものか!』


 そんな雄也に対し、傲慢にも程があるもの言いが脳裏に響く。

 だが、実際にドクター・ワイルドの意思の強さは雄也を上回っており、抑えつけられていて尚、少しずつ支配領域が広がっていく。

 既に体はまともに動かない。


「く、そ」


 その状況に思わず悪態が漏れる。

 このままでは本当に己の意思を塗り潰されかねない。

 しかし、ことは心の中の事象。

 先程までとは逆に、肉体的な優劣がものを言わない場所での目に見えない戦いだ。

 心の強さのみが勝負を左右することとなる。


(俺だって、今日この日までぬくぬくと生きてきた訳じゃない!)


 異世界に召喚され、生死を懸けた戦いを切り抜けてきた。

 たとえそれが全てドクター・ワイルドに仕組まれたものだったとしても、必ず解答が用意されていたものだったとしても。

 その中で抱いた感情、培ってきたものは本物のはずだ。

 何より、人類の自由の敵に負けるつもりなど毛頭ない。


(く、なのに、何故)


 侵食は止まらない。

 その程度の気持ちでは足りないと嘲笑われているかのように。


『ヒーローは孤独なもの。だが、貴様は仲間に頼り過ぎた』


 と、言外の疑問に答えるようにドクター・ワイルドは告げた。


『最後の最後で勝負を分けるには十分過ぎる差だ!』


(…………ヒーローは孤独なもの、か)


 よく耳にする言葉だ。

 もしそれだけをヒーローの定義とするならば、雄也は完全に落第だろう。

 もっとも、元々もどきに過ぎない身ではあるが。


「は、はは」


 何にせよ、彼から出てきた理屈に、この窮地に思わず笑いが漏れてしまう。

 同時に、今の自分が彼を抑え切れない理由も分かった。


『何がおかしい!』


 そんな雄也の反応が理解できないとばかりに、怒りを滲ませるドクター・ワイルド。

 ヒーローが孤独になるのは、抗う力を持つ者が一人だけの場合だ。

 身近にその苦しみを理解できる者がいないことに起因する。

 そうした環境に耐えることができるのは一つの心の強さと言えるだろう。だが……。


『孤独アピールは最高にダサいと思っただけだ』


 少なくとも彼は別ものだ。

 そもそもヒーローでも何でもない人類の自由の敵。

 ヒーローを引き合いに出すなど笑止千万。

 何より、孤独なヒーローはヒーローの一形態に過ぎない。

 戦隊を組んでいるヒーローだって、何人もが入り混じって戦い合っているヒーローだっているのだから。そこにあるのは優劣ではなく、好みの問題だ。


『貴様――!』


 と、半ば挑発染みた反論に激昂したドクター・ワイルドの言葉を遮るように……。


『……ユウヤの言う通り今の貴方は輪をかけて格好が悪い。そもそも六大英雄という仲間を捨て駒にし、自分から進んで孤独になった人間の言っていいことじゃない』


 タイミングよく、雄也に同調するアイリスの声が響いた。

 次いで彼女が心に寄り添ってくれているような温かさを抱く。

 それによって体を苛む歪な感覚が少しだけ楽になった。

 (Linkage)(System)デバイスを通じて介入してきているのだろう。

 ある意味ではドクター・ワイルドと同じだ。


『全て切り捨てた果ての孤独は、孤立と言った方が相応しいですわ』


 更に、アイリスに続けてプルトナがそう断じた。

 さすがに協調するには六大英雄達は扱いにくい存在だとは思う。

 だが、だからと真実の説明も説得の一つもせずに単なる駒として扱っては、切り捨てたと言われても仕方がないだろう。


『格好がいいのは孤高って奴だけど……アンタのそれは絶対に違うよ』


 プルトナの言葉を引く継ぐように吐き捨てたのはフォーティア。


『たとえ孤独であることで強くなれる部分があったとしても、私達はユウヤさんを絶対に独りにはさせません! そして、それでもユウヤさんは私のヒーローです!』


 そう力を込めて叫ぶイクティナの気配もまた己の内に生まれる。


『頼って頼られて、支えて支えられて』『私達はそれでいい。その方がいいわ』


 そこにメルとクリアも加わり、そのおかげか敵の侵食が押し留められ始めた。


『誰かを守らんとするなら、その者の背中にはその誰かがいる。それが孤独であるはずがない。一つの繋がりも持たない者が、そのような意思を持つはずがないのだからな』


 最後にラディアの意思もまた一つに束ねられ、雄也の中に仲間全員が集う。

 彼女達の存在は心強く、故に雄也は自身の考えに確信を持つことができた。


『ラディアさん、彼女は――』

『無事だ。心配するな』


 最後に残っていた憂いも消え、もはや心に曇りはない。

 この時点で、今度は逆にドクター・ワイルドの領域が飲み込まれていき――。


(皆がいてくれるなら、俺は強くなれる)


 そう心の底から思う程に、先程までの不自由さなど単なる勘違いだったかの如く、逆転が加速していく。


『ば、馬鹿な』


 これで今度こそ。

 本当の本当に終わりだ。

 ドクター・ワイルドは華も何もなく、雄也の心の中で儚く終焉を迎える。

 あるいは因縁の終わりというものは、そんなものなのかもしれない。


『こんな、何故』


 ギリギリまで悟られずに残しておいた奥の手すらも切り抜けられた彼からすれば、悪夢以外の何ものでもないだろうが。


『お前は孤独を力に変えようとした。俺は皆との繋がりが力だった。それだけのことだ』


 以前彼に反論した通り、アイリス達は踏み台ではなく仲間。

 常に彼女達に支えられてきたからこそ、今日この時までやってくることができたのだ。

 (Linkage)(System)デバイスの機能を用いた最大出力にしてもそう。実に象徴的だ。

 一人で切羽詰まっていたところで全力を発揮できるはずもない。

 強い意思を保ち続けることも、できる訳がなかった。


『人の繋がりの強さ。それを侮ったから、お前は負けたんだ』

『…………侮ってなど、いない』


 と、ドクター・ワイルドは雄也の言葉に対し、そう静かに返す。

 その様子は進退窮まったことで覚悟を決めたようにも、それでもまだ足掻こうとしているようにも感じられ、警戒心を強める。


『認める訳にはいかなかっただけだ。己が失った繋がり以外のものなど』


 しかし、徐々に声色に含まれる弱々しさの割合は増えていくばかりだった。

 今度ばかりは切り札もないようだ。


『何を言って――』


 ならば一体何を伝えたいのかと問おうとするが……。


『奴の強さは生半可なものではない。何も失うことなく進むことができるのか、貴様の中で見させて貰うとしよう』


 彼は最後に不敵な口調で負け惜しみの如き言葉を口にし、完全に沈黙した。


「なっ!?」


 直後、その魔力吸石がMPドライバーに取り込まれ、同時に彼の記憶の一部と思しきものが脳裏に浮かぶ。

 一人称視点ではあるものの、伝聞のような感覚で。


「こ、これは……」


 その内容は雄也にとって余りに衝撃的過ぎて、思わず絶句してしまった。

 ドクター・ワイルドの正体。彼が今までやってきたこと。その真実を知って。

 己との関わりに動揺し、それ故に思考が停止する。だから――。


《命令受諾シマシタ。全人類ヘノ進化ノ因子付与ヲ実行シマス。尚、コノ命令ハ最優先命令デアリ、変更、停止ハデキマセン》


 唐突にアテウスの塔全体に響き渡った機械的な音。

 それが何を意味するのか、即座には理解できなかった。

 彼の記憶があれば、それがもたらす事態の予測は不可能ではないのだろうが……。

 しかし、今の雄也にはまだ、それが女神アリュシーダとの決戦の引き金になることにまで思い至ることはできなかった。

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