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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第九章 円環への挑戦

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第四十二話 再戦 ③群青と新緑

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。アイリスがリュカと戦う中、不自然な生命力と魔力の成長を実感する!

 二つ。突然リュカが過剰進化(オーバーイヴォルヴ)すると共に、自我を失って襲いかかってくる!

 三つ。対照的に自我を保って過剰進化(オーバーイヴォルヴ)したラケルトゥスに、フォーティアが挑みかかる!

    ***


「あ、ぐ、ふ、ふふふ。そう、結、局……わ、私も、使い捨ての駒。か」


 メルクリアとの一対一もとい二対一の戦いのさ中、突如として苦しみ出した真水棲人(ハイイクトロープ)パラエナは自嘲するように呟くとメルへと視線を向けた。

 話し方もそうだが、そのぎこちない動きから苦痛の程が見て取れる。

 そして、もはや口から漏れるのは呻き声だけとなった中――。


『これで終わりなんて口惜しいけど、この戦いは中々楽しかったわ。私の玩具ちゃん……ううん、貴方達、名前、何だったかしら』


 六大英雄としての意地か、それでもまだ〈テレパス〉で意思を伝えてくるパラエナ。

 そこにいつもの間延びした口調はなく、いつになく真面目な声色だった。


「メルです」『クリアよ』


 だから、メルとクリアは正直に答えた。

 僅かな敬意と共に。

 勿論、彼女はどこまで行っても戦闘狂のおかしな人間ではある。

 とは言え、苦しみの中にあって最期の時に冷静な思考を保っている辺りは、さすが六大英雄と称えるべき部分ではあるはずだから。


『そう。ならメル、クリア。私を倒して、アイツに一矢報いて、頂戴、ね……』


 対して、そうしたメルとクリアの感情を受け取ったからか分からないが、パラエナは少し微笑むような気配を湛えながら言った。

 何かに抗い、その言葉を告げることに全身全霊をかけていたのだろう。

 彼女はそれを最後に意識を失ったようで、その場に倒れ込んでしまった。


「え?」『なっ!?』


 正にその次の瞬間、急激にその身を異形へと変じ始める。

 群青の装甲が砕け、人の形が崩れていく。

 既に腕も足も失われ、巨大なシャチの如き姿となることは過程ながら確定的だ。


『姉さん! 攻撃!』

「う、うん!」


 クリアの言葉にハッとして、メルはパラエナの変化が完了する前に攻撃を仕かけた。

 妹の人格を宿した人形と共に、両手の銃から群青の光弾を無数に放つ。

 変化の途上であり、更には手と足を失ったそれに回避することなどできる訳もなく、その全ては一発も漏らすことなく命中した。

 しかし…………当然のようにダメージはない。


「ならっ!」

《Convergence》


 だから魔力を収束させ、その一撃を以ってパラエナの頼みを果たそうとするが……。


『な、何?』


 それより先に異形の体から群青色の液体が溢れ出し、広間を満たしていく。


「くっ」


 それでもメルは咄嗟に引き金を引き、一際輝く群青の弾丸を撃ち込む。

 が、その効果はなく、そうこうしている間に液体は天井にまで到達してしまった。


『姉さん、大丈夫!?』

『だ、大丈夫!』


 これでも水棲人(イクトロープ)の端くれ。

 ましてや肉体は真水棲人(ハイイクトロープ)へと変化している。

 水中だろうと活動は可能だ。

 勿論、普段は地に足をつけて生活をしている以上、どうしても動きは鈍ってしまうが。


『っ! 姉さん!!』


 と、異形と化したパラエナが唐突に動き出し、正にシャチのように液体の中を滑らかに数倍に巨大化した体を武器に突進してきた。

 妹の呼びかけがなければ、正面からひき潰されていたかもしれない。


(パラエナ……人格が……)


〈テレパス〉を試みても反応がないことからしても、伝説に謳われた六大英雄、真水棲人(ハイイクトロープ)パラエナは既にこの世を去ったと考えた方がいい。

 そこに残っているのは、恐らくドクター・ワイルドに操られた抜け殻だ。

 パラエナ自身、己の異変を感じた時点でこうなると理解していたのだろう。

 だからこそ、メルとクリアに自分を倒して欲しいなどと言ったのだ。


(悔しかっただろうな……)


 敵であり、本質的に忌避したくなるような価値観の違う人間だが、状況が状況だけにその頼みは聞いてあげたいところだ。

 そうでなくとも、いずれはやらなければならなかったことでもある。しかし――。


『生命力、魔力、この場での機動性。全てあの化け物の方が上ね』


 クリアの分析は正しく、難易度が高い。

 パラエナだったものの動きは、異形化の影響によってか少しぎこちなくはあった。

 だが、それを差し引いても水中での挙動はメル達の比ではない。

 それに特化した形状には、さすがに敵わない。

 加えて、ひしひしと肌身に感じる強大な生命力と魔力の気配。

 圧倒的に不利な状況と言わざるを得ない。


『姉さん、また来るわよ!』


 やや上方から敵の動向を注視していたクリアに言われ、回避を意識する。

 どうやら()()は、メル達の本体を本能的に理解しているようだ。

 いや、パラエナの人格が残っていた時の記憶に従っているだけかもしれないが。

 いずれにしても、クリアが絶え間なく攻撃を仕かけ続けていても尚、()()は真っ直ぐにメルを狙って再び突っ込んでくる。


『〈アクアストリーム〉!』


 対してメルは液体に流れを作り、その体当たりを避けた。


「次! 右斜め後ろ!」


 更に数回、無造作な突進に対処し続けるが……。


(あ、危なかった)


 最初の内はクリアの指示のおかげで完全に回避できたものの、異形の体に急激に適応していっているのか、()()の挙動は徐々に洗練されていき、遂には僅かにかすってしまう。


『姉さん、次はっ!』

『分かってる!』


 恐らく次は回避できない。

 直撃は防ぐことができても、そのダメージで更に次の攻撃は致命となるだろう。


『姉さん!』


 と、そう考えている内に()()は再びメル目がけ、体ごとぶつかってこようとする。

 広間に満ちた液体の中を、まるで抵抗など僅かたりともないかの如く。


『〈ハイヴィスコシティリキッド〉!!』


 対してメルはユウヤとの模擬戦で試用し、パラエナとの戦いにおいても活用することで優位に立つことができた新たな魔法を発動させた。

 超高粘性の液体を作り出すその効果を以って、周囲の液体の一部をそれに置換する。


『〈アクアストリーム〉!』


 併せて水流を操り、敵の軌道上に粘性の高い部分を衝突させるように配置していく。

 同時に、メル自身はそれ以外の部分を縫うように回避行動を取った。

 敵の動きは更に効率的になっているが、メルの魔法によって否応なく速度が鈍り、再び追いかけっこは均衡を取り戻し始める。


(とは言え、結局均衡止まりだけど)


 少しでも魔法の制御を失敗すれば、立ちどころに劣勢に陥ることだろう。


『姉さん、正念場よ』


 クリアもまたそれを理解していて、尚も攻撃を放ち続ける。

 ダメージはないが、僅かなり牽制にはなっているようだから、これもまた不可欠だ。


『パラエナに言われるまでもなく、兄さんのためにも私達は生きて勝たないと』

『うん、勿論』


 そしてメルはクリアの言葉に頷き――。


(集中して、メル)


 自分にそう強く言い聞かせながらパラエナだった異形へと双眸を向け、強固な意思をも失った虚しいその存在の次なる行動に備えた。


    ***


「あ、くっ」


 真翼人(ハイプテラントロープ)コルウスの一撃を避け切れず、イクティナは小さな声を上げた。

 気配遮断によって位置を正確に特定できず、どこから攻撃が来るか直前まで分からない。

 新緑の装甲には無数の傷が刻まれ、一部真翼人(ハイプテラントロープ)と化した肉体が露出していた。


「この、大嘘つき!」


 当初は正々堂々戦うなどと言い、気配遮断をせずにいたにもかかわらず、生命力と魔力においてイクティナの方が優位に立っていると分かった途端自ら禁を破った。

 それは、恐らくドクター・ワイルドの干渉によって巨大な孔雀の如き異形となった後も変わることなく、卑怯と言いたくなるような攻撃を繰り返していた。

 かつては六大英雄などと呼ばれていたとは言え、所詮暗殺を主な生業としていた人間などそんなものなのだろう。

 戦いに拘りも誇りもないのだ。

 そんな相手が嘘つきなのは当然のことで、殊更罵るのは子供の振る舞いかもしれない。

 が、それでもイクティナは言わずにはいられなかった。

 まだ学院の生徒なのだから、子供っぽくても構わないはずだ。


『ワタクシめを非難するよりも、己の力不足を悔いることです』


 対して、どことも分からぬ場所から響いてくる開き直りとも取れる言葉。

 逆にこちらは大人の詭弁とでも言うべきか。

 正論は正論だが、正論というものは時として人の神経を逆撫でするもの。

 如何に割と大人しいイクティナとて、戦闘のさ中ではさすがに苛立ちが募る。


(落ち着くのよ、イクティナ)


 それでも、冷静さを欠いて勝てる相手でないのは事実。

 そう己に言い聞かせて打開策を探る。


(と言うか、私にできることなんて高が知れてる!)


 多少訓練はしたものの、アイリスやプルトナ、フォーティアのように近接戦に強い訳でもない。メルとクリア、ラディアのように多彩な魔法を操れる訳でもない。

 元々取り柄と言えば、制御不能だった程の馬鹿魔力だけだ。


「この! 〈オーバーマルチトルネード〉!」


 だから、イクティナは全方位に向けて力任せの魔法を解き放った。

 ほとんど制御を意識せず、たとえ暴走しても構わないというぐらいの気持ちで、無数の乱流を周囲に余すことなく撒き散らす。

 密閉された広間にあって、こんな真似をすれば自分自身も巻き込まれるが別にいい。

 それは即ち敵にも届くということに他ならないから。


「悪足掻きは見苦しいですよ」


 しかし、やはり拡散させたことで攻撃力も分散してしまっているのだろう。

 コルウスは堪えた素振りを全く見せない。

 それどころか恐らく乱流の合間を縫って迫ってきていたようで、斜め上方に突如として気配が現れると共に攻撃を仕かけてくる。

 巨大な孔雀と化したことで鋭利な刃物の如く変じた爪による一撃。

 既に異形の体の扱いを自分のものとしているようで、動作に粗い部分はない。

 このままでは間違いなく直撃してしまう。

 故に、イクティナは咄嗟にコルウスへと一点集中した風の渦を作り出した。


「く、うう」


 それによって僅かに攻撃の軌道を逸らしたものの、完全に避けることはできずに肩口にかすってしまった。


(違う。これじゃ駄目だ)


 攻撃と索敵。二つのことを同時に魔法に追い求めても、どちらも疎かになるだけだ。

 そして、今優先すべきは後者だろう。

 前者は背中に生成している翼状の武装に任せればいい。


「〈オーバーエコーロケーション〉!」


 そう判断してイクティナは再び全方位に向けて魔法を放った。

 これまでのユウヤの戦いや訓練の様子を見続けて、その中から習得した魔法。

 発生させた音波の反射で周囲の位置関係を把握する反響定位を、魔力の波動で代用したものだ。特に、空気との親和性が高い風属性の魔力と相性がいい。


「愚かですね」


(っ! 危ない!)


 しかし、それでもコルウスの存在を直前まで知覚することはできず、イクティナは先程までと同様に直前の気配を以って何とか回避した。

 コルウスの気配遮断は、風属性の魔力と一体化し、その中に紛れ込むというもの。

 巧妙に隠れられた場合、生半可な魔力の波動を放射しても透過してしまう。


(だったら、もっと! もっと!)


 それをどうにかするには、周囲の魔力を押し退ける程の強い魔力を放つしかない。

 勿論、補足し続けなければならないため、収束魔力ではなく常態の魔力で。

 だから、イクティナは己の魔力を絞り出すように全身に力を込めて踏ん張った。


「〈オーバー……エコーロケーション〉!!」


 そして、それを以って魔法を発動させる。


「何度やっても同じことです」


 対してコルウスは馬鹿にしたように言う。

 実際、魔力の多寡に気合いは余り関係ない。

 通常、この短期間で魔力が増加する訳もない。


「なっ!?」


 だからこそ、イクティナと()()()()()()()()()、コルウスは動揺を見せた。


(今、見えた?)


 だが、驚きを抱いたのはイクティナも同じだった。

 互いに一瞬動きを止め、僅かにイクティナの方が早く回避行動に戻る。

 それによって初めて完全に敵の攻撃を避けることができた。

 かと思えば、直後コルウスは再び接近してきて、爪を振り下ろしてくる。


(見えた!)


 その一部始終を反響定位で得た情報を視覚的に再構築し、今度は全てを知覚し――。


「馬鹿なっ!?」


 コルウスの明らかな驚愕の声を耳にしながら、イクティナは背中に展開した翼状の武装を操って彼の攻撃を受け止めた。


(やれる。これなら!)


 更にそれを振り払い、再度気配遮断を試みながら距離を取ろうとするコルウスを真っ直ぐに見据える。先程までよりもハッキリと認識できる姿を。

 どうやら生命力と魔力の原因不明の成長は続いているらしい。


(なら今こそ攻勢に、出る!)


 他の場所でユウヤ達が戦っていると思えば、悠長にはしていられない。


《Convergence》


 だから、イクティナは行く手を遮る存在へと翼を構成する無数の刃を叩き込まんと、魔力の収束を開始した。


    ***

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