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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第九章 円環への挑戦

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第四十二話 再戦 ②琥珀と真紅

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。新たな時間軸においてもアテウスの塔(偽)が建ち、雄也達が侵入を果たす!

 二つ。アイリス達と六大英雄の戦況に変化があり、六大英雄達が過剰進化(オーバーイヴォルヴ)させられる!

 三つ。『雄也』が前回までとの差異の調整に苦心する中、雄也とツナギとの戦いが始まる!

    ***


 琥珀色の広間の中、同色の輝きを持つ粒子が舞う。

 アイリスと六大英雄が一人たる真獣人(ハイテリオントロープ)リュカ。その戦いの影響だ。

 同じ種族が戦いを極めれば同じスタイルとなるのは必然とばかりに、合わせ鏡のようにシンクロしたタイミングで攻撃を繰り出している。

 その過程で魔法〈チェインスツール〉を用いて作り出された無数の足場は砕け散って琥珀色の輝きを撒き、特に広間に幻想的な光景を生む一助となっていた。


(何か、変)


 そんな中にあってアイリスは強い違和感を抱いていた。

 いつもよりも体が動き過ぎている。

 悪い感覚ではない。むしろ本来なら格上であるリュカと互角以上に戦うことができているのだから、一応は恩恵の方が大きい。

 とは言え、さすがに身に覚えのない変化は少々気味が悪い。

 原因は明らかにしておきたいところだが――。


「はっ!」


 一瞬それに思考を囚われた隙を狙うようにリュカが二振りの歪な形の短刀、ユウヤの世界ではククリ刀と呼ばれるらしい武装で攻撃を仕かけてくる。


「くっ」


 対してアイリスは同じく二振りの短剣で受け流すようにして防いだ。


(今は戦いに集中しないと)


 謎の後押しによって生命力、魔力共にリュカと同等以上となっていても、経験、技量までが変化した訳ではない。

 眼前の敵はあくまでも六大英雄と謳われた存在なのだ。

 隙を晒せば、確実にそこを狙われる。そして一手で形勢を逆転されかねない。

 余計なことを考えていられるような余裕はない。


「まだ粗いな」


 そうしたアイリスの僅かな集中の乱れを叱咤するようにリュカが言う。


「だが、よくぞ、これ程まで」


 しかし、彼女はどこか安堵したようにそう続けた。


「かつて女神アリュシーダによって血族の誇りは握り潰された。だが、今尚獣人(テリオントロープ)は完全には死んでいない。それが分かっただけ、お前と戦えてよかったとワタシは思う」


 その言葉にアイリスは、リュカはやはり他の六大英雄とは少し違う、と感じた。

 アイリス達を人形の如く扱い、見下す者達とは。

 元々情が深い、悪く言えば甘い人間だったに違いない。

 勿論、同族に対するものに限った話だろうが。

 そうでなければ、千年前の戦乱期に多くの敵を屠った六大英雄に数えられるはずがない。


「……私達と一緒に戦うことはできないの?」


 それでも同じ種族としてアイリスもまたリュカを一点の曇りなく憎むことはできず、そうした甘い考えが口をついてしまった。


「それは…………できない」


 対してリュカは一瞬言葉を詰まらせながら否定した。


「ワタシは既に同族に犠牲を強いている」


 それを少なからず罪と捉えているようで、彼女は僅かに声色を乱す。

 その様子にアイリスは更に一押し言葉をかけようと口を開きかけたが……。


「何より同族のため、種族の誇りを取り戻すためには、この道を進む以外にない。奴を目の当たりにしたことのないお前達には望むべくもない話だ」


 リュカは敵意とはまた違う戦意を強め、再び間合いを詰めてきた。


「何度でも言う。ワタシは大義に殉じる!」


 そして彼女はククリ刀を繰り、連続で斬撃を放ってきた。

 そこに迷いや逡巡はない。

 むしろ先程までよりも鋭くなっている気がする。

 己が持つ甘さを熟知した上で、それを遥かに上回る覚悟で刃を振るっているのだろう。

 そうしたところは見習うべきところかもしれない。


「……私も、私の心に従うだけ」


 第一にユウヤとの、仲間達との未来を守るため。

 口で説得できないのなら、力で抗うしかない。


《《Convergence》》


 そして互いに魔力を収束し、互いの意思を貫くための一撃を放たんと構えを取る。


「……「アンバーアサルトスラッシュ!」」


 十秒後。魔力収束が完了するとほぼ同時に、アイリスとリュカは琥珀色の魔力を帯びた二振りの刃を手に正面から突っ込んだ。

 そうして、この場における互いの最大威力の攻撃が今正に交錯しようとした瞬間――。


「う、がっ!?」


 唐突に、リュカは呻き声を上げて動きを鈍らせた。


(なっ!?)


 そのことにアイリスは動揺したが、既に攻撃を止めることはできない。

 結果、リュカの攻撃は届かず、アイリスの一撃が完全な形で命中する。


「ぐ、うううう」


 それを受けてリュカは苦しげに更に呻いたように見えた。

 だが、しかし、その苦痛はアイリスの攻撃によるものではないようだった。

 琥珀色の装甲を砕き、その内側の身体に僅かについた傷は瞬時に修復され……。


「……え?」


 次の瞬間、彼女を覆う鎧が一気に砕け散り、肉体が異常に肥大化し始めた。

 かと思えば、その上から再び琥珀色の装甲が生み出されていく。


(オオ、カミ?)


 まだ過程の段階ながら何となく見えてきた変化の先は、より狼の特徴が強まった巨大な人狼。全身を覆う装甲と相まって機械仕かけの人形のようだ。

 既に大きさはアイリスの二倍程度ある。

 最終的には三倍ぐらいになるかもしれない。


「ユ……貴、様…………何の、つも……」


 リュカにとってもこれは不測の事態らしく、恐らくこの異変の元凶であるドクター・ワイルドへと憎々しげな言葉を投げかけようとする。

 しかし、彼女の声は急速にか細くなり、やがて肥大化が収まると共に身動きを止め、意識を失ってしまったかのように立ったまま深く俯いてしまった。


「……リュカ?」


 そんな彼女を前にしてアイリスが警戒と共にその名を呼ぶと、それに反応した訳ではないだろうが、唐突に眼前の巨躯は顔を上げ――。


「ガアアアアアアアアアッ!!」


 獣の如き咆哮を発した。

 直後、それは地面を蹴り砕き、理性もなく力任せにしか思えない形で突進してきた。

 間違いなく何者かに操られてしまっている。

 速度は明らかにアイリスよりも上。その気配から感じる生命力も魔力もまた。

 だが、それと引き換えに、彼女が本来持つ技量は完全に投げ捨てられてしまっている。

 故にアイリスは、その粗い攻撃をギリギリのところで回避することはできた。

 更にそれと同時に、擦れ違い様に右、左と短剣を叩き込む。


「……くっ」


 しかし、それはほぼ効果がなく、新たに作られた装甲の表面を軽く削るのみだった。

 短剣自体も圧し折れ、再度生成する羽目となる。

 最初に食らわせた魔力収束の一撃でさえダメージがない様子だから、アイリスのほとんどの攻撃は通用しないと考えた方がいいだろう。

 先程までとは生命力と魔力、経験と技量の大小関係が逆となった形。だが、先程までよりもその度合いは甚だしい。

 ジリ貧となる未来が目に見え過ぎている。


(けれど)


 強い意思で弱気は僅かたりとも生じさせない。それこそ敵たるリュカのためにも。

 つい先程まで敵とは言え言葉を交わした間柄。

 アイリスはその信念を立場上認められずとも、リュカの強さとして受け止めたつもりだ。

 にもかかわらず、この様だ。

 彼女の力、意思の全てを穢されたと言っても過言ではない。


(許せない)


 だからこそ、彼女へと発した言葉を違えないように、今正に再び荒々しく突っ込んでこようとしている巨体を前に力強く身構える。


「……私はユウヤと明日を掴む。味方の心すら蔑ろにする貴方達の企みには負けない」


 そしてアイリスは自ら前進し、身も心も化物と変じたリュカへと挑みかかった。


    ***


「あ、ぐ、ぐううあああっ!」


 分断された先の広間で直前まで交戦状態にあった真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥス。

 彼は突如として苦しみ出し、それと共に肉体が変容を始めた。


「な……何?」


 その異常事態を前にして、フォーティアは思わず戸惑いの声を上げてしまった。

 状況を全く把握できず困惑の余り立ち尽くしている間にも、ラケルトゥスは全身を急激に肥大化させていき、人の形を失っていく。

 それに伴って脱皮するように装甲がはがれ落ち、代わりに新たな鎧が作られていった。


「く、ぐ、う、はあ、はあ」


 やがて徐々にラケルトゥスの息が整い始め、変化もまた緩やかになっていく。


「こいつは、あの時の……」


 その時にはほぼどういう形になるか目で見て判断できる状態になり、フォーティアは見覚えのあるその姿に眉をひそめた。

 あれは、龍星(ドラカステリ)王国にてフォーティアが醜態を晒してしまったあの日。

 いわゆるドクター・ワイルドの前座として、彼の道具として利用された龍星(ドラカステリ)王家の一員たるキニスが過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した姿と似た形状の異形だ。

 巨大な翼を持つ大トカゲ。

 その巨体はフォーティアの四、五倍はある。

 肥大化した体は全てが真紅の装甲に覆われており、生物的な印象に乏しい。

 中途半端な二足歩行をしており、人間ともトカゲとも取れない歪さもあった。


「ふうううっ」


 そうした変化を完全に終えたラケルトゥスは深く息を吐き出し、それから己の状態を確かめようとしているのか自身の手を見下ろした。

 どうやら変わったのは見た目だけで、己を失ってはいないようだが……。


「ふん。余計な真似を」


 彼はそれから不機嫌そうに重く低くなった声で呟いたが、それ以上の不平は口にすることなくフォーティアへと視線を落とした。


「だが、これで形勢逆転というところかな?」


 それから彼は。一転して含み笑いながら嘲弄するように言う。

 理屈の分からない状態ではあるものの、つい先程までは真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥスを上回っていた生命力と魔力を以ってフォーティアは技量の差を埋めていた。

 しかし、ドクター・ワイルドの仕業だろう過剰進化(オーバーイヴォルヴ)と思しき変化によって、生命力、魔力共に完全に逆転されてしまった形だ。


(原因不明の成長に縋るのも、気持ちが悪い話だったけど)


 ラケルトゥスにしても、事前情報との差異に苛立ちを見せていた。

 それが今は余裕を取り戻し、煽るような素振りだ。


「さあ、今度はこちらから行くぞ」


 そして彼はそう告げると翼を折り畳み、突っ込んでくる。


「ちっ」


 異形と化したことで向上した身体能力に任せた荒々しい一撃を前に、フォーティアは舌打ちをしながら大きく回避した。

 身体の変化に伴って体をうまく扱えないのだろう。

 当たれば危険だが、正直先程までよりも避け易い。

 更にラケルトゥスは勢いをつけ過ぎたせいで隙を晒している。


「はあっ!」


 反撃を入れることも不可能ではない。


(……駄目か)


 とは言え、そこを狙ったフォーティアの真紅の槍による斬撃は、同じく真紅の装甲を微かに削るのみだった。魔力を収束させても高が知れているだろう。

 総合的に見て不利な状況となったと言える。


「丁度いい。この新たな体、力の試運転につき合って貰おうか。それもまた我らの踏み台たる貴様の役目だからな」


 精神的な優位を取り戻したからか、ラケルトゥスの口数が少し多くなる。

 そんな彼の姿を目の当たりにして、フォーティアは深く溜息をついた。


「…………正直、幻滅したよ」


 それから首を横に振りながら呆れの色を濃く滲ませて続ける。


「――何だと?」


 対してラケルトゥスは冷や水をぶっかけられたかのように、ワンテンポ遅れて不愉快そうに返してきた。怒りの感情も覗かせている。

 生命力と魔力の気配が伴えば、相応の威圧感となるが――。


「何が六大英雄だ。今のアンタは、あの時の、人生で一番みっともなかったアタシと同じじゃないか。目先の強さに囚われ、自らドクター・ワイルドの操り人形に成り下がってる」


 フォーティアは自らを省みつつ、ラケルトゥス以上の怒りと共に言い放った。


「結局、アンタは戦うことが好きな訳じゃない。自分より弱い誰かに勝って、己の力を誇示して、そうして悦に浸りたいだけだ」


 強大な敵に挑みたい訳ではなく、同等以下の敵から充実した勝利を得る。

 冷やりとする程度に肉薄されることは一種の刺激として許容できても、敵に終始優位に立たれるような不利な戦いは好まないのだろう。

 ある意味常識的な考えではあるが、それは即ち凡俗な人間ということだ。

 これが真水棲人(ハイイクトロープ)パラエナならば、強敵に挑んだ果ての死もよしとするかもしれないが。


「貴様は違うと言うのか」

「前のアタシは完全にそうだった。けど、今は変わろうとしてるつもりだよ」


 昨日の自分よりも強くなる。

 それは他人との比較ではないのだから。


「そもそも、そうやって肉体そのものを変えられて、この体のこの形に合わせて培ってきた技を穢されて、そこまで喜べるはずがない!」


 勿論、より優先すべき大義のだめであれば、フォーティアとて過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を許容する。

 この場ではそうする手段がないが。

 いずれにしても、その強さで相手を見下すことなど容認できない。

 そんな状態で戦いを楽しむことなどできる訳がない。

 少なくともフォーティアには。


「黙れ! 我が血族のため、これは必要なことなのだ!」

「そんなこと、誰も頼んじゃいない! アタシも、アンタ達の犠牲になった龍星(ドラカステリ)王国の人々もだ! それを体裁のいい言い訳に使うな!!」


 こうした敵との戦いは苛立つばかりで、それこそ楽しめたものではない。

 相手の強さはどうあれ。

 他人に感情を乱される辺り、まだまだ甘いところではあるが。

 それでもフォーティアが望むことは自身を鍛え、高みを目指すことなのは間違いない。

 ユウヤとの対話を通じて、それこそが喜びだと己に定めたから――。


(こんな奴らが邪魔をせず、安心してそれに集中できる世界にするために)


 フォーティアは戦況の不利に僅かたりとも戦意を曇らせることなく、異形と化したラケルトゥスへと挑みかかった。


    ***

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