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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第九章 円環への挑戦

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第四十一話 幕間 ②試行錯誤は自由の道

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。幾度目かの繰返しが始まり、コルウスによる宣戦布告のタイミングとなる!

 二つ。フォーティアが雄也との一対一での戦いを望み、魔力淀みに向かう!

 三つ。全力を振り絞ることを最後のきっかけに、フォーティアが自分自身を見詰め直す!

 フォーティアにつき合って龍星(ドラカステリ)王国を訪れた翌日。


「じゃあ、今日はわたし達の番ね? お兄ちゃん」


 メルはそう朗らかに言うと、当然のように腕を絡めてきた。


「ああ、うん。それはいいんだけど、どうするんだ?」

『新しい魔法とか魔動器の効果を確かめたいの』


 と、今日は主人格を姉に譲っているクリアが〈テレパス〉で言う。

 魔法技師たる双子らしいお願いだ。


「新しい魔法と魔動器か。部屋でできるのか?」

「ううん。とりあえず訓練所かな」


 どうやら割と大規模な効果らしい。少し不安になる。


『できればアイリス姉さんも一緒に来てくれると助かるわ』

「……私も?」


 当たり前の顔をして傍で話を聞いていたアイリスは、クリアにそう言われて少しだけ驚いたように目をいつもより開きながら首を傾げた。

 昨日自分で言っていた通り、今回は本当に自重するつもりだったのだろう。

 それにしては堂々と聞き耳を立てていたが。


「……いいの? 二人共」

「うん。今回は」

『全部終わったら思う存分、兄さんと姉さんと三人で遊びに行くわ』

「……今それをしないことは、戦いの枷にならない?」


 双子の答えにアイリスは心配そうに尋ねる。

 それこそ妹を気遣う姉のように。


「わたし達は他の皆に比べて余り強くないから。生命力や魔力はあっても。気持ちの持ちようとか、そういうので何とかなるレベルじゃなくて」

『そんな中で少しでも足手纏いにならないようにするには、色々と策が必要だわ。兄さんの役に立つためにも』

「だから、アイリスお姉ちゃんにも助けて欲しいの」


 対してメルとクリアは交互に真剣な口調で返す。

 少なくとも彼女達にとっては、自身の力不足こそが一番の懸念のようだ。


「……そういうことなら」


 アイリスは納得したように頷いて言った。


「けど、他に何か困ってることはないのか?」


 それは確かに重要なことだが、もし別な懸念があるのならそれも解消すべきだと思うが。


「大丈夫だよ、お兄ちゃん」

『アイリス姉さんと同じ。兄さんの傍にいられれば問題ないわ』


 メルとクリアはそう言いながら腕を絡める力を更に強くした。

 言葉と行動で好意をハッキリ示す二人の姿を見ていると、少々くすぐったくもある。

 が、それ以上に二人のためにできることをしたいと思う気持ちが強くなる。


「よし。じゃあ、行こうか」


 そして雄也は、いつの間にか双子に対抗するように逆の腕にくっついてきていたアイリスを含め、四人一緒に訓練所へと転移した。


「で、どんな魔法と魔動器なんだ?」


 それからポータルルームから学校のグラウンドのようなそこに出て、早々に問いかける。

 これ以上の前置きは時間が勿体ない。


「うん。まずは魔動器の方から」


 魔法技師らしく合理的な部分もしっかりしているメルとクリアも、目的を果たすことを第一と考えて球状の物体を取り出しながら要点を口にし始めた。


『これは(Linkage)(System)デバイスを応用した魔動器よ。基本機能は任意の形状を特定の物質で作り出し、固定するというもの。私達の場合は水属性だから、特定の物質は液体ね』

「……用途は?」


 効果は何となく分かったが、今一イメージがつかない。

 アイリスも使い道をすぐには想像できなかったようで、首を傾げて尋ねた。

 とりあえず、今回の目的を考えると戦闘に使えるもののはずだが……。


『それは実際に見て貰った方がいいかも』


 百聞は一見に如かずと早速魔動器を起動させる双子。

 次の瞬間、どこからともなく水とも違う不可思議な液体が生じ、その魔動器に纏わりつくように集まっていき――。


「お」


 ほぼ瞬時に人の形となった。

 その姿は女性的で、メルクリアの体つきによく似ている。

 微妙に液体が対流している見た目も相まって、芸術品のようだ。


「……それで?」


 少し感心した雄也とは対照的に、あくまでもマイペースに話を進めるアイリス。

 美しくとも弱ければ双子の目的にはそぐわない。そう暗に告げているのだろう。

 少々厳しい態度だが、これもまた妹分への優しさとも言える。


「ここからが本番だよ!」


 対してメルは、その反応は想定通りと言うように意気揚々と答えた。

 直後、それの表面に群青の装甲が生み出されていく。


「『アサルトオン!』」


 同時にメルクリアもまた同色の鎧を纏った。

 両者が隣り合って並ぶと、どちらが本人か分からない程にそっくりだった。

 今は位置で分かるが、何度も入れ替わったりすれば本物を当てるのは難しそうだ。


『どう? 兄さん!』


 と、魔動器を核にして作られた方からクリアの声が発せられる。

 更に、その体が駆け寄ってきて雄也の正面で止まった。

 その挙動は完全にクリアのものだ。

 つまり、この魔動器が生み出したものは――。


「主人格じゃない方が自由に操れる分身体。ちょっと耐久性は落ちるけど魔動器が無事なら再生できるし、魔力は共有。想定では本体と大体同じぐらいの強さだよ」


 やはり、そういうことらしい。

 単純計算で二倍……とまでは簡単に行かないだろうが、メルの言葉が正しければ確実に戦闘力が大幅に増大すると言うことはできる。


「どう? アイリスお姉ちゃん」

「……ん。凄いと思う。やっぱりメルとクリアは天才」


 これにはアイリスも素直に感心し、称賛の言葉を口にした。


「全くだ」


 雄也もまた、うんうんと頷きながらそれに同意した。

 今回に限ったことではなく、魔法技師としての彼女達の才能は、きっと歴史上最も偉大な魔法技師と言われているウェーラに匹敵するものがあるに違いない。


「えへへ」


 そんな雄也達の反応を前に、メルは照れてくすぐったそうに笑ったが、「って、そうじゃなくて」と慌てたように首を横に振った。


『それはあくまでも想定上の話よ』

「だから、その確認をしたいの。特にわたしとクリアちゃんが同時に戦ってる時に、変な負荷がかかって力が減衰してたりしないか」

『一応事前に試験をして最大出力を出すことはできたけど、激しく動いたり、動きに意識を取られたりするとどうなるか分からないから』

「成程」


 わざわざアイリスも連れてきた理由は、そういったことだったようだ。

 そういうことなら、とアイリスと視線を交わしてから共に構えを取る。


「……「アサルトオン」」

《Change Ichthrope》

《Evolve High-Therionthrope》


 そして雄也は群青の、アイリスは琥珀の装甲を身に着け、双子と対峙した。


「行くよ、お兄ちゃん」『行くわよ、姉さん』


 それからその言葉を合図に、彼女達は各々挑みかかってきた。

 今後の戦いに備えての試験であるため、本気ではあるのだろう。

 とは言え、徒手では当然ながら、フォーティアのように全力で応じなければならない程ではない。アイリスも同様で、軽々とさばいていた。


「メル、ちゃんと自分に合った戦い方をしないと魔動器の試験にならないぞ」

「……クリアも。私達はまだまだ余裕があるから」

「うん」『分かったわ』

《Twinbullet Assault》

《Twindagger Assault》


 雄也とアイリスの言葉を受けてメルは両手に銃を、クリアは短剣を生成する。

 本体は遠距離攻撃、分身体は近距離攻撃を主体とするつもりのようだ。

 分身体なら傷ついても構わないだろうし、理には適っているが……。


「おっと」

「……甘い」


 個別に戦っていては宝の持ち腐れ。

 メルからの二丁拳銃を用いた攻撃は雄也でも全弾回避可能だし、二振りの短剣でクリアから挑まれているアイリスも余裕の雰囲気だ。

 特にクリアの短剣の扱い方は、アイリスの見様見真似という感じで、アイリスにとってみれば読み易いことこの上ないに違いない。

 勿論、彼女達ならその程度は理解していて、意図的にそうしているのだろうが。


《《Convergence》》


 と、魔力収束の開始を告げる電子音が双子のMPリングから鳴り響く。

 どうやら、より負荷をかけた試験に移行するつもりのようだ。

 そして十秒後。


《Final Twinbullet Assault》

《Final Twindagger Assault》

「ネイビーアサルトシュート!」

『ネイビーアサルトスラッシュ!』


 意図してはいないだろうが、双子特有の呼吸の一致によってか、メルとクリアは全く同じタイミングで魔力を収束した一撃を放ってきた。

 とは言え、単純に威力が増しただけであれば先程までと同じ対処で問題ない。

 実際アイリスは軽く避けてやり過ごしている。

 ただ、群青の弾丸は訓練場の外に飛んでいってはまずい。なので――。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》

《Change Therionthrope》《Convergence》

《Change Drakthrope》《Convergence》

《Change Phtheranthrope》《Convergence》

《Change Ichthrope》《Convergence》

《Change Theothrope》《Convergence》

《Change Satananthrope》《Convergence》

《Change Anthrope》《Maximize Potential》

《Towershield Assault》


 雄也は(RapidCon)(vergence)リングを用いて魔力を急速収束すると共に巨大な盾を作り出し、群青の輝きを持つ光弾を真正面から受け止めた。


「…………うん。とりあえず魔動器は大丈夫みたいだね」


 雄也の対処は想定内と言う感じで、一先ずテスト結果の確認に努めるメル。


『私達の練度が駄目駄目だけど』

「そこは、まあ、そういうものとして受け止めないと」


 彼女は妹の自虐的な言葉に苦笑しながら返し、それから雄也達に視線を戻した。


「お兄ちゃん、アイリスお姉ちゃん、もう一回いい?」

『今度は新しい魔法を試してみたいの』

「……「分かった」」


 その魔法がどんなものかは聞かず、アイリス共々頷く。

 実際に戦いとなれば、どういう魔法を使うかなど教えてくれるはずはないのだから。

 そして先程の展開を完全に繰り返すように雄也達は双子の攻撃を避け……。


《《Convergence》》


 その中で彼女達は魔力を再び収束させ始める。


「『〈ハイヴィスコシティリキッド〉』」


 その直後、二人は行動を変え、新しい魔法とやらを発動させた。

 効果の程は分からない魔法。だが、視界の中では即座に変化が現れた。

 雄也とメル、アイリスとクリアの間の空間に、いくつもの水球が作り出されていく。


《Final Twinbullet Assault》

《Final Twindagger Assault》

「ネイビーアサルトシュート!」

『ネイビーアサルトスラッシュ!』


 かと思えば、メルとクリアは各々再び魔力を収束した一撃を放った。

 空間に浮かぶ水球は気になるが、まずはこれに対処しなければならない。

 再度アイリスは回避を選択し、雄也は(RapidCon)(vergence)リングを用いて六属性の魔力を収束しながら作り出したタワーシールドで受け止めんとする。

 しかし、構える動きを阻害するように水球が動き、雄也の腕に接触した。

 避けようとしたアイリスの体にもまた。

 それでも単なる液体ならば力任せに散らしてしまえばいい。


「っ!? これは」


 だが、それはまるで水飴のようにドロドロで、尚且つ触れた瞬間に体に纏わりつき、雄也達の動きを恐ろしく鈍らせた。


「くっ」


 それにより盾が間に合わず、メルが放った群青に輝く光弾の直撃を受けてしまう。

 六属性の魔力全てを収束していたおかげで僅かな痛みで済んだが、少し冷やりとした。


「……負けた」


 ポツリと呟かれた声にアイリスの方を見ると、クリアが彼女の首元に刃を突きつけている姿が視界に映った。

 次いで、クリアはアイリスの言葉を受けて短剣を消滅させる。


《Return to Ichthrope》《Armor Release》


 更にメルが群青の鎧を取り払うのと同時に魔動器が停止し、クリアが動かしていた人形のそれもまた崩れ去った。当然、中の液体は人の形を保てずに地面にぶち撒けられる。


「うん」


 それからメルは一つ確かめるように頷いた。


「使えるね、この魔法」

『そうね。いけそうだわ』


 手応えを感じてか、満足そうに話し合うメルとクリア。

 そんな双子を前に、雄也は驚嘆と共に少し反省した。

 あくまでも妹分として、戦闘においては他の面々に比べると庇護の対象として見る側面が強かったが、見事に一本取られてしまった。

 六属性の力を持ったことで皆より一歩秀でてしまったから、いざとなれば皆を守らなければならない立場になったなどと考えるのはおこがましい。

 つい昨日、フォーティアに負けたことを鑑みても。

 彼女達は自由な心を持ち、対等に助け合える存在なのだと改めて身にしみて思う。


「メルとクリアは凄いな」

「……うん。ユウヤを想う気持ちも凄い」


 自然と口をついて出た言葉に、小さく首を縦に振りながら同意を示すアイリス。


「……私も負けられない」


 更にそう続けた彼女に苦笑しつつ、雄也もまた心の中で「負けられない」と思った。

 勿論、アイリスの意図とは違う。

 あの双子の、自由の中で自分を高めんとする意思を真っ当に持ち続ける姿。

 自由というものは、ともすれば人を怠惰にすることもあるものだから、彼女達のそうしたあり方は特に光り輝いて見える。

 そうした部分を再確認できただけでも、今回それぞれのやりたいことにつき合うことは雄也にとっても十分価値のあることと言えるかもしれない。


『けど、選択肢はたくさんあって損はないわ』

「うん。もっと新しい魔法を用意しないと。だから……」


 そうして尚も先を目指さんとする二人を見守っていると、メルクリアは再び傍に駆け寄ってきた。それから無邪気な笑みを見せながら彼女達は口を開く。


「お兄ちゃん、またお兄ちゃんの世界の話、聞かせて!」

『色々参考になってるから』


 それで彼女達の助けになれるなら、当然否やはない。


「ああ、勿論」


 だから雄也は、そんな彼女達の様子に自然と頬が綻ぶのを感じながら頷いた。

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