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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第八章 始まりと新たな始まり

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第四十話 未来 ②悪足掻き

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。『雄也』を除き、ウェーラや後の六大英雄達が女神アリュシーダの干渉を受ける!

 二つ。アテウスの塔を破壊され、時間跳躍ができなくなってしまう!

 三つ。未来に望みを繋ぐために六大英雄達を各地に封じる!

 あれから『雄也』は何度か女神アリュシーダに遭遇していた。

 しかし、まだ何人か進化の因子を有していた人間がいたのだろう。

 現れては無限色の光を放って進化の因子を奪い、二、三、言葉を発して姿を消す。

 今のところ、それを繰り返すだけだ。

 とは言え、出くわす頻度が急激に上昇していることを考えると、進化の因子を持つ人間がもはや数える程しか存在しなくなっていると判断せざるを得ない。

 いずれにせよ、もうすぐにでも残存するのは『雄也』一人となることだろう。

 その時こそ、真の意味で女神アリュシーダと対峙しなければならなくなるが……。


「ウェーラ、本当にこれでどうにかなるのか?」


 不安と焦燥から、『雄也』は胸に下げたペンダント型の魔動器を見下ろしながら問うた。

 彼女の指示で新たに作ったものだが、その機能についてはまだ何も聞かされていない。

 既にウェーラはそれに答えられる状況になかった。

 進化の因子は完全に失われており、己の意思もまたないに等しい。

 そして半ば廃人のように、彼女は椅子に座って佇んでいた。

 その胸には『雄也』のものと同型の、彼女自身が最後に作った魔動器が下げられている。


(女神アリュシーダの行動パターンが変わるその時まで肌身離さないようにして、その瞬間が来たら起動するように言われたけど……)


 彼女が心血を注いで作り上げた魔動器だ。

 起死回生の一手になってくれると信じたいが、機能が分からない以上不安は晴れない。

 起動して効果を確認できていれば多少なり感じ方も違ったかもしれないが、彼女から時が来るまで絶対に起動しないで欲しいと頼まれていたため、それもできなかった。


「ウェーラ……」


 袋小路にいるような感覚を抱き、縋るように名前を呼ぶ。

 当然のように彼女の反応はない。

 しかし、それはある意味彼女が戦い続けている証でもある。

 進化の因子を失った者は思考を捻じ曲げられた果てに、その変質した思考をベースに活動を再開する。普通に生活を始める。

 まるで正しさの操り人形のように。

 逆に糸の切れた人形のようにあることは、そうした結末に抗っていることに他ならない。

 とは言え、ウェーラのために今『雄也』ができることは極めて少ない。

 ただただ、家の中の書物などを調べて魔動器への知見を深めつつ、己の生命力や魔力を高めるための鍛錬を行う以外にはなかった。

 どうしようもない閉塞感に耐えながら。

 そうして更に数日後。

 打開策も見出せないまま、変化のない日々を過ごし……。


「来たか」


 その時は遂に訪れてしまった。

 王都ガラクシアス上空。いや、そこまで曖昧な位置ではない。

 ウェーラ宅。『雄也』の直上とでも言うべき場所。

 そこに突如として()()の気配が発生した。

 対峙せずとも力の差を突きつけられるような強大な存在感。

 多種多様な種族を感じさせる特異な気配。

 そこに何の違和感も抱かせないことへの違和感が心の内に湧き起こる。

 余りの情報量の多さと強烈な存在感を前に一瞬思考を放棄させられそうになるが――。


「女神、アリュシーダ!」


 吐き捨てるように叫んで何とか跳ね除け、『雄也』はウェーラに言われた通り、互いの魔動器を起動させると共に家の外に出た。

 その効果を確かめる間もなく、()()と対峙する。


「世界の遺物。貴方の中の混沌とした歪みを取り払い、人間が望みし世界を作る総仕上げとしましょう。大人しく私に、人類の意思に従うことです」


 女神アリュシーダは見上げる『雄也』にそう告げると、緩やかに地面に降り立った。

 明らかにこれまでの行動パターンとは違う。


(とうとう俺を、俺だけを狙って来たか)


「アサルトオン!」

《Armor On》《Twinbullet Assault》


 それを前にして『雄也』は構えを取り、装甲を身に纏うと共に両手に作り出した銃の銃口を女神アリュシーダへと向けた。

 対する()()は空に広げていた無限色の光を収束させ、全ての種族と見紛う全身に衣服の如く纏わせる。種族は定かではないものの間違いなく女性的ではある形と相まって、その様はまるで天女のようだった。

 しかし、広域に発せられていた気配が一ヶ所に集約されたことにより、その恐ろしいまでの存在感は強まり、更に強大な威圧感となって『雄也』の膝を突かせようとしてくる。


(駄目だ。格が、違い過ぎる)


 まず間違いなく、『雄也』にこの存在を討ち滅ぼす目はない。

 真正面から戦いを挑むなど愚の骨頂だが、逃走が可能なだけの力もない。

 恐らく、背中を向けた時点で致命的な何かを食らうことだろう。

 勿論、正面から対峙していても勝ち目などない。

 それらは全て、変えようのない事実だ。それでも……。


「何故抗おうとするのですか?」

「そんな質問をされること自体、不思議だよ」


 必死に強がって向き合い、()()の問いにそう返す。

 人形の如くなった人々を見て尚、違和感を抱かないと言うのなら人間性に乏しいと言わざるを得ない。

 それこそ人間と神の感性の違いとでも言うべきか。


「逆に聞かせてくれ。お前は何故こんな真似をする?」

「それが人の望みだからです」

「人の望みだと? 何を、馬鹿なことを」


 淡々とずれた答えを返す女神アリュシーダに、思わず単純な非難の言葉をぶつける。

 が、()()は全く意に介していないようで、欠片も表情に変化を見せなかった。


「私は人の望むままにある者。貴方にも安寧を与えましょう」


 そして女神アリュシーダはそうとだけ告げると、直接的に『雄也』に干渉しようとしているのか、その手をゆっくりと伸ばしてきた。

 対して咄嗟に銃の引き金を引き、魔力の弾丸を放つ。

 しかし、大き過ぎる力の差を示すように、無限色の衣に当たった瞬間、『雄也』の攻撃は全て消滅してしまった。


「くっ」


 この様では恐らく魔力を収束しても無意味。

 そう判断して銃を捨て、全力で地面を蹴って後退を試みる。

 だが、女神アリュシーダはそれに即座に反応し、気味が悪い程滑らかな動きで回り込んできた。そのまま回避不可能なタイミングで再び触れようとしてくる。


(ま、まずい!)


 これ程の力の差。異世界人という特異性があって尚、間違いなく肉体も精神も何もかも自由自在に捻じ曲げられてしまうことだろう。

 そう分かって尚、何もできないことを自覚して背筋が凍る。

 そんな『雄也』の内心など関係なく、無慈悲にも()()の手は届きかけ――。


「させないわ!」


 今正にそれが触れんとした瞬間、何となく覚えのあるイントネーションの声と共に横合いから衝撃を受けて『雄也』は弾き飛ばされた。

 図らずも回避に成功する形となる。

 直後、『雄也』を突き飛ばした存在は、女神アリュシーダの前に立ちはだかった。


「ウェー、ラ?」


 口調から彼女と思うが、全体的に声がくぐもっている。

 いつものように仮面のせいという訳ではなく、明らかに低い。

 全身に纏った鎧にしても肥大化しており、全体的に二割増という感じになっていた。

 生命力と魔力も同等以上に強化されている。


「ウェーラ、なのか?」


 そうした外見と気配の変化のために。それだけでなく、あの症状によって彼女は単なる人形のように反応を見せなくなっていたために。確信が持てない。


「ええ。そうよ」


 だから、そう答えが返ってくるまで断言できなかったが、『雄也』よりも一回り大きいこの存在が本当にウェーラだったようだ。


「その姿は――」

「今は説明してる時間がないわ」


『雄也』の言葉を遮り、ウェーラは女神アリュシーダへと顔を向ける。

 ()()は突然の乱入者に状況の把握に努めているのか僅かに動きを止めているが、当然ながら脅威が去った訳ではない。

 この場で優先すべきはこちらだ。


「貴方の争いの種火は既に取り除いたはず。なのに何故、まだ抗おうとするのですか?」


 それから、女神アリュシーダは驚愕と共に理解できないというような様子を見せる。

 争いの種火というのは、恐らく進化の因子のことだろう。

 ()()からすれば、それは争いを生み出すものらしい。


「神様を驚かせることができるなんて、少しは溜飲も下がるわね」


 対してウェーラは不敵に言い放つ。


「私は決して屈しないわ。貴方のような存在に抗わない私は私じゃないから」


 あの症状に苛まれ、己を失っていた彼女の久々に彼女らしい姿はいつも以上に頼もしい。

 逆に少し心が緩みそうになるが、眼前の敵を強く意識して気を引き締め直す。

 如何に彼女が何らかの要因で強くなろうとも、この存在の力は底知れないのだから。


「まだ種火が残っているのであれば、それも私が取り除きましょう」


 その女神アリュシーダは、自分で尋ねておきながらウェーラの答えには特段興味がないかのように淡々と告げた。

 そして生理的な反射の如く即座に無限色を持つ干渉の輝きを放つ。が――。


「貴方の好きなようにはさせないわ」


 それだけでは今のウェーラは干渉を受けないようだった。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》


 そして彼女は魔力収束の魔動器を起動する。


《Change Therionthrope》《Convergence》

《Change Drakthrope》《Convergence》

《Change Phtheranthrope》《Convergence》

《Change Ichthrope》《Convergence》

《Change Theothrope》《Convergence》

《Change Satananthrope》《Convergence》

《Change Anthrope》《Maximize Potential》


 それに合わせて『雄也』もまた同じように魔動器を起動して魔力を急速収束し、ウェーラが動き出すのに備えた。

 未だ彼女が今どのような状態にあるのか分からないが、いずれにせよ、ここで動かない訳にはいかない。

 この状況でもし突破口があるとしたら、ここだけだろうから。


(二人でなら……)


 あるいは、この危難を潜り抜けることができるかもしれない。

『雄也』とは比べものにならない生命力と魔力に満ち溢れたウェーラの気配を傍に感じながら、そう希望を抱いて最善のタイミングを探る。

 だが、その希望は儚く脆いもの。

 意識して気を引き締めたつもりだったが、一人で戦わなければならないことへのある種の重圧からの解放という心の揺れ動きにより抑えられずに生じた緩みでしかない。

 当然、そこに明確な根拠などなく……。


「安寧の中に帰りなさい」


 次の瞬間、胸の内に生まれた僅かな希望は呆気なく打ち砕かれてしまった。

 女神アリュシーダは『雄也』に迫った時よりも遥かに速くウェーラの懐に入り込み、しかし、そこだけ緩やかな動きで彼女の腕の装甲に軽く触れる。

 それだけで、強大な魔力を帯びているはずのそれは容易く砕けてしまった。

 まるで装甲が自ら望んで崩壊したかのように。

 そして間髪容れず、女神アリュシーダは露出したウェーラの腕に柔らかく触れ、身に纏った無限色の光の一部を注ぎ込んだ。


「あ、ぐ……」


 如何に『雄也』を遥かに超えた力を持っても、女神アリュシーダと比較してしまえば小さなもの。直接干渉されてしまえば一溜まりもない。


「う、うぅ……」


 ウェーラは再び進化の因子を奪われてしまったらしく、捻じ曲げられた思考に苛まれてか頭を手で押さえながら苦しみ始める。


「ウェーラ!」


 その間、僅かたりとも反応できなかった『雄也』は、もがく彼女に呼びかけながら駆け寄ろうとすることしかできなかった。

 しかし、当然と言うべきか、女神アリュシーダが黙っている訳がない。


「次は貴方です。今度こそ世界に混沌を生む因子を排除します」


 ()()は『雄也』がそうした行動を取る間に接近してきていて、ウェーラにしたように装甲を取り払わんと手を伸ばしてきた。

 やはり最初の動きは全く本気ではなかったらしく、目で追うことも難しい。

 無論、それを回避することなど『雄也』には不可能だった。


(もう、駄目なのか)


 もはや理不尽としか言いようがない。

 それ程までの力の差を前に、諦めが一気に心を埋め尽くしていく。

 それによって思わず目を閉じてしまった次の瞬間――。


「あ、あああああああああああっ!!」


 命を削って力を絞り出さんとするような絶叫と共に、ウェーラから更なる力が放たれる。

 同時にその気配が動き、女神アリュシーダにぶつかって押し退けていった。

 ハッとして瞼を開き、そして認識した光景に我が目を疑う。


「ウェーラ!?」


 そこにいたのは女神アリュシーダに掴みかかる巨人。

 先程までの彼女の優に二倍を超える体躯とそれに合わせた装甲を持つ姿。

 巨大化に伴う修復が間に合っていないのか、女神アリュシーダに破壊された部分はまだ腕が剥き出しで、明らかに基人(アントロープ)のものではない肌が露出していた。


「まさか超越人(イヴォルヴァー)に? いや、それどころか過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を!?」


(もしかして、あの魔動器は)


 その姿から、彼女が身に着けていた新たな魔動器はこのためのものだと推測する。


(そうだ。真超越人(ハイイヴォルヴァー)から過剰進化(オーバーイヴォルヴ)する分には問題ない。だったら、俺も)


 首から下がるペンダント状の魔動器を意識し、胸元に手を置く。

 完全に思考から抜けていたが、まだ方法があった。

 そう思い、視界が晴れたような感覚を抱くが――。


『ユウヤのそれはそのためのものじゃないわ』


 そんな『雄也』の考えを読んだように、ウェーラの声が脳裏に響いた。

 反撃をされる前に押し切ろうとするが如く女神アリュシーダを苛烈に攻めている姿とは裏腹の、どこか穏やかな口調で。


過剰進化(オーバーイヴォルヴ)もしちゃ駄目よ。単なる過剰進化(オーバーイヴォルヴ)じゃ女神アリュシーダには敵わないわ』

『何を言って……だったら、その過剰進化(オーバーイヴォルヴ)は……』


 そこまで言って気づく。

 彼女の全身を覆う装甲には亀裂が入り、端の方から少しずつ崩れていっていることに。


『まさかっ!?』

真超越人(ハイイヴォルヴァー)でも耐えられない過剰進化(オーバーイヴォルヴ)。それでも、届かないわね』


 予想通りの答えがウェーラから伝えられ、呆然としてしまう。

 彼女の澄んだ声色に諦観が滲んでいるのを感じ、思考が凍りつく。


『ユウヤ。私の最後の悪足掻き、しっかり見届けてね』

『ウェーラ!!』


 抑止の意を込めた呼びかけにウェーラは答えることなく、そして彼女は女神アリュシーダとの戦いへと没頭していった。

 己の命の最後でもある時間へと。

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