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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第八章 始まりと新たな始まり

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第三十九話 繰返 ②抗体にようなもの

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。過去に戻り、傀儡勇者召喚を妨害すると共に国王達を一掃する!

 二つ。記憶を受け継いだウェーラと共に、社会への不干渉による変化を確かめる!

 三つ。国は滅んだものの他の要因で症状が発生し、再び時間跳躍を行う!

 支配は敗北。

 ある意味で自らの信条に束縛され、二回目の時間跳躍を行った後の三度目の時間軸においても、ターニングポイント(症状の発現)に至るまで世界の流れを変えることはできずにいた。

 そもそも「人々の自由を奪わずに」という条件の下では、選択肢が限られる。

 その時まではMPドライバーと魔動器の改善、開発を行うぐらいしかない。

 人格への干渉は勿論、戦争に直接手出しすることも(『雄也』もウェーラも本来積極的に戦争に関わりたい人間ではないため、誰かの自由が奪われない限り)抵触するのだから。

 と、あたかも己の信念を枷の如く表現したが、全て自分自身の意思による選択だ。


(支配すれば症状が出なくなる保証もないからな)


 その上、一度でもそれをすれば自分という存在すら倒すべき敵となる手段。

 だと言うのに、効果が確実でないなど実行する価値もない。

 前回状況に進展がなかったせいで頭を過ぎったが、本来なら検討にも値しない話だ。

 が、そうやって己の信条に反した方法を否定し、自分にとって納得できる手段を模索し続けていても、具体的な成果が出なければ格好もつかない。

 だから、症状が発現した後のウェーラ達を詳細に検査しても期待した通りに手がかりが得られなかったら、と内心焦りを抱いていたのだが……。


「やっぱり進化の因子が減少してるみたいね」


 分析に時間がかかり、タイミングは三回目の時間跳躍の間際という頃。

 ようやく、あの症状について一つ分かったことがあった。

 一度目の世界では状況に振り回され、二度目の世界では傍観によって生じる(予定だったポジティブな)変化を探るために結局行うことができなかった、症状の治療あるいは緩和を目的とした研究の成果だ。


(一度目の世界でパラエナが一瞬水棲人(イクトロープ)へと退化したことを思い出すと、ある意味あの時点で予測可能なことだったかもしれないけど……)


 あの時も二度目の世界でも、冷静に顧みる余裕がなかった。

 端から発生を防ぐことを優先していたから、という部分も多少はあるにせよ、そこは次につなげるためにも反省しなければならないことだ。

 いついかなる時も論理的な思考は失うべきではない。

 とは言え、今は僅かなりとも進展があったことを喜ぶべきだろう。


「……けど、さすがにそれだけであんな症状になるとは思えないわ」


 生命力や魔力の減退、認知能力の低下辺りは、進化の因子喪失の影響が考えられ得る。

 が、それによって個人の思想にまで影響が出るのは違和感がある。


(まさか、進化の因子が争いそのものの原因なんてことは、多分ないはずだし)


 進化の因子がほぼ活性化していないと思われる元の世界でも争いが頻発していたことを鑑みても、そこはある意味人間の生物としての特性だと思う。

 あの多くの一般市民が抱いていた厭戦的な空気が一気に社会全体へと浸透していったのは、別の要因によるものである可能性が高い。


「まあ、いずれにしても大きな進歩だわ。つまり、減少した進化の因子を補充すれば症状の進行を止めることができるかもしれないってことだからね」


 と、久々に研究関連で明るい声を出すウェーラ。

 一回目の時間跳躍の少し前から長々と行き詰まっていた訳だから、何だかんだ言って鬱憤も溜まっていたに違いない。

 少しでも気持ちが晴れたのはいいことだ。が……。


「補充って、そんなこと可能なのか?」

「減ったんだから、増やせるはずよ」

「そんな単純な」


 冗談を言っているのかと思い、呆れ気味に言葉を返す。

 しかし、彼女の表情を見るに、どうやら本気のようだ。


「実は、ユウヤが来る以前から進化の因子を増やすことができないか研究してたの」


 それからウェーラは打ち明けるように言う。

 だが、これは改めて考えなくとも、彼女なら当然のことと納得できる話だ。

 人類を進化させ、存在の限界を取り払おうという彼女が、人間の成長に深く関係する進化の因子について研究していないはずがない。


(進化の因子が多ければ多い程、より強く速く進化できる。なら、外部から進化の因子を増やしてやれば、更なる進化が望めるかもしれない)


 そんな仮説は真っ先に思いつくことだ。


「それで、結果は?」

「失敗。人によって定着する量は基本的に決まってるみたいなのよ。で、普通は生まれた時点で飽和状態にあるから、それ以上進化の因子だけを与えても全くの無駄だったわ」


 一瞬「それじゃあ駄目じゃないか」と思うが、現状と照らし合わせてハッとする。


「各々の進化の因子が減っていってる今なら……」

「そういうこと。余地ができてるなら、進化の因子を与えることができるはず」


 既に一定の知見があることから見ても、進化の因子はそう名づけられただけの現象ではなく、細胞のように物質的に存在するものであることは間違いない。

 であれば魔法のある世界だ。抽出し、付与するぐらいお手のものだろう。しかし……。


「そこはそうだとして、失われる以上に与えることができるのか?」


 何らかの力で進化の因子が消失する現状。穴の開いた桶に水を溜めるようなものだ。


「そうね」


 ウェーラは『雄也』の懸念はもっともだと言うように頷く。


「……まあ、ここから先は完全に推論でしかないけど――」


 それから少し自信がないのか、やや躊躇いがちに前置いてから彼女は言葉を再開した。


「ユウヤの進化の因子を抽出して培養したものを付与すれば、もしかしたら付与した進化の因子が失われずに済む可能性があるかもしれない」

「俺の、進化の因子で? 進化の因子にそこまで違いがあるのか?」


 その推論を耳にしても今一ピンと来ず、軽く首を傾げて問いかける。

 異世界人の成長速度が速いことを考えると、容量は多そうだが……。


「この場合はそれ自体の違いと言うより、ユウヤ自身が異世界人だからってところね」


 対するウェーラの答えは、いつものようにやや迂遠。

 だが、詳しい説明を後回しにするのは彼女の癖のようなものだ。

 だから、『雄也』は続く説明を静かに待った。


「症状からして、あれは単なる病気じゃない。何らかの意思を持った存在がこの世界の人類に直接干渉してると考えるべき。だけど、ユウヤに影響がなかったことを見る限り、異世界人には干渉できないのだと思う」


 語られた内容には素直に頷く。『雄也』に症状が出なかったことは紛れもない事実だ。

 もしかしたら他に比べて進行が緩慢なだけかもしれないが、たとえそうだったとしても耐性のようなものがあるのは間違いない。


「ユウヤの進化の因子もそうである可能性が高いわ」

「そこは、どうだろう」


 それは少々飛躍気味な気もして、やや懐疑的な言い方をしてしまう。

 実際、ウェーラも断言はしていない。比較的可能性が高いのは本当だろうが。


「試してみる価値はあると思うけど」


 それでも彼女は提言した本人として不満げな顔を作り、しかし、そう言うに留めた。

 根拠が乏しいとは自分でも思っているようだ。とは言え……。


「それは、うん」


 実際に一個一個検証していってこその研究だ。

 やや強引な論の展開でも、折角仮説が一つ立ったのだから調べてみるべきだろう。


「とりあえず、進化の因子の培養からか?」

「そう。すぐにでも、と言いたいところだけど多分時間が足りないわ。いつ私の意識が限界を迎えるか分からないし。最初に戻って入念に準備してからにした方がいいと思う」

「……そう、だったな」


 ウェーラの返答に頷いて同意する。

 進化の因子の減少という可能性に気づいてから確信を持てるだけのデータを収集、分析するのに時間を取られ、既に彼女の症状は末期に近い。

 進化の因子を必要量培養する日数も相応に必要なはずだ。

 対象は全人類なのだから。

 そういう訳で『雄也』はその場で三回目の時間跳躍を行い、四度目の世界に赴いた。

 過去二回と同じように傀儡勇者召喚を妨害し、人体実験用の被験体を確保。

 そして『雄也』から抽出した進化の因子を培養しながら時を待ち、再び世界的にあの症状が発生し始めたのを見計らって実証実験を開始する。

 その結果は…………ウェーラの推論は半分正解、半分外れという感じだった。


「とりあえず、私の症状は改善されたみたいだけど……」

「皆が皆、異世界の進化の因子が定着する訳じゃないみたいだな」


 確かに異世界の進化の因子は世界からの干渉を受けないようだった。

 だが、それは即ち『雄也』も『雄也』から得たこの因子も異分子である証。

 そう容易くこの世界(アリュシーダ)の人間が恩恵にはあずかれないようで、一定以上の生命力と魔力を持つ者しか異世界の進化の因子を我がものとすることはできなかった。

 サンプルが足りないので確定ではないが、魔法でコールドスリープさせておいた国王や騎士で試した限りでは、生命力も魔力も最低二等級は必要というところだ。

 無論、誰かの自由を侵害した彼らはたとえ成功例でも処分したが、それは余談だ。


「半端な結果だけど、まあ、一先ず可能な限り進化の因子を付与して経過観察しましょ?」


 と、どこか釈然としない雰囲気でウェーラが言う。

 スッキリ解決とまではいかなかったからだろう。

 いずれにせよ、彼女は完治したようだから今回は時間跳躍せずにそうすべきだ。

 まだ症状の発現から日が浅く、人格を改竄され尽くしている者も比較的少ないのだから。


「あー、でも、パラエナとかは……」


 そうは考えつつも、各種族の最上位の濃ゆい面々を思い返して若干躊躇う。

 あの辺の調子を先に取り戻させてしまうと、社会に要らぬ混乱を招いてしまいそうだ。


「分かってるわ。まずは下限ギリギリからね」


『雄也』が内心で展開した建て前と苦手意識の両方を察してか、苦笑気味に頷くウェーラ。


「二等級ぐらいだと、そろそろ自分を保てなくなってきてるでしょうし」


 彼女は更に、そうする理由もつけ加えた。

 まだ完全に自我を失っていないのなら、この治療を受けるか否かの判断は可能だ。

 意思を確認せずに勝手に進化の因子を付与する訳にもいかない以上、被験者を増やすという観点から言っても下から順に行った方がいい。

 そうして、恩恵を受けることが可能な人々に下から順に進化の因子を与える運びとなり、『雄也』はウェーラと共に世界中を巡った。

 既に傍観時の流れの通りに滅び、しかし、あの症状によってその他六国による共同統治となった唯星(モノアステリ)王国改め七星(ヘプタステリ)王国を含めた七国全てを。

 それによって最上位を除いた上位の者達は、進化の因子を再び得たのだが……。


「何だか、またキナ臭くなってきたわね」


 そうなれば再び種族的な対立がチラホラ見られるようになる。

 特に基人(アントロープ)を含めた七種族が集まる七星(ヘプタステリ)王国において。

 とは言っても、進化の因子を取り戻したのは全体から見れば極一部なので、精々小競り合いという程度だが、末期の世界からすると明らかに急増している。


「まあ、これがこの時代における本来の人間の姿だろうけど」


 互いに接触の乏しかった種族。民族と置き換えてもいい。

 それが最初から何の衝突もなく共存できるなど、元の世界の歴史から見てもあり得ない。

 幾度となく争い、その果てに少しずつ相互理解を深めていくことでしか共存の道を開くことなどできはしない。そうして歴史を重ねてきた元の世界でさえ途上なのだから、やはりあの症状が蔓延した世界は異常にも程がある。

 進化の因子を失ったままの者達の姿も、悪目立ちしている。

 数で言えば彼らの方が多いのだから、悪印象は『雄也』の主観による感想だが。


「あっちはまるで人形ね」


 ウェーラもそう思っているようで、嘆息気味に言う。

 彼らは、我関せず、と言うよりも変化を認識できていないかのように過ごしていた。

 小競り合いに巻き込まれても、何もせず嵐が過ぎ去るのをただ待つばかり。

 正直、薄気味悪さばかりが募る。


「一応、生命力や魔力を底上げできれば彼らにも進化の因子を付与できるはずだけど、意思の確認をどうすればいいかしら」


 まだアイデアがないようで、困ったように腕を組んで考え込むウェーラ。

 いずれにせよ、事態収束、とまでは行かずともその可能性は得られたと言える。

 元凶は分からないままだが。


「ともかく、進化の因子を持つ人間の数を一人でも多く戻さないとね。だから……」

「パラエナ達も、だな」


 微妙にテンションが下がるが、これは必要なことだ。

 世界の情勢は乱れそうだが、そこは彼女らを含めたこの世界の人類の選択。

 誰かの自由が決定的に奪われない限り、『雄也』が干渉すべきことではない。

 進化の因子の付与について選択肢を提示し、彼女らの意思に沿った処理を行ったら、後は関わらないようにすれば問題ないだろう。


「まあ、パパッとやっちゃいましょ?」


『雄也』の反応に苦笑気味に言いながら、転移魔法の準備に入るウェーラ。

 それから彼女が魔力を活性化させた正にその瞬間――。


「え?」「なっ!?」


 一定の成果を得られたことで僅かに緩んだ心の隙を突くように。

 七星(ヘプタステリ)王国の王都としてガラクシアスと名を変えた街で、今まで感じたことのない異様な気配を『雄也』とウェーラは同時に感じ取って思わず声を上げた。


「何、これ」


 気配と言ったが、その表現も正しいとは思えない。

 無があるとでも言うべき妙な感覚。そこだけぽっかりと穴が開いているかのようだ。


「と、とにかく状況を確認しないと」


 互いに頷き合って家を飛び出す。


「「アサルトオン!」」


 明らかな異常事態故に、最大限の警戒と共に装甲を身に纏いながら。

 そして違和感のあった地点に急行しようとするが……。


「な、何か、変だ」


 目的の場所に近づくにつれ、そこに対する違和感が薄れていく。認識が乱れていく。

 その事実が別の違和感を作り、尚のこと混乱をきたす。


「これ、あの症状みたい……」


 ウェーラもまた同じ感覚を抱いているようだったが、どうやらそれは彼女にとっては覚えのあるものだったようだ。


「一体何なんだ、くそ」


 認識歪曲とでも言うべきそれに晒されている苛立ちを吐き出すように悪態をつきながらも何とか耐えて進み、ようやくその中心に辿り着く。

 人気の乏しい路地裏。そこで『雄也』達は見た。


「気持ち、悪い。何なの、これ」

「わ、分からない。俺は何を見てるんだ?」


 しかし、それが何か認識することはできなかった。

 眼前にあって確実に視界に捉えているにもかかわらず。


「ユウヤ、あれ!」


 そんな中、ウェーラがハッとしたように言いながら何かを指差す。

 その先に視線を向けると、そこには獣人(テリオントロープ)魔人(サタナントロープ)の女二人が何かにまとわりつかれながら、そうと自覚していないかのように呆けた表情で地面に転がっていた。

 そんな彼らを目の当たりにして、しかし、認識歪曲によって思考がまとまらず次に取るべき行動を選択し切れずにいると――。


「って、こっちは危ない! 来るな!」


 奥の方から水棲人(イクトロープ)の男が何の警戒心も抱かず路地裏に入ってきてしまった。

『雄也』の声は届かず、そのまま虚ろの塊の如き何かの傍まで来てしまう。

 それを前に彼もまたそれに囚われる未来を予測するが……。


「え?」


 水棲人(イクトロープ)の男は何ごともなかったかのように素通りし、大通りへと消えていった。


「ど、どう、なって」


 まるで何も見えていなかったかのような様相に戸惑う。


《魔力ノ急速収束ヲ開始シマス》


 と、突如として隣から電子音が鳴り、『雄也』はウェーラを振り返った。


《Change Therionthrope》《Convergence》

《Change Drakthrope》《Convergence》

《Change Phtheranthrope》《Convergence》

《Change Ichthrope》《Convergence》

《Change Theothrope》《Convergence》

《Change Satananthrope》《Convergence》

《Change Anthrope》《Maximize Potential》

「イリデセントアサルトシューティング!」


 いつの間にか銃を構えていた彼女は僅かな躊躇も見せず、何かに急き立てられるようにその空虚な存在へと全力の攻撃を放つ。

 六色の輝きを湛えた光弾の強大な魔力を前にして、ようやくその存在はこちらに気づいたようだったが、それが何か反応するより早くウェーラの一撃は突き刺さった。

 それにより、この世界トップクラスの力を持つ『雄也』達の認識をすら大いに乱した影響力とは裏腹に、ブラックホールの如きそれは呆気なく消滅する。


「ウェーラ?」


 どこか彼女らしくない感情的な行動に、『雄也』は困惑しながら呼びかけた。


「ご、ごめん。根拠はないけど、一秒でもこの世界に存在を許しちゃいけない気がして」


 ウェーラはそうとだけ答えると、人形の如く倒れ伏す二人の女性に近づいて軽く触れる。


「その人達、大丈夫なのか?」

「……駄目。人格が破壊されて――え?」


 彼女は『雄也』の問いにそう返しかけ、しかし、次に起きた出来事に驚愕の声を上げる。

 二人の女性は奇怪な動きで立ち上がると、呼び止める間もなく去っていってしまったのだ。人形のような生気のない顔で。

 にもかかわらず、大通りに出ると人々の流れの中に紛れ込んでいく。

 その時には表情がある程度戻り、少なくとも進化の因子を持たない者達のどことなく作り物めいた顔とは見分けがつかなくなっていた。


「な、何なの?」


 目の前で展開された奇怪な出来事を前に当惑し、立ち尽くすウェーラ。

 正直『雄也』も同じ気持ちだ。が、この場に留まっていても仕方がない。


「ウェーラ、一先ず帰ろう」

「う、うん」


 そうして『雄也』達は虚無の塊の如きあの存在の正体も分からないまま家に戻った。のだが、以降進化の因子を付与したはずの人間がそれを失う事件が頻発するようになった。

 それに伴い、僅かなりとも真っ当な認識を保ちつつ難を逃れた者の証言が出始め、進化の因子を失った人々が『雄也』達が遭遇した謎の存在と接触していたことも判明した。

 しかし、あれ以来『雄也』達が直接対峙することはなく、ただ時間は過ぎていく。

 そして遂には、進化の因子が失われる速度が付与する速度を完全に上回ってしまった。


「神様(仮)を、本気にさせたってところかしらね」

「神様、か。なら、あの存在は言わば天罰。ネメシスってところか」


 あるいは、『雄也』達の行動に対する免疫作用とでも考えるべきか。

 とりあえずは、ファンタジー世界だからネメシスの方で呼称することにしておく。


「いずれにせよ、状況はもう行き詰まってるわ」


 苛立たしげな様子を見せるウェーラに『雄也』は頷いた。

 元々進化の因子の付与だけでは根本的な解決には至らないと分かってはいたが、こうも早く新たな問題が出てくるとは思わなかった。

 こうなると別の手段を考えなければならないが……。

 もはや、この段階ではやれることが限られてしまう。


「私達二人だけなら何とか誤魔化して過ごしていけるかもだけど」

「……そんなこと、望んじゃいないんだろ?」

「当然よ。自由なき安寧なんてものを私は求めない。そんなのは私じゃない。ユウヤだってそうでしょ?」

「勿論」


 全てに目を瞑って生きていくなど、自らの信念も自由も踏みつけにしているようなもの。

 それをした時点で、人格を奪われた者達とそう変わらない。


「だったら――」


 後はもう、再び一からやり直すしかない。

 次はネメシスが現れるという前提で対策を立てながら。

 そしてそのために、『雄也』達は四回目の時間跳躍を行ったのだった。

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