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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第八章 始まりと新たな始まり

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第三十八話 回帰 ③脇道の真実

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)が再び現れ、元凶を探らんとウェーラと共に現場に向かう!

 二つ。後に六大英雄と呼ばれる者達が、超越人(イヴォルヴァー)を人質に戦いを挑んでくる!

 三つ。元凶を取り逃がすも超越人(イヴォルヴァー)を解放して戦場を離れる中、僅かな異変を目にする!

 あれから約二週間。

 何度も過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)は現れたものの、犯人の手がかりとなり得るそれ、即ち何者かに制御された状態にある超越人(イヴォルヴァー)が出現することはなかった。

 パラエナ達の妨害を回避しながら、ひたすら過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を解除する日々が続いただけだった。尽く暴走した状態だったため、さしもの真人達もそれを人質にはできなかったが。

 そして今日もまた。


「いい加減、俺のことは放っておいてくれないか? 俺は唯星(モノアステリ)王国についてる訳じゃないんだ。この戦争に関わるつもりも毛頭ない」


 暴走状態にある超越人(イヴォルヴァー)への接近を妨げようとする彼女らに、駄目元で説得を繰り返す。


「口では何とでも言える。何より、それ程の力が存在することそれ自体が脅威なのだ」


 対する相手は、相も変わらず聞く耳を持たない感じだった。

 対峙する度に似たような応酬となるので、正直分かり切っている反応だが。

 そうやって反論をするのは、日にもよるが、主にラケルトゥスかスケレトスだ。

 パラエナやビブロスは雰囲気からして問答無用という風だし、リュカは黙々と仕事をこなす感じ。コルウスに至っては、姿を隠して不意打ちを仕かけてきていた。


(本当に、厄介な奴らだ)


 毎度毎度邪魔をされると忌々しいことこの上ない。

 が、いずれにせよ、自分がすべきことは一つだ。彼らがどのような考えを持とうとも。


「〈六重(セクステット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)〉」


 だから『雄也』は、この場の最善として迷うことなく過剰な身体強化を使用した。

 そして全てを短時間で終わらせるため、その力を以って暴れ回る超越人(イヴォルヴァー)との距離を一気に詰める。そのまま、勢いをも利用した体当たりで対象の巨体を大きく浮かせた。

 現時点で世界最上位の速さ故に、何者も妨げることはできない。


「待――」


 それでも、さすがと言うべきか、真人たる彼らは少なくとも『雄也』の動きの軌道を追うことはできたようだ。咄嗟にこちらを振り返っている。

 更に彼らの実力ならば、『雄也』が超越人(イヴォルヴァー)を元の姿に戻して転移するまでの間に攻撃の一つや二つ行うことも不可能ではない。しかし……。


(またか。一体何なんだ?)


 唐突に、彼らは不自然なまでに動きを鈍らせていた。

 まるで次に己がなすべきことを忘却してしまったかのようだ。

 不審に思いはするが、その隙を逃して考察していられる程の余裕はない。


《MPキャンセラー、実行シマス》


 過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した彼を元に戻すことを優先させ、『雄也』は突進の勢いを使用して対象を空へと連れ去りながら魔動器を起動させた。


《過剰魔力吸収中…………完了》

「〈テレポート〉」


 そして彼が確かに基人(アントロープ)の姿に戻ったのと同時に、転移魔法を発動させる。

 その直前でパラエナ達は我に返ったようだったが、もはや後の祭りだ。

 彼女らの苛立った表情を最後に視界は移り変わり、無事に見慣れた景色が映る。


《Armor Release》


『雄也』は自宅という安全地帯で変身を解くと、人格を失ってしまっているが故にぐったりとしている彼を一先ずソファに寝かせてから一息ついた。

 過剰な身体強化の影響は、短期間だったためか余りない。微妙に疲れた程度だ。


「…………ウェーラ?」


 自分の状態の確認を終え、念のため戦場に同行しつつも一足先に戻った彼女を探す。

 いつもなら家に帰ってくると即座に労いの言葉をくれるのだが……。


「ウェーラ」


 実験室で姿を見つけ、声をかける。が、彼女は反応せずにぼんやりと佇むばかりだった。

 仕方なく、近づいていって軽く肩を叩く。


「え? あ……」


 すると彼女は、今初めて『雄也』の存在に気づいたようでハッと顔を上げた。

 それから、そんな自分に呆然としたように視線を揺らし、ぎこちなく口を開く。


「お、お帰り」

「ただいま。……ウェーラ、大丈夫か?」


 少し前から出始めている妙な症状。頻度が増しているだけに心配だ。


「ちょっと……このままだと駄目かもしれない」


 彼女自身、そうした部分に気づいているだけに随分と弱気になってしまっているようだ。

 当然のことだろう。

 回数だけで見ても明確に悪化しているし、原因も分からない。

 加えて意思が薄弱になるが如きその症状。それを自覚して恐怖しない者はそういまい。

 これが常態化して自覚できないなら恐れも生じないだろうが、時折まともになるのだ。

 どちらがいいかは一概には言えないかもしれないが、感情が乱れるのは確実に後者だ。


「……ウェーラ。街に気分転換に行こう」


 だから『雄也』は彼女にそう提案した。

 さすがに、今の状態で目前の問題に囚われたままでいるのは最善とは言えない。


「………………そうね」


 実験を優先せずに素直に頷く辺り、彼女も今はそうするべきだと判断しているようだ。

 ならば善は急げと、過剰進化(オーバーイヴォルヴ)から元に戻った基人(アントロープ)を王城に安置して処理を押しつけてから街に向かう。これまでも最も効率的だからそうしてきたが、今それは余談だ。

 そうして久々に街を訪れる。と、すぐに以前との差異が肌で感じられた。


「何だか、人が多い気がするな」


 それに加えて、暗く厭戦的な雰囲気が薄れている。いや、それどころか、未だ戦時下のはずなのに、少しだけ穏やかな空気すら流れている。微妙に活気もある。

 それ自体は悪いことではない、はずだ。


(……妙な違和感があるけど)


 しかし、『雄也』にはどことなく白々しく、作り物のように感じられた。


「さっき城に行った時も変な感じがしたから騎士達の頭の中を覗いてみたけど、何故だか戦力を引き上げてるみたいよ。下位の兵士達が使いものにならなくなったとか何とか」


 対して、隣で考え込むように俯きながらウェーラは言う。

 つまり、人通りが増えた分は戦場帰りの基人(アントロープ)ということか。

 それにしても――。


「使いものにならなくなった?」


 初耳の話故に詳細がよく分からない。

 首を傾げながら、彼女の言葉を繰り返して問う。


「うん。……どうも私と似たような症状が出たみたい。ただ、私よりも遥かに急激に進行してたみたいだけど。生命力と魔力の差でその度合いが違うようね」


 ウェーラはほんの少しだけ鬱々とした感じから脱し、いつもに近い調子で答えた。

 現在進行形で自らにも起きている異変。

 それに関する情報を僅かであれ得ることができたためか、微々たるものながら気力が回復したようだ。とは言え――。


「それだけならまだしも、急に宗旨替えしたみたいに考えも変わるとか。極めて排他的だった人間が突然異種族に寛容になったりね」

「何だ、それ」


 どれもこれも直接答えに至る情報ではない以上、一刻も早く事態を解決できなければ結局は一時的な改善に留まり、ウェーラの状態もまた逆戻りしてしまうだろうが。


「本当に、何が起きてるのやら」

「…………とりあえず、腰を落ち着けようか」


 調子を取り戻したら取り戻したで考え込み始めるウェーラの姿に、解決は程遠くとも少し安堵しつつ、彼女を促して喫茶店と思しき飲食店に入る。

 こういう場所に来るのも結構久し振りな気がする。


「そう言えば、前に街に来た時は超越人(イヴォルヴァー)が暴れて、最後までゆっくりできなかったわね」


 そして席に着くと、彼女はそう振り返った。

 確かに、とまず思ってから、ふと気づく。


(………………って、それ、フラグじゃ――)


 まさか、とは思うが、何となく嫌な予感がする。

 更に、そんな風に意識してしまうこともまた一種のフラグになってしまうのではないだろうか、と『雄也』は連鎖的に考えてしまった。

 そこで今度は意識しないようにするが、それは逆に強く意識してしまうことになる。

 そうやって積み重なったからかは分からないが、結果として見事に的中してしまった。


「何かまた外が騒がしくない?」


 今度は料理を頼む前に、店の外から人々の叫び声が聞こえてきた。

 街を行き交う人の数が増えているだけに、前回よりも喧騒がより大きく耳に届く。


「と、とにかく、状況を確認しよう」


 いずれにせよ、呑気に食事を取る選択肢は存在しない。

 即座に席を立ち、踵を返して店の外に出る。


「また過剰進化(オーバーイヴォルヴ)した超越人(イヴォルヴァー)か。…………ん?」


 見覚えのある光景。しかし、頭の中で前回のものと比較すると違和感がある。

 過剰進化(オーバーイヴォルヴ)の混沌とした異形化の中に僅かな女性的な起伏を残した超越人(イヴォルヴァー)

 その触手の動きは乱雑ではなく、進行の邪魔になる建物のみを破壊して押し退けたりと一定の意思が感じられる。暴走しているようには見えない。

 それ故に虚を突かれた。説得可能な被害者かと一瞬考えて。

 次の瞬間、彼女は触手を一直線に伸ばし、刹那の内に逃げ惑う人々数名の心臓を貫いた。


「なっ!?」「え!?」


『雄也』達が対象の行動に愕然とする間にも、即死の一撃を受けた市民達は何かを吸い取られているように萎んでいき、やがて単なる土塊になってしまう。

 これは、我を失って暴れ回った結果として被害が出た訳ではない。

 間違いなく、何らかの意図を以って罪もない人々を殺害したのだ。


『何のつもりだ!?』


 だから『雄也』は、恐らく人格を保っているだろう彼女に〈テレパス〉で問い質した。


『もっと、もっと力を。魔力結石を、魔力吸石を』


 案の定と言うべきか、意思を有している証拠として思考が返ってくるが、問いの答えとしては食い違っている。

 ある種の反射として思考を垂れ流しているかのようだ。


『私を失わないためにも、全て私の糧となれ。たとえ化け物になろうと構わない!』


 完全に視野狭窄に陥っていると言ってもいい。


「これは、もしかして……〈アトラクト〉」


 その様子にウェーラは何かに気づいたように呟くと、手元に魔動器を転移させた。

 そして即座に、それを超越人(イヴォルヴァー)に撃ち込む。

 人格を失って機械的、本能的に防御していた以前の個体とは違い、自我を残しているが故に認識に限界があったのだろう。

 魔動器は何に妨げられることなく、彼女の体に突き刺さる。


「そう……貴方が、過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を繰り返してた犯人だったのね。魔法研究所所長」

「魔法研究所の所長!? いや、そいつはもう……」


 この前、ウェーラが人体実験に用いて殺したはずだ。


「あれは身代わりだったみたい。国王の指示で共に過剰進化(オーバーイヴォルヴ)を研究してた同僚に、自分の記憶を移植して仕立て上げた。勿論、相手側の記憶は完全に抹消してね」

「そんな高度な精神干渉、オルタネイトか超越人(イヴォルヴァー)にでもなっていないと――」

「そうね。だから超越人(イヴォルヴァー)になってたのよ。その技術を得た時点で」


 どうやら彼女は、研究に対して他と一線を画す覚悟のようなものを持っていたらしい。

 であれば、ウェーラを欺くことも不可能ではないかもしれない。

 腐っても魔法研究所の所長にまでなった人物だ。発想力の差はあれ、生命力、魔力の点ではMPドライバーを得る前のウェーラと同等のはずだし。


「……全ては私より優れていることを証明するためにね」


 更に、理解できないと言わんばかりの口調でつけ加えるウェーラ。

 しかし、その証明のために利用している力のほぼ全ては、そもそもがウェーラによって確立されたものだ。

 生み出した派生技術にしても、功を焦る余り変な方向に進んでしまっている感がある。

 何とも本末転倒な話だ。だからこそ、余計に拗らせてしまっているのかもしれないが。

 いずれにせよ、動機については理解した。


「けど、それが何で自分に過剰進化(オーバーイヴォルヴ)なんか」


 別に強さで上回りたい訳ではなかっただろうに。


「どうやら彼女にも、私や兵士達と同じ症状が出てたみたいだわ。時折己の意思が薄弱になり、その事実を自覚したことで強い恐怖を抱いた。その中で、生命力や魔力が強い者程症状が軽いことに気づいて……」


 人の形すら放棄しても、その恐怖から逃れたかったということのようだ。

 過剰進化(オーバーイヴォルヴ)の実験のために多くの基人(アントロープ)を利用していたこともあり、その辺りの傾向についてはウェーラよりも先に気づいていたのだろう。


『強い力。貴様ら、その力を寄越せ!!』


 と、魔法研究所の所長は、『雄也』達が持つ生命力と魔力に引きつけられたのか、触手の矛先を二人に向けてきた。

 空気を貫くようにして、鋭く速い攻撃が迫り来る。

 が、半端に意思が残っているため、予測は十二分に可能だった。

 並の基人(アントロープ)ならばいざ知らず、今の二人ならば変身していなくとも回避できる。


「「アサルトオン」」


 そして、触手を避け続けながら二人声を揃えた。


《《Armor On》》

《《Convergence》》


 電子音と共に装甲が生成された直後、そのまま魔力収束を開始する。


《Gauntlet Assault》


 と同時に『雄也』はミトンガントレットを纏った拳を構え、ウェーラはいつの間にか傍に現れていたアサルトレイダーを大砲の如き形に変えた。


「いずれにしても、今この場で人を殺したこと、そして多くの人々を己が欲望の道具としたことは許さない」

「研究は他人より優位に立つためにやるものじゃないでしょうに。自分自身の好奇心、欲望と人類の進歩のためだけに行わないと」

「……人類の自由の敵。他者の人格を手段としてのみ扱う者に断罪を」


 そして届かないとは分かっていても、魔力収束の十秒の間に糾弾するように告げ――。


「イリデセントアサルトシューティング」

「レゾナントアサルトブレイク!!」


 ウェーラの一撃によって露出した心臓を、『雄也』は殴り潰した。

 それによって対象たる超越人(イヴォルヴァー)は、断末魔の叫びを上げる間もなく絶命し、その体もまた完全に崩壊してしまった。

 妨害もない状態で二人で戦えば、そう苦労することはない。


「…………何か、釈然としないな」

「そうね。勝手に炙り出されてきたと言うか」


 当面の懸念事項だったものが、その実、本筋とは全く関係ないところにあって、何のカタルシスもないまま消化されてしまったが如き唐突感。

 茶番のような空虚な空気を強く肌に感じる分だけ、別の大きな何かが蠢いているような嫌な感覚すら湧き上がってくる。


「……とりあえず、今日は帰ろうか」


 もう気分転換という雰囲気でもない。ウェーラも同じようで『雄也』の提案に頷く。

 それから転移魔法で家に戻ったが、彼女は再び思い悩むようになってしまった。


「彼女はどうしようもない人間だったけど、気持ちは少し分かる。私も、私自身を失いたくはないわ。あんな状態、私じゃないもの」


 その中でポツリと呟かれた言葉が酷く印象的だった。

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