表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第七章 ○○○ENDルート

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

141/203

第三十五話 流転 ②真なる脅威の欠片

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。アテウスの塔により進化の因子がばら撒かれ、少しずつ世界が変容していく!

 二つ。世界全体にキナ臭い空気が漂う中、奇怪な事件が起こり始める!

 三つ。それについて『雄也』がアレスと会話する中、正にその元凶の気配が背筋を貫く!

「この気配は、一体何なんだ?」


 駆ける速度を緩めることなく、しかし、戸惑ったように首を傾げるアレス。

 当然ながら、()()超越人(イヴォルヴァー)ではない。

 ヒシヒシと肌に感じる気配もまたそれとは大きく異なっており、正に異物としか言いようがないものとなっている。

 常に精神干渉にも似た認識の乱れ、認識歪曲とでも呼称すべきものがあることも、そうした感覚を抱く原因の一つだろう。

 生命力や魔力の大きさによる突出した山のような存在感ではなく、突如として現れた奈落のような異質な虚無感。

 そこには何も存在しないと余りにも強く主張しているが故に、その認識歪曲に対して一定の耐性を持つ者は逆にあからさまな異常として感じ取ってしまうのだ。


「こんなにも気味が悪い感覚は、初めてだ」


 アレスの声色にも不快感がハッキリと滲み出ている。

 その気持ちはよく分かる。これは『雄也』も幾度となく経験してきたことだ。


(本当に忌々しい)


 勿論、アレスの反応も見慣れたものではある。

 しかし、こればかりは『雄也』が抱く感情も劣化しない。

 ()()は不倶戴天の敵の眷族なのだから。


「とにかく、急ごう」


 時を重ねて積もり積もった怨嗟は表に出さず、この時間軸の雄也を演じながらアレスを急き立てるように後ろから速度を上げる。


「……ああ。〈オーバーアクセラレート〉」


 彼も今は疑問を口にしたり、愚痴をこぼしたりしている場合ではないと頷き、早急に現場に着くことを優先して加速した。

 とは言え、()()に「誰かに目撃されたらまずい」とか「だから、処置を急がなければならない」とか、そういった人間らしい思考はない。

 それどころか、真っ当な思考と呼べるものすら存在しないと言った方が正確だ。

 ()()はあくまでも奴の駒、単なる尖兵でしかないのだから。

 言わば、プログラムに従って動くロボットも同然だ。


「もう、すぐか」


 やがてアレスが苦痛に耐えるようにしながら言う。

 距離が縮まったことで、認識歪曲の影響が強まっているのだ。

 あからさま過ぎる歪な虚無感への不快さが、奈落の中に引きずり込もうとする無数の手が全身を這うような気持ち悪さへと変わってきている。


「く、う」


 さすがのアレスもその感覚を前に苦痛の声を発し、走る速度を鈍らせてしまった。

 そうなると必然的に追いつき、『雄也』が少し前に出てしまう。

 が、この時間軸の雄也ならそうはならない。

 無知故にアレスと似た反応を見せるはずだと減速し、僅かに振り返る。

 すると、彼は酷く辛そうに眉をひそめていた。

 なまじ認識歪曲に耐えることができているからこそ、この嫌な感覚を味わい続けなければならなくなっていることは皮肉としか言いようがない。


「大丈夫か?」


 本心としてはどうでもいいが、一応声をかけておく。

 これも演技のためだ。


「だ、大丈夫だ。行くぞ」


 返ってきた言葉の声色から強がりだと分かるが、敢えて指摘する気もない。

 善意からでもなく、悪意からでもなく。

 さっさと敵の元へと向かうために。

 ただ頷いて、無理矢理突き進むアレスの後に続くだけだ。

 そうして王都ガラクシアスを駆け抜け、とある裏路地へと入ったところ。


「な、んだ。こいつは……」


 ()()はそこにいた。

 女神アリュシーダに連なる世界の異物。

 正式な名は知らないが、一種の皮肉と共に天罰(ネメシス)と『雄也』は呼称している。


「わ、分からない。これが何なのか」


 眼前にあって確実に視界に捉えているにもかかわらず、アレスのレベルでさえ正常に認識することができない。ましてや……。


「っ! そこの翼人(プテラントロープ)! 大丈夫か!?」


 ネメシスの近くで佇む一般市民であれば尚のこと。


「……え? ……あ、何が……ですか?」


 アレスの声に僅かに反応した翼人(プテラントロープ)の彼は、しかし、目の前の異常を全く認識できずにいるようだった。

 思考能力すら奪われたように、呆けた顔をしている。

 だが、それはまだいい。

 人格を破壊された様子がないところを見るに、彼はネメシスの攻撃対象になっていない。

 生命力も魔力も乏しいが故に進化の因子を付与されていない弱者は、このような場面に遭遇しても夢見心地で眺めていれば問題なく危難から脱することができる。

 問題は――。


「……もう一人は、間に合わなかったか」


 ぼんやりとしている翼人(プテラントロープ)の横で、ネメシスに覆い被さられている魔人(サタナントロープ)

 彼の方はもはやどうしようもない。

 ネメシスの影から僅かに見えた顔は弛緩し、人形ともまた違う己の意思を完全に失った不気味な表情になってしまっている。

 隣の翼人(プテラントロープ)の視界に入っているはずなのに全く認識されていないことも含めて、ただただ憐れとしか言いようがない様だ。


「アレス。とにかく、そっちの人を助けよう」


 そんな光景を前に、『雄也』はこの時間軸の雄也らしく言いながら構えを取った。

 だが、口にしたそれは方便に過ぎない。

 翼人(プテラントロープ)の彼は、たとえ放っておいたところで危害を加えられることはないのだから。

 にもかかわらず、この場を去らずにいるのはアレスの知る雄也を演じるためだけではなく、偏にネメシスの抹殺が最終目的に必要不可欠だからだ。


「ああ。言われるまでもない」


 対してアレスは、僅かたりとも疑問を抱くことなく追随し――。


「「アサルトオン!」」


 互いにいつものかけ声を、意図せずタイミングを合わせて口にした。


《Evolve High-Anthrope》

《Gauntlet Assault》

《Change Organthrope》

《Greatsword Assault》


 直後、電子音もまた重なるように鳴り響き、各々存在を変質させていく。

『雄也』は真基人(ハイアントロープ)としての力を解放し、黄金の鎧を全身に纏う。

 アレスは真超越人(ハイイヴォルヴァー)鬼人(オーガントロープ)へと姿を変えた後、琥珀と漆黒の入り混じった歪な装甲によって異形となった肉体を覆い隠された。


「……また、随分と強くなったんだな」


 以前とは比較にならない程の強大な魔力を感じ取ってか、思わずという風に驚愕と納得が半々の声を出すアレス。

 言い始めてからドクター・ワイルドを倒したのだから当然か、と思い直したのだろう。


「……アイリス達も守れない強さだけどな」


 それに対してそう意地の悪い返しをすると、アレスは余計なことを言ったと悔やむように顔を背けた。

 実際のところ彼に落ち度はないが、特別フォローはしない。


「話は後だ。今は」


 そのまま『雄也』はそう告げ、両手に作り出したミトンガントレットを構えた。


「……分かってる」


 アレスもまた切り替えて、その手に握り締めた大剣を振りかざす。

 と、敵意と脅威を感じ取ったのか、ネメシスは覆い被さった魔人(サタナントロープ)から離れて立ち上がり、グルリと振り返ると双眸を『雄也』達へと向けた。

 そう。双眸だ。

 ()()には二つの目がある。

 一つだったり、三つだったりということはない。

 勿論、縦に並んでいるとか配置がおかしいということもない。

 ただし、視線がこちらを向いているだけで焦点が合っておらず、果たして真っ当に機能を持っているかは怪しいところだが。

 いずれにせよ、認識歪曲の強さは背を向けていた時とは比べものにならない。

 恐らく、『雄也』達を次の対象と定めたことで指向性も増している可能性もある。


「ぐ、うぅ」


 それは変身していても尚アレスの体を苛み、彼は苦しげに呻いた。


「こ、こいつは、人間、なのか?」


 更に、胸元を手で押さえて苦痛に耐えながら疑問を口にするアレス。

 ここまでの異常を撒き散らす存在である以上、人外と断定してもいいくらいだ。

 が、まだ人間の可能性を捨て切れないのは、()()が人の形をしているからだ。

 勿論、単にシルエットがそうというだけで、断じて人間ではない。

 アレスも輪郭でしか判断できていないだろう。


(生物的ではあるけどな)


 だが、超越人(イヴォルヴァー)のような人間との混ざりものという感じはない。

 直立二足歩行をしているにもかかわらず、類人猿の系譜ではないと直感で分かる。

 それどころか、『雄也』の知るいかなる生物の分類にも属していないように見える。

 形状の説明はできても、比喩的に似た存在の例を挙げることは不可能だ。


(当たり前と言えば、当たり前なのかもしれないが)


 女神アリュシーダの眷族なのだから、ある意味天使のようなもの。

 元の世界で言うそれのイメージとも合致はしないが、既存の生物と全く異なっていても不思議ではない。


「世界ニ争イヲ齎ス者共。悔イ改メルベシ」


 そんな風にアレスが苦しむ中、ネメシスが言葉を発する。機械的に、抑揚なく。

 対して『雄也』は内心で舌打ちした。相変わらず、傲慢にも程がある。


「くっ」


 それにも呪詛に近い認識歪曲の力が込められていたようで、アレスは耐えられなくなって膝を突いてしまう。

 情けない姿だが、彼我の力の差を考えると仕方がない。

 いや、今回は運がなかったと言うべきか。

 この存在は、攻撃してきた相手の強さに従って強くなっていく。

 アレスのスペックも周回を重ねるごとに向上しているのだが、進化の因子を付与された者達の強さも同等以上の比率で上がっている。

 これまでの被害者の中にこの世界(アリュシーダ)の最上級レベルの者がいれば、ネメシスがアレスにここまで干渉する程の力を持つことも十分あり得ることだ。


「……アレス、下がってろ。俺がやる」


 膝を屈した彼にそう告げ、一歩前に出る。

 それに合わせるようにネメシスもまた地面を蹴り、この世界(アリュシーダ)ではトップクラスの速度で突っ込んでくるが……。


「はっ!」


『雄也』は軽く息を吐きながら、胸部の辺りに手甲で覆われた拳を容易く叩き込んだ。

 ()()はその威力によって吹き飛ばされ、地面に転がる。

 所詮相手は、トップ()()()の強さでしかない。

 この世に顕現していない女神アリュシーダを除けば、現在二位以下を大きく引き離してトップである『雄也』の敵ではない。


(ただ……)


 ネメシスは一体のみではない。

 この場で倒したところで、また別のネメシスが世界のどこかに発生するだけだ。

 そして、その時()()は『雄也』の攻撃を受けたために強大な力を持つことになる。

 そうなればアレスでも即座に前後不覚に陥るだろうが、現時点で認識歪曲によって相当弱体化している以上、どっちみち同じことだ。


《Convergence》


 困難になっていく次の戦いを思いながら、とにかく今は眼前の存在を消滅させんと魔力を収束させる。


「お、おお……」


 その全てを右手のミトンガントレットへと束ねた力は、アレスが苦痛を忘れて感嘆する程の密度を持ち――。


「我ヲ倒シタトコロデ次ナル我ガ必ズ貴様ノ(チカラ)ヲ排除スル。女神ニ仇ナス愚カ者。イズレ下サレル神罰ニ慄クガイイ」


 よろよろと立ち上がったネメシスにもまた、その個体では敵わないと諦めさせる程のものとなっていた。


「……さっさと親玉を呼んで来い」


 そんな半ば負け惜しみのような敵の言葉に対し、『雄也』は()()にのみ聞こえるように呟きながら右の拳を振りかざした。


《Final Arts Assault》

「レゾナントアサルトブレイク」


 そのまま無造作に、しかし、ネメシスが全く反応できない速度で近づき、技巧を無視した大振り全力の一撃を叩き込む。


「ガッ……」


 と、それは短い呻き声を残して空高くへと弾き飛ばされ、拳を通じて伝わった六色の魔力が炸裂し……空中で大爆発を起こした。

 その衝撃波で建物がギシギシと揺れる。


「勝ったのか……」


 と、アレスが確かな足取りで近づいてきて言う。

 認識歪曲の呪縛から解かれたことを以ってそう判断したようだ。

 それに『雄也』は言葉では答えず、ただ頷いた。

 正直、この場での勝利など些細なことに過ぎない。


「今は、彼らを医療施設に運ぼう」


 それから。同じく認識歪曲から解放されたものの負担が大きかったらしく気絶してしまった翼人(プテラントロープ)と、人格を破壊されて目を見開いたまま転がる魔人(サタナントロープ)に目を向ける。


「ああ。後、報告のために一緒に賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会に来てくれるか?」

「……分かった」


 まだ全てを切り捨てるには早いと判断してアレスの要請に了承し、『雄也』は魔人(サタナントロープ)の方を担ごうとするアレスに倣って翼人(プテラントロープ)の方へと近づいた。


(これから忙しくなるな)


 そして、そう心の中で独り言ちながら乱雑に翼人(プテラントロープ)を担ぎ上げると、先に賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会へと歩き出していたアレスの後に続いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール 小説家になろうアンテナ&ランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ