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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第七章 ○○○ENDルート

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第三十二話 分断 ①決着へのカウントダウン

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。ドクター・ワイルドを問い質し、ツナギの出自を聞く!

 二つ。アテウスの塔に入るためとして、仲間全員で頂上に来るよう告げられる!

 三つ。頂上に新たに設置された七つの球体に各々触れた瞬間、強制的に転移させられる!

「ここは……」


 無色透明の球体に触れた瞬間、唐突に移り変わった視界。

 その状況に戸惑いを隠せず、雄也は動揺と共に周囲を見回した。

 アイリス達の気配はない。

 廊下らしきこの場所に見覚えもない。

 しかし、何となく懐かしい雰囲気を感じてもいた。

 飾り気もなく無機質な見た目は、学校や病院などの公共施設の廊下のようだ。

 煉瓦造りが基本のこの世界(アリュシーダ)のものとは思えない。


(元からこうなのか、ドクター・ワイルドが作り変えたのか……)


 七星(ヘプタステリ)王国の王城と周囲一帯を取り込んで、即席で作り上げられたが如きあの時の光景。

 あれを見る限り、どっちとも取れない。

 あの男の手が入っていないとは正直考えられないが――。


(いや、そこは問題じゃない)


 現実逃避気味に建築様式へと目を向けている場合ではない。

 心を落ち着けようと自分に言い聞かせ、改めて意識の焦点を切り替えて周りを見る。


(まず考えるべきは、アイリス達との合流だ)


 頂上にあったあの球体の配置を考えると、それぞれ別の場所に転移させられたと見て間違いない。このまま単独で行動するのは危険だ。


「〈ワイドエアリアルサーチ〉」


 だから雄也は、一先ず前後に伸びる一本道の廊下をどちらに進めばいいかの判断を行うために、探知魔法を使用した。

 少しだけアイリス達の居場所も分からないものかと期待しながら。


(……駄目か)


 さすがにそう都合よくは行かず、廊下の形状を大まかに把握するに留まる。

 前方には行き止まりがある。

 だが、ただの袋小路ではなく、扉と思しき縦溝と取っ手らしきものが感じ取れる。

 後方は探知可能な範囲内では果てがない。螺旋状に上に続いている感じだ。

 どちらも途中に岐路はなく、前方の扉らしきものを除いて隙間一つない。

 魔力の透過もないことから、廊下の形に沿って魔力的な断絶がある可能性が高い。


(進むべきは、とりあえず前か)


 近い方に行ってから、もし何もなければ引き返すのがいいだろう。

 そう考えて、雄也は慎重に周囲を警戒しながら前に歩き始めた。

 そのまましばらく進むと、探知結果の通りに扉が視界の中に現れる。

 これもまた何となく懐かしい。

 体育館とか大ホールとか。そういう類のところに入るための扉に見える。


「〈マテリアルアナライズ〉」


 雄也はその前に立ち、一先ず罠がないか魔法での分析を試みた。が、当然と言うべきか魔法は弾かれ、その効果は欠片も発揮されなかった。


(さて、どうするか……)


 適地にあって、何も考えずに取っ手に手を伸ばすのも考えものだ。

 しかし、ここを確認せずに引き返していいものかとも思う。


「……〈ワイヤードロックアーム〉」


 だから、雄也は魔法で石の腕を作り、それを操って間接的に扉に手をかけた。

 一呼吸置き、それから一気に開け放つ。その直後――


「フゥウーハハハハハッ!!」


 待ち構えていたかのようにいつもの高笑いが、しかし、その声の発生源とは大分距離が開いているようで反響混じりに耳に届いた。

 次いで視界には、天井から床から全て白一色で染め上げられたフロアが映る。

 広さはそれこそ東京ドームぐらいか。

 部屋の中心辺りには、大小二人分の人影が見える。

 一人はアルビノの少女。つい昨日、アテウスの塔頂上で出会ったツナギ。

 そして、もう一人。


「ドクター……ワイルド」


 たとえ距離が空いていようと間違えようがない。

 高笑いを聞いていなくとも、もし生命力と魔力によって素の視覚が強化されていなくとも、見分けはつくだろう。

 それだけ強い敵意がこの心の内にはある。

 故に雄也は、白衣を纏ったその男を厳しく睨みつながら名前を吐き捨てた。


「随分とまあ、慎重であったな。笑わせて貰ったぞ」


 対して彼は、含み笑いをするようにしながら直前の雄也の行動を揶揄する。

 それを受けて、雄也は奥歯を強く噛み締めてから口を開いた。


「……黙れ」


 自分でもはや闘争(ゲーム)は終わりだと抜かしておきながら、よくそんなことが言えるものだ。

 そうした思いを滲ませ、苛立ちと共に言葉をぶつけてやる。


「そう目くじらを立てるな」


 しかし、ドクター・ワイルドは相も変わらず飄々と受け流すばかりだった。


「吾輩は安心しているのである」


 更には馬鹿にするような内容を、大真面目な態度を装って口にする。

 そんな憎き敵の演劇染みた姿に、雄也はどうしても感情が乱れるのを止められなかった。


(落ち着け)


 自戒しようとしても、怒りは後から湧き出てくる。過剰な程に。

 思えば、いつもいつも彼を前にしては冷静ではいられない。

 もう何度目かというぐらい、対峙しているにもかかわらず。


「安心、だと?」


 それでも雄也は意識的に抑揚をなくし、彼の言葉の意味を問うた。


闘争(ゲーム)は終わりという言葉に偽りはないのである。だと言うのに、この状況で未だ危機感もないようなら、我らが踏み台として相応しくないからな」


 ドクター・ワイルドはそう答えると、更に「ここまで来て失敗作では萎えるのである」と心底嫌そうに続けた。見飽きたと言わんばかりに。


「身勝手な」

「今更であろう」


 雄也の糾弾に開き直ったように笑うドクター・ワイルド。

 確かに今に始まったことではない。


「言葉を重ねることは無意味か」

「何があろうと吾輩が変わることはない。貴様らは単なる駒だ。まあ、他の駒に比べれば幾分か上等な駒ではあるがな。しかし、駒が吼えたところで棋士には届くまい」


 他者を道具と見なすドクター・ワイルドの態度は揺るがない。

 信念などとは呼びたくないが、それに近い確固たるものが彼にもあるのだ。


(最初から説得なんてできる訳がなかったか)


 雄也自身とて、自由を尊ぶ性根を誰かの言葉で曲げるつもりはないのだ。

 同じような相手も、世の中にはいてもおかしくはない。

 そもそもこの敵は数多くの人間の自由を奪った存在。

 説得するにしても、被害者に詫びながら死ねとしか言いようがない。

 彼がそれを受け入れるような殊勝な人間であるはずもなく、全く以って時間の無駄としか言いようがない。


「〈アサルトオン〉」


 だから雄也はそう静かに告げ――。


《Armor On》


 電子音と共に白色の装甲を全身に纏い、臨戦態勢を整えた。


「せっかちであるな。無意味ではあっても、話が通じない相手との会話というのも中々興味深いものだぞ?」


 そんな雄也の姿を見て、ドクター・ワイルドは呆れ混じりに嘆息する。

 言葉の内容自体は分からなくはない。が、それは傍目に見ていてこそのことだ。


「悪いが、当事者としてはご免こうむる」

《Gauntlet Assault》


 だから雄也はそう告げると、両手にミトンガントレットを作り出して戦意を示した。


「真面目であることと余裕がないのとは別の話であるぞ」


 対して彼はそう再度大きく一つ息を吐くと、傍らの少女ツナギへと視線を落とした。


「ツナギ、今日は貴様の好きなだけこの者と遊ぶといい」

「いいんですか? お父様」


 ツナギはドクター・ワイルドを見上げながら、恐る恐るという感じに確認をする。

 時折瞬間的に視線がこちらを向くところを見る限り、彼女は内心すぐさまそうしたいのだろう。同時に、父親の意向に逆らえない雰囲気もまた見て取れる。

 そうした様子を目の当たりにすると、何となく心苦しく感じるが……。


「悪いけど、長々と遊んでいるつもりはないぞ」


 今は大きな懸念事項があるため、この場で時間をかけて解決とはいかない。


「ふ、仲間が気になるようであるな」

「……当然だろうが」


 ドクター・ワイルドの言う通り、離れ離れになってしまったアイリス達が心配だ。

 この場に六大英雄がいないこと。逆にドクター・ワイルドがいること。

 それらを考慮すると、各種族に一人宛がわれているのではないかという推測が生じる。

 故に、雄也の心の内に滲む焦燥は大きくなっていた。


「ならば、仲間の様子は常に分かるようにしておいてやるのである」


 と、ドクター・ワイルドはどことなく面倒臭そうにそう告げ、それから何かの合図をするように指をパチンと鳴らした。


「これは……」


 次の瞬間、空中に映像が浮かび上がる。

 恐らく魔法による投影なのだろうが、キッチリ四角に縁取られていることもあってSF的な空中ディスプレイのように感じてしまう。


「アイリス、ラディアさん、ティア、メル、クリア、プルトナ、イーナ」


 そこには各々の属性に対応した六大英雄と対峙する彼女達の姿が映されていた。

 アイリスには真獣人(ハイテリオントロープ)リュカ。

 フォーティアには真龍人(ハイドラクトロープ)ラケルトゥス。

 メルとクリアには真水棲人(ハイイクトロープ)パラエナ。

 イクティナには真翼人(ハイプテラントロープ)コルウス。

 プルトナには真魔人(ハイサタナントロープ)スケレトス。

 ラディアには、恐らく真妖精人(ハイテオトロープ)ビブロス。彼は初めて見る顔だ。

 彼女達は各々MPリングを起動し、属性に対応した色の装甲を身に纏っている。

 その手には彼女達がそれぞれ得意としている武器が握られており、既にあちら側も臨戦態勢にあることが分かる。


「一対一……」


 最悪の予想通りの光景を目にして、雄也は更なる焦りと共に呟いた。

 六属性全てを備えた今の雄也ならば、六大英雄を倒すことは不可能ではない。

 しかし、単一属性の彼女達では敵との力の差はそこまで存在しない。


(六大英雄もあれ以上強くなれない訳じゃないだろうし……)


 戦闘狂の嫌いがある彼らだ。

 進化の因子さえ備わっていれば、最後に戦った時よりも桁違いに強くなっていたとしても何らおかしなことはない。

 彼女達にとって、かつてなく強大な敵であることは間違いない。


「余り他者を気にしていると、足元をすくわれるぞ?」


 と、そんな風に心を乱す雄也の姿が余りにも滑稽だと言わんばかりに、ドクター・ワイルドは見下ろすように告げてくる。

 確かに、彼と雄也の間にある力の差は、六大英雄と彼女達との間にあるそれよりも確実に大きい。第一に自分の心配をすべきだ。


「では、収穫の時だ」


 ドクター・ワイルドはいつものふざけた口調から一転して、低くシリアスな声を出す。

 それを合図に、隣にいたツナギが少し前に出てきた。


「今日は最後まで遊ぼうね」

「くっ」


 その口から出た言葉は相も変わらず無邪気さに彩られ、ただでさえ何らかの作用によって薄かった敵愾心すらも保てない。

 未だ他者の自由を奪うという決定的な行動に出ていないことも一因だろう。


(何とか戦いをやめさせたいところだけど、今は悠長に戦ってる訳には……)


 時間を浪費できないのは事実だ。

 何より、ドクター・ワイルドの洗脳を受けているのなら、解決は相当難しい話に違いない。が、だからと言って憧れたヒーローをなぞらんとするなら、諦める訳にはいかない。

 そして、全てを丸く収めるには、今は彼女の意識を奪うのが妥当だろう。

 僅かでも無辜の少女の自由を制限するのは心苦しいが。


「……お前は戦わないのか?」


 そのための障害となるだろう男に雄也は問いかけた。


「そんなにも俺と戦いたければ、ツナギを倒してみせろ」


 雄也の問いに口調を戻さないまま答えるドクター・ワイルド。

 その姿に改めて闘争(ゲーム)の終わりを感じる。

 もはや演技など不要ということなのだろう。

 いずれにせよ、ツナギとの戦いに横槍を入れるつもりがなさそうなのは助かる。


「倒せるものならな」


 高笑いもなく、不敵な笑みもなく告げると彼は後ろに引き下がる。

 代わりに更に前に出てきたツナギは、静かに見覚えのある構えを取った。


「アサルトオン」


 そして雄也と同じようにその言葉を口にすると――。


《Evolve High-Anthrope》


 腰に現れたMPドライバーと同じ形状のベルトが全く同じ声の電子音を、しかし、異なったフレーズで鳴らす。

 と同時に、彼女の全身を金色の装甲が包み込んでいった。


「これは……」


 ドクター・ワイルドが変身した姿に似ている。

 その身に宿した力もまた、それに迫るものである可能性が高い。

 肌に感じる魔力の気配だけでも、最低でもアテウスの塔頂上で戦った時の力は上回っていることがヒシヒシと感じられる。


(アイリス達の心配をしてるどころじゃない!)


 前はツナギの身を案じた状態であっても均衡を作ることができていたが……。

 あるいはドクター・ワイルドに指摘された通り、助け方云々以前に、己の命と信念とを天秤にかけなければならなくなるかもしれない。


「呆けてると死んじゃうよ?」

《Gauntlet Assault》


 深刻な思考に身動きできずにいる雄也を前に、ツナギは両手に雄也のものに似たミトンガントレットを作り出す。

 それから彼女は、戦いを促すように構えを取った。


「さ、たくさん遊ぼ?」


 未だ無邪気に願望を口にしながら。

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