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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第七章 ○○○ENDルート

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第三十一話 突入 ③無辜の敵

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。飛行魔法を用いて塔外部を調査しつつ上るが、異変を見出せないまま頂上に至る!

 二つ。頂上の調査も芳しくなく一旦帰ろうとするが、突然現れた少女に呼び止められる!

 三つ。ツナギと名乗ったその少女に、遊びと称して襲いかかられる!

 突然殴りかかってきたアルビノの少女ツナギ。

 完全に虚を突かれた形だったが、しかし、雄也は容易に回避して距離を取っていた。

 確かにその一撃の鋭さは並ではなかった。

 とは言え、それはあくまでもこの世界(アリュシーダ)の平均と比べての話。

 これまで戦ってきた相手で評価するなら、精々超越人(イヴォルヴァー)レベルでしかない。

 いや、勿論、生身の人間でありながらそれは十分破格だが。

 その程度では脅威とは言えない。

 六属性の魔力全てが完成し、その上でMPドライバーの力を白色の装甲の形で全身に纏っている今の雄也にとっては特に。

 拳が直撃する寸前から避けることすらも不可能ではない。


「凄い、凄い! 今のを完全に回避できるなんて、あなたはちゃんとわたしの遊び相手になれそうだね!」


 と、ツナギは攻撃が命中しなかったにもかかわらず、無邪気に喜びを顕にする。

 含みがあるような感じは全くなく、純粋に称賛しているようだ。

 その様子はやはり歪で、外見と相まって不気味に感じる。

 だが、やはりその感覚が敵愾心へと変化することはなかった。

 どこか見覚えのある顔を前にすると、どうしても敵だと思うことができない。


「……いきなり襲いかかってくるのが遊びなのか?」


 それでも声色に険を含ませて問いをぶつける。

 目の前の少女の正体が分からない内に、これ以上動揺を見せる訳にはいかない。

 どこでドクター・ワイルドが嘲笑っているか分かったものではないのだから。


「そうだよ。わたしとあなたで壊し合う遊び」


 そんな雄也に対して彼女はあっさりと肯定し、更に言葉を続ける。


「今まであなたにちょっと似てる動くお人形さんと遊んでたけど、全部簡単に壊れちゃって面白くなかったんだ」


 その口調、表情両方から、本当にそれを遊びと認識していることが見て取れる。

 他者から悪と断じられる可能性を知った上で肯定している訳でもない。

 善悪の判断すらついていない全くの無知故の考えとでも言うべきか。

 どう見ても、この少女が自らそうした思考に至ったとは考えにくい。

 戦いは痛みを生むものだ。

 そして、生物ならば本能的に痛みから逃れようとするのが普通だ。

 幼い時分ならば尚更のこと。

 何かしら外的な要因がなければ、こうはならない。

 無干渉、過干渉どちらであれ。

 恐らくは彼女が言った通り、一方的に壊すことができるような相手しか宛がわれず、痛みから遠ざけられていた結果としてこうなってしまったのだろう。


「そんなものは、遊びとは言えない。こんなことはやめるんだ」


 あくまでも相手は幼い少女。

 ものを知らないだけならば、まだ言葉での説得は不可能ではないはず。

 そう願うように自分に言い聞かせて言葉を投げかける。


「けど、お父様は遊びだって言ってたし、楽しいよ?」


 しかし、彼女はどうしてそんなことを言われるのか分からないとでも考えているかのように、キョトンとしたように首を傾げて言う。

 その声色にはやはり、悪意や敵意のようなものも、確固たる信念のようなものも、いずれも全く感じられない。

 大人ならば己の内側から自然と滲み出てくる意思が乏しい。

 本来、親の教育や社会的な常識によって是正されるべき子供特有の無邪気な残忍さ。

 そうしたものがそのまま残ってしまっているのだ。

 ここにもそのお父様とやらの意図が見え隠れしている。

 もしドクター・ワイルドがそれならば、あるいは精神干渉も行っているかもしれない。


(……〈ブレインクラッシュ〉は使われてないのが、せめてもの救いだな)


 とは言え、それ故に対応が難しくなっている部分もあるが。


「ほら、もっと遊ぼ!」


 ツナギは待ち切れないと言うように、再び間合いを詰めてきた。

 そのまま素早い身のこなしで連続して殴打を放ってくる。


「くっ」


 対して雄也はその全てをしっかりと目で捉え、一つ一つをいなして回避した。

 だが、こちらから攻撃を仕かけることはしない。

 拳を受け流すにしても己の手を覆う装甲で弾いてツナギを傷つけたりしないように、掌を添えるようにして柔らかく彼女の拳を逸らす。


(この子は、俺が……オルタネイトが倒すべき相手じゃない)


 今までの発言を聞く限り、誰かの自由を奪った訳でもない。

 既に人格を奪われ、取り返しのつかない状態にある訳でもない。

 ならば彼女は倒すべき相手ではなく、救うべき対象だ。

 とは言っても、雄也は自由を信条とする身。

 それ故、相手の意思を無視して強制することはできないが。


(粘り強く、対話しないと)


 だからこそ、自らの決断で説得に応じて貰えるように。

 そして、もし精神干渉を受けているのなら、それは解除してやらなければならない。

 その必要性の有無を判断するためにも、今は会話の継続を選択する。


「壊し合う、だなんて、それがどういうことか分かってるのか!? 俺も君も人形じゃない。痛みを感じる人間なんだぞ!」

「痛み? そんなの感じたことないもん」

「…………本気で言ってるのか?」


 全く冗談を口にしているような素振りを見せないツナギに愕然とする。

 それでは痛みから遠ざけられるどころの話ではない。

 これが事実なら、何者かによって痛覚が遮断されていると見るべきだろう。


(まともな境遇で育ってなさそうだとは思ってたけど……)


 もしかしたら出生そのものからして特異な存在なのかもしれない。

 勿論、だからと言って方針を変える気はない。

 尚のこと確かな人間として扱って、己の信念に従った対応をしなければならない。

 そうこう雄也が考えている間も――。


「このっ!」


 ツナギは蹴りを交えながら殴打を繰り出してくる。

 相変わらず見た目と釣り合わない鋭さを帯びているが、直撃するには至らない。

 雄也はその全てを最小限の動きで受け流して防ぎ切った。


「むー……」


 と、ツナギは表情に苛立ちを滲ませ、酷く不満げに唸り始める。


「真面目にやってよ!」


 更に彼女は声を荒げつつ、分かり易い隙だらけの大振りで拳を放ってきた。

 当然、回避は容易い。

 普通の戦いならばカウンターのチャンスだ。

 しかし、雄也はツナギに攻撃を仕かけるような真似はせず、彼女の背後に回ると共に両脇の下に腕を通して羽交い絞めにした。


「〈オーバーヘキサディスペル〉!」


 と同時に解呪の魔法を使用する。

 もしツナギが精神干渉に蝕まれているのであれば、それを消し去ってしまうために。


(………………駄目か)


 だが、魔力はツナギに通らず、効果は発揮できなかった。

 まず間違いなくドクター・ワイルドの干渉がある。そう考えた方がよさそうだ。

 それでも対話はできるのなら、今は一つでも多く言葉を交わすことを優先すべきだろう。

 と言うよりも、魔法で解消できないのなら、それ以外に選択肢はない。

 そう判断して雄也は彼女を解放して間合いを取った。


「もしかして、馬鹿にしてるの?」


 顔を合わせなければ説得も何もない。

 誰かの自由を奪っていない者に対し、体の自由を奪う拘束技は信条的に使いたくない。

 そうした考えからの行動だが、ツナギは挑発と受け取ったらしい。

 声色から聞き取れる怒りが明らかに強くなっている。


「そんなつもりはないよ。ただ、君を傷つけたくないだけだ」


 そう彼女の問いに本心から答えるが、更に煽る結果となってしまったようだ。


「……そんな風に余裕でいられなくして上げる」


 ツナギは唇を尖らせるという幼い少女の可愛らしい怒り方をしながら、しかし、過去に対峙した真超越人(ハイイヴォルヴァー)など比ではない圧迫感を放ち始める。

 いや、恐らくそれは彼女自身から湧き出てくるものと言うよりも、突発的に刺激された警戒心が雄也の認識をそう錯覚させているのだろう。


(これは……対応、ミスったか?)


 そして、頭の中の警鐘が一際大きく鳴り響いた次の瞬間――。


「〈六重(セクステット)強襲(アサルト)強化(ブースト)〉」

「何っ!?」


 ツナギは全身に六属性の魔力を纏って、再び構えを取る。

 それ自体は先程までと同じ我流の適当な形ながら、隙は限りなく小さくなっていた。


(これは、本当に真超越人(ハイイヴォルヴァー)なんてレベルじゃない)


 予兆から推測した力以上の圧迫感を、今度は錯覚ではなくヒシヒシと肌に感じる。


(素の魔力では、この子の方が上か?)


 そこから彼我の戦力を分析し、そう判断して冷や汗をかく。

 外見と言動から相当見くびってしまっていたようだ。

 特に、好き嫌いで手段を選んだのは舐め過ぎだったかもしれない。

 いや、そうあらなければ自分を誇れないし、そもそも先程のような単純な拘束では突発的に身体強化を使われていたら振り解かれていた可能性が高いが。

 加えて、この魔力は雄也の〈オーバーヘキサディスペル〉をドクター・ワイルドの干渉など関係なしに無効化できるレベルだ。

 近距離で不意打ちを食らわなかっただけマシと思っておくべきか。


(生命力は、さすがに俺に分がありそうだけど……)


 生身で比較すると、単純な力は互角かそれ以上かもしれない。

 思った以上に魔力分の補正が大きい。


「行くよ」


 あくまでも遊びであることを示すように律義に宣言してから、ツナギはまた間合いを詰めてくる。その速度は先程までとは桁違いだった。


「っ! 〈六重(セクステット)強襲(アサルト)強化(ブースト)〉!」


 それに応じて雄也もまた咄嗟に魔力を励起させ、己に身体強化を施した。

 そのまま、正面から突っ込んでくる彼女を待ち受けんと身構える。

 が、その時には既に眼前に拳が迫っていた。


「くっ!?」


 何とか受け流そうと試みるが、その一撃の鋭さは先程までの比ではない。


(間に合わない!)


 その緩急に加え、侮り、戸惑いと驚愕から自身への身体強化が一瞬遅れてしまった。

 そうした要因もあって回避の猶予は短く、腕の装甲で拳を受け止めざるを得ない。


「真剣にやってくれないと、ただ壊すだけじゃ済まないからね」


 そんな雄也を前に、少し留飲が下がったとばかりに得意顔で言うツナギ。

 彼女は自身の右の拳と雄也の左手の手甲部分を触れ合わせたまま、今度は左の拳をアッパー気味に顎を目がけて振り抜いてきた。

 雄也は体を反らせてギリギリで回避したが、その攻撃は僅かながら仮面を掠める。


「まだまだ!」


 その手応えにツナギは益々調子づき、猛然と乱打を放ってきた。

 しかし、相手は生身。

 さすがに変身状態にある雄也と比べれば、まだ力の差はある。

 何より身体強化以外の魔法を使ってこないため、搦め手の心配が少ないことも大きい。

 遊びとしての彼女の中にあるルールだからか、単なる経験不足だからかは分からないが。


(態勢を立て直しさえすれば――)


 たとえ相手を傷つけないという縛りを自ら設け、それ故に事故が起きないようにフェイントや牽制のための攻撃すら封じていても尚、均衡を作ることは不可能ではない。


「余裕、なくなってきたね」


 それでもツナギの言葉通り、対話に振るリソースは大幅に削られてしまっている。

 彼女の攻撃を見極めることに、意識の大部分を割かなければならなくなっている。


「けど、足りない」


 そんな雄也を前にして、しかし、ツナギは不満そうに続ける。

 攻撃が直撃せずに掠ったり、受け止められたり。

 完全に避けられることはほぼなくなったとは言え、思うように当たらないことへのフラストレーションは少なくないだろう。


「もう一押し、必要かな」


 加えて、あくまでも防戦一方の雄也への苛立ちも残っているようだ。

 ツナギはそうした感情を吐き出すように一つ大きく息を吐くと、大きく飛び退った。


「もっと、もっと本気になってよ」


 それから彼女は苛立ちも怒りも消えた本来の無邪気さを湛えつつも、どこまでも真摯に彼女は告げると見覚えのある構えを取る。雄也と全く同じ変身の構えを。

 そして……。


「……アサルト――」

『待て』


 ツナギが同じ言葉を口にしようとした正にその瞬間、聞き覚えのある制止の声がかかる。


「お父様?」

『今日はここまでである。……下がっていなさい』

「……はい。分かりました」


 その声の指示を丁寧な言葉遣いで承諾し、しかし、少しばかり名残惜しそうにこちらを一瞥してから、彼女は口の中で「〈テレポート〉」と告げて去っていった。


「ドクター・ワイルド!」


 そしてアテウスの塔頂上に一人残される中、声の主の名を叫ぶ。

 この男の声を聞き間違えることなど、もはやあり得ない。


『全く。遅かったではないか』


 対しては彼は、どこか呆れたようにそう応じると――。


「吾輩はこの日を心待ちにしていたというのに」


 狂気に彩られた気配を声色と気配に湛え、空間から這い出るように雄也の眼前へと現れたのだった。

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