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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第六章 心と体繋がれば

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第二十九話 宣戦 ④死の鳥籠

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。家に戻った仲間に状況を説明し、真翼人(ハイプテラントロープ)コルウスの能力について考察する!

 二つ。十日の間、それ以上は何ごともなく魔力淀みでの鍛錬を続ける!

 三つ。突如として、王都ガラクシアスを包囲するように魔力に満ちた光が立ち上る!

 突然城壁を塗り潰すように発生した光のカーテン。

 それを前に一般市民が落ち着いていられるはずもなく、王城へと向かう道は立ち止まって不安げに空を見上げる人々で溢れていた。


(無理もない。むしろパニックにならないだけ御の字だろうな)


 王都ガラクシアスは以前大規模な超越人(イヴォルヴァー)の襲撃を受けている。

 その時のことを思い出してしまえば、冷静でいられる者は少ないだろう。

 そうでなくとも、視覚的な異常に加えて押し潰すような圧迫感があるのだ。

 力の乏しい一般市民が怯えずにいられようはずもない。

 それでも逆に一度経験があるおかげで、狂乱に至らずに済んでいるのかもしれない。


「あー、どうします?」


 そんな光景を前にしながら、フォーティアが困ったようにラディアに問いかける。

 こちらは彼ら以上に何度もドクター・ワイルドの闘争(ゲーム)に巻き込まれているため、既に皆いくらか平静さを取り戻していた。


「これじゃあ、すんなり進めませんよ?」


 言っては悪いが、人々がその場に留まっているせいで通行の邪魔になっている。

 騎士や賞金稼ぎ(バウンティハンター)と思しき人達も、動きにくそうに間を縫っていた。


「……いっそ空を飛んでいった方がいいんじゃないですか?」


 と、イクティナがおずおずと手を上げて言う。


「一応、アイリスさんもティアさんも、メルさんクリアさんも空中を移動できますし、ラディアさんとプルトナさんは私とユウヤさんが抱えていけばいい話ですし」

「待て待て。確かにお前とユウヤ、それとアイリスまではいい。だが、ティアとメル、クリアの移動方法は色々とまずい」


 対してラディアは掌を突き出して彼女を制止する。


「余り派手な動きをしては一般市民がパニックを起こしかねん」


 確かに、メルクリアの空中移動は空間に水の道を作り出すという奇手。

 フォーティアのそれは爆風を利用した荒業。

 この異常な光景を見上げる視界の中にそんなものが飛び込んできたら、敵の超越人(イヴォルヴァー)と勘違いされかねない。

 不安と戸惑いの箍が外れ、確実に騒ぎになるだろう。


「速やかに間をすり抜けていくしかあるまい」


 同じ理由で屋根伝いに行く訳にもいかないし、ラディアの言う通り、下を行くべきだ。

 あるいは、道すがら何かしら異変が見つかる可能性もある。


「では、一先ず賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会に向かうとしよう。王城よりも近いからな。そこで情報を収集し、方針を考える。はぐれるなよ?」


 そうしてラディアを先頭に周囲を探りながら進み始めるが――。


「あうっ」


 時折、城壁の方に目をやっていた人が突然動き出すのに阻まれ、しかし、メルだけが少し遅れてしまう。

 他の面々に比べると、やや体術に劣るせいかもしれない。

 厳密にはイクティナも生命力の点では同レベルだが、彼女は翼人(プテラントロープ)。コルウスの足元にも及ばないだろうが、空気の流れで動き出しを察知するぐらいはできる。

 実際、イクティナの方は危なげながらも遅れずラディアに続いていた。


「メル」


 なので、雄也は彼女の手を掴んで傍に引き寄せた。


「掴まって、離れないように」

「う、うん。お兄ちゃん、ありがと」


 彼女は手を繋ぎながら、言われた通り離れないように身を寄せてくる。


『……姉さん、貸し一ね』

「分かってる」


 いつもなら不公平とごねるところだが、当然ながらクリアも状況を弁えており、それ以上は騒いだりしなかった。


「……ユウヤ、私も」


 むしろ反対側から腕を組んでひっついてくるアイリスの方が大人げない。

 身体能力的に彼女がそうする必要は全くないのだが……。

 まあ、ある意味予想通りの行動だ。

 今となってはもはや一々指摘する程のことでもない。

 そういう訳で、雄也は殊更注意したりせず、正直言って場にそぐわない両手に花の状態のままラディアの後を追いかけた。

 フォーティア、プルトナ、イクティナの三人の呆れと別の感情があからさまに混じった視線は、とりあえず気にしないようにして。


「さて、そろそろ賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会だが……」


 対照的にラディアは状況が状況だけに呆れの色のみが滲んだ声を出す。

 しかし、異常事態に普段通りでいられるよう努めるのも大事なことだ、

 そう内心で言い訳しつつ、平静を装いながら彼女の視線を辿る。

 その先、賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会の入り口は街中に輪をかけて混雑しており、頻繁に賞金稼ぎ(バウンティハンター)と一部騎士が出入りしていた。


「あちらも混乱していそうだな」

「……ですね」

「しかし、一先ず協会長殿に会わねばなるまい」

「はい」


 ラディアの結論に同意し、全員で賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会の入り口を目指す。

 変わらずメルとアイリスはくっついたままなせいで、行き交う賞金稼ぎ(バウンティハンター)や騎士は一瞬もの言いたげな目を向けてくるが、そんな暇はあるはずもなくスルーしていく。

 とりあえず賞金稼ぎ(バウンティハンター)協会の長たるオヤングレンのところに行けば、そうした目も(数的に)少なくなるだろうと彼らの合間を行こうとするが――。


『フゥウーハハハハハッ!!』


 正にその瞬間、唐突に聞き覚えのある高笑いが街に響き渡った。


(ドクター・ワイルドッ!)


 その正体が誰かなど当然瞬時に理解し、雄也は即座に周りを見回した。

 アイリス達も声の主を探し、自然と互いに背中合わせになって警戒を強める。

 と、視界の中に同じように声に反応し、怯えたようにキョロキョロしている一般市民の姿が映る。どうやら雄也達だけにしか聞こえない訳ではないようだ。


七星(ヘプタステリ)王国が王都ガラクシアスに蔓延る人形共! 聞くがよい!』


 続いた言葉を聞く限り、その内容もまた王都に住まう全ての向けてのもののようだ。


『我が名はワイルド・エクステンド。即ちドクタアアーッ・ワアアイルドである!!』


 既にその名は知らない者などいない。

 しかし、悪役の様式美だとでも言うように、彼は殊更強調して名を名乗る。

 そして正にその直後、それを合図とするように、光のカーテンで区切られた円形の空一杯に邪悪な笑みを浮かべた彼の顔が映った。


『時は来たのである』


 更に彼は一転して静かに、しかし、注意を集めるようにハッキリと宣言する。


『世界に混沌をもたらす悪の組織エクセリクシス。その最終目的たる女神アリュシーダの抹殺。それによる秩序の破壊』


 次に朗々と歌うように告げられた言葉。

 その内容に人々の間にざわめきが生まれた。


「女神の抹殺、だと?」


 隣からはラディアが愕然とした呟きが耳に届く。

 そんなことを考えたこともなかったのだろう。

 別世界の異質な言葉を聞いたかのように、戸惑いの感情が表情に浮かんでいる。


「そそ、そんなことしたら…………えっと、どうなるんです?」


 口にするのも憚られると言うように戦々恐々としながら、しかし、全くイメージが湧かないのか、どこか間の抜けた問いを口にするイクティナ。


「と言うか、そんなこと、できるんですか? そもそも存在するんですか?」

「正直、真剣に考えたこともなかったね」


 混乱した様子のイクティナに、フォーティアが眉間にしわを寄せながら答える。

 異世界人である雄也からすれば、魔法がある時点で神がいても不思議ではないのだが。


「けど、六大英雄だっておとぎ話の登場人物のようなものだった。そして、そのおとぎ話で奴らは女神に反逆し、封印されたとされてる。女神が実在する可能性は、十分にある」


 彼女はそこで一旦言葉を切ると「何より」と前置いて続けた。


「そうした人智を超えた何かが存在する証は、確かにあるからね。この世界の全てを縛る法則、祝福とも呪いとも呼ばれるそれの中に」

「あ……」


 フォーティアの言葉にイクティナがハッとしたような声を出す。

 女神の祝福。あるいは呪い。

 この世界には常識の埒外にある法則が存在する。

 第一に、総人口及び種族の比率の固定。

 多く死ねば補充され、数が満たされれば生まれない。

 第二に、戦争の抑止。

 人間同士の諍いは小さな範囲で収まり、歴史を動かす程のうねりとなることはない。

 個人の争いが世界を崩壊させるような事態にならないように、魔法も魔動器も大きく発展することもない。


「つまり、女神アリュシーダを抹殺するってことは――」

『世界には再び戦乱が満ち、その中で強き人間のみが生き残る。そして、死の数を上回って生まれ、遍く世界に満ちていくのである!』


 イクティナが至ったであろう恐ろしい結論が、そのままドクター・ワイルドの口から発せられる。

 女神が殺されれば、当然祝福もまた消え去るはずだ。


『そして奴の手から取り戻した進化の因子と共に、真の自由なる世界を作り出すのだ!』


 彼はそこまで告げると、自己陶酔しているように目を閉じて両手を広げた。


「自由な世界……」


 その言葉は胸の奥に引っかかり、小さく呟く。

 自由を信条とする身としては、彼に同調してしまう部分もない訳ではない。


(けど、違う!)


 忌々しき敵にそんな気持ちを抱く自分を、雄也は心の中で強く窘めた。

 彼は、彼らは今ここに生きている人々を人形と断じ、その自由を蔑ろにしている。

 たとえ自由という大義名分を掲げていようとも、そのために誰かの自由を奪うのであれば、それを許す訳にはいかない。


「な、何が真の自由なる世界だ!」


 と、内に向いた雄也の意識を外に向けるように、周囲にいた騎士の中から声が上がった。


「この平和な世界を壊すな!」


 それを皮切りに賞金稼ぎ(バウンティハンター)からも罵声が飛ぶ。

 対照的に、力なき一般市民は不安げに彼らと空とを見比べるばかりだったが……。

 本音のところでは多くが同じ。平安無事であることを望んでいることだろう。


『……人形共が姦しい。所詮貴様らは家畜以下の存在という訳だ。上位者の作った檻の中で生殺与奪を握られたまま、朽ちる時を待つ愚者に過ぎない』


 それを前にして、ドクター・ワイルドはいつものマッドサイエンティストのテンプレのような口調ではなく、低く憤怒を押し殺したような声で言った。


『いずれにせよ、己の意思すら奴に侵された貴様らには何もできん。……そこで大人しく傍観しているのである。所詮家畜に己の生き死には決められぬのだからな』


 彼は道化染みた演技を再開し、更に続ける。


『運命を他者の手に委ねる恐怖を知るがいい。それは神なき世界の糧となるであろう。もっとも、この場で生き残ることができるかどうかは、()()次第だがな』


 そして、その言葉を合図とするように突如として空に変化が生じる。

 そこに映るドクター・ワイルドの顔が大きく歪み、一面が光で覆われてしまった。

 六色の属性魔力を宿していると視覚的に分かる、街を囲う光のカーテンと同じ虹色を湛えた光によって。蓋をするように。


「こ、これはっ!?」


 四方、上方から届く虹色の光が眩く、思わず目を眇めてしまう。

 そこから感じる力は周囲の光の比ではない。

 触れれば、〈六重(セクステット)強襲(アサルト)過剰(エクセス)強化(ブースト)〉状態の雄也でも間違いなく命を落とす。

 他の者ならば、塵一つ残さず消滅するだろう。


(何を、するつもりだ?)


 包囲され、空までもが塞がれてしまった。

 その次に訪れるものが何なのか。嫌な予感が胸の中に渦巻く。


『さあ、最後の闘争(ゲーム)を始めるとしよう』


 そんな中でドクター・ワイルドの声だけが響いてくる。


『ルールは簡単である。この光の天井が落ち切るのを防ぐことができればクリア。さもなくば地表ごと焼き払われるのである。単純な話であろう?』


 ある意味、予想通り。

 本当に、そうであって欲しくないというところを的確に突いてくる男だ。

 忌々しさに思わず舌打ちする。


『では、闘争(ゲーム)開始(スタート)だ。貴様らの阿鼻叫喚をアテウスの塔復活の号砲としよう』


 その言葉を最後にドクター・ワイルドの声は聞こえなくなる。

 しかし、人々は目前の危機を即座には受け入れられず、不安と戸惑いに満ちたざわめきを起こすばかりだった。

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