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【初稿版】特オタ~特撮ヒーローズオルタネイト~  作者: 青空顎門
第六章 心と体繋がれば

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第二十八話 約束 ②耐久戦

 特オタ、前回の三つの出来事!

 一つ。リュカとの問答の末、彼らとは相容れないことを再確認する!

 二つ。〈五重(クインテット)強襲(アサルト)強化(ブースト)〉状態から一撃するが、五属性全ての魔力を無効化される!

 三つ。その結果から、光属性の魔力でなければダメージを与えられないことに気づく!

 迫り来るリュカの拳を避けながら、必死に打開策を考える。

 反撃は一切しない。

 魔力無効化の影響で攻撃が通らない以上は、する意味がない。

 それ以前に、そんなことをしていては間違いなく押し切られてしまう。

五重(クインテット)強襲(アサルト)強化(ブースト)〉状態だったからこそ僅かなりとも優位に立つことができていたが、通常の獣人(テリオントロープ)形態では回避に専念しなければ均衡を保てない。

 それも少しずつ厳しくなりつつあった。

 一つのミスが即座に命に関わるような綱渡りの戦い。

 その中で要求される選択肢の精度が一手ごとにシビアになっていっている。


(このままじゃ、本当にまずい!)


 焦燥に駆られながら、顔面を狙って放たれた殴打をギリギリのところで避ける。

 僅かに頬の装甲を掠めた感覚と鎧を通して伝わる音。

 それに冷やりとする間もなく次なる攻撃が迫り、ひたすら避け続ける。

 せめてもの救いは、リュカが魔力を収束した一撃を放ってこないことか。

 魔力無効化の影響下にある通常攻撃の威力から推算して、もし《Convergence》の上乗せがあったら余波だけで大きなダメージを負いかねない。

 このように戦況を無理矢理にでも膠着させることなどできなかっただろう。


「よく足掻く。そこまで死ぬのは嫌か?」

「当たり前だ!」


 余裕を見せるように言うリュカに、雄也は叫んで返した。

 その様子を見る限りでは、魔力の収束を行わないのは雄也を嬲り殺しにするためであるかのようにも感じられる。

 しかし、いくらドクター・ワイルドの仲間とは言え、今までの言動を見るに彼女はそこまで嗜虐的な人間とは思えない。

 恐らく、そうした理由でやらないのではなく、単純にできないのだろう。

 彼女自身の属性までもが魔力無効化に含まれているせいで、身体能力の強化に土属性の魔力を使えても、攻撃に纏わせて威力を上乗せすることは難しいのだ。

 あるいは、魔力無効化の魔動器を一時的に停止させるなどすれば、その間は魔力収束をした上での攻撃も不可能ではないかもしれない。

 だが、《Convergence》には最低十秒はかかるし、間違いなく敵に気取られてしまう。

 わざわざ反撃の可能性を相手に与える意味はない。

 そうせずとも、ほぼ詰んだ状況に変わりはないのだから。


(ここで戦っていても、逆転の目どころか助かる道もない)


 後はジリジリと追い詰められていくだけだ。

 状況を変えられるかもしれないからと意気揚々と戦いを挑んでおいて全く以て情けない限りだが、事実は事実として受け止めなければならない。


(だったら――)


 この場はもはや逃げる以外にない。

 華々しく散るのをよしとする程この戦闘に入れ込んでなどいないし、リュカに叫んだ通り、誰も好き好んで死にたくなどない。

 何より、アイリスの命のためにも決して死ぬ訳にはいかないのだから。

 三十六計逃げるに如かず。まだ動ける内に行動する必要がある。

 とは言え、逃げるにも一定の実力がいる。

 虚を突くことができるタイミング、方法を選んで逃走を試みなければならない。


「集中力が乱れてきたか!?」


 そのつもりはないが、逃げに思考のリソースを割いた分だけ僅かに反応が鈍ったのだろう。そこを突いてリュカが踏み込んでくる。

 実力差からして、単純な格闘戦ではその段階から避ける手段は雄也にはない。


「〈オーバーアップリフト〉!」


 だから、雄也は彼女の真下の地面を隆起させ、上方へと強制的に弾き飛ばさんとした。

 魔力が無効化されてダメージにはならずとも、直接彼女に触れている部分以外に魔力を作用させれば持ち上げることぐらいはできる。


「小賢しい!」


 対して、リュカは慌てることなく即座に対応し、攻撃の矛先を真下に向ける。

 その一撃は隆起した地面を容易く叩き壊してしまった。

 そのまま彼女は最小限のロスで再度こちらを狙おうとする。

 さすがとしか言いようがない。

 しかし、それでも、一瞬の隙を作ることはできれば十分だ。


(今!)


「〈オーバーアップリフト〉!」


 その僅かな空隙を無駄にはせず、今度は自分自身の足元を隆起させると共に地面を蹴り、上空へと一気に跳躍する。

 さしものリュカも、視界を覆うように急激に聳え立ったそれには虚を突かれたようだった。魔力無効化によって、恐らく魔力的な気配を感じ取れないことも相まって。

 僅かに彼女の反応が遅れる。


《Change Phtheranthrope》

「〈エアリアルライド〉!」


 それを唯一無二の好機と見て、雄也は即座に翼人(プテラントロープ)形態へと変わり、全力でその場から飛び去ろうとした。が――。


「させると思うか?」


 リュカから視線を切った刹那の間に、彼女は雄也の背後を取っていた。

 逃走に意識を置き過ぎたせいか、何が起きたのか咄嗟に頭が追いつかない。


《Change Therionthrope》

《Towershield Assault》


 そのような状態にあって最善の判断ができたのは、これまでの戦いを曲がりなりにも潜り抜けてきたおかげだろう。

 雄也は自らの身を守るためにリュカと同じ土属性の獣人(テリオントロープ)形態に戻ると共に、背中を守るように後ろに巨大な盾を作り出した。

 直後、正にその盾を通じて後ろから衝撃がかかり、地面に叩き落とされてしまう。


「くっ、ぐ、まだ」


 それでも直前に行った備えのおかげで、ダメージは最小限に抑えられた。

 着地の隙もほとんどなくリュカと再び対峙する。

 と、そのほぼ直後、彼女の後方に何かが落下して音を立てた。

 色合い、大きさ、形状からして隆起した地面の残骸ではない。

 しかし、どことなく見覚えがある。


「〈スツール〉で作った足場……?」


 アイリスもよく使うそれが視界の端に入り、思わず自問気味に呟く。


「いや、魔力無効化の魔動器を使ってるなら、そんなことは――」

「何を驚いている。魔動器を一時的に停止すれば、魔法などいくらでも使えるだろう」


 解答するようにリュカに呆れ気味に言われ、雄也はハッとしてそんなことにも気づかなかった己に愕然として奥歯を噛み締めた。

 オフにすれば効果は消える。当たり前のことだ。

 にもかかわらず、不利な状況に一杯一杯になり、そんな単純なことも見落としていた。


「逃げを臆病とは言わない。だが、やめておいた方がいい。そうなれば、貴様が七星(ヘプタステリ)王国に着く前に、ワタシ以外の誰かがあの娘を殺すことになる」


 そんな雄也に対し、リュカはどこか不本意そうに脅迫を口にする。

 やはり同族が直接手を下されることには、忌避感があるようだ。

 とは言え、雄也が死に、飢餓状態のまま後を追う方が悲惨な末路のようにも思うが。


「もっとも、ワタシに貴様を逃がす気などない。諦めてこの場で死ぬことだ」


 彼女はそうつけ加えると、仕切り直すように再び拳を構えた。

 いずれにせよ、逃走は封じられてしまった訳だ。


(だけど……)


 リュカの言葉は、雄也達に最後のチャンスを与えているようにも受け取れる。

 これまでの言動も、どことなく下手な演技のようにも感じる部分がある。

 それが彼女の素の態度なのかもしれないが。

 何より、本気で雄也を殺したいのなら、それこそ六大英雄全員で、あるいはドクター・ワイルドが直々に行えばいいのだから。


(なら、どこかに目はある、はず)


 皆目見当がつかないし、そもそも彼女が一人で来たのも単なる気まぐれに過ぎないのかもしれない。しかし、そう思っておかないと気持ちを保つことができない。


(思い込みでも何でもいい。諦めるな)


 自分自身に言い聞かせ、リュカを見据える。

 チャンスが残っていると楽観的に仮定して、撤退が許されない状況で勝利条件を考えるならば、それは雄也自身の手によるリュカの撃退以外にない。

 だが、現時点では、少なくとも雄也の頭の中にそれが可能となるプランは存在しない。

 そもそもが格上の相手。

 転移系の魔法が使えない以上、援軍も魔力結石の補給も望めない。

 光属性以外の魔力は無効化される。

 状況は絶望的なままだ。

 失敗の代償が死であることも何ら変わらない。


(……せめて皆がいれば)


 一人危難にあって連絡を取ることができないこの状況。心細いにも程がある。

 心を強く持とうとしても弱音が出てきてしまう。


(アイリスも帰りが遅ければ心配して……? ……そうだ! とにかく時間を稼げば、異変を察知してくれるかもしれない)


 そうすれば双子を通じて全員に伝わるだろう。

 雄也がここにいることは皆知っている。駆けつけてくれるはずだ。

 彼女らの力を頼ることは勝利条件に反するかもしれないが、近くにいて事態解決の糸口を協力して探って貰えるだけでも全く違う。

 一人で思いつくことができるものなど高が知れているのだから。


(よし……なら今は――)


 そのためにも打てる手は全て打って、拮抗状態を作り出さなければならない。

 先程までのようにジリ貧の見せかけだけの均衡ではなく。


「アルターアサルト」

《Change Anthrope》


 だから雄也は、戦意を示すように静かに強く告げると、獣人(テリオントロープ)形態から元の姿に戻った。装甲は纏ったまま中身だけ。

 獣人(テリオントロープ)形態では、結局のところ敗北までの時間を引き延ばすことぐらいしかできない。

 リミットが決まっていない以上、それは分の悪い賭けだ。

 であれば、色々と応用の利く本来の姿の方がいい。

 属性特化状態に比べれば相性による威力減衰は多少劣るが、全くなくなる訳でもない。

 五つの属性が完成していることもあって、単純な身体能力は獣人(テリオントロープ)形態と同等だ。

 先程まで以上に不利になることはないだろう。


「行くぞ」


 雄也が身構えたのを見て準備が整ったと判断してか、リュカはそう宣言すると共に地面を蹴る。不意打ちをしない律義さは武人と呼ぶべきものだ。

 己の技量に自信がある表れでもあるのだろう。

 そんな一段上の相手と拮抗する術は一つしかない。

 決して正面からぶつからず、搦め手で十全の力を発揮させないことだ。


「〈フラッシュバン〉!」


 だから雄也は、突っ込んでくる彼女の顔面に投げつけるように、光属性の魔力で作り出した光球を撃ち出して着弾の直前で炸裂させた。

 ダメージを与えることを全く意図していない完全な目くらまし。

 魔力無効化の対象外の属性なので目には届く。

 今の雄也の魔力と彼女の生命力、魔力を比較すると網膜を傷つける程の威力を出すことは不可能だが、人間の目をしている限りは一瞬たりとも目が眩まないことなどあり得ない。

〈レギュレートヴィジョン〉によって感覚の強弱を変えることはできるが、いくら光を遮るためとは言っても戦闘中に視覚を潰す訳にはいかない。

 まして魔力無効化によって、敵を認識する術が狭まっているのだから。


「むっ……」


 事実、リュカは突然の閃光に一瞬怯んだ様子を見せた。


「〈オーバーマルチアップリフト〉」


 そこへ周囲の地面をランダムに隆起させ、彼女の足元を乱す。


「〈コンバージェントグランレーザー〉!」


 そして体勢が崩れて接近の勢いが弱まったところを狙い、雄也は現時点の己の力で可能な限り収束した光線を再度リュカの目の辺りへと放った。

 当然彼女には僅かたりともダメージは与えられないが、眩さは牽制程度の効果にはなる。


「成程。どうやらワタシの鍛錬相手ぐらいは務まるようだな」


 彼女は一度後方に下がると、多少は見直したと言うように告げた。

 それから、ほぼ間を置かずに再度正面から突っ込んでくる。


「〈マルチアップリフト〉」


 対して、雄也は時間稼ぎのために同じパターンを繰り返そうとした。

 しかし、相手はあくまでも六大英雄。

 一度効果があったからと言って二匹目のドジョウは得られない。


「温い!」


 足元を警戒していれば対応は容易いとばかりに、彼女は凸凹になった地面を軽やかに的確に蹴って間合いを詰め、打ち下ろし気味に拳を雄也の顔面に叩き込もうとしてきた。


「〈エアリアルライド〉」


 その攻撃を雄也は、空力制御を用いて後退することで回避した。

 更にリュカは追撃を仕かけようと迫ってくるが、単純に地面を蹴って後方に飛び退る時とは異なる軌道を巧みに用いて避け続ける。

 飛行用の魔法によって重力を軽減したかのような挙動は、六大英雄たるリュカであっても余り見慣れないものだろう。

 風属性かつ遠距離戦の方が適正の翼人(プテラントロープ)が、恐らく五本指に入る接近戦のスペシャリストである土属性のリュカに近接戦闘を挑む愚を犯す訳がない。

 過去の基人(アントロープ)ならば可能性はあるかもしれないが、どちらかと言えば頭脳寄りの種族だったようなので、それでも稀なはずだ。


「中々面白いが、まだ甘いな」


 だが、相手はあくまでも六大英雄。

 奇をてらったような雄也の動きにも即座に対応し、今度は右左の拳でフェイントを入れてから鋭い蹴りを放ってきた。

 回避方向を完全に誘導され、避け切れない一撃が左側の肩口に迫る。


《Towershield Assault》


 それに対し、雄也は地面から僅かに浮かび上がって威力を少しでも殺すために体を反らしながら、緩衝材として再び巨大な盾をリュカとの間に作り出した。

 直後、彼女の攻撃はそれにぶち当たり、間接的に雄也の体にも衝撃が伝わってくる。

 その威力を逃がすために、無理にその場に留まって耐えようとはしない。

 わざと弾き飛ばされ、滞空しつつ体勢を立て直す。


(くっ……とは言え、ノーダメージとはいかないな)


 左肩に痺れを感じ、心の中で軽く舌打ちする。


「〈トリプルヒールマイルド〉」


 それが戦闘に悪影響を及ぼさないようにと、雄也は生命力と相性のいい土、闇、光属性を合わせて回復魔法を使用した。

 更に効果を全身に及ぼして継続し、疲労を事前に緩和させておく。


「〈マルチフラッシュバン〉〈オーバーマルチエクスプロード〉」


 同時に、全く手を緩めずに追ってくるリュカの方へと、炸裂して強烈な光あるいは爆発を起こす魔力球を無数にばら撒いた。

 間髪容れずに、視界のあちこちで閃光と爆炎が起こる。

 当然それで倒せるはずもなく、しかし、一旦攻撃の手を休めたようにリュカはその中からゆっくり浮かび上がるように現れた。

 それを見据えて構え直す。


「少し興が乗ってきた。が、決定打がないままどこまで戦い続けられる? もし、まだ足掻くというのなら、体よりも先に心が屈しないようにすることだ」

「……言われるまでもない」


 敵の忠告に、大きなお世話だと思いつつもそう返す。

 六属性全ての魔法を撹乱のために総動員することによって、獣人(テリオントロープ)形態で戦っていた時よりも、遥かにまともに均衡を保つことはできている。

 しかし、それはあくまでも防戦一辺倒だからこそ可能なことだ。

 こちらの攻撃はリュカの言う通り、魔力無効化によって彼女に全く届かないのだから。

 総合力で互角とは口が裂けても言えない。

 その上で逃げることも許されないとなれば、心が折れてもおかしくはない。

 それでも――。


「何時間だろうと、耐えて見せる」


 耐えることだけが現状を打開できる可能性を残しているからこそ、挫けずにいられる。

 繋がりが断たれた今こそ、逆に仲間の存在が心の支えとなっていた。


「言ったな。死の瞬間までそうあることができるか、見届けてやろう」

「死ぬつもりもない!」


 煽るような言葉と共に再び間合いを詰めてきたリュカに対し、雄也はそう意思を示すと改めて我慢の戦いに意識を全て集中させたのだった。

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