お帰りなさいませ。
離れと本邸を結ぶ扉が開く、アスワドの帰宅だ。時計は丁度3時を告げていた。
「お帰りなさいませ、アスワド様。」
カタリナがすぐ荷物を受け取ろうとすると、アスワドが手でそれを制した。
「重いからね、自分で運ぶよ。それよりお茶にしてくれない?もうクタクタだよ。」
はいと頷いて台所へと向かう。随分とお疲れのご様子だわ・・・魔法学校って大変なのね。早速お茶を淹れるとカタリナは前のソファに座るよう促される、遠慮がちに言われるままに座った。
「っはぁ〜、一息ついた。ありがとうカタリナ」
「それはようございました。あの、何かお話でも?」
「うん、離れで困っていることは無いかなと思って。」
「うーん、そうですね。掃除洗濯は何とかこなしていますし。ルッツィさんも良くして下さいますし、特に困り事は・・・ないですね。」
そう、と頷きながら思い立った様に問いかけてくる。
「いつ?次の休み。」
「日曜日です。」
「誰かと予定ある?」
「いいえ。」
「じゃ僕と出かけようよ」
「私の様な者がアスワド様と出かけたらご迷惑をおかけします。」
「いいんだよ、僕がそうしたいんだから。」
またしても唐突に出掛ける事になってしまった。そして日曜日、2人は早速出掛ける事になる。今日は馬車は使わず歩いてのお出かけだ。アスワドは離れで着る服よりちょっと砕けた感じの街の少年風と、いった風情でカタリナも先日買ったワンピースに髪はいつもの様にお下げを両脇に垂らしている。雑貨店で買った鞄が良く似合っていると、アスワドに褒められた。
まず2人は街の市場を歩く。離れない様にとアスワドがカタリナの手を引く。市場は混雑していた、それでも野菜売りや怪しげな石を売る人々を見る事はカタリナにとって新鮮だった。瞳をキラキラさせてあちらこちらを覗くカタリナを見てやっぱり連れてきて良かったと思う。昼近くなり2人は屋台のチキンをそれぞれ買いベンチに座って食べる。
「ん!熱っつ。」
「出来立てだったから気をつけて。」
アスワドが心配すると、カタリナは舌を出して
「火傷しちゃいました。」
と、にっこり笑う。その笑顔が可愛らしくうっかり見とれてしまった。本当に妹がいたらこんなに可愛いのかな?アスワドは寄宿舎の仲間を思い出す。
(そりゃあ、妹っていうのは可愛いもんさ。俺のところも10歳だけど、あれは美人になるな。)
(僕んとこはまだ4つなんだけど、あの子の為に絶対魔法省にはいるんだ。お金の面でも嫁入りの面でも恥ずかしくない様にしてやるんだ。)
妹がいる友人は皆愛おしそうに語った。隣でまだチキンを食べているカタリナを同じような思いで見つめる。僕も将来の事を考えてちゃんとできる事をやらなけりゃ。
チキンを食べ終わったカタリナが怪訝そうに見つめてくる。
「どうかなさいました?」
「いや、なんでもない。次行こうか。」
それから2人は端から端まで市場を歩くと、露店で飲み物を買い帰路に着いた。