初めての図書館(改)
カタリナにとって図書館という場所は縁のないところであった、勿論この日が初めての図書館デビューになる。アスワドが選んだのは王立図書館で、この国で最も蔵書数が多い。その優雅で静けさに満ちたエントランスに一歩足を踏み入れただけでカタリナは圧倒された、身分違いは出て行けと言わんばかりの雰囲気に一歩身を引いてみるがお供なのでここで帰るわけにはいかない。
「もしかして図書館初めて?」
アスワドの問いかけに顔を赤らめて頷く。
「施設からは殆ど出た事がないんです。」
そう告げるとアスワドはカタリナの手を引き、窓際の席に座らせて小声で話した。
「図書館では大声や私語は禁止だから。」
そう言うとそっと席を離れ数冊の花の図鑑を持ってきてくれた。
「これなら見て楽しめるだろう?僕はちょっと探し物があるから、これを見て待ってて。」
それきりアスワドは迷路のような図書館内に消えていった。置き去りにされた本たちの一冊を、そっと手に取りゆっくりとページをめくる。見たことのある花から見知らぬ花まで一つ一つが美しい描写で描かれている、カタリナは夢中になって本に没頭していった。それはアスワドが帰ってきても気づかない程に。
肩を軽く叩かれハッとする。
「カタリナ、大丈夫?」
「あ、申し訳ありません。あまりに綺麗な本なのでつい没頭してしまいました。ヒ・・・ア、アスワド様のご本は見つかりましたか?」
「うん、あったよ。借りては帰らないけどね、さぁ帰ろうか服屋にも寄らなきゃいけない。」
アスワドは約束通りに服屋に立ち寄ると店の者に告げた。
「この子はシュヴァリエ家の離れで働く侍女なんだけど、似合う服を見立てくれませんか?」
「はい、かしこまりました。さぁて、お嬢さんはもう少し肉をつけた方がいいなぁ、どれこれなどはいかがです?」
鏡の前で服を前に当てられる。
「うん、いいと思う。同じサイズであと二、三着見繕ってもらえますか。」
痩せっぽちのカタリナはあれやこれやと何着か試着を重ねようやく、四着の洋服が揃った。店を出る間際
「コートがないな。」
そう呟いたアスワドは出入り口に飾ってある緑のコートに目をやると、これも頼むと更に購入。側で見ているカタリナは気が気ではない、この洋服全部でいくらになるのか、自分が将来働いて返せる額かどうか、そればかりが気になって仕方がない。ようやく店を出て馬車に乗って走り出す、揺れる馬車の中でカタリナは段々と眠くなる。
「カタリナ?カタリナ、だめだよ眠っちゃ。」
「は、あ⁉︎も、申し訳ありません。つい馬車の揺れが気持ちよくて、失礼しました。」
なんとか意識が覚醒したカタリナとアスワドを乗せて馬車は公爵邸に向かった。