君の為に・・・
冬休みも終わり、学生寮に帰ったアスワドは友人らと進路について語り合っていた。
「やっぱり何と言っても魔法省だろう?安定しているし、研究費も出るらしいぞ。」
友人らの8割方が魔法省を希望する中、アスワドが口を開いた。
「僕は魔法騎士団に入ろうと思う。」
その言葉に仲の良い友人らは一斉に言った。
「お前、全然マッチョじゃないじゃん!あそこは魔法だけじゃなく厳しい鍛錬も必要なんだぞ、それにお前は魔法省に目をかけられてるんだ、なにもわざわざ厳しい道に挑まなくても。」
「うん、知ってる。でも決めたんだ、僕の守りたい人を守るって。」
「ヒョー、誰だよそれ⁈」
「馬鹿だなぁ、内緒だよそんなの。」
アスワドはクシャクシャと髪を弄られ仲間からせっつかれた。そうしてアスワドは有言実行通り春には寮を出て騎士団に入る事となる。しかし、その前にやっておかなければいけない事があった。公爵家に許可を貰わねばいけないのだ。公爵は宰相を務めている忙しいその身を時間を割いてアスワドの為に自宅に帰ってきた。
「なぜ今更騎士団に入ろうと思うんだ。君は魔法省から目をかけて貰っているんだぞ。」
「はい、成年の儀を経験して自分の今後を鑑みてみるともっと色々な事に挑戦したいと思いました。僕は今まで護られてばかりで安穏とした中に身を置かせて頂きました、これからは誰かを護れる強さが欲しいと思ったのです。騎士団には既に合格済みです、あとはこちらの離れの管理をどうしようかとご相談したくおもいます。」
「アスワド、なにも騎士団に入らなくてもあなたの力は誰かを十分に護れるわ。」
「いいえ、奥様。僕はもっと厳しい場所で自分を磨きたいのです。」
「どうしてもか?」
「はい。」
「決心が固い様だな・・・離れにはルッツィもいる、当面彼を屋敷預かりにしよう。しかし、アスワド休暇の際には屋敷に帰ってきなさい。実家もない君には家が実家の様なものだ。」
「ありがとうございます。」
離れに帰るとカタリナが心配そうに待っていた。
「どうして厳しい騎士団なんかを選んだんですか?」
「どうしてって、さぁなんでだろうな。」
カタリナがポロポロと涙を零す。
「わた、私は後二年はアスワド様のお世話を出来ると思っていました。き、騎士団に入られたら今までの様に長いお休みもないんですよね。私、私はアスワド様の為にここに居るのに、存在の意味がなくなってしまう。」
後から後から溢れる涙を拭いながら、すみませんと何度も呟くカタリナは儚げで頼りなげでアスワドは思わずカタリナを抱き締めていた。
「僕が騎士団に行くのは君の為だよ。僕は強くなって君を護るんだ。君の為の騎士になるんだよ。」
カタリナは顔を上げて言った。
「危ない事はしないで下さいまし。いつも元気で体に気を付けて・・・私は騎士などいりません、ただアスワド様が側にいればそれで良いのです。」