捨てられた子ども
次の朝、夜明け前には赤ん坊は城を出された。ただ一度も父親に抱かれる事もなく、古びた馬車に乗り街の一角に捨て置かれた。小さな彼が生きるか死ぬかは後はもう、運命に委ねられる事となる。数日後、彼が街の赤子を喪ったばかりの夫婦に拾われ生を永らえた事を魔法省大臣から話しを聞いた王は複雑な心境のままこれから後の人生を生きて行く事になる。時は流れアスワドと名付けられた王子は何も知らずすくすくと育ち7歳には魔法魔術学校に入学して来た。その能力は誰よりも高く純粋に魔法を学んでいた。ある日、彼の養父母が事故で亡くなりシュヴァリエ公爵家の預かり魔法師になり暫くは元気がない様子だったが、彼の元に新しく侍女が入って来た日を境に見る見る元気になり学校でもよく笑うようになった。しかし、成年の儀を目前にして王がアスワドを見たくないと、言い始めた。今だに男児に恵まれない王は捨て去った過去が目の前に現れる、それが我慢できないのだ。そして何も知らないザブリナが母親の勘で何かを感じ取ったりしたら・・・恐ろしい、王は我が子に会うのを恐れていた。
それならばと、急遽アスワドは魔法省の仕事を請け負わされる事になる。だが、彼は仕事の合間に聞いてしまったのだ魔法省の役人それもかなり上級の役人らが数人集まりアスワドの過去の話をしていた事を、自分が王子、しかし理由があり捨てられた事を、王は自分の顔も見たくない事を。彼は何事もなかったかのように持ち場に戻ったが顔色は悪く集中出来なくなった、早退すると役人に告げ離れに帰るとカタリナがいつもの様に迎えてくれた。アスワドは告げたかった、誰かに話を聞いて欲しかった、カタリナに話そうかいっそそうしたい。だがやっと成年なる自分がここまでショックを受けたのだ、それを二歳年下の少女に秘密を共有させる事は躊躇われた。自分の出自で離れていかれるのも困る、彼はようやっと「自分が何者であっても嫌わずにいてくれるか?」と、問いかけた。彼女の答えは彼の心の内を温めてくれた。自分にはカタリナがいる、無心に純粋に慕ってくれる彼女の存在がまた一つ彼の中で重要になる。アスワドは湯浴みを終える頃には落ち着き、成年の儀に新たな気持ちで挑んでいく事にした。会わなければいい、それだけだ。
成年の儀の当日、アスワドは今までにない程落ち着いていた。彼が杖を振る度に広間の灯りがキラキラと煌めく、会場ではその色合いにさざめきが起こっていた。
「今年の魔法省はやたら力を入れているな。」
「本当、素敵な色にうっとりしてしまうわ。」
誰も知らない、この仕業がたった一人の魔法師の仕事だという事を。深夜になり帰宅したアスワドを出迎えたルッツィとカタリナが労いの言葉を掛けた。ルッツィはともかくカタリナまで起きて待っていてくれるとは思わなかったアスワドは、二人の出迎えを素直に喜んだ。