ハヴェルンの春
今から15年前。
寒さが遠のき、花々が一斉に咲き誇る春の日。首都アデーレにある王宮の一室で小さな産声が上がった、すぐに魔法技術師が派遣されて来たが、彼は残念そうに国王に告げた。
「誠におめでとうございます陛下。殿下は大変強い魔力をお持ちになり誕生なさいました。」
国王は激しく荒ぶる心中とは裏腹に
「そうであったか、いやご苦労であった。」
と、努めて冷静に受け答えた。あとはこの事を妻ザブリナに伝えなければならない、産まれたばかりの我が子がそれも初の男児が、魔力持ちとして産まれ落ちた我が息子を彼は系図から消すために残忍な覚悟を持たなければならない。
産室へ入った。初めて見る我が息子を見て息を飲んだ。妻のザブリナが王を見やる。
「陛下、やっと出来た後継ですわ抱いてやってくださいな。」
癖のある黒髪黒目は祖父に似たのだろう、そんな事を考えつつザブリナに答える。
「ご苦労であった。赤ん坊も疲れているだろうから今日はもう休みなさい。」
せっかく産まれた男児を抱き上げようともしない夫を不審に思いながらもザブリナは疲れた身体を休めようと目を閉じた。
王はそれから宰相と二人だけの緊急会議を開く、宰相は事の次第を聞いて絶句した。
「そんな、やっとご世継ぎが誕生したと思えば魔力持ちなどと・・・。」
「私もどうして良いかわからない。アレを生かすか殺すか。」
「しかし、強力な魔力な訳でしょう?魔法省が殺す事を許す訳がありません。」
「ならばどうする⁉︎生かして王太子の座を渡すのか⁉︎」
その時、来客を伝える声がした魔法省大臣である。
「陛下もう少し落ち着いてお話を、先ずは王子殿下ご誕生おめでとうございます。しかし、大事なご世継ぎがこんな力を持って誕生なさるとは。」
「どうする気だ大臣、アレを生かすのか?」
「陛下は御自身の御子を系図から消すためには殺すしかないとお考えですか?確かに歴史を振り返ればそういう目にあった御子様もいらっしゃいました。しかし殆どが命を永らえ国の為に尽くす立派な魔法師になられております。もちろん、系図からは外され本人も何も知らないままで・・・。王子殿下には、亡くなられた事にしましょう。どこかの、私たちにも関係のない国民の中に紛れ込ませて新しい人生を生きて貰うのです。なぁに、7歳になれば嫌でも向こうから魔法魔術学校へやって来ます。」
「それは、捨てるということか?」
「さよう、ザブリナ様には残酷ですが明朝にはもう亡くなった事にして、周りの乳母や侍女らにも堅く口止めをして最小限の人数でやってしまいましょう。」
「そんな事が可能か⁉︎」
「陛下、我等は魔法師でございますよ。いかなる魔法を使ってもこの事は成し遂げますとも。」
「アレは・・・息子は生きていけるのだな?」
「はい。」
「それでは頼む、よろしく頼むぞ。」
「陛下の為なら。」
そう言うと、大臣は去って行った。