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      枕返 ‐マクラカエシ‐ 参

「ギィギィッ!」


 枕返しは馬鹿にされた事に腹を立て、眉間に皺を寄せて怒りの声を上げる。

 そして、友恵の母親が肩に掛けていたトートバックから取り出したのは、一本の包丁。

 それを友恵の顔面を目掛け、一投した。


「友恵、掴まっておるんだの!」

「きゃっ!?」


 隣に居た友恵を抱きかかえ、猫又は一足飛びで宙に舞う。

 高さにして軽く五メートルはある。投擲された包丁を避け、猫又は地面に着地する。


「母親を使い、娘に刃物を投げるなど……最低だの」


 友恵が元居た場所。その後ろにあった木の幹に、投げられた包丁の三分の一がめり込んでいた。

 猫又が友恵を抱いて避けていなければ、今頃あそこには遺体が一つ転がっていたかもしれない。


「ね、ねぇ、猫又のお姉ちゃん」

「む?」

「枕返しって、寝ている人の枕を返す妖怪でしょ? それがなんで、お母さんがあんなになっちゃうの……?」


 抱えられていた猫又の腕から降りて、友恵は自分の母親を見て問う。

 自分が知っている面影すら消え、豹変している母親。友恵は枕返しがどんな妖怪か知っていた。だから、不思議だった。

 自分が知っている枕返しという妖怪は、このように人を操り、酷く人に害を働く存在では無かったから。


「うむ。よく書物や言い伝えに出てくる枕返しならば、悪戯で済む程度の事しかせん」


 また枕返しに狙われても庇えるよう、猫又は友恵の前に立って答える。


「一説だと枕返しは、猫が化けた火車とも言われておる……が、あくまで一説で本当ではないの。それにあんなのと同じ猫の妖怪とは思われたくないのぅ」


 お世辞でも可愛いとは言えない枕返しの面構え。おまけに中年男性のように弛み出っきった腹。

 醜いというより不細工ななりに、猫又は同じ猫の妖怪と思いたくなかった。


「じゃあ、あの妖怪は枕返しじゃないの?」

「いや、あれは枕返しで間違いないの」


 猫又と友恵が話している間。

 枕返しが操る友恵の母親は、またもやトートバックに手を入れ、次に取り出すは果物ナイフ。

 友恵は恐怖で半歩下がり、猫又は迎撃態勢を取る。


「ただ、間違いでは無いが正しくもない。言うなればあれは――――」


 こちらを見てくる枕返しを睨み返し、猫又は妖気を体に纏わせ。

 言葉の先を続けた。


「枕返しの亜種……とでも言えばいいかの」


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