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      霊視 ‐ゲンイン‐ 参

「どうやら、妖怪に取り憑かれたのは母親の方みてぇだ」

「お母さんに……?」

「あぁ、このベッドから特に妖気を感じる。って事ぁ、ここで寝ている人が取り憑かれているって考えるのが自然だろ」


 霊視をすると、ダブルベッド全体から黒々しい濃紫のオーラが纏わっている。

 ベッドから妖気を感じるという事は、友恵の母親は寝ている間に妖怪の影響を受けていると考えていいだろう。

 とりあえず、妖怪が取り憑いているのが母親の方だと解っただけでも十分だ。父親よりも母親を見付けるのが先だと、優先順位がはっきりしたのだから。

 この事を猫又にも知らせるべきだが、生憎今は別行動で居ない。猫又は携帯電話も持っておらず、通信手段も無い。

 このまま友恵の家で猫又を待つか、自分も街へ友恵の母親と猫又を探しに行くか。どうするかと、口元に手を当てて考え込む供助。

 すると、ふとある物に目が行った。


「枕……?」


 ベッドに置かれている、一つの枕。なんてない、よくある、普通の枕。

 小さなフリルが付き、薄く花の模様が描かれた枕カバー。大きさは大体五十センチ位。

 ただその枕の妖気はベッドよりも濃く、一際異彩を放っていた。

 真っ新な水の中へ絵の具が付いた筆を突っ込んだ時のように……酷く濁って。


「友恵」

「な、なに? 供助お兄ちゃん」

「よく喧嘩する以外に、母親に何かおかしな所はなかったか?」

「え、っと……」


 うーん、と唸りながら、友恵は最近の記憶を思い出す。


「あ、そういえば」


 何か思い当たる事があったようで、友恵は俯きかけていた顔を上げる。


「最近じゃないんだけど、お父さんと喧嘩をするようになった時に……」

「何かあったか」

「お母さん、なんかよく夢を見ていたみたい」

「夢?」

「うん。どんな夢かは教えてくれなかったけど、凄く嫌な夢だって言ってた」

「夢、か。夢……ねぇ」


 供助は推測する。今ある情報で、導き出される元凶を。

 キーワードは喧嘩、ベッド、枕、夢。少ないようで、意外とある手掛かり。

 特に枕と夢。この二つは重要かつ、答えと言っていいかもしれない。


「友恵、この枕は前から使ってんのか?」

「枕? あ、うん。これはお母さんが昔から使ってる物だよ」

「新しくした物でも無ぇ、か。カバーもか?」

「枕カバーはお母さんの手作りだよ。お母さん、縫い物とか編み物が得意だから」

「どっちも外から持ってきた物じゃねぇか。となると……何かを切っ掛けに連れて来ちまったと考えるべきだな」


 供助は前髪を掻き上げ、ベッドの上にある枕を凝視する。

 元々何かしらの物に妖怪が憑いていて、それを購入した事が原因じゃないかと考えもしたが、どうやらその線は無いらしい。

 そうなると供助が今言ったように、妖怪を連れてきてしまったか、誘い込んでしまった可能性が高い。

 幽霊スポットに行った、慰霊物を破損させてしまった、妙な(まじな)いをした。よくあるのはこんな理由だ。

 深夜徘徊を楽しみとしている若者ならばともかく、子持ちの大人が心霊スポットに行くなんてのは考えにくい。なら、あるとすれば慰霊物の破損か、呪いか。どちらか二つ。

 しかし、ここ二週間程前から、この五日折市付近の地域に妖怪や幽霊の類が異様に増えている。もしかしたら、何かイレギュラーが起きた可能性も捨てられない。

 普段使わない脳みそを使い、供助が考え込んでいると――――。


「供助お兄ちゃんっ! 危な―――」


 ご――――っ!


 友恵の叫び声が耳に入った瞬間。頭部に激しい衝撃と、酷い鈍痛が走る。

 何が起きたのか、何をされたのか。何も解らないまま。

 供助は顔から床に、抵抗も無く倒れ込んだ。


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