霊視 ‐ゲンイン‐ 弐
「次は二階を頼む」
「ここはもういいの?」
「あぁ、十分だ」
キッチンの中には入らず、廊下から霊視しただけで十分だった。それに、こうも酷く物が散乱していると、入るのに戸惑ってしまう。
友恵はキッチンのドアを閉め、二階へと続く階段へと供助を連れて行く。
古臭さがある供助の家とは違って、友恵の家は新居並の新しさがある。階段を上っても軋む音がせず、壁だって白くて綺麗だ。
「二階は全部で四部屋、か」
階段を上りきって二階に来ると、廊下を挟んで対称的にドアが二つずつあるのが見えた。一階に比べて二階は綺麗で、物は一つも落っこちていない。
喧嘩が勃発したのは一階のキッチン。二階では特に争いはしなかったのだろう。
現時点では一階と二階に妖気の差異は無い。あくまで現時点で、であるが。
「とりあえずこの部屋から見ていくか」
「ここは私の部屋だよ」
廊下の左手。一番近かった部屋から調べる事にする。
友恵がドアノブを回して開けて部屋に入る。勉強机、丸いピンクのテーブル。小さめのベッドに、可愛らしい人形や動物のぬいぐるみ。
いかにも小学生の女の子っぽい部屋。ぐるりと部屋を見てみても、これといっておかしな点は無い。
友恵自身からは妖気を感じないし、話によれば妖怪が取り憑いているのは両親。
なら、友恵の部屋には目星い情報はないと考えていいだろう。
「ここは大丈夫みてぇだな。次行くぞ」
「うんっ」
友恵の部屋を霊視するのは一分も掛からず、すぐに出て行く。
自分の部屋にも何か妖怪がいるんじゃないかと心配していたらしく、友恵は何も無いと知ると少し安心したのか口元が綻んだ。
次に調べるのは隣の部屋。友恵の部屋から数歩、供助は廊下も霊視をしながら歩く。
「この部屋は?」
「お父さんとお母さんの寝室だよ」
「……寝部屋、ねぇ」
人の家の寝室に入る事に多少の抵抗を覚えながら、供助は友恵に付いていって部屋に入る。
友恵くらいの歳なら気にもしなかっただろうが、供助はある程度の歳をとってモラルや常識を持っている。
なんというか、まぁ……未成年といえど、それなりの知識はある訳で。
気まずくなったり、友恵に質問されたら答えにくくなるような物が無い事を祈る供助だった。
「でも、最近はお父さんとお母さん、別々の部屋で寝てるから……」
「じゃあこの部屋は使ってねぇのか?」
「んーん。今はお母さんが一人で寝てるよ」
「親父さんの方は?」
「向かいのお客さん用の部屋で寝てる」
「そうかい」
クローゼットに化粧机、立ち鏡、小さな本棚。定番の家具が置かれた、よくある寝室。そして、部屋の中央に置かれた大きなダブルベッド。これが一番、目立つ。
目立つ理由はその大きさ。元々は友恵の両親二人が一緒に寝るのを想定して購入したのだろう。
だが、供助には目立つ理由が他にもあった。
「……ここか」
「えっ?」
部屋の入り口前に立っていた供助は、ようやく見付けた手掛かりへと向かう。
近付くはダブルベッド。今まで見せてもらった部屋とは明らかに違う、妖気の残滓。
家中を囲む霧のような僅かなものでは無く、くっきりと残された濃い妖気。
ダブルベッドが視界に入って直ぐに解った。ここが妖怪の住処……根城なのだと。




