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      二手 ‐フタテ‐ 肆

「さて……」


 猫又は地面に鼻を近付け、鼻を鳴らす。

 友恵から供助に電話があったのは三十分程前。それに友恵は最初、一人で両親を探し回っていたと言っていた。

 とは言え、小学生の子供が何時間も歩き探し回れるとは思えない。友恵の両親が家から出て行ったのは恐らく一時間から二時間ほど前と考えていいだろう。

 もし、友恵の両親が妖怪の影響で喧嘩を起こしていたのなら――――。


「やはり、あったの」


 鳴らしていた鼻を止め、目を細める猫又。

 探しモノは直ぐに見付かり、予想通り強く残っていた。

 それは、妖怪の残り香。


「この道を真っ直ぐ行ってるのぅ」


 猫又が公園で別れず、友恵の家まで一緒に行った理由はこれだった。

 ほんの一、二時間前ならば、容易に嗅ぎ取れるほど残っている。これなら匂いを辿って行けば、自ずと友恵のどちらかの両親に会えるだろう。

 供助は宛も無いと言っていたが、猫又にはあったのだ。尤も、匂いが強く残っている確率が高いだけで、確証があった訳では無いが。

 猫又は道に残る匂いを頼りに、街中を進んでいく。


「うーむ、良い匂いがするのぅ」


 匂いを追う事、十分。気付けば駅前にまで来ていた。

 沢山の人が行き交い、歩き回り。煌びやかに光るビルやお店の看板。

 妖怪の匂いを嗅ぐと、一緒に食べ物の良い匂いが鼻に入る。ファーストフードや居酒屋、スーパー。食べ物を扱っている店はたんまりある。

 揚げ物の香ばしい香りに、焼けた肉の脂の匂い。様々な良い匂いに、猫又の口からは涎を垂れる。


「……ぬ?」


 街の喧騒の中。猫又は足を止め、表情が固まる。

 大通りから外れ、少し細い裏道。それでも飲食店が並び、人通りは多い。


「なんだの、これは」


 匂いを見付け、順調に追えている。匂いが消えるまではまだ時間に余裕もある。

 だが一つ、気に掛かる事が見付かった。妖怪の匂いに猫又は(いぶか)しむ。


「この妖怪の匂い……何か他の匂いも混ざっておるような」


 匂いの中、微量に感じる何か。しかし、確実に違和感がある。

 一瞬嗅ぎ間違いかとも思ったが、確かにする。ある。別の何かの匂いが。

 猫又の優れた嗅覚によって、ほんの僅かに残る違う匂いを嗅ぎ取った。

 ノートに鉛筆で字を書いた後、消しゴムで消したような。字は消えても薄らと跡だけが残っている、そんな感覚。

 そして、匂いを追って細い通りを抜け、再び大通りに出た時。

 さらに怪訝な状況を、猫又は迎えた。


「はて、どうしたものかの……」


 猫又は表情を険しくし、もう一度地面から匂いを嗅ぐ。

 やはり、何度嗅いでも間違いではない。


「ここで匂いが二手に分かれておる」


 友恵の家から嗅ぎ取れていた匂いと、途中から気付いたもう一つの匂い。

 今の目的を考えるのなら、友恵の家から辿ってきた匂いを追うべきだろう。それは猫又も解っている。

 匂いが消えるまで時間があるとは言え、時間を掛ければそれだけ友恵の両親が離れていく可能性がある。

 それに妖怪に取り憑かれているなら、どんな行動を起こすか解らない。急がなければならないのは変わらない。

 しかし、それを迷ってしまう程の理由が出来てしまった。


「まさか、妖怪の匂いが二つするとは予想外だの」


 もう一つの微かな匂いは途中から気付いたとは言え、友恵の家から追ってきた匂いと通り道が被っている。

 いや、被っているとい言うよりも、ほぼ完全に重なっていると言ったほうが正しい。

 ここまで同道で二重になっていると偶然とは考えにくい。猫又が気付かなかっただけで、初めから両方の匂いは友恵の家から出ていたと考える方が自然である。

 だとしたら、この二択によって今後の展開が変わる可能性が大きい。

 だが、悩む時間は無い。もし微かな匂いの方も友恵の家から続いていたのなら、尚更。

 猫又の目は細まり、焦燥の色が見え始める。


「もしかするとこれは……複数の妖怪の仕業かも知れんの」


 妖怪の匂いが別れる左右の道を、猫又は一度だけ交互に見やり。

 自身の勘を頼りに選んだ方を、匂いを辿り再動する。

 賑やかな街中。その喧騒を切り裂くように、猟犬ならぬ黒い猟猫が疾走する。


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