解消 ‐ナカタガイ‐ 参
そして今度こそ、通話が切れた。猫又が切るよりも先に横田側から。
ただ通話が切れる間際、小さく笑う横田の声が聞こえた……ような気がした。
「っちち、あっち」
まるで電話が終わったのを見計らったかのように、供助が居間にやってきた。
手には湯気が立つカップラーメンを持ち、口には割り箸を咥えて。
「電話はもう終わったのか?」
カップラーメンと箸をテーブルに起き、供助は座って猫又に話し掛ける。
「……ふん」
猫又は強く鼻を鳴らし、携帯電話を供助へと投げる。
「人のモンを雑に使うんじゃねぇっての」
「……」
返事もせずに後ろを向き、読んでいる途中だった漫画を再び読み始める猫又。
顔を見たくもなければ、会話もしたくない。供助は完全に嫌われ、猫又の態度に肩を竦ませた。
カップラーメンが出来上がるまで約三分。特にする事もなく、供助はリモコンを手に取ってテレビを点ける。
見たい物が特にある訳でもない。静かで会話の無い居間に、BGM代わりに点けただけ。
「……供助」
「あん? なんだよ?」
適当にチャンネルを回していると、猫又が供助の名前を読んだ。
しかし、やはり背中を向けたままで、供助の方を向きはしない。
「友恵の件が終わり次第、私は貴様の相棒を辞める」
「そうかい、好きにしな」
「友恵の依頼までは相棒という事だの。ならば、報酬の半分は私が受け取る権利がある」
「まぁ、そうだな」
「友恵からの報酬……今回はきっちりと半分、私も貰う」
今までの猫又と組んでからの依頼で得た報酬は全て、供助が受け取って管理していた。
その為、猫又は詳しい金額や自分の貰い分は知らない。だが報酬の代わりに、供助の家に居座り、一日三回の食事を貰っていたのだ。
猫又も金銭に執着があった訳でもないし、腹が膨れて暖かい場所で寝れるならそれで十分だし、満足していた。
そんな猫又が、こうしてはっきりと報酬を要求するのは初めての事だった。
「人に散々言っておいて、お前ぇも報酬が欲しいのかよ」
「私は貴様みとうに意地の汚い人間ではない無いの……!」
「そりゃそうだ。俺は人間、お前は妖怪。綺麗汚い関係無く人間じゃあねぇな」
供助は小さく鼻を鳴らし、小馬鹿にするように猫又に返す。
いつもなら流していた供助の冗談や皮肉も、今は腹が立つ。腹立って、苛立って、毛が逆立ってしまいそうな程。
猫又は何かを言い返しそうになるも、我慢して言葉を飲み込んだ。
どうせあと数日で別れる。今更真面目に相手にするのも馬鹿らしい。
「あと幾日で終いとはいえ、まだ相棒だの。報酬を受け取るのは当然だの?」
「お前の取り分だ。文句は無ぇよ」
言って、供助は割り箸を持ち、真っ二つに割った。
二本になった割り箸の形は非対称で、歪な形になっていた。
まるで、仲違いをして別れる今の二人みたく。
「ちと早ぇが、まぁいいか」
カップラーメンの蓋を全てめくり取り、供助は手を合わせる。
シーフードの良い匂いが鼻を刺激する。
「いただきまぁ……あ?」
今まさに食べようと、箸で麺を掬ったのと同時。
テーブルに置いていた携帯電話から、再び音楽が流れ出した。
供助はメールかと思い無視してラーメンを食べようとするが、着信音がメールよりも長く鳴り続ける。
渋々と箸をスープの中に戻し、供助は携帯電話を手に取った。
「友恵からだ」
「む……っ!?」
供助が着信相手の名前を言うと、背中を向けていた猫又が素早く振り向いた。
本日初めて合った猫又の目からは、早く出ろと無言の威圧を放ってくる。
供助は一瞬カップラーメンへと目をやるが、観念して電話に出た。
「おう、どうし――――」
『供助お兄ちゃん、どうしよう……!』
電話に出ると、供助が言い切るのを待たずに友恵の声が重なる。
その声は鳴咽が混じり、困惑と焦燥の感情も感じ取れる。
とにかく只事では無いのは簡単に伝わった。
「何があった?」
『ひ、っく……お、お父さんとお母さんが……』
鼻を啜り、息を詰まらせ。友恵は泣きながら答えた。
『いなくっ、なっ、ちゃったの』




