解消 ‐ナカタガイ‐ 弐
「代わった。横田かの?」
『やー、猫又ちゃん。供助君の報告でよく話は聞いているけど、話すのは久しぶりだねぇ』
猫又は供助の見様見真似で携帯電話で横田と話す。
とは言っても猫又の場合、耳は頭にある為、人間と同じように携帯電話を顔に寄せても、少しばかりシュールな絵になってしまう。
もっとも、人間よりも聴覚が優れているので問題無く聞き取れるが。
「うむ。前に話したのは一週間以上も前だのぅ」
『さっそく本題に入るけど、急にどうしたのよ? 供助君のパートナーを解消して欲しいって』
「横田には悪いと思うておる。だが、私はこのまま供助とやっていけるとは思えん」
『当たり前だけど、訳ありみたいね』
昨晩の依頼を終え、その報告を横田に送る際に、供助は猫又の意思を一緒に報告した。
手組みを解消したい、という言葉をそのまま文字にして。
『猫又ちゃんが辞めるのを止めはしない。けど、理由は聞かせて欲しいねぇ』
「……なに、理由は簡単なものだの」
猫又は話した。昨日あった事を全て。自身が言った事、全部。
友恵の事やその経緯。祓い屋との接触。供助の言動と行動。自身の気持ちと意思。
話すのに時間は掛からなかった。そんな長い経緯があった訳でも、長い付き合いでもなかったから。
淡々と喋る猫又の話を、横田は黙って聞いていた。全てを話し終えるのに、五分も経たなかった。
『なるほど、そんな事がねぇ。確かに小さい子供からお金を取るのは感心せんなぁ』
話を聞き終え、横田はいつもの軽い口調で感想を言った。
別段、供助を咎めるでも怒るでもなく、普段通りと変わらず。
「まさかあのような最低な男だったとは……私の見込み違いだったようだの」
『まぁ、ね。確かに供助君は捻れた性格しているからねぇ』
「あれを捻くれと言うには度が超えておる」
『そこがいい所だったりするのよ、意外と』
「ふん、とてもそうは思えんの。幼子に報酬を求め、金を取るなど……人格を疑う」
横田と会話する猫又の声に、段々と怒りの色が混ざっていく。
少女の必死な助けを求む声にも、供助は感情を見せず無気力で怠惰感を丸出し。
真面目に相手にせず、適当に話を聞き、その上報酬を求める。
人としてどうか……いや、妖怪である猫又から見ても、信じられぬ行動だった。
『供助君の相棒解消の件だけど、書類等の手配は簡単に出来るよ』
「すまんの」
『こっちから提案した事だしね。そう強要はできないし。さらに人手不足になるのは頭を抱えるけどね』
電話の向こうで横田は、はははー、と空元気の混ざった乾いた笑い声をあげた。
『ま、色々と準備が出来たらまた電話するよ』
「うむ、手間を掛けるの」
『管理職だからねぇ、手間を掛けさせられるのも仕事の内よ』
「人間は色々と大変だのぅ」
『生きる為にはしょうがないのよ。んじゃ、またね』
「またの」
猫又は携帯電話を顔から離し、通話を切ろうと指を伸ばす。
『あー、余計な事かもしれんけどさ』
「ぬ?」
――と、思い出したかのように、横田が再度口を開いた。
『今回の件、最後まで見てから決めても遅くないと思うけどね』
「……一応、覚えておこう。望み薄だろうがの」