日情 ‐ニチジョウ‐ 弐
「お、もう祥太郎いるじゃん。おーう、祥太郎ー」
校門に着くと、そこには顔見知りが立っていた。
黒い短髪に眼鏡。供助と太一みたくワイシャツの裾を出しておらず、身だしなみを整えた服装。二人と比べて頭一つ身長が低い。
太一が名前を呼ぶと向こうも気付き、目が合う。彼の名は大森祥太郎。供助がよく遊ぶ仲の一人である。
「供助君、太一君。早いね、もう少し待つと思ったのに」
「鬼に捕まらないよう早く出てきたからな」
「鬼?」
「あー、気にすんな」
口五月蠅い委員長を鬼と比喩する供助。だが、意味が解らず祥太郎は首を傾げた。
お世辞でもガラが良いとは言えない供助と太一。その二人の中だと逆に浮いて見える祥太郎。
パッと見では相容れないように見えるが、この三人はよく一緒につるんで遊ぶ事が多く、このように三人で帰宅するのが日課でもある。
太一と祥太郎は一切面識は無かったが、高校で供助を通して仲良くなった。
供助は小学六年の冬の時に両親を失っている過去を持つ。その後、中学からは母方の祖父母の家に引き取られた。
それが理由で供助は地元であるここ、五日折市から祖父母の家に引っ越し、中学は地元から離れた学校に通った。
そこで祥太郎と友人になったという経緯がある。
今ではまた地元に帰ってき、この石燕高校に通っている。ちなみにご察しの通り、偏差値は高くない。
「明日から三連休だしよ、供助の家に泊まってモンコレやろうぜ、モンコレ! 協力プレイでひと狩り行こうぜ!」
「別にいいけどよ、お前、自分が散らかした分は自分で片付けろよ。いつも掃除すんの面倒臭ぇんだよ」
「わーってるって。そうと決まったらコンビニ行こうぜ! 買い出しだ、買い出し!」
三人並んで話しながら歩く。
下校時間なだけにちらほらと他校の生徒も目に入る。
「供助君、今日はバイト無いの?」
「あぁ、連絡も来てないしな。今日は休みだろ」
「知り合いの手伝いだっけ? 大変だよね、深夜の時間帯が多いんでしょ?」
「まぁな。ま、給料もそれなりだし悪くはねぇよ」
祥太郎と会話をしながら、供助は携帯電話の画面を見る。
念の為にバイトの雇い主からの電話もメールも入っていない事を確認する。
この時間までに連絡が無いって事は、今日は無いだろう。と、小さく一息吐く。
「いや本当、溜まり場に困らないって助かるなー。供助様様ってな」
「そうだね。学生だとそんなにお金持ってる訳でもないし、お金も掛からず遊べる場所があるのは助かるよ」
「俺の家は自営業だから二十四時間親が居て口五月蠅いんだよなー。供助が羨ましいぜ」
「ッ! 太一君、ちょっと……!」
祥太郎は慌てて太一を肘で突く。
それで太一が今、自分で言った事の無神経さに気付いた。
「あっ! 悪い供助、今のは……」
「ん? あぁ、いいって、気にすんな。俺も気にしてねぇし」
「いや、今のは無神経過ぎた。悪ぃ……」
この二人は供助の両親が共に他界している事を知っている。太一に至っては葬式にも参列した。
その時、供助の落ち込み泣きじゃくる姿を見ていた太一は、供助がどれだけ悲しんでいたのかを知っている。
だからこそ、今の失言は許せず、自分の無神経さに腹が立った。
「だから、気にすんなってのに……んじゃ、買い出しの俺の分はお前持ちな」
「それは地味にキツイんだけど!? せめて半分!」
「それでいいわ。もうけー」
「あれ? なんかマジで謝った俺が馬鹿を見てる気がするんだけど?」
供助はケラケラと笑い、本当に気にしていない様子で先を歩く。
太一に悪気が無かった事は十分解っているし、親が亡くなってもう五年も経っている。
気持ちの整理もついているし、受け入れてもいる。それに思い出して泣くような歳でもない。
「さぁて、何買おうか」
「飲み物どれくらい欲しいかな?」
「大ペット三本ありゃ足りるんじゃねぇか?」
コンビニに着き、店内に入る。
祥太郎がカゴを持ち、飲み物のコーナーへ向かう。
「あ、月曜が祝日だから少年ハイジャンプ出てるじゃん」
「おい太一、立ち読みしてねぇでお前も選べ」
「あーはいはい。ゆっくり読みたいしハイジャンも買ってこ」
「買い出しの料金とは別払いな」
「細かいな! 俺の後に読むくせに!」
太一と会話している途中、供助はズボンのポケットの中で何かが振動しているのに気付く。
ポケットから取り出すと、振動の正体は携帯電話だった。
画面に表示されている着信相手の名前を見て、眉をピクリと微動する。
「悪い、電話だ。適当に選んでてくれ」
太一に言い、供助は急いでコンビニから出て電話に出る。