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第二十二話 兄姉 ‐アニトアネ‐ 壱

「どういうこった? お前の周りで起きてる怪奇現象をどうにかして欲しかったんじゃねぇのか?」

「ううん、違うの。あ、おかしな事が起こってるのは本当だよ?」


 友恵は小さく首を横に振って否定する。


「でも、それよりも……お父さんとお母さんの方が大事だから」


 暗く落ち込んだ表情。

 初めて会った時は人柄が良いとは言えない供助に臆する事もなく話し掛け、猫又にクッキーを上げて撫でていた。普段は明るく人懐っこい性格なのだろう。

 だが、今はそんな部分は見せず、顔を曇らせ思い詰めている。


「……話せ」

「えっ?」

「話を聞かねぇとどうすりゃいいか解らねぇだろ」

「う、うん」


 供助は再びベンチの背もたれに寄り掛かり、片腕を淵に乗っける。

 さっきまでのやる気が無かった時と同じ態度ではあるが、顔つきは明らかに違う。

 丸出しだった怠惰感は消え、珍しく真面目な面持ち。


「最近ね、お父さんとお母さんの様子が変で……」

「変?」

「うん。前は優しかったのに、今はいつも怒ってて喧嘩ばかりするの」

「ただ単にお互いの腹の虫が悪かった、ってのはねぇのか?」

「そんなんじゃないよ! ちょっとしたことで喧嘩し始めるし、いつもイライラしてるの。今は毎日言い争ってるし……前はそんな事なかったのに」


 友恵の(くも)る表情はさらに曇り、影が覆う。

 両親が喧嘩しているのを毎日見ていれば、そうもなるだろう。


「なるほどの。友恵の両親がここ最近から豹変(ひょうへん)した、という事かの」

「うん……」


 友恵は弱く頷く。


「となりゃ、こっくりさんは関係無ぇじゃねぇか」

「そうだの。こっくりさんは参加した者にしか効果が無い筈だからの」

「友恵に起きている怪現象と両親の不仲は別問題、って事か」


 こっくりさんは(おこな)った者にしか催眠、または動物霊の憑依が起こらない。

 となると、こっくりさんとは関係の無い友恵の両親は、全く別の原因がある……という事になる。

 尤も、霊や妖怪など関係無く、ただ単に友恵の両親が喧嘩をしている可能性もあるが。


「けど、こっくりさんをやった後からお父さんとお母さんが喧嘩し始めたから……」

「こっくりさんが原因じゃねぇかと思った訳だ」

「うん……」

「多分、関係無ぇと思うけどな。こっくりさんをやったのはいつだ?」

「えと、やったのは三週間くらい前」

「三週間、か。意外と前だな」

「でも、お父さん達がいっぱい喧嘩するようになったのは二週間前、かな」

「何……?」


 友恵の言葉を聞くやいなや、供助と猫又の目が合う。

 普通なら気にする点など無いのだが、二人にとっては違った。

 横田の話を聞いた、供助と猫又は。


「偶然、か?」

「今の情報だけでは何とも、の」

「……」


 猫又に無言で返す供助の目が、微かに細まる。


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