理由 ‐コックリ‐ 参
「まさか供助がその様な薄情な人間だったとはの……見損なった」
「ほー。見損なう部分があるくれぇ俺の事を高く見てたのか、そりゃ買い被りだ。俺は元々損なうトコが無ぇくらい最低な人間だよ」
「被るのは猫のお家芸だが、まさか買い被りをしとったとはの。見る目はあったつもりだったが……どうやら目が悪くなっていたみたいだの」
「学校でも一度言ったが、家に目薬は無ぇからな」
「要らん。馬鹿に付ける薬も無いからの」
ピリピリと張り付く空気。
端から見れば険悪なムードの二人の近くに寄る者は居ないだろう。
「け、喧嘩しないで……!」
その最悪の雰囲気を破ったのが、友恵だった。
自分が原因で二人が仲違いをしそうな事に罪悪感から、少し震えた声で必死に止めに入る。
もっとも罪悪感の他に、喧嘩をする二人の間に挟まれて耐えるに耐えれなかった、というのもありそうだが。
「お金なら払うからっ!」
「俺の主食は駄菓子じゃねぇんだ。それなりに高ぇ……」
「大丈夫、夏休みにおじいちゃんとおばあちゃんから貰ったお小遣いとお年玉の残りもあるから……二万円は出せるよ」
「に、にまっ!?」
やる気の無い態度から一転。供助は項垂れるようにベンチの背もたれに預けていた背中を綺麗に伸ばして、初めて真面に友恵を見る。
「……足りない?」
「いやっ! 二万円ありゃ、水道光熱費と電気代を払って……」
普段、供助と猫又が受けている依頼の平均報酬金額は、約五千から八千円。一万円を超える事は殆んど無い。
それに対して、友恵のは身の回りに起きる霊障を解決するだけで二万円。ぼろい仕事である。
「供助っ! 本当に友恵から報酬を取るのかの!?」
「ったりめぇだろうが。こんなに割の良い仕事を逃すかよ。二万もありゃ二週間はおかずが一品増しだぞ」
「な、なんと! それはいいのぅ、私としては刺身を……はっ、そうではない! 供助には義理や人情は無いのかの!?」
「そんなんで腹が膨らむんなら苦労しねぇっつの。それに涎垂らしながら言われてもな」
「のっ!?」
供助に言われて気付き、猫又は着物の袖で口元の涎を慌てて拭き取る。
「じゃあ、助けてくれるの?」
「おう、俺に任せとけ。報酬分の働きはしっかりやってやる」
つい一分前まで全くやる気が無かった供助が、今は生き生きとした目で友恵の話を聞いている。
それを猫又は、さっきまでの供助の薄情さに怒りと、子供から金銭を要求する人道の低さに嫌悪を感じていた。
「最初に言ってた怪奇現象を解決すりゃいいんだろ?」
「ううん、その事はいいの」
「は? じゃあ何を――――」
「私のお父さんとお母さんを、助けて欲しいの」




