理由 ‐コックリ‐ 弐
「こっくりさんは狐の霊を呼び出すって有名だが、本当はそうでもねぇからな」
「うむ。狐、狗、狸と書いて狐狗狸と読み、一般的には低級の動物霊と言われておるが……実際は集団催眠や自己暗示の類ってのがオチが多いの」
「それなりに霊感を持つ奴がやれば本当に霊を呼び出す場合があるけどよ、小学生のガキじゃまず有り得ねぇ。殆どは単なるテーブルゲームで終わる」
「そうだの。供助が言った通り、大概が『悪い事が起きる』という先入観や思い込みによる勘違いの場合が多いのぅ」
間に友恵を挟み、供助と猫又が話をする。
それを友恵は忙しく交互に首を振って話を聞いていた。
「じ、じゃあ、こっくりさんが原因じゃないの?」
「けどまぁ、過去には精神が異常になっちまったり、自殺しちまったケースもあるけどな」
「えっ……」
「これ供助、無闇矢鱈に脅かすでない。友恵、安心していいの。そのような事は滅多に起こらんからの」
「ほ、本当?」
「本当だの」
落ち着かせようと、猫又は友恵の頭を軽く撫でた。
この間は猫又が撫でられる側だったのに、今は立場が逆転している。
「しかし、友恵が行ったこっくりさんが原因の線が薄いとなると……」
「でも……本当におかしな事は起きてるの」
「ふぅむ」
少し困り気に、猫又は顎を手で擦る。
「こっくりさんをやった紙と硬貨はちゃんと処理したのか?」
「うん、紙は焼却炉で燃やしたし、使った十円玉は一緒にやった友達が使ったって」
「霊的原因は無ぇだろうが、『ルール通りやんねぇと悪い事が起きる』っつー思い込みから錯覚してる場合もあるからな」
「で、でも本当に……!」
「んじゃあ、一緒にこっくりさんをやった友達もお前みてぇに、おかしな事が起きてんのか?」
「そ、れは……」
「起きてねぇのか」
「……うん」
「やっぱ気のせいだ、気のせい」
供助は脱力しながら背もたれに大きく寄り掛かり、話は終了と言わんばかりに手を振る。
「友恵が助けを求めておるのだ、もう少し真面目に聞いてやらんか」
「十分真面目に聞いてやったっての。これ以上話を聞いても何にもなんねぇよ」
供助は空に浮かぶ雲を眺め、元々大してなかった興味がさらに無くなっていた。
幽霊が見える、おかしな事が起こる。このような事を言いたがる子供は、どこにでも一人は居るものだ。
周りに凄いと思って欲しい、構って欲しい、特別な自分に酔いたい。理由は多種多様にあるが、殆んどは虚言の事が多い。思春期の子供が必ず通る道である。
「それにこちとら妖怪退治を仕事としてんだ。問題解決を頼むんなら見返りがなけりゃあな」
「見返り?」
「それ相応の報酬が必要、って事だ」
「報酬……」
ここでようやく友恵はお金が必要だという事に気付き、供助を見上げていた顔を地面へと落とした。
「供助、このような幼子から金を取る気かのっ!?」
「あぁ? 俺ぁボランティアなんて真っ平御免なんでね」
「……本気で言ってるのかの?」
「自分が食っていく手段だからな、そりゃ本気に決まってんだろ。俺は今さっき名前を知ったガキの話を鵜呑みにして手を貸す程お人好しでもなけりゃ、慈善事業で妖怪退治をやってる訳でもねぇ。つまり俺にはこいつを助けてやる理由がねぇ」
「供助……!」
「なら動くとすれば、払い屋の通り依頼として受けるしかねぇだろ」
猫又の表情はみるみる険しくなっていき、怒りを孕んだ鋭い目付きに変わっていく。
対して供助は変わらず、気怠げにベンチに寄り掛かって空を見上げる。
温度差のある二人の態度だが、明らかに場の空気が悪くなっていくのが解る。