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第四話 日情 ‐ニチジョウ‐ 壱

 キーンコーンカーンコーン。


 聞き慣れた鐘の音。学校が終了の合図。夕方を迎える高校の一室。

 ガタガタと机がずれる音と、椅子の足が床をする音が教室に鳴る。


「きりーつ、礼」


 女生徒の声。委員長の号令でクラスの全員が教壇に立つ教師に頭を下げる。

 それが終わると、教室の中は生徒の話し声で騒がしくそして賑やかになる。

 今ので本日の授業は終了。あとは帰宅するなり部活に行くなり寄り道するなり。各自の好きな時間。

 そんな中、浮いた男子生徒が一人。かったるそうに椅子の背もたれに寄り掛かり、瞼は半分閉じて半目。

 隠す様子も見せず欠伸をしながら、焦茶色の髪をただ掻き揚げ、前髪が数本垂れた髪型の頭を、ぶっきらに掻く。

 面倒臭そう。一言で言うならこれだろう。これしかない。


「またぐっすりと寝ていたなぁ、供助」 

「あぁ?」


 声を掛けられ、反応する姿もまた面倒臭そうな事。供助きょうすけは高校二年生で、まだ学生である。

 椅子の背もたれに片腕を掛け、供助は背中越しに振り返る。


「授業なんて面倒臭ぇ。誰がまともに受けるかってんだ」

「テスト、大丈夫なのかよ」

「ずっと携帯ゲームしていた奴に心配されたくねぇよ」


 供助に話し掛けてきたのはクラスメイトの一人。

 髪は金色に染められ、耳にはピアスの穴が開けられている。

 姿格好からして、とても真面目な生徒とは言えないだろう。


「お前だって万年ドベの一人だろうが、太一」

「供助もだろー」


 供助と話すのは田辺(たなべ)太一(たいち)

 仲が良く、数少ない友人の一人。小学校の時に仲が良かった友人で、高校で再会してまた絡むようになった。

 太一は肩に学生鞄を掛けて、帰る準備はもう万端という格好。


「早く帰ろうぜ。腹減った」

「なんでお前はいつも帰る準備早ぇんだよ」

「お前が面倒臭がりのクセにダラダラしてるだけだろ」


 供助は机に掛けていた学生鞄を手に取り、何も入れずに立ち上がる。

 自宅で勉強なんて一切やらない者には、教科書は机かロッカーに置きっぱなしが基本である。

 中身が飲みかけのペットボトルと、昼飯に食べたパンとおにぎりのゴミをまとめたコンビニ袋だけの軽い鞄。それを手に持ったまま肩に乗せる。


「いやー、今日も終わったぁ」

「お前はずっとゲームしてただけじゃねぇか」

「供助だって寝てただけだろ」


 教室から出て、廊下を元気に歩きながら背伸びする太一。対して供助は背中を丸めて気怠そうに歩く。

 対称的にも見え、共通してるのは二人してワイシャツの裾がだらしなく出ているくらいか。あと男。


「後ろの席で助かるわ、ホント。でなきゃゲーム出来ないもんよ」

「しかも端っこ。羨ましいわ」

「供助はど真ん中だもんな。委員長が凄い目で睨んでたぜ」

「うっへぇ……」


 何度も委員長に説教を食らった事がある供助。

 今回の居眠りや遅刻、無断早退にサボりの常習犯であり、怒られる種には困らない。

 捕まれば甲高い声で迫られ、喧しく騒ぐ。正直、勘弁して欲しいと思う。


「だから捕まらないように、委員長が担任に捕まって話しているのを見計らって声を掛けたたんだぜ」

「そりゃどうも」

「んっだよ、助けがいが無い奴だな」

「俺がどうこうよりも、お前はただ単に早く帰りたかっただけだろ、どうせ」

Exactly(その通りでございます)


 昇降口で靴を履き替え、外に出る。

 空は晴れてていい天気。九月に入って夏も過ぎ去り始めたか、過ごし易い日が増えてきている。

 秋にはまだ早いが夏も終わりそうな、そんな中旬。もう少しすれば校庭にある大きなイチョウの木が紅葉で赤く染まるだろう。

 紅葉は綺麗で申し分は無い。ただ、地面に落ちた銀杏の臭いはいかんともしがたい。


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