気掛 ‐ケネン‐ 肆
「で、話は戻るがよ。なんでガキを探していたお前がなんで学校に居んだよ」
「うむ? あぁそれはの」
顔はそっぽを向けたまま、横目で。供助は猫又を見た。
「この学校の前を通り掛かった時に供助の匂いがしての。興味心から覗いてみたら……」
「追っかけ回された、と」
「うむ。最初は数人に撫でられる程度だったんだがの、段々と数が増えてもみくしゃにされてのぅ」
「この学校は女生徒も多いからな」
「好奇心は猫をも殺すという言葉が身に染みたの」
ぐったりと。耳と尻尾を下げ、猫又は疲れた様子を見せる。
「早く帰れ。見付かったらまた追っ掛け回されるぞ」
「む……それは勘弁願いたいのぅ」
「だったら家で大人しく漫画読んでろ」
「おぉ、そうだった。供助、地獄担任ぬう平の十二巻が無かったの。続きが気になって夜しか眠れん」
「夜だけ寝れれば十分だろうが……そういや地獄担任の十二巻は太一に貸していたな」
「早う読みたいんだがの」
「わぁったよ、近いうちに返してもらう」
頭を掻きながら、供助は立ち上がる。
階段の上から下の廊下を見てみると、猫又を探している生徒は居ない。
話をして時間もある程度経ち、猫又の騒ぎも落ち着いただろう。
「生徒が少ないから外に出やすいだろ。今のうちに早く帰れ、猫又。俺も教室に戻らなきゃなんねぇからよ」
「そうなんだがのぅ……」
「あん? まだ何かあんのか?」
「うむ。実はの、学食というものが気になっての」
舌をペロリ。猫又は口周りを一舐めする。
「なんでも種類豊富で値段も手頃。学生の味方と漫画に描いてあって興味を持っての」
「……」
「街中を散歩して小腹も空いた。ここは一つ、噂の学食とやらを……」
「猫又」
「ぬ?」
「正直に言え。お前、最初っから学食狙いだっただろ?」
「……てへぺろ」
三歩。供助は歩いて猫又の目の前で止まり、むんずと猫又の首根っこを掴み上げる。
片手に黒猫を持ち、無言で階段を降りていく。
「おっ、学食へ行くのかの? 何を食べようかのぅ、迷うのぅ」
伸びる猫又の首根っこ。
供助が階段を一段降りる度に、右へ左へと宙で揺れる。
「やっぱり定番のラーメン……カレーライスも捨てがたいの。いや、ここは敢えてカレーうどんもありだの」
猫又は何を食べようかと舌なめずり。
階段を降りて廊下に出て、供助は数秒歩いてからすぐに足を止めた。
「猫又」
「のぅ、供助はどちらがいいと思うかの? カレーライスとカレーうどん」
供助の目の前には窓。鍵を外して外界へと繋がる入り口を開ける。
今居る廊下は三階。空は青く、とても広い。紙飛行機作って明日に投げたくなる。
「さっさと帰れってんだ、この駄猫!」
「のぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」
まぁ、投げるのは紙飛行機ではなく黒い妖怪なのだが。
フルスイングで窓の外へ投げられた猫又は、手足をバタバタさせて空を飛ぶ。
動物虐待と指を差されそうだが、猫の姿をしているだけで中身は妖怪。なのでノー問題。
放物線を描いて猫又が着地したのは木の上。枝に引っ掛かって、身体に数枚の葉っぱがくっ付く。
「何をするかの、供助!」
猫又は態勢を整えながら声を荒げるも、供助は無視して窓を閉める。勿論、鍵も。
窓の向こうの猫又に対し、供助は蠅を払うように手を振る。
あんなでも猫又は一応妖怪。自分でどうにか出来るだろう。
「これ供助! 触覚前髪! 唐変木! カレーうどん!」
猫又が何やら悪口を言っているが、供助は気にせず教室に戻る。
最後のは悪口ではなく食べ物だったが。
学校に猫又が現れた時は頭が痛くなったが、何事もなく事が済んで助かったと供助は胸を撫で下ろす……が。
「古々乃木君っ! 今までどこ行ってたの!」
教室前に居た委員長の声を聞いて、また頭が痛くなった。




