気掛 ‐ケネン‐ 参
「ここんとこ、この街を含めた一定の地域で妖怪や幽霊による事案が異様に増えてるらしい」
「ほう……最近、慌ただしく依頼が来るのはそれが原因かの」
「増え始めたのは二週間程前から……つまり、猫又。お前ぇがこの街に現れたのと同じ時期だ」
「……なるほどの。それで何かあるんじゃないかと私を疑っておる、と」
「あぁ。タイミングがな……合い過ぎている気がしてならねぇ」
「疑うのは当然だろうの。立場が逆だったなら私でも疑うの。まぁ、隠れてコソコソ疑われるよりも、ハッキリ言ってくれた方がこちらも嫌な気をせんで済む」
猫又は自分が疑われているにも関わらず、嫌な顔をするどころか納得する。
それどころか、前足を前に出して背伸び。慌ても怯えも驚きも、たじろぎもしないで普段通りのまま。
「弁明はしておくが、私は無関係だの」
「証拠は?」
「無いの」
「だろうな」
鼻息を小さく出し、供助は肩を微かに下げる。
「猫又が無関係だってんなら、何か情報を得れる事は無ぇか」
「ぬ? 証拠も無いのに信じるのかの?」
「んだよ、疑って欲しいのか?」
「そういう訳では無いが、ちと簡単に信じすぎではないかの?」
「お前が関係無い事を証明する証拠が無ぇように、こっちもお前が関係あると証明する証拠が無ぇ」
「まぁ、そうだがの」
「だったら、お前ぇの言葉を信じるしかねぇだろ。無関係だってのに疑っちゃあ、普段の生活が互いに気まずくなる。面倒臭ぇ」
「うむ……確かにそれは面倒だのぅ。それでは気持ちよく漫画が読めん」
猫又は背伸びを止め、耳を垂らす。
供助と横田に疑われても、猫又には漫画が気ままに読めない程度らしい。
が、猫又にとっては漫画は貴重な暇潰しの一つ。それが気持ちよく読めないのは重要である。
「それに俺にとっちゃ、お前が妖怪や幽霊の数が増えている事に関係あるか無いかはどうでもいいんだけどな」
「どういう事かの? 魑魅魍魎の急増について原因を掴まなければならぬのだろう?」
「真っ当で真面目な払い屋だったらそうなんだろうな。けど俺ぁ、正式な払い屋じゃなく見習いな上に不真面目なんでね」
「関係無い、と言うのかの?」
「俺の場合は関係が無ぇんじゃなく、興味が無ぇだけだ」
右手の小指だけを立て、供助は耳を掻く。
そして、ふっ、と指先を吹いた。
「それに依頼が増えれば財布が重くなる。妖怪共が増えても俺は困らねぇ」
「その点は同意だの。食事が華やかになれば私としても喜ばしいの」
「ま、俺は興味無くても横田さんが原因を知りたがってたしな。世話になってる上司が困ってるなら手も貸すさ」
「にしては、深く調べようとはせんのぅ」
「現状で俺が出来る事は、お前が関係あるかどうか聞くぐれぇだからな」
「安心していいの、嘘など言っておらん。まぁ嘘を吐いていたとしても、正直に言う馬鹿はおらんがの」
「その辺は信用してる。一応な」
首をこきん、と。供助は小気味のいい音で関節を鳴らす。




