気掛 ‐ケネン‐ 弐
「うむ。少女の事が気に掛かっての、少しばかり散歩がてら探して歩いたんだの」
「少女……? あぁ、クッキーのガキか」
「昨日言ったの? あの子から妖怪の匂いがすると」
「そういや言ってたな。結果は?」
「毛も見付からんかったの」
「だろうな」
供助は片膝を立てて、その上に頬杖をする。
五日折市はそれなりに大きな街だ。闇雲に探して簡単に見付かる筈がない。
解っている情報は少女が小学生だというのと、容姿くらい。それだけで探し見付けるのは難しいだろう。
近くの小学校を虱潰しに探すという方法もあるが。
「見ず知らずのガキを気に掛けて街中を探しまわるたぁ、ご苦労なこった」
「見ず知らずではない。顔も知りクッキーを貰った仲だの」
「それだけで名前も住所も知らねぇだろうが。他人と変わんねぇよ」
道端で声を掛けられ、クッキーを貰っただけ。顔は知ってても名前も歳も知らない。
初対面以上、他人以下。結局、他人である。
「払い屋として気にならんのか?」
「ならねぇな」
「即答かの」
「金にならねぇボランティアは嫌いなんで。それに……」
「面倒臭い、かの?」
「分かってるじゃねぇか」
頬杖したまま、供助は怠そうに答えた。
猫又の方は見ず、何も無い踊り場の空間を見つめて。
「なら、聞き方を変えるかの」
小さく息を吐き、猫又は供助を見る。
「供助自身として、気にならんのかのぅ?」
一度だけ尻尾を揺らし、猫又は聞く。
目を合わせない供助に対し、真っ直ぐに目を向けて。
「今さっき答えただろ。ならねぇな」
「そうかの? 私には気に掛けていたように見えたがの」
「家に目薬はねぇぞ」
「要らん。私は昔から目も良くての」
「……そうかい」
供助は明後日の方向を向き、猫又に返す。
わざと目線を合わせないでいるような、そんな風にも見えた。
図星だったのか、意図を読ませない為か、ただ意味も無くそうしているのか。
理由は供助にしか解らない。
「回りくどい言い方は性に合わねぇし、単刀直入に聞く」
「ぬ?」
「さっき横田さんから電話があった」
「お、依頼が入ったのかの?」
「それもある。が、俺が聞きたいのは他の事だ」
供助は頬杖を止め、胡座をかく。
そして、両肘を曲げた膝の上に乗せ、明後日を見ていた顔を猫又へと向けた。




