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     予勘 ‐ヨカン‐ 参

『一緒に住んでて仲良くなり始めた供助君にとっては少し面白くないかもしれないけど』

「んな事ぁないですよ。昨日ゲンコツ喰らわせましたし」


 猫又の脳天にゲンコツ一発。お見舞いした理由は少女のクッキーを食ったから。

 ゲンコツを食らった猫又は頭を押え、目に涙を浮かべながら畳の上を転げ回っていた。

 一応手加減はしたが、痛くなかったら意味が無い。ペットの躾は飼い主の義務である。


『なにかこう……嵐の前の静けさって言うかさ。なーんか嫌な予感がするのよ』

「嵐の前の静けさって……依頼が増えてたら全然静かじゃねぇっすよ」

『幽霊や妖怪の魑魅魍魎が増えてる今の状態が静かに思える程、大きな事が起きる気がしてね』

「横田さんが言ったら、本当に起こりそうだからやめてくれ」

『ん? もしかして怖いのかな?』

「怖いんじゃなくて面倒臭いんですよ」


 今以上に妖怪や幽霊が増えて依頼が多くなれば、それだけ供助にも仕事が回ってくる。

 本来なら喜ばしい事なのだろうが、供助はまだバイト。

 それに、供助は適度に稼げればいいと思っている。大過ぎず、少な過ぎず。

 生活が困らず、趣味に使える分が多少あり、ちょびっと貯金に回す。

 その程度でいいのだ。無理せず無茶せず。適度に稼ぐのが一番いい。


『供助君の勘は何か言ってない?』

「勘ったってなぁ……悪ぃですけど、特になにも――」


 言い切ろうとした言葉が、止まる。

 聞こえてきた。聞きなれた音が、はっきりと。

 いつもより強く、いつもより近く、いつもより大きく。


 ――――――チリン。


 思わず、寄り掛かっていた壁から弾けるように離れる。

 周りを見ても何も無い。何も変わらない、いつもの学校。ただの踊り場。


『供助君? どったの?』

「……あぁ、ちょっと音が」

『音? ……君が昔から聞こえているっていう、鈴の音?』

「はい」


 耳元で鳴らされたんじゃないかと思う程、強く聞こえた鈴の音。今でも少し、頭の中で響いている。

 今までこんな事は一度も無かった。物心付く前から聞こえていて、十七年の間一度も。

 じっとりと、携帯電話を握る手に汗が滲む。


「横田さん」

『うん?』


 屋上の扉から覗ける外景。

 澄んだ青空とは裏腹に、供助の表情は険しくなり、曇る。


「嫌な予感が、しますね」

『あー、しちゃうかぁ……ちなみに理由は?』


 目を細め、見えない何かを睨む。

 胸の中で蠢き、頭に過ぎる黒い予感。

 直感が言っている。言い様のない不安を、感じている。

 根拠はない。証拠もない。理由も、ない。

 それでも理由を付けるとするならば、こうだ。


「――――なんとなく」


 何かを伝えるようにまた、鈴の音が鳴る。

 ――――チリン。



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