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     少女 ‐クッキー‐ 弐

「よっ、少年! 元気しとーや!」


 と、そこに。今の供助にとって更に頭を抱えたくなる相手が現れた。

 肩まであるウェーブが掛かった茶色い髪が特徴の、二十代半ばの女性。更にもっと特徴的なのは、半透明の身体と浮いた足元。

 現れたのは浮遊霊のリョーコだった。


「……はぁ」


 疲れと呆れと頭の痛みと。とにかく面倒臭さから、かなり大きい溜め息が出た。

 頭をがっくり落として額に手を当てる。


「おおぅ! 供助、いきなり頭を下げるでないの! 落ちてしまう!」

「ん? 今、猫が喋らなかった?」


 さっさと帰りたいというのに、そういう時に限ってろくな事が起きなければ、ろくな奴と会わない。

 自分の運の無さを恨みながら、供助はポケットから携帯電話を取り出し歩き始める。


「ちょっとちょっと、無視しないでよ供助」


 供助の後ろを付いてきながら、リョーコは口を尖らせる。

 浮遊霊であるリョーコは当然周りの人には見えず、当たっても何事もなく通り透けてしまう。

 歩いて数十秒。供助が足を止めた場所は、シャッターが閉まった店の前。

 少し古ぼけた木造の店で、たまたま今日が休みなのか、すでに閉店したのかは不明である。


「ここならいいだろ」


 店の前にある自販機。その横で足を止め、供助は携帯電話を耳に当てた。


「供助、何か飲むのかの? 私はドクペがいいの、ドクペ」

「お前はそこいらの公園で水でも飲んでろ」


 おでこをぺしぺしと前足で叩いてくる猫又に、供助は適当に流す。


「ったく……街中でいきなり話しかけんじゃねぇよ、リョーコ」

「なによ、知り合いにあったら声かけるのが普通でしょ」

「街中で誰も居ない所に向かって一人で喋ってみろ。変人確定だろうが」


 あたかも電話で誰かと会話をしている雰囲気を出して、供助はリョーコと話をする。

 誰にも見えない幽霊のリョーコと街中で話すのに思い付いた方法がこれだった。通話しているフリなら誰にも変な目を向けられず、不審に思われない。


「んで、何の用だよ?」

「え? 特に何も無いけど?」

「あぁん?」

「今言ったじゃん。知り合いにあったら声かけるでしょ?」

「それだけの理由か」

「うん、それだけの理由」


 再び起こる頭痛。供助は堪らず、また頭をがっくり落として額に手を当てる。

 こっちは周りを気にしなければならないのに、向こうは関係無く普通に話しかけてくる。

 少しはこちらの事も気にかけて欲しいと思わずにはいられなかった。


「だから、急に動くなと言っておろう」

「……あー」


 供助が頭を動かした事で落ちそうになり、猫又は慌ててバランスを保つ。そしてまた、ぺしぺしと額を叩いてきた。

 ここにも頭痛の種が一匹いた。頭痛の種というか、目の上ならず頭の上のタンコブか。


「のぅ、供助。ドクペ、ドクペが飲みたいのぅ」


 猫がドクペを飲みたがるのはいかがな物か。

 まぁ猫といっても妖怪だから大丈夫なんだろうが。


「さっきから気になってたんだけど……この猫、喋ってるよね?」

「うぬ? 私の事かの?」

「わっ、やっぱり喋ってる!」


 猫又が顔を向けて返事すると、リョーコは驚く。

 妖怪である猫又にも、幽霊のリョーコが見えていた。


「あぁ、こいつ妖怪」

「えっ、妖怪!? 猫にしか見えないんだけど!?」

「街中だからな。猫又なんだよ、こいつ」

「ネコマタ? 確か猫又って尻尾が二本だよね?」


 リョーコは供助の後ろに回り込み、頭に乗っかってる猫又の尻尾を見てみる。しかし、尻尾は一本しか無かった。


「でも一本しかないよ、尻尾」

「妖怪ってバレねぇよう猫の姿だってのに、尻尾を二本出してたら意味無ぇだろうが。隠してんだよ」

「隠したり出来るんだ、凄いねぇ妖怪は」


 リョーコは興味深々といった様子で、まじまじと猫又の体を見る。


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