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     結果 ‐ケッカ‐ 参

 供助は返ってきた言葉に呆れる。

 ジェットババアとは有名な噂、都市伝説で、昔から子供の間ではメジャーな話だ。

 地方によって呼び名が違い、ターボ、ハイパー、高速など、ジェット以外の派生が存在する。


「都市伝説の妖怪なんて存在すんのか? 噂は噂だろ」

「噂を嘗めるでない。人間の噂は馬鹿に出来んぞ?」


 猫又は袖の中に手を入れ、腕を組む。


「言霊も一つ一つの力は微弱だが、集まれば想像以上の力を生む」

「言霊、ねぇ。そりゃお経やら呪文に使われているけどよ」

「大多数の人間が噂をし、その話を聞き恐れる。元々力が無かった言霊には力が付いていき、徐々に形の無い言の葉は形を作っていくんだの」

「もっと解りやすく簡単に言え」

「はぁ……火の無い所には煙は立たぬというがの、この場合は煙が見えたから火があると周りが信じ込むんだの」


 理解力が低い供助に、猫又は大きな溜め息を吐く。


「つまり……どういうこった?」

「話を聞いた者達の恐怖心が集まり、広がった噂に宿った言霊の力がそれを現実に生み出してしまうんだの。“本当に存在したら……”という恐怖心が」

「あー、なるほど。なんとなく解った」


 供助は目線を上げ、右手で顎を摩る。

 猫又が丁寧に説明して、ようやく“なんとなく”理解してくれたようだ。

 本当に理解したのか怪しいものだが。


「今じゃメジャーな口裂け女も元々は都市伝説からだったしな。確かに噂も馬鹿に出来ねぇか」

「塵も積もればなんとやら、だの」

「けどよ、ジェットババアってトンネルに現れる妖怪だろ? なんでこんな地下駐車場に居たんだ?」

「それは解からん。言葉も話せんかったし、聞いても答えられんかったろうしの」


 いつもの通り、祓い始める前に二人は“人喰い”と“共喰い”の事をジェットババアに聞いた。

 しかし、不気味な笑いを浮かべるだけで何も答えず、情報は全く無かった。


「この地下は薄暗く、コンクリートで出来てるからの。トンネルと似ているから間違えたんじゃないかの?」

「そんな間抜けな話があるか?」

「ネジが抜けた阿呆な人間が居るのだから、間抜けな妖怪が居ても不思議ではないの」

「それは俺の事か、あぁ?」

「自覚があるのならネジは抜けず、緩んでおっただけみたいだの」

「よーし、いい度胸だテメェ。夕飯は覚悟出来てんだろうな?」

「うむ、供助は凄いのう! 一撃で妖怪を仕留めるとは流石だのぅ!」


 夕飯の話題を出されると、猫又は掌を返して供助を褒める。

 古々乃木(ここのぎ)家の財布を握っているのは供助であり、当然夕飯を買うのも供助。

 機嫌を損ねては最悪、飯抜きにされる可能性もある。猫又としてはそれはなんとしても避けたい。


「ったく」


 ジト目で猫又を見やり、供助はポケットへ手を突っ込む。


「ところで聞きたいのだがの」

「なんだ?」

「今回の依頼で、報酬は幾ら貰えるのかの?」

「あー、難度はDくらいだから……六、七千円ってとこか」

「ふむ。あの程度の妖怪ではやはり、その程度かのぅ……」


 猫又は少し眉間に皺を寄せるが、妥当だと納得する。


「俺達のレベルじゃあ難しい依頼はまず回って来ねぇからな。地道に稼ぐしかねぇ」

「そうだのう。実力に見合わぬ依頼を受けて大怪我をしてしまっては元も子も無いからのぅ」

「ま、でも俺達の合計実力査定結果がBだったからな。そのうち割のいい仕事もくるだろうよ」


 昨日の夜、供助に横田から電話があった。

 内容は先日行われた猫又の実力査定、その結果報告。結果は供助と同ランクの“B”。

 高火力の篝火(かがりび)。高い身体能力、嗅覚による索敵能力。それらが高い評価を受けた。

 しかし、動きにムラが多いのと技の燃費の悪さも考慮した結果、平均よりも高いBだった。


「そのBという結果の基準が解らんのだがの」

「基本的な能力で、低級を問題無く払えるレベルだとC。Bはそれよりも頭一つ抜き出て、発展途上って感じだ」

「なるほど。妥当と言ったところだの」

「俺もランクはBだけど、退治方法のせいで依頼が限られていたからな」

「武器も道具も持たず、拳骨のみだからのう」

「お前と組んで受けれる依頼の幅も広がっただろうし、これからはいくらか依頼が増えるかもな」

「うむ! そしたらご飯もリッチになるのぅ!」

「飯の事ばっかだな、お前ぇは」


 片手で頭を掻き、供助は呆れる。

 確かに依頼が増えて稼ぎが増えるのは嬉しい限りだが、それでも基本、主食が半額弁当なのは変わらない。

 節約出来る所は節約する。自炊をした方が安上がりと知っていても、不器用な供助が料理を作れる訳が無い。作れてもゆで卵ぐらいだろう。あとはカップラーメン。

 話をしていると、地下駐車場の出口である鉄製の扉に着いた。


「おい、猫又」

「ぬ? あぁ、そうだったの」


 供助が猫又を見ると、猫又は何を言いたいのか察して思い出す。

 そして、ぼふんっと煙を巻き上げ、人型から猫へと姿を変える。


「開けるぞ」


 供助が扉の取っ手を引くと、鉄が擦れる音が鳴った。

 ギィ、と重々しい音も鳴り、錆び付いているのか開きが悪い。

 少し強めに押して、扉を開ける。


「っと、暗い所から出ると眩しいな」


 外の明かりに目が眩み、供助は額に手をやって目を細める。

 空はまだ青く、陽は昇り。辺りは車の音や人の声、様々な雑音で騒がしい。

 いつもなら深夜に依頼をこなすのだが、今回は珍しく、陽が落ちる前から行っていた。

 一仕事終えた供助と猫又は、薄暗くもひんやりと涼しかった地下の扉を潜り。

 少しまとわりつく暑い空気にうんざりしながら、外に出た。


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