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     隣人 前 ‐リンジン ゼン‐ 弐

「古々乃木君!」

「……うーわ」


 少し甲高い、女性の声。

 この声を聞いただけで誰か分かり、供助は隠しもせず嫌な顔をする。


「皆は文化祭の準備をしているのに、あなたはどこに行こうとしているのかしら?」


 ついさっきまで教壇の上でロングホームルームを仕切っていた生徒。

 供助がこのクラスで最も面倒臭い相手だと認識している、委員長。


「帰るんだけど。何か問題でも?」

「あるに決まってるでしょ!?」


 甲高い声はさらに甲高く。

 あぁ、これは確実に面倒臭い事になる、と。予想が確定して、供助は嘆息した。


「さっきロングホームルームでも言ったでしょ! 文化祭まで日も無いし、予定より準備が遅れているって!」

「らしいな。大変だな、委員長は。やる事多くてよ」

「なに他人事みたいに言ってるの! あなたもこのクラスの一員でしょ!? なのになんで一人だけ帰ろうとしてるの!?」

「やる事無ぇし、そもそもやる気が無ぇ」

「あなたねぇ!」

「第一、出し物が演劇だろ? ガラじゃねぇよ」

「ガラじゃないとかじゃないでしょ! 大体……!」


 委員長は血が沸騰し、供助の机を強く叩く。きらりと光る眼鏡からは、今にもビームが出てきそうな勢い。

 いくら言っても暖簾に腕押し。さらにクラスの事なのに他人事扱いされたら、怒るのも無理は無い話だ。


「ままま、落ち着いて。委員長」

「なに? 田辺君は古々乃木君を擁護するの?」

「そうじゃないって。供助も煽るなよ」

「んだよ、太一」


 二人の様子を見兼ねて、間に割って入って来たのは太一だった。

 金髪にピアスと格好はどうみても不真面目だが、供助と違って協調性はある。

 だがまぁ、供助と同じく頭は悪いが。


「委員長、こいつバイトやってるから疲れてんだ。少しは目を瞑ってやってくれよ」

「バイト? 古々乃木君が?」

「それも夜のバイトでさ、寝不足の時が結構あるんだよ。家庭の事情でやむ無しでさ」

「……そう」


 委員長は一度供助を見て、申し訳なさそうに視線を下げた。


「おい、余計な事言うんじゃねぇよ」

「まぁまぁ、面倒な事になりたくないだろ?」

「そりゃな」

「だったら俺に任せろ。お前じゃ委員長をなせないだろ」

「いな……なに?」

「いいから任せろ」


 委員長に気付かれないよう、小声で話す供助と太一。

 往なすという意味を知らない供助を見る限り、太一の方が若干頭が良いらしい。

 あくまで若干、だが。


「それに、供助は小道具の準備や裏方の手伝いが仕事だから。まだ特にやる事が無いんだよ」

「確かに……今は衣装や台本の修正、演技の演習がメインだもんね」


 ちなみに、クラスの出し物である演劇のタイトルは『ロミオとジュリエット』。文化祭の演劇ではベタな作品の一つ。

 供助がガラじゃないと言うのも尤もである。恋だの愛だの、供助には全くもって似合わない。


「でもま、委員長が供助も文化祭の準備に参加させないといけないって気持ちは分かるよ。皆で文化祭を成功させたいってのも」

「おい、太一……!」

「そこで折衷案。これから俺と供助で駅前で小道具で使えそうな物ないか下調べしてくるからさ、今日はこれで勘弁してやってよ」


 一瞬、裏切られたかと焦る供助。

 その様子を知っていながら、太一は無視して話を続ける。


「うーん、そうねぇ……裏方の仕事は田辺君に全部任せてるし、まだ小道具の見積もりも出していなかったわよね」

「裏方は一週間前から動けば間に合うってんで、殆どが部活に入ってる奴等だしさ。今週で放課後に手が空いてるの、俺と供助くらいなもんなんだよ」

「わかった。じゃあ今日は小道具に使えそうな物と、金額を調べてきてもらえる?」

「りょーかい。じゃ供助、鞄取ってくるからちょっと待ってろ」


 委員長の承諾を得て、太一は自分の机へと鞄を取りに行く。

 その場に残されるは、供助と委員長の二人。

 何も話す事は無く、向こうも無いだろう。そう思いながら、供助は右手の小指で耳の穴をかく。


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