鎌鼬 ‐カマイタチ‐ 陸
「だがまぁ、確かに……他に妖気は感じねぇな」
「だろう?」
「しかし、ちょいと気になるな。鎌鼬は本来、三匹組なんだろ? じゃあ残りの一匹はどこに行ったってんだ?」
「ふむ……気にはなるが、妖気も無ければ匂いも無い。居ない事は確かだの」
顎に手を当て気に掛ける供助に、猫又は和服の袖に手を入れて答える。
依頼は完了した筈なのに、供助の顔は陰りを見せていた。
何かが納得出来ず、腑に落ちない。根拠は無い、ただ気になるだけ。
「どうかしたのかの?」
「いや、なんかしっくりこねぇだけだ」
「理由は?」
「勘」
「勘か」
「あぁ、勘だ」
「あてにならんの」
「あてにならねぇな」
ハッ、と。乾いた笑いを浮かべる供助。
自分でもくだらない理由だと思う。
「もう妖怪が居ない以上、一応は仕事終了か」
「で、どうすればいいのかの? 終わったから帰っていいのか、それとも査定とやらが終わるまでここで待機かの?」
「査定結果が五分足らずで出るとは思えねぇ。依頼はこなしたんだ、帰っても問題は無ぇだろ」
供助は大きな欠伸を一つ。
仕事も終わって気が抜け、眠気と疲れが出てきた。
欠伸で出て来た涙を薄らと目に溜め、背伸びをしていると。
「お?」
供助はポケットから振動を感じた。
ポケットから携帯電話を取り出すと、新着メールのマークが出ていた。
「横田から電話かの?」
「いや、メールだ」
携帯電話を操作し、届いたメールを確認する。
暗い場所だと画面が明るく、少し眩しく目を細める。
「あぁ、横田さんからだ」
「ほう。なんと?」
「査定者が依頼完了を確認したから、帰っていいってよ」
「そうか。では早く帰るかの」
「あと、査定結果お楽しみに。だと」
「期待してよい、という事かの?」
「さぁな」
返信はせず、そのまま携帯電話をポケットに戻す。
普段は電話で連絡をしてくるが、メールの時は返信は要らない。というのが供助と横田の間での了解である。
「にしても凄ぇな、あの技。猫又でも炎が出せるたぁ知らなかった」
「昨今、威力に差はあれど炎を使える妖怪は少なくないの」
「そうなのか。しかしまぁ、ありがてぇ限りだ」
「んむ?」
「あの技がありゃ、大体の妖怪は一発だろ。射程距離が長ぇし威力もある。これなら無理して俺が戦う必要が無ぇからな。これからの仕事が楽になる」
供助はカラカラと笑う。
嬉しい誤算だった。まさか猫又がここまでの力と技を持っているとは、微塵にも思っていなかった。
供助は近距離型で、猫又は追篝を使え遠距離にも対応が可能。
追篝を使用中で無防備な猫又を、供助がサポートする。遠近と共に、死角無しで対応が出来る。
思いの外、この二人は相性が良いと言えるだろう。




