第百十三話 最低 -ワタシ- 壱
倉庫前での一件から、さらに四日後。
週明けの月曜日。本日の学業を終え、今は放課後。
部活に精を出す生徒達の声を背中にして、帰宅する一人の生徒……祥太郎の姿があった。
中学二年生の平均よりも身長が低めの祥太郎。寂しそうに肩を窄めていて、さらに低く見える。
いつも一緒に登下校する友人達はおらず、珍しく一人。
「はぁ、一週間か」
その理由は一人は忌引き。もう一人は帯状疱疹。二人揃って今日から一週間は登校できないと連絡があった。
学校で唯一の友人がいなく、寂しくない訳がない。一緒に登校して、昼休みは弁当を食べ、下校する。その相手がいないのだ。
それが一週間……つまり今週は一人で学校を過ごさなきゃならない。そりゃ寂しい。
スマホがあれば会えずともメッセージアプリやチャットで会話が出来るが、中学生の祥太郎はまだ親に買ってもらえていない。
友人二人も同様で、連絡を取る方法は家の固定電話だけ。
「長いなぁ」
そう独りごちらずにはいられなかった。寂しいものは寂しい。
しかし、悪い事だけじゃなく良い事もあった。
先週の倉庫裏の一件以降、休んでいた男子生徒達が今日から登校していた。
今朝、祥太郎が教室で彼等の姿を見付けた瞬間、短い期間の平穏は終わったんだと覚悟した。
だが、彼等が祥太郎の顔を見ても何も言わず、何もせず。ただバツが悪そうに眼を逸らすだけ。
いじめも、ちょっかいも、嫌がらせも、朝から放課後まで一切されなかったのだ。
いじめ主犯格の男子生徒も、どこかぎこちなさを見せながら友人達と話していた。
そして時折、供助を何度もチラチラと視線を送り、強く意識していた……というより、警戒していたと言うべきか。
かと言って自分達から手を出して、下手に倉庫前で起きた事を言い触らされるのも避けたい気持ちがあったのだろう。
欠席明けから妙に大人しい男子生徒達に、他のクラスメイトは違和感を覚えるが誰も触れない。
そりゃいじめをする奴等の藪を突いて、自分が標的になるのはゴメンだろう。
いつもと違う空気の教室だろうが、どこかぎこちない雰囲気だろうが。んな事は関係ないと。
勝手に巻き込まれた側ではあるが、今の状況を作った原因の一つでもある人物。
古々乃木供助は、今日も変わらず無言で静かに。一人で過ごしていたのであった。
「あれ? あそこに居るのって……」
そして、祥太郎が歩く少し先。信号待ちをしている後ろ姿に見覚えがあった。
後ろ首まで伸びた焦げ茶色の髪と、どこか人を寄せ付けない空気。
クラスメイトである、古々乃木供助が居た。
「どうしよ」
このまま進めば供助に追い着いてしまう。ちょっと困ったと漏らす祥太郎。
以前に体育館裏で少し話をしたが、その日以降……まさかの一度も会話をしていないのだ。
前に会話をしたのもあって、一度機会を逃したらズルズルとそのままになってしまった。