録画 -タノシイネェ- 伍
「ち、ちょっと……どうしたってのさ!?」
肉眼では何も見えない。誰も居ない。だというのに、別の女子生徒が起動していたスマホのカメラもまた……ソレを捉えていた。
薄らと黒いモヤを纏った、黒い長髪の女性が。泡を吹いている女子生徒を覆いかぶさる様に、後ろから抱き着いていたのだ。
さらにはスマホの画面越しに。ゆっくりと顔を向けたソレと、女子生徒は目が合った。合ってしまった。
肉眼では何も見えないのに、スマホの画面越しでは黒い恐怖が確かに形を成して存在している。
意味不明。理解不能。しかして、そこに居る女は口元を緩め、纏っていた黒いモヤが女子生徒へと向かって伸びる。
「な、なにこれ……なんだよこれ!? なんなんだよこれ!?」
逃げ出したいのに足が動かない。スマホを投げたいのに手が離さない。
ひやり――喉元に冷たい感触。直後、体中に寒気と鳥肌。
そこで女子生徒の意識はプツリと途切れた。
「嬉しいねぇ! 嬉しいねぇ!」
口から泡を出したまま笑って、白目を剥いた目は涙を流し、その異常まみれ笑顔は異形そのもの。
気付けば、さらにもう一人の女子生徒も全く同じ症状を起こして。スマホのカメラを構えていた女子生徒三人が全員、正気じゃない形相で笑い始めた。
そして、近くに居た男子生徒へ次々と襲い掛かる。明らかに正気を失った表情で、白目を剥き、涎を垂らし、痙攣しながら。
訳も分からない状況に、さっきまで祥太郎達に強気で居た男子生徒達は半分パニック状態。暴れる女子生徒を抑えようとする者も居れば、怯えて固まったまま動けない者も居た。
「あ、あいつ等だ……私に、あの家からずっと話し掛けてきてた……」
震えながら蹲り、阿鼻叫喚の光景に怯えるボサ子。
そこに一つの影が近付いて、ボサ子の隣で足を止めた。
「おい、お前」
「ひぃ!」
影の正体である供助は面倒臭そうに、怯えるボサ子へ気遣いも見せず。
視線はいじめグループに向けつつ、この状況を引き起こしたであろう原因に質問する。
「ここ数日の内に心霊スポットに行ったか?」
「えっ、あ、その……は、はい」
「どこだ?」
「さっきの人達に無理矢理連れて行かれて、私は行きたくなかったんだけど……」
「行った理由なんてどうでもいい。どこだって聞いてんだ」
「と、隣町の外れにある……アダケの家」
「だからか。ずっと女共が纏わり憑いてる訳だ」
「なんで、それ……」
周囲でいじめグループがパニックになっているというのに、供助は淡々とした口調で話していく。
女達の悍ましい奇声。男共の痛々しい悲鳴。暴れられ、噛まれ、引っ掛かれ。地面には少量だが血が滴り落ちていた。
あまりの恐怖に男子生徒の何人かは既に逃げ去っていて、怖くて動けずにいた祥太郎へと錯乱した女子生徒の一人が襲い掛かる。
「わ、わぁぁぁあぁ!?」
足が竦んで動けないでいる祥太郎は、情けなくただ叫ぶしかなかった。
が、誰かに制服の襟首を掴まれ、後ろに引っ張られて尻もちを突く。




